国際環境NGOグリーンピース・ジャパンは8月21日、インド洋の島嶼国モーリシャスの南東沖で商船三井が運航していた長鋪汽船のばら積みタンカー「わかしお」が座礁した事件で、両社に対し送付した質問票に対する回答結果を公表した。
【参考】【モーリシャス】グリーンピース、座礁事故で商船三井と長鋪汽船に独立調査と完全な損害補償を要求(2020年8月20日)
グリーンピースは、質問票で両社に、「汚染者負担原則の完全履行」「第三者による調査の費用負担と公開」「事故を起こした航路の使用中止」「化石燃料からの撤退」の4事項を要求していた。
今回の回答では、商船三井は、「船主である長鋪汽船株式会社は、船舶を建造・所有し、乗組員を乗船させ、荷物を運べる状態にした上で、運航者である傭船者(弊社)に提供する役割を担っており」と、事故責任は長鋪汽船にあると示唆した上で、「弊社としては、傭船者として、法令に則り、当局による調査等に対して積極的に対応する」と表明。あくまで法令遵守の枠内でのみ対応していく方針を伝えた。
船主である長鋪汽船は、「引き続き法律に則り、日本船主責任相互保険組合とともに誠意をもって対応」と回答し、同じく法令遵守での対応をしていく考えを披露した。
これに対しグリーンピースは、「法的義務を果たすだけでは、現地の環境や暮らしの回復は困難」とし、不十分と批判した。
海運事故では、損害賠償に関する交渉等は、海運会社が加入している保険機構の「日本船主責任相互保険組合(日本P&Iクラブ)」が対応の窓口となる。この構造は、自動車事故を起こしたときに、損害保険会社が被害者との交渉を代行することと似ている。賠償額は、1,000万米ドルまでは、事故船の長鋪汽船の「ワカシオ」が加入している日本P&Iクラブが負担し、油濁事故では10億米ドルまでを日本R&Iクラブが加入している国際機構「国際P&Iグループ」が負担する。国際P&Iグループは民間の再保険会社の再保険に加入している。
但し、10億米ドルを超える部分について、長鋪汽船と商船三井がいかなる責任を負うことになるのかは、まさに日本船主責任相互保険組合及び日本船主責任相互保険組合が委託しているコンサルティング会社の交渉次第ということになる。また、バンカー条約等の国際条約の解釈も必要となるため、当事国の国家間マターとなる可能性もある。
こうした状況下で、法令遵守の観点からは、商船三井と長鋪汽船はこの交渉過程を見守る存在となり、それまでは極力何も話さないのが得策となる。だが、いまや、法令遵守だけではステークホルダーの期待には応えられなくなっているのは明白な事実。過去にはNIKEやウォルマートは、事故や不祥事に対して積極的に改善する姿勢を見せたことで、国際的なリーダーとしての地位を確立し、市場での存在感も強化してきた。
特に上場企業である商船三井は、どのような対応をとるのか。事故原因究明では、長鋪汽船が傭った船長が当局に警告にかかわらず航路を逸脱したことが罪に問われ、モーリシャス当局に逮捕された。しかし、このことで、商船三井が、「傭船者」という立場と「法令遵守」を強調するならば、株主を含めたステークホルダーからの理解は得られにくいだろう。
ESG評価では、法令遵守だけでは企業は評価を得られなくなっており、バリューチェーン全体へのマネジメント責任が問われてきている。日本の環境省も両社の問題解決姿勢への関心を高めている。商船三井が今の姿勢を貫く限り、同社のサステナビリティとESGについては厳しい見方が続きそうだ。
【参照ページ】再発防止の努力強調も具体策は見えずーーモーリシャス座礁事故、商船三井と長鋪汽船が公開状に回答
【画像】グリーンピース・ジャパン
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