英国政府の研究機関、自然環境研究委員会(NERC)生態環境研究所(CEH)に所属するBen A. Woodcock氏らは8月16日、科学誌Natureが運営するオンラインの科学ジャーナルNature Communicationsに、ネオニコチノイド系殺虫剤が蜂の個体群数の現象に繋がることを実証的に示した科学論文を発表した。論文名は「Impacts of neonicotinoid use on long-term population changes in wild bees in England」。研究では、ベイズ推定に基づく動的サイト占有モデルを用い、1994年から2011年の18年間におよぶイギリス全土の62種の野生の蜂の分布と、アブラナに使用されたネオニコチノイド系殺虫剤の量の相関性を調査した。結果、ネオニコチノイド系殺虫剤で処理したアブラナに対して蜂の消滅率が高まったことが認められた。調査で用いられた期間は、英国で最初に同系殺虫剤が広範囲に使用された時期。これまで養蜂された種(主にミツバチやマルハナバチ)を用いた短期間のラボ実験ではネオニコチノイド系殺虫剤の亜致死性があることが指摘されていたが、野生の蜂の大量減少とネオニコチノイド系殺虫剤の関連性については確かな証拠がなかった。
ネオニコチノイド系殺虫剤は昆虫の神経系に作用する殺虫剤で、長くミツバチの世界的な減少に影響があるのではないかと議論されてきた。EUでは欧州食品安全機関(EFSA)がミツバチへの影響が出る可能性のある使用方法を禁止。アメリカでも、環境保護庁(EPA)がミツバチへの影響を否定できないとして使用制限を定めている。一方、日本では、農林水産省は、ネオニコチノイド系殺虫剤が蜜蜂に影響を与える可能性をすでに認めつつも、稲、果樹、野菜などに付着するカメムシなどの除去対策にネオニコチノイド系殺虫剤が有効であり、それに変わる弱毒性の殺虫剤がないことから、「(ネオニコチノイド系殺虫剤は)水稲のカメムシ防除に重要な農薬です」と明言している。日本でも蜜蜂の個体群は減少しているが、農林水産省はネオニコチノイド系殺虫剤との明確な関連性はまだ認められないとし、原因究明中だとしている。ミツバチは花粉を媒介する昆虫であり、農作物の種類によってはその減少が直接的に収穫減につながる。
また、ネオニコチノイド系殺虫剤は人への悪影響が非常に低いものとして重用されてきたが、ミツバチへの影響のみならず、人の脳、とりわけ子どもへの影響を懸念する声もある。今回英国での実証研究結果でネオニコチノイドと蜂の減少の関連性が示されたことで、世界的に規制が進む可能性がある。同系殺虫剤を製品として販売したり商業利用している企業には、生物多様性の観点から非難が寄せられる可能性が高くなる。
【参照ページ】Impacts of neonicotinoid use on long-term population changes in wild bees in England
【機関サイト】Nature Communications
【参考ページ】農水省「農薬による蜜蜂の危害を防止するための我が国の取組」
【参考ページ】ネオニコチノイド系農薬に関する調査結果と日本生協連の考え方
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