公正取引委員会は9月21日、ニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査結果を発表した。ニュースプラットフォーム事業者とニュースメディア事業者の取引等における公正性・透明性を高める競争法上の観点から、2022年11月から調査を開始していた。
ニュースプラットフォーム事業者に関する競争法上の懸念については、EUで著作権法の改正議論が始まった2018年頃から欧州でヒートアップした。EUは、2019年にEU著作権指令の改正が成立し、2021年6月までに国内法を整備することが決定。グーグルやヤフー、AOL等のニュースプラットフォーム事業者が、新聞や雑誌のオンライン記事を使用する際に、記事の発行元となるニュースメディア事業者が公正な対価を受け取ることができる権利を確立した。他にも、作家、ジャーナリスト、音楽家、俳優等のクリエーターに対しても公正な報酬を支払うことが義務化された。
【参考】【EU】加盟国、検索エンジンにニュースメディアへの支払い義務を課す規制導入で大筋合意(2018年6月3日)
その後、経済協力開発機構(OECD)でも2021年、ディスカッションペーパー「ニュースメディアとデジタルプラットフォームに関する競争課題」が発行。これらをきっかけに、OECD加盟国でもニュースプラットフォーム事業者の競争法上の課題について当局としての政策が動き出していった。
公正取引委員会は2021年3月、デジタル・プラットフォーマーのデジタル広告事業に関し競争法上の観点から行った実態調査の報告書の中でも、デジタルプラットフォーマーが運営するニュース配信サービスについても、競争法上の発生しうるとし、ニュースメディア事業者側は、「対等な取引関係に立って価格決定がなされているという納得感が得られていない傾向にある」としていた。同時に、デジタル・プラットフォーマーの別の検索サービスの上位に、ニュースメディア事業者のオリジナル記事ページではなく、プラットフォーマー側の記事ページが上位表示されることがあるというメディア事業者側の不満があることにも言及していた。これに対し、プラットフォーマー側は、一般的なSEOの結果であり、同社側の恣意的な判断ではないと反論していた。
【参考】【日本】公取委、デジタルプラットフォーマーの第2弾調査結果発表。今度はデジタル広告を対象(2021年2月25日)
今回の実態調査では、インターネット検索事業者としてGoogle検索やYahoo!検索等、ニュースポータル事業者としてYahoo!ニュース、LINE NEWS、スマートニュース等を挙げ、双方の事業者を「ニュースプラットフォーム事業者」と定義した。ニュースメディア事業者側が受け取る許諾料の単価は、1,000PV当たり平均124円、ニュースメディア事業者側のサイト上での広告単価は平均で同352円程度だった。
競争法上の重要概念となる「優越的地位」については、ニュースメディア事業者の約6割が許諾料支払額が最も多いニュースポータルとしてYahoo!ニュースを挙げたこと、消費者アンケートにおいてYahoo!ニュースを利用頻度の最も高いサービスとする回答が約2割に上り、さらにニュースメディア事業者の約4割がニュースポータル事業者との取引理由として許諾料が現在のニュースメディア事業の継続上・今後の事業戦略上不可欠であることを挙げたこと等から判断し、「ヤフーは、取引先であるニュースメディア事業者との関係で優越的地位にある可能性がある」と言及した。特に、「事業規模の比較的小さなニュースメディア事業者に対しては、優越的地位にある可能性が相対的に高いと考えられる」とした。
加えて、ニュースメディアサイトに一定の送客を行うインターネット検索を運営するインターネット検索事業者も、ニュースメディア事業者に対して、優越的地位にある可能性があると指摘。この観点では、Google検索とYahoo!検索は、ニュースコンテンツを探す際に利用するサービスの市場において有力な事業者に該当する可能性があるとした。
これらを踏まえ、公正取引委員会は今回、関係する当事者に望まれる取組を「競争政策上の考え方」、独占禁止法上問題となるおそれのある行為についての考え方を「独占禁止法上の考え方」と分け、在り方をまとめた。
その上で、ニュースメディア事業者に一方的に契約内容を変更する等して著しく低い許諾料を設定する行為は優越的地位の乱用となるとした。また、「ニュースメディア事業者から許諾料の水準について交渉の求めがあった場合には、許諾料の水準の決定根拠の開示を含め、ニュースメディア事業者との間において十分な協議が行われることが望ましい」とした。ニュースポータルのレイアウト等の変更により、送客数が減少した場合にも、取引条件の見直しのための交渉を拒絶し、十分な協議をしないまま、取引条件を変更しないことにより、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合は、独占禁止法上問題(優越的地位の濫用)となるとした。
さらに、検索サービスでの検索結果一覧表示においても、「著作権者による権利行使が可能となる場合において、取引上の地位が相手方に優越しているインターネット検索事業者が、その地位を利用して、取引の相手方であるニュースメディア事業者に対し、一方的に著しく低い許諾料を設定し、又は、無償で取引することにより、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合は、独占禁止法上問題(優越的地位の濫用)となる」と明言した。
また、検索サービスでの検索結果一覧表示で、「自社のニュースポータルにおいて二次配信するニュースコンテンツを、ニュースメディア事業者が一次配信するニュースコンテンツに比較して消費者に訴求しやすい位置に表示して、ニュースメディア事業者と消費者との取引を妨害することにより 、ニュースメディア事業者の取引機会を減少させる又はニュースメディア事業者を排除する場合には、独占禁止法上問題(競争者に対する取引妨害等)となる」とした。
公正取引委員会は、今回の調査を踏まえ、ニュースプラットフォーム事業者とニュースメディア事業者の取引状況をチェックし、「厳正・適格に対処していく」考え。加えて、生成AIを始めとするAIの急速な普及に代表されるデジタル技術の進展により、ニュースプラットフォーム事業者及びニュースメディア事業者を取り巻く競争環境が更に変化していくことが見込まれるため、生成AI等が与える影響についても注視していく。
【参照ページ】(令和5年9月21日)ニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書について
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