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【日本】最高裁、経産省の性同一性障害職員の女性トイレ使用で原告勝訴。事情を考慮

 最高裁判所は7月11日、女性として生活している50代の性同一性障害の経済産業省職員が国を相手取り提訴した国家賠償請求裁判で、小法廷裁判官の全員一致で二審の高等裁判所判決を破棄。原告勝訴の判決を下した。最高裁判所が性的マイノリティの職場環境に関する判断を示すのは今回が初。

 同事案の原告は、生物学的には男性だが、幼少期から強い違和感を抱き、1998年頃から女性ホルモンの投与を開始、1999年頃には医師から性同一性障害の診断を受けている。2008年頃からは女性として私生活を送るようになった。また、2010年3月頃までに、血液中における男性ホルモンの量が同年代の男性の基準値の下限を大きく下回っており、性衝動に基づく性暴力の可能性が低いと判断される旨の医師の診断を受けていた。健康上の理由から性別適合手術は受けていない。

 原告は2009年7月、経済産業省の上司に、自らの性同一性障害を伝え、同10月、経済産業省の担当職員に対し、女性の服装での勤務や女性トイレの使用等についての要望を伝えていた。また2010年7月、原告が勤務する部署の職員に対し、原告が自身の性同一性障害を説明する場が設けられ、原告の退席後、同じ執務階の女性職員数人が、女性トイレを使用することに違和感を抱いているように見え、さらに女性職員1人が一つ上の階の女性トイレを使用していると述べたことから、経済産業省は原告に対し、2階離れた階の女性トイレを使用するよう処遇を実施することを決定した。

 さらに原告は2013年12月、国家公務員法86条の規定により、職場の女性トイレを自由に使用させることを含め、原則として女性職員と同等の処遇を行うこと等を内容とする行政措置要求を実施。それを受け、人事院は、2015年5月、いずれの要求も認められない旨の判定を伝えていた。原告はこれらを不服とし、トイレの利用制限措置の取消を求めて提訴した。

 同裁判では、一審の地方裁判所では、2021年5月、女性トイレの利用制限は不当とし、経済産業省に132万円の賠償を命じた。その際には、「個人がその真に自認する性別に即した社会生活を送ることができることは、重要な法的利益として、国家賠償法上も保護される」「個人が社会生活を送る上で、男女別のトイレを設置し、管理する者から、その真に自認する性別に対応するトイレを使用することを制限されることは、当該個人が有する上記の重要な法的利益の制約に当たる」とし、「生物学的な区別を前提として男女別施設を利用している職員に対して求められる具体的な配慮の必要性や方法も、一定又は不変のものと考えるのは相当ではなく、性同一性障害である職員に係る個々の具体的な事情や社会的な状況の変化等に応じて、変わり得るものである」「当該性同一性障害である職員に係る個々の具体的な事情や社会的な状況の変化等を踏まえて、その当否の判断を行うことが必要である。」と理由を説明していた。

 二審の高等裁判所では、2021年5月、一審判決を破棄し、経済産業省が勝訴。「性自認に基づいた性別で社会生活を送ることは、法律上保護された利益である」としつつ、「事業主の判断で先進的な取組がしやすい民間企業とは事情が異なる経済産業省」では、行政機関では前例のない事案だったことを理由に、国家賠償上の違法性はないと判断した。

 今回の最高裁判所判決では、国家公務員法86条の規定による行政措置の要求に対する人事院の判定は、専門的な判断が求められ、判断は人事院の裁量に委ねられているものと判断。裁量が適切に行われたかを問うた。今回の事案では、性同一性障害の医師診断を受けている点、経済産業省で他の女性職員が明確に異を唱えていなかった点、トラブルが生じる具体的なおそれがなかった点等を踏まえ、人事院の判断は、具体的な事情を踏まえることなく他の職員に対する配慮を過度に重視し、原告の不利益を不当に軽視するものと判定した。

 同判決では、各裁判官が補足意見も述べている。宇賀克也裁判官は、戸籍上の性別を変更するには性別適合手術が必要だが、性別適合手術は、生命及び健康への危険を伴い、経済的負担も大きく、また体質等により受けることができない人もいるため、手術を受けていない場合でも、可能な限り本人の性自認を尊重する対応をとるべきとした。

 さらに多くの裁判官は、経済産業省が、トランスジェンダーに対する理解増進を怠ったことの責任も述べている。宇賀克也裁判官は、「経済産業省は・・・上告人に性別適合手術を受けるよう督促することを反復するのみで、約5年が経過している」と表明。長嶺安政裁判官は、「上告人は、職場においても一貫して女性として生活を送っていたことを踏まえれば、経済産業省においては、本件説明会において担当職員に見えたとする女性職員が抱く違和感があったとしても、それが解消されたか否か等について調査を行い、上告人に一方的な制約を課していた本件処遇を維持することが正当化できるのかを検討し、必要に応じて見直しをすべき責務があったというべきである」と伝えた。

 また、今崎幸彦裁判官は、「本判決は、トイレを含め、不特定又は多数の人々の使用が想定されている公共施設の使用の在り方について触れるものではない。この問題は、機会を改めて議論されるべきである」とし、今回の判決はトイレ一般について判断したものではないと補足した。

【参照ページ】令和3年(行ヒ)第285号 行政措置要求判定取消、国家賠償請求事件
【参照ページ】経産省行政措置要求判定取消等請求控訴審判決について(2022年1月20日号)

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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