米国、EU、英国の各政府は、2023年に入り、対イラン経済制裁の新規パッケージを次々と発動。一方、イラン政府とサウジアラビア政府は3月10日、中国政府の仲介により、7年ぶりに外交関係を正常化させることに合意し、北京での3カ国の共同声明を発表している。イランを巡る情勢が複雑化してきた。
イランに対する経済制裁事案は、複数の要因で発動されている。2000年代には、2006年からは、イランが核兵器に関連しウラン濃縮を開始したことから、イランを説得するための経済制裁が発動。2011年からは、イラン革命防衛隊による民主活動家やジャーナリストへの弾圧を理由に、重大な人権侵害を理由とした制裁が追加された。核実験絡みの制裁については、国連安全保障理事会とイランが2015年7月20日、「E3/EU+3」が合意した「共同包括行動計画(JCPOA)」に関する決議2231を採択し、2016年に大幅に緩和された。
しかし、それでも関係悪化は続き、2022年9月13日に、ヘジャブの着け方を理由に、一般市民のマフサ・アミニ氏が風紀警察に逮捕され、9月16日に死亡したことが伝わると、社会問題に発展。イラン国内で大規模な抗議デモが巻き起こり、イラン政府が弾圧すると、再び米欧英は、人権理由の経済制裁を追加発動した。さらに、ウクライナ戦争で、イラン製ドローン(UAV)をロシア側が使用していることが確認され、2022年12月には安全保障理由の経済制裁が発動された。2023年4月には、抗議活動への虐待、拘束、殺害を理由に、追加の制裁を発動した。これらの経済制裁は、米欧英が歩調を合わせる形で、制裁対象の個人を拡大している。
一方、イランは、近年関係が悪化していたサウジアラビアとの関係回復を実現させた。両国関係では、2016年1月にサウジアラビアでシーア派の聖職者が処刑された後、イラン・テヘランのサウジアラビア大使館が襲撃。国交断絶で大使館も閉鎖されていた。中国が仲介した3月10日の合意では、2カ月以内に外交関係を再開し、相互に大使館や公館を設置することや、双方とも国家主権の尊重と内政への不干渉を確認すること等が盛り込まれた。4月6日には、サウジアラビアのファイサル・ビン・ファルハーン・アール・サウード外相とイランのホセイン・アミール・アブドゥラヒヤーン外相が北京市で会談、4月12日には、サウジアラビアのイラン大使館が7年ぶりに再開された。
中東では、カタールを巡る問題も解消されてきている。サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、バーレーンの4カ国は2017年6月、カタールがムスリム同胞団等のテロ集団を支援し資金提供を行っていることやイランへの接近を理由に国交を断絶。しかし、2021年1月にサウジアラビアのアルウラで開催された湾岸協力会議(GCC)サミットで「アルウラ声明」が採択され、断交解消の方向性が決定。2021年末までにサウジアラビアとエジプトはカタールとの国交を回復し、2023年4月12日にはバーレーンも国交回復を決めた。
日本政府は、核兵器関連では米欧英のイラン経済制裁発動に参加しているが、それ以外では距離を置いている。日本が議長国を務めたG7軽井沢外相会合でも、核エスカレーションの停止をイラン政府に強く求め、またウクライナにおいて使用されている武装化されたUAVの移転を止めるよう求めたが、人権問題については、「イランによる組織的な人権侵害、特に威嚇と脅迫を通じて平和的反対を抑圧する取組に対して、深刻な懸念を改めて表明する」「イラン内外の女性、女児、少数派グループ及びジャーナリストを含めた個人を標的とすることを非難する。我々は、イランに対し、これらの問題に対処するための具体的な行動をとることを求める」とし、イラン政府による主体的な是正を求める表現となった。
【参照ページ】Iran: EU restrictive measures
【参照ページ】Iran Sanctions
【参照ページ】UK and international partners announce new sanctions on Iranian regime
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