世界貿易機関(WTO)と国際労働機関(ILO)は6月27日、変化の激しい時代の中で就業力を高めていくための要素をまとめた共同報告書「Investing in Skills for Inclusive Trade」を発行した。報告書では、経済のグローバル化とテクノロジーの発展により働く人に求められるスキルが大きく変化している中、今後必要となるスキル開発について分析している。
報告書は、経済のグローバル化が、先進国と発展途上国の双方に経済成長をもたらしたと歓迎。また、経済成長による便益は、新たなテクノロジーの導入、企業の進化、生産性向上とともに実現してきたことを強調した。一方、経済成長の波に取り残された人々がいることについても言及した。経済成長の便益をより多くの人たちに享受していくためには、人々のスキル開発が重要だとし、人材開発は貿易促進、経済の多様化のための重要な原則の一つであり、より開かれた自由経済に向けた整備を進めるための重要な「緩衝材」になると位置づけた。さらには、適切なスキル開発政策によって、企業の輸出能力の向上、失業者の再就職支援や給与アップが実現できるとした。
ILOは、すでに発展途上国のスキル開発を進めるプログラム「Skills for Trade and Economic Diversification(STED)」を展開しているが、それを通じて得られたこととして、発展途上国は国際貿易に有効に参加するための能力開発という点で共通の課題を抱えていることを挙げた。この課題には、コスト効率、品質、商品需要への対応力、製品の差別化といったグローバル化する経済での市場需要への対応と、組織マネジメント力の向上の2つの側面があり、基礎スキル、技術スキル、マネジメントスキルのいずれも重要だという見方を示した。
さらには、発展途上国が抱えているスキル開発の課題は、先進国でも同様に問題となっているケースがあると指摘。経済のグローバル化に対応できなくなった先進国の地域では、地域に根ざした比較優位を獲得することが重要となり、そのためのスキル開発に投資をする必要性を訴えた。
報告書は、グローバル競争下での適切なスキル開発を実現するための原則として、
- 政策の一貫性:貿易とスキルに関する政策を結びつけるには、この2つの分野および関連する政策分野の一貫性
- 社会的対話:ステークホルダーの対話を通じ、貿易財・サービスを提供する企業のニーズに合うスキルの開発
- 教育、スキル開発、生涯学習への幅広いアクセス:スキルが低い、時代の変化に取り残された等の労働者に対する能力開発機会の提供
- 失業者・失業リスクのある労働者へのトレーニング
- 従業員人材開発への投資
- 基礎スキル開発
- ビジネス環境の変化を見据えたスキル開発
- 労働市場情報(LMI)と雇用支援サービス
- スキル開発の品質と関連性:高品質で業界ニーズに対応したスキル開発
報告書はさらに、グローバル競争に対応していくためには、スキル開発以外にも国内あるいは国外への移住という選択肢も挙げた。自ら保有するスキルが不足している地域に移動することで、スキルと市場をマッチさせることができるという考え方だ。そのためにも、現在保有するスキルを正しく認識することを支援することの重要性も示した。
【参照ページ】WTO and ILO to issue “Investing in Skills for Inclusive Trade” report
【報告書】Investing in Skills for Inclusive Trade
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