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【インド】仏経済学者ピケティ氏ら、広がるインドでの所得格差の実態を分析。ペーパー発表

 ベストセラー本「21世紀の資本」で著名なトマ・ピケティ氏と経済学者リュカ・チャンセル氏は9月5日、新たな研究ペーパー「Indian income inequality, 1922-2014: From British Raj to Billionaire Raj」を発表した。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国中、とりわけ経済発展が遅れてきたインドでの所得格差の状況を分析した。1922年に英国の植民地統治下にあった同国で所得税制度が導入された時期から2014年までの、家計消費量調査、国民所得勘定(国民会計)そして所得税のデータを調査し、上位者1%の人々が得ている所得の割合が、2013年から2014年に最高レベルになっていることを突き止めた。

 1930年代後半には、所得の上位者1%が国家収入の21%以下を占めていた。この数字は1980年代初めには一旦6%に低下したが、2013年から2014年には22%に再上昇した。「インドは、この30年間で上位者1%の所得分配率が最も高い国の1つとなっている」と両氏は語る。では、なぜこのような事態に陥ったのだろうか。最も大きな要因は、国民全体の収入が向上するような包括的な政策が採られてこなかったこと、そして格差の推移を正確に把握できるデータが不足していたことだという。

 確かにインドの経済は、過去30年間に急激な変化を遂げた。1970年代までは、インドは厳しく規制された社会主義的な計画を伴う制約の多い経済制度に基づいていた。経済成長のスピードは年3.5%程度と緩やかで、開発は遅れ、貧困が蔓延していた。1980年代に入ると、規制緩和、税率引き下げ、中規模の経済改革などにより経済成長が加速し、年5%程度に浮上。その後、1990年代初頭には大規模な改革が行われ、成長は加速し、2000年代半ばには2桁近い成長へと推移した。しかし、インド経済は依然として世界で最も成長著しい経済の1つであることは確かだが、この時期以降、経済は大幅に減速している。

 今年4月から6月の四半期を見ると、ここ3年間で最も成長が遅い5.7%であり、減速は進行中だ。このような状況の誘因となっている点として、両氏は、貧弱な需要、多くの混乱や議論を巻き起こした昨年11月の500ルピー紙幣と1,000ルピー紙幣の廃止、民間投資の減少、銀行貸し出し額の低迷等を挙げた。
とりわけ、賄賂や闇取引に多用される紙幣の使用を廃止するという「ブラックマネー対策」として政府が突然断行した2種類の紙幣の廃止は、国民の半数以上が銀行口座をもっていない状況下での施策だけに、特に貧しい人々を困難な立場に追い込んだと言われている。昨年11月12日付のBBCニュースによると、インドでは約90%の取引が現金で行われるれる。さらに全人口中、約3億人が政府発行の身分証明書を持っていないという。人々の多くは現金を個別に保管し、現金以外での取引が困難であることから、突然の紙幣廃止による打撃の大きさを窺える。

 チャンセル氏とピケティ氏は、1991年から2012年にかけて、特に2002年以降は、富の集中が急激に増加していると分析。2014年には、所得の上位10%に該当する約8,000万人だけが、中間層に位置していた40%の人々よりも遥かに富を享受していたという。しかし、この調査を遂行する上で両氏が最も注目したのは、2000年に所得税当局が統計の発表を停止し、2016年になってから2011年以降のデータを発表したことだ。両氏はデータが公表されなかった時代を「black decade(暗黒の10年)」と呼び、インドの不平等が拡大した要因の1つと位置付けている。

 一定期間にわたる不平等な成長はインドに特有ではないが、市場経済の活発化が常に不平等をもたらすとは限らない。インドのケースは、上位1%の成長と、残りの全人口の成長との間に最も大きい格差を持つ国であるという点が際立っている。 トップの人々の所得は、中国よりも速いペースで成長している。

 両氏は、これまでインド政府が実践してきた成長戦略も、不平等の急激な拡大に繋がったと主張する。中国もまた1978年以降自由化と開放を開始し、急激な所得の増加と格差の拡大を経験した。しかし、この格差は2000年代には安定し、現在はインドよりも低いレベルにある。ロシアでは、共産主義者から市場経済への移行が「迅速かつ無慈悲な」事態を生じさせ、現在もインドと同様の格差問題を抱えている。

 今回の研究は、高度に規制された経済から自由経済への移行時における戦略が極めて重要だということを強調している。インドは一連の選択肢の中で、非常に不公平な方法を選んだ。世界の多くの地域で所得格差が拡大している一方で、一部の国々ではそれ程大きな問題にはなっていない。 例えば西欧においては、アングロサクソンの国々や新興市場よりも遥かに格差が少ない。それは、資本家よりも労働者にとって有利な社会保障制度や効率的な税制、そして教育、住宅、健康、交通機関等、公共財への政府の投資に起因しているという。

 インドは、より包括的な成長戦略と、所得に関する透明性の高いデータの蓄積が必要だ。今年12月には、100人以上の研究者からなるネットワークによって作成された初の世界不平等報告書が発表される予定で、両氏はインドの不平等を他国と比較し、是正する方策を提言する予定だ。

【研究ペーパー】Indian income inequality, 1922-2014: From British Raj to Billionaire Raj?
【参照ページ】How India's currency ban is hurting the poor

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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