国連環境計画(UNEP)は11月20日、オゾン層を保護するための条約として1989年に発効したモントリオール議定書の「キガリ改正」が発効条件となっていた批准国20ヶ国を突破し、2019年1月1日に発効すると発表した。キガリ改正は、2016年10月15日にルワンダ・キガリで開催された第28回モントリオール議定書締約国会合で採択。オゾン層破壊効果が低いと製造業で使用が普及していたHFC(ハイドロフルオロカーボン)、通称「代替フロン」が温室効果ガスとして気候変動に悪影響を与えるため段階的に規制することを決めた。
【参考】【環境】オゾン層保護のモントリオール議定書「キガリ改正」〜代替フロンからノンフロンへ〜(2016年12月31日)
モントリオール議定書の締約国は現在190カ国を越え、ほぼ全ての国が批准している。キガリ改正が発効すると、キガリ改正の批准国はHFC類を段階的に削減する義務を負う。削減幅と削減期限は、先進国、発展途上国(中東・インド中心)、発展途上国(その他)の3グループによって異なっており、先進国が一番厳しい内容。先進国は、第1段階は2019年の10%削減。その後4段階に渡り、最終的に2036年までに85%削減しなければならない。発展途上国(中東・インド中心)は最終的に2047年までに85%削減。発展途上国(その他)は2045年までに80%削減しなければならない。
また、キガリ改正批准国は、貿易規制が適用される。キガリ改正発効から一年以内に、附属書Fで対象となっているHFCの非締約国への輸出入を禁止しなければならない。また生産・輸出入量に関する定期報告も課される。
モントリオール議定書事務局(オゾン事務局)によると、キガリ改正が着実に実施された場合、HFCによる地球全体の平均気温上昇を、今世紀末までに従来の約0.5℃分抑制できると推計されている。
キガリ改正を批准した国は、英国、ドイツ、ルクセンブルク、スロバキア、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、カナダ、マーシャル諸島、オーストラリア、パラオ、ラオス、モルディブ、ミクロネシア連邦、コモロ、トリニダード・トバゴ、ツバル、北朝鮮、マリ、ルワンダ、チリの21ヶ国。日本はまだ批准していない。
日本政府と日本産業界は、キガリ改正が採択される以前は、HFC32(特に新冷媒R32)と呼ばれるHFCの中でも相対的に地球温暖化係数(WEP)が低いHFCの普及、推進を進めてきた。しかし、キガリ改正によりHFC32も削減対象物質に加えられたことで対応に追われている。今年9月には、経済産業省の産業構造審議会製造産業分科会化学物質政策小委員会フロン類等対策ワーキンググループと環境省の中央環境審議会地球環境部会フロン類等対策小委員会は合同で報告書案を作成。キガリ改正に対応するため、オゾン層保護法を改正することを提言し、11月6日までパブリックコメント募集を行った。しかし、ダイキン等日本企業はHFC32を活用した空調や冷蔵庫を商品として販売しており、HFC32も大量に保有している。対応は一筋縄ではいかない。さらに、日本企業ではキガリ改正の批准国ではHFC32エアコン等が売りにくくなる。
一方、気象庁は12月1日、今年の南極オゾンホールの状況を報告。気象庁は米航空宇宙局(NASA)と共同で衛星を用いた南極オゾンホールの状況を定点観測しているが、今年オゾンホールが最大に広がった面積は、1988年以降で最も小さかった。背景には、モントリオール議定書に代表されるように、オゾン層破壊が認識されてから国際的にオゾン層破壊物質の使用削減が進んだことも挙げられるが、気象庁によると成層圏の気温が8月中旬以降かなり高く推移したという気象的状況が大きく影響しているという。オゾン層破壊物質の濃度は緩やかに減少しているものの、依然として高い状態にあり、南極でオゾンホールがほぼ見られなかった1980年の水準に回復するのは、今世紀半ば以降になると予測されるとした。
モントリオール議定書は、当初オゾン層破壊防止を目的とし、一定の効果を挙げているがまだ道半ば。さらにキガリ改正ではオゾン層破壊防止だけでなく、気候変動緩和も目的に加わり、今後はHFC削減という大きな対応に日本政府と日本企業は追われることになる。日本のキガリ改正批准はいつになるか。
【参照ページ】Montreal Protocol celebrates another milestone as agreement to reduce climate-warming gases is set to enter into force in 2019
【報告書】モントリオール議定書キガリ改正を踏まえた今後のHFC規制のあり方について
【報告書】高圧ガス保安対策事業報告書
【参照ページ】今年の南極オゾンホールの最大面積 ~過去29年間で最小を記録~
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