検索世界最大手米グーグルは8月7日、業務上の男女の能力差を主張する文書を発信した同社ソフトウェアエンジニアのジェームズ・ダモア氏を解雇した。米メディアが一斉に報じた。同社は、解雇理由について「ジェンダーに対する固定観念が、尽きることがないため」と説明している。
今回の事案の発端は、ダモア氏が今年7月、社内でのダイバーシティ講習に参加した後、講習で伝えられた内容が「あれはしてはいけない」「これはしてはいけない」というような自由な発言を封じる内容であったことに反発。社内のメーリングリスト上に、同僚に向け「Google’s Ideological Echo Chamber」と題するメモを発信したことから始まった。
文書は全10ページ。ダモア氏はその上で、男女の能力差について、「女性はアイデアより感情や美学に基づく行動をとりやすい」「女性はモノより人に強い関心をいだきやすい」「女性よりも男性の方がコーディングを好む」「男性はよりステータス志向だ」「Googlegeist(グーグル社内従業員調査)によると女性の方が不安障害にかかりやすく、ストレスの高い仕事には就いている女性社員は少ない」と分析。率直にこれらの問題をオープンに議論し、ダイバーシティの問題を倫理の視点ではなく、費用と便益の視点から捉え直し、様々な偏見に対処していくべきだと提案していた。
この文書をメールで受け取った多くの他の同僚は、ダモア氏の見解に対して反発。ダモア氏は、その後、文書を改訂し、冒頭で、「私はダイバーシティやインクルージョンに価値を抱いており、極端な性差別主義者ではないし、偏見を持つことも支持しない」と書き加えたが、社内での論争は収束せず、文書が社外に流出。8月5日から米メディアに周知されていく。
ダニエル・ブラウン・ダイバーシティ担当副社長は、ダモア氏の文書に対し、「ジェンダーについて間違った仮説を提示している」と伝える文書を全社員に送付。スンダー・ピチャイCEOも「行動綱領に反し、性別に関する有害な固定観念を推進することによって、職場における一線を超えた」と社員向けのメールで伝え、ダモア氏の解雇の正当性を主張している。
ダモア氏は、今回の解雇を不服とし、米政府の労使関係解決機関である全米労働関係委員会(NLRB)に係争を持ち込んだ。さらに、不当解雇として同社に対し裁判所に訴える姿勢も見せている。
グーグルは、以前から社員のダイバーシティについてメディアから追及されており、米国労働省からも男女間賃金格差があるとの主張を受け、訴訟の真っただ中にある。例えば、DiversityIncの調査によると、グーグルの管理職女性比率は25%、技術職に限れば20%にすぎない。また、人種についても、53%が白人、29%がアジア、3%が2以上のルーツを持つ人、3%がヒスパニック、そして黒人は1%、また、白人が管理職に占める割合は70%の一方で、黒人やヒスパニックは管理職に2%足らずだと指摘されている。グーグルの親会社であるアルファベットの取締役会においても、15名中女性は4名のみ。同社は、男女の報酬格差の有無を調査することもコストがかかりすぎると拒否しているという。
米国では、男女差別の問題は非常にセンシティブな問題になってきている。大企業も、男女の賃金格差の疑いで訴訟を抱えているところが少なくない。一方、グーグル社内にも、ダモア氏の男女の能力・性格の違いを内心では同意する人も少なくないと言われている。各社には、社内と社外の双方に対して堂々と主張できるダイバーシティやインクルージョンに対する強いスタンスが、ますます求められるようになってきている。
【参照ページ】Google Engineer’s Anti-Diversity Memo Displays Company’s Misogynist Culture
【文書】Google’s Ideological Echo Chamber
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