経済産業省資源エネルギー庁は、福島県沖に設置し、実証実験を行っていた浮体式洋上風力発電施設を全ての撤去する方針を固めた。企業11社と大学が「オールジャパン」でコンソーシアムを組み約600億円の国費を投入したが、採算が採れるまでのイノベーションを起こせなかった。
同事業は、東日本大震災のあった2011年に、エネルギー庁が構想し、復興の象徴として「福島沖での浮体式洋上風力発電システム実証研究事業」が2012年2月に開始したもの。当時は民主党政権だった。当時日本では、着床式洋上風力発電の実績もなかったが、一足飛びに浮体式洋上風力発電に向かったが、最後までコストが課題だった。
同事業には、丸紅がプロジェクトのリード役を務め、三菱商事、三菱重工業(現・三菱造船)、日立製作所、IHIマリンユナイテッド(現・ジャパンマリンユナイテッド)、三井造船(現・三井E&S造船)、新日本製鐵、古河電気工業、清水建設みずほ情報総研の11社と東京大学が、オールジャパンで挑んだ。2013年には世界初の浮体式洋上変電所を設置し、2MW風車1基、当時世界最大級だった7MW風車1基、5MW風車1基を順次設置し、2014年に完成。国策プロジェクトして期待が集まった。新たな輸出産業として、海外展開を視野に入れていた。
風車は、小規模な2MWと5MWは日立製作所、7MWは三菱重工業が担当。浮体の形状は2MWと7MWがセミサブ型、5MWはアドバンストスパー型で設計され、2MWを三井E&S造船が、5MWをジャパンマリンユナイテッド、7MWを三菱造船が担当。同時に建設された世界初の洋上変電所の浮体式もアドバンストスパー型でジャパンマリンユナイテッドが担当した。
しかしその後、日立製作所は2019年に風力発電機生産から撤退し、独Enercon社の発電機を使うことに戦略を転換。三菱重工業も2020年、風力発電事業をヴェスタスに売却し事業から撤退した。浮体構造でも、国産技術は開花せず、新たに日立造船がフランスのIDEOLから技術提供を受け、2019年5月から北九州沖の「ひびき灘浮体式洋上浮力発電」プロジェクトで実証実験を開始。オールジャパンで当初構想した国産技術での浮体式洋上風力発電は、完全に計画が狂った。
【参考】【日本】三菱重工、洋上風力設備合弁MHIヴェスタス株式をヴェスタスへ売却。国産風力メーカー終焉(2020年10月30日)
福島沖での浮体式洋上風力発電システム実証研究事業は、2018年に最終年度を迎え、制作された報告書の中では、「安全性・信頼性・経済性を検証した結果、現状、それらを明らかにするという所期の目的を達成しつつあると判断する」と前向きな総括をし、エネルギー庁は民間企業への売却を模索。しかし実際には、買い手がつかなかった。
エネルギー庁は、2021年度予算に撤去費50億円を計上。すでに7MW機は事業性が見込めず6月に撤去されており、残り2機もこれから完全撤去される。
一方海外では、民間企業主導で続々と浮体式洋上風力発電プロジェクトが立ち上がっており、技術開発も進展。日本での洋上風力プロジェクトも海外技術に頼らざるをえなくなってきた。
【レポート】平成30年度福島沖での浮体式洋上風力発電システム実証研究事業総括委員会報告書
【画像】福島洋上風力コンソーシアム
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