企業や国家による気候変動対応を加速させるためのツールとして期待されているのが「カーボン・プライシング(炭素価格制度)」だ。カーボン・プライシングとは、排出権取引制度や炭素税など、炭素排出に価格(コスト)を設定することで排出削減に対する経済的インセンティブを創出し、気候変動対応を促す仕組みのことを指す。
パリで開催されたCOP21においても、サイドイベントとして12月4日にカーボン・プライシングに関するパネルディスカッションが開催された。当日は会場の参加者から「炭素に価格を付けることは気候変動の国際的な取り組みの成功に不可欠だ」という声が聞かれるなど、その重要性が話し合われた。
世界銀行グループの気候変動特使を務めるRachel Kyte氏は「カーボン・プライシングは唯一の方法ではない。ただし、必要不可欠な方法だ。我々は成長モデルから炭素汚染を取り除く必要があり、それにはエネルギー政策、エネルギー補助金の改革、そしてカーボン・プライシングの導入が伴う」と話す。
カーボン・プライシングに関する取り組みは世界各国で進んでいる。中国では排出量取引制度について7つのパイロットが行われており、これを2017年までに国家レベルに引き上げることを表明した。中国の気候変動戦略および国際協力国立センター(National Center for Climate Change Strategy and International Cooperation)の副長官を務めるQimin Chai氏は、排出量取引制度における炭素価格が十分確保されれば、国の開発を促し、再投資を通じて景気の刺激になるとしたうえで、鍵となるのは気候変動を招く行動に「費用と効果」の概念を導入することだと説明した。
また、カナダのケベック州は2013年に排出量のキャップ・アンド・トレードを導入、翌年には米国カリフォルニア州の同制度と連携した。同州の1トンあたりの炭素価格は安定的に上昇し、景気を損なうことなく緩やかな移行が継続されている。カナダのオンタリオ州やマニトバ州もキャップ・アンド・トレードによる排出量取引に取り組む意思を発表しており、ブリティッシュコロンビア州は7年間にわたり炭素税を導入、アルバータ州も炭素税を計画している。ケベック州開発・環境・気候変動局長官を務めるDavid Heurtel氏は「国や地域は統合的な(炭素の)価格付けを行い、その制度に立脚することが重要だ」と述べた。
民間企業から唯一のパネリストとして参加した欧州のセメント会社、LafargeHolcimのBruno Lafont氏は、一部地域だけで炭素価格が設定されると競争が不公平になる可能性があり、カーボン・プライシングはグローバル全体で適用されることが重要だと主張した。同氏は、産業界は安定性と予測可能性を必要としており、あらゆるカーボン・プライシングシステムも企業競争に歪みを生むことは避けなければならない、と語った。
世界銀行の調査によると、現在世界では約40カ国、20以上の自治体が排出権取引や税制などの炭素価格制度を既に試験運用中か導入予定で、2014年時点で排出権取引の市場規模は世界全体で約300億米ドルに達しているという。今回のCOP21では国際的な目標および枠組み作りについて話し合われたが、これから大事になるのはカーボン・プライシングをはじめとする目標達成に向けた具体的な取り組みや制度設計だ。COP21のパリ協定にて気候変動に対する世界全体の方向性が定まった今、カーボン・プライシングも更に裾野が広がることを期待したい。
【参照リリース】Carbon Price Needed for Climate Change Success International Panel Discussion at COP 21
【関連サイト】気候変動枠組条約(UNFCCC)
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