国連グローバル・コンパクト(UNGC)とコンサルティング世界大手アーンスト・アンド・ヤング(EY)は8月9日、持続可能なサプライチェーンに向け世界の現状をまとめた報告書「State of Sustainable Supply Chains」を発表した。報告書は、グローバル大手企業70社のサプライチェーン、調達、サステナビリティ担当役員に対するインタビューを中心にまとめられた。インタビューを行った企業は、フォード、ダイムラー、グラクソ・スミスクライン、GAP、シーメンス、モンサントなど。日本企業の三菱商事、キッコーマン、富士ゼロックス、JXエネルギーもインタビューに参加した。
UNGCとEYは、世界的に国連持続可能な開発目標(SDGs)が注目される中、サプライチェーンが大きな鍵を握るとし、世界中の企業関係者に向け今回の報告書を作成した。報告書ではサプライチェーンへの取り組みの現状として、6つの特徴をまとめた。
1. インタビュー企業は全て、手法は違えど、持続可能なサプライチェーンに向けた投資を行っている
労働者の健康・安全衛生、労働争議、地政学上の紛争、原材料希少化、環境起因の病気などの課題や、紛争鉱物や現代奴隷に関する新たな法律が制定されたことにより、顧客、消費者、投資家、従業員、地元住民が引き起こすサプライチェーンリスクの認識が高まっている。
2. 単なるリスク管理から差別化や共有価値の創造に進化している
持続可能なサプライチェーンに向けて取り組む主な動機は、操業リスク、財務リスク、規制リスク、レピュテーションリスクへの対処。しかし、サプライチェーン対応は、単なる法令コンプライアンスの次元を超えて、ステークホルダーとの共通価値の創造や、市場での差別化、イノベーション、顧客との長期的な関係構築、資本アクセスの向上といった段階に発展してきている。
3. 持続可能なサプライチェーンは第一に調達部門が責任を有し、他部門もサポートしている
サプライヤー選定、モニタリング、インセンティブ付けの業務において、調達最低要求基準、KPI、サプライヤー評価基準の3つは統合されてきており、資材調達部門によってマネジメントされるようになってきている。先進的な企業では、サステナビリティを、研究開発、製品設計、法務、リスク管理、財務など各部門の業務に組み込まれており、多くの場合、経営陣が強力にサポートしている。
4. 先進企業はサプライヤーに対し単なるコンプライアンスを超え事業機会を獲得する行動に出ている
企業は、サプライヤーコンプライアンスのために最低限度基準を監査、モニタリングするという段階を超え、サプライヤーと相互に利益をもたらす関係構築へと移行している。例えば、改善に向けたアドバイスの提供、企業単体や業界団体を通じたトレーニングや能力開発の実施、良い評価を得たサプライヤーへのインセンティブ設定などを実施している。経営陣たちは、サプライヤーや委託先企業をビジネスの延長として捉え、共有目標に向かって協働している。
5. 企業はテクノロジーや協働を通じてサプライチェーンへの影響を拡大している
多くの企業は、サプライチェーン上の透明性確保が最大の課題であると捉えている。これは、企業は製品やサービスに使われている主な原材料についても責任を有するというステークホルダーの期待が反映されている。透明性確保には主に2つの方法があり、一つは、データ収集や調達元に対する情報請求を可能とするテクノロジーを用いること。もう一つは、UNGC10原則やGRI、CDPなどを受入れている企業から調達することだ。
6. 同業他社や評価機関、NGOとの協働は企業がサプライチェーンにおいて持続可能性を実現するために必要不可欠である
特定の業界、地域、課題や商品に焦点を当ててマルチステークホルダーアプローチを採り協働することは、過去数年で普及してきている。背景には、ステークホルダーと協働することは、少ない費用で大きな影響力を生み、ナレッジ交換を容易にし、信用を獲得するのに奇すると企業が認識してきていることがある。
今回の研究では、持続可能なサプライチェーンにおいてお手本となるような実践例がいくつか発表されているのみならず、企業の将来をより確かなものにするために有用な情報が沢山盛り込まれている。とりわけ、サプライチェーンを強化する上で、基礎レベル、発展レベル、完成形レベル、成熟レベル、率先レベルといった段階ごとのモデル化が必要であるとした点は非常に興味深い。
【参照ページ】UN GLOBAL COMPACT & EY LAUNCH GLOBAL STATE OF SUSTAINABLE SUPPLY CHAINS REPORT
【報告書】State of Sustainable Supply Chains
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