米連邦下院金融サービス委員会は7月27日、共和党議員が提出した新たな4つの反ESG法案を可決した。同委員会は共和党議員が多数派を占める。今後、下院本会議での審議に移るが、連邦下院は1ヶ月の夏休みに入ったため、法案の本会議への提出は9月になる見込み。但し、下院及び上院は民主党が多数はあり、否決されるというのが大方の見方。仮に可決されても、バイデン大統領は拒否権を発動する見込み。
4つの法案のうち3つは、米証券取引委員会(SEC)の規制の自由を縛るもので、可決されると米上場企業に影響が出る。もう1つが、米連邦金融規制当局に対するもの。
可決された1つ目は、ガードレール法案(HR4790)。SECは、発行体に開示義務ルールを規定する際に、発行体が議決権行使や投資意思決定に関して重要(マテリアル)と判断したルールに対応する情報のみを開示するように定めるもの。さらにSECに対し、マテリアルと判断されない事項の列挙及び公表も義務付けている。上場企業アドバイザリーボードの新設や、SECに対し、EU企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の潜在的影響を評価することも義務付けた。同法案が可決されると、SECは、開示義務を課す情報が「マテリアル」ということを証明しなければならなくなる。
可決された2つ目は、米国民の年金を政治から保護する法案(HR4767)。同法案は株主の株主提案を制限する内容で、特に再提出の基準を引き上げ、一度否決されたものを容易に再度チャレンジするを妨げるもの。加えて、企業は、環境、社会、政治的な提案を株主総会での議案から除外することも合法とする。議決権行使助言会社に関しては、「SECへの登録制度の導入」「利益相反に関する方針の公表」「賛成・反対の推奨内容と、推奨する際に影響を受けた事項の情報の毎年の公表」「推奨のための方法論に関し、株主の経済的利益に叶うことを保証する形で記述・公表」「推奨内容に発行体が閲覧できコメントできる権限の確保」を義務化する内容も盛り込まれた。
さらに議決権行使助言会社を活用する機関投資家は、受託者責任(フィデューシャリー・デューティ)との整合性の報告を義務化。分析なしに自動的に推奨内容に従う「ロボ・ボーティング」行為は禁止。また、議決権行使助言会社に対しては、助言記述に虚偽記載が会った場合には連邦証券法上の虚偽に該当するという規定や、議決権行使助言会社が米連邦法や州法に反する推奨をする際には法的責任を追及することも盛り込んだ。また、運用会社大手は、取締役会の推奨に反する側に議決権を行使する場合は、経済分析を行うことも義務付ける。
3つ目は、1934年証券取引法を改正する「アクティビストに関する企業法案(HR4655)」。現行の法制度では、ESGに関する株主提案が提出された際、SECに対し提案の却下を求めることができ、SECが判断権限を持つ形となっている。同法案は、SECから、ESGに関する株主提案の却下に関する判断権限を剥奪する内容。
4つ目は、「アメリカ・ファースト法案(HR4923)」で、連邦政府の金融政策に対するNGOや国際組織の影響力を制限するもの。具体的には、金融安定監視協議会(FSOC)や行政命令に基づく勧告を発出する際、連邦議会への報告を義務付け、連邦議会が阻止できるようにする。
これらの法案は、バイデン政権中に成立する可能性は極めて低い状況。但し、2024年大統領選挙で共和党候補が当選した場合には、大きな政治問題に発展しそうだ。成立すると、株主の権利が大幅に制限されることになる。
共和党は2022年12月にも反ESG観点での決議を提案したが、最終的にバイデン大統領が拒否権を発動し、葬り去られている。
【参考】【アメリカ】バイデン大統領、労働省ESG規則の不承認決議に拒否権。再び連邦議会審議へ(2023年3月22日)
【参照ページ】Markup of H.R. 4766; the “Keep Your Coins Act of 2023;” H.R. 4790; H.R. 4767; H.R. 4823; H.R. 4655; and H.J. Res. 66
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