米金融大手のシティグループ(以下、シティ)は8月15日、気候変動がもたらす脅威とリスクについてまとめたレポート、"Global Perspectives & Solutions ENERGY DARWINISM II Why a Low Carbon Future Doesn’t Have to Cost the Earth"を公表した。同レポートでは、気候変動へのアクションを怠った場合に想定されるGDPの損失とアクションをとった場合にかかるコストの比較、気候変動対策に向けて金融市場が果たすべき役割などについてまとめたものだ。
同レポートの中で、シティは石炭業界の今後について警鐘を鳴らしている。シティによると、同社がモニタリングしている石炭関連上場企業の企業価値は2012年時の500億米ドルから2015年には180億米ドルへと大きく縮小しており、今後は炭鉱の閉山や清算、倒産などが加速する可能性があるという。
シティはこうした投資家らの石炭に対する投資意欲の低下や低炭素エネルギーへの移行が加速している理由として、先日のノルウェー政府系年金基金による化石燃料からの投資引揚げをはじめとする政治主導の動きを指摘している。また、英国国教会が温室効果ガス排出の削減に関するローマ法王の発言への支持を表明するなど、こうした一連の動きが石炭業界に対する継続的なプレッシャーにつながっているという。
さらに、石炭の輸入大国だったアジア諸国でもこの2年で風向きは変化している。韓国は2029年までにエネルギーにおける石炭比率を37%から27%まで10%削減する計画を公表しているほか、中国も燃料炭およびコークスにそれぞれ6%、3%の輸入関税を導入して市場を驚かせた。インドの石炭輸入も2019年までに鈍化すると予測されている。
シティは、こうした市場の変化に対する石炭業界の反応は楽観的で、希望的観測が先行していると警鐘を鳴らす。具体的には、いずれは石炭需要も復活し、それに合わせて価格も戻るという楽観視や、「クリーン石炭」技術が業界を救ってくれるだろうという希望だ。同社は燃料用の石炭に対する需要は周期的、構造的に見て厳しい状況にあり、現在の状況は今度も続く見込みだとしている。また、こうした状況を受けて既にリオ・ティントやアングロ・アメリカン、BHPビリトンなど一部の大手資源企業は予測される下落に備えて石炭燃料からの撤退や事業の合理化を進めているとのことだ。
シティによると、業界全体の期待にもかかわらず商業的に利用可能な二酸化炭素の捕捉・貯蔵(CCS)技術の開発は遅々としたペースとなっており、それが石炭業界の運命を決定するという。同社はCCS技術の迅速な進展なくして石炭業界が排出削減において主要な役割を果たすのは困難だと警告しており、石炭業界は政府からの支援援助が必要となる可能性があるが、現状の政府の方針を考えるとそれも制限されるだろうと厳しい見方をしている。
気候変動の主要因とされている石炭関連事業への投資は、サステナビリティの観点はもちろん、経済的観点から見ても非常にハイリスクという認識がここ数年で急速に広がっている。石炭に関わる企業各社は座礁資産の問題も乗り越えてどのように事業転換を進めることができるのか、今後の迅速な舵取りが問われている。
【レポートダウンロード】Global Perspectives & Solutions ENERGY DARWINISM II Why a Low Carbon Future Doesn’t Have to Cost the Earth
【参照リリース】Citigroup: Coal mining sector running out of time
【企業サイト】Citigroup
(※写真提供:TungCheung / Shutterstock.com)
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