世界的な観光地イタリア・ヴェネツィアの街が近年、大型客船による大気汚染問題が深刻化している。英紙ガーディアンが7月31日報じた。報じたのは、国際輸送コンサルタントのアクセル・フリーリッヒ氏。同氏は、ドイツ連邦環境庁交通局のアクセル・フリーリッヒ元局長。
ヴェネツィアの中心地は、大型豪華客船の地中海最大のターミナルとなっており、毎日5から6隻の巨大なクルーズ船が寄港する。多くの旅行者は、豪華なレストラン客船、広大なスイミングプール、エキゾチックなエンターテインメントに魅了され、船旅へと思いを馳せるが、運航に伴って大量に消費される燃料については、状況を知らされていない。フリーリッヒ氏は、「ヴェネツィアに行く際には、(大気汚染対応)マスクを忘れずに持参すべき」と警鐘を鳴らしている。
大型客船の燃料は一般的に重油。重油は安価な燃料だが、硫黄分や微小粒子状物質(PM)を多く含み健康や環境への悪影響が大きい。客船の運営者は、大都市の近くでは環境汚染物質が少ない燃料を使用していると主張しているが、実際にガーディアン紙がヴェネツィア港の近くで測定したところ、停泊中の船舶は、トラックディーゼルの100倍以上の硫黄分を含む燃料を使っていたという。また、主要運河航行中は、PMの数値が清浄な海洋空気より500倍も高い1cm3当たり500個を記録した。PMは風に乗り数百kmも離れた地でも、呼吸器系疾患や循環器系疾患の原因となる。
硫黄やPM以外にも問題がある。世界保健機関(WHO)は、ディーゼル粒子を喫煙やアスベストと同じ発癌性カテゴリーに分類している。ディーゼルエンジンは、発癌性のすす、窒素酸化物を含む環境汚染物質や健康阻害物質を多く含んでいる。欧州委員会によると、ヨーロッパでは船舶関連の汚染により毎年約5万人が早期に死亡すると推定されている。同様に、排気ガスは船上の旅行者にも健康リスクがあり、ドイツ肺医師会は、乗船する前に警告を発し、クルーズ船の甲板に留まらないように呼びかけている。
この問題に対し、ヴェネツィアでは現地住民による抗議行動が頻発しており、5月には約2万人が非公式の国民投票に参加し、99%がクルーズ船を近づけないようにする規制を支持したという。しかしクルーズ業界は、観光客目当てで大きな収入が得られる大型クルーズツアーの航行を止める気配はない。そのため、住民はクリーンな高価燃料を使用するよう訴えている。
同紙は、これら状況を背景に、クルーズ業界は、環境と人間の健康に関する基本的な公的基準を満たしていないと指摘している。幸いにも現地の港湾局は、今年の船舶数は例年より10%少なくなると見ており、大気は若干清浄化される可能性があるという。しかし、大型客船が燃料や燃料装置を抜本的に改善しない限り問題は解決されないと注意を呼びかけた。
【参照ページ】Heading to Venice? Don’t forget your pollution mask
【参照ページ】Air on board cruise ships 'is twice as bad as at Piccadilly Circus'
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