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【ボリビア】ウユニ塩湖等でのリチウム開発国家プロジェクト、CATLが落札。眠れる獅子、覚醒するか

 ボリビア炭化水素エネルギー省(MHE)は1月20日、ボリビアリチウム公社(YLB)が計画しているポトシ県ウユニ塩湖とオルーロ県コイパサ塩湖の2ヶ所で行うリチウム採掘事業で、中国EVバッテリー大手CATL(寧徳時代新能源科技)率いるCBCコンソーシアムが落札したと発表した。

 ボリビアのリチウム埋蔵量は2,100万tで、全世界の23.4%を占め、世界最大。特に、ボリビア、チリ、アルゼンチンが国境を接するアンデス高原地域一帯は「リチウム・トライアングル」と呼ばれ、世界のリチウム埋蔵量の55%を占める。YLBは、同2カ所のサイトで純度99.5%の炭酸リチウムを、年最大2万5,000tずつ生産する計画。

 今回落札したCBCは、CATL、CATLのバッテリーリサイクル子会社BRUNP(広東邦普循環科技)、中国コバルト、ニオブ、モリブデン採掘大手CMOC(洛陽欒川鉬業集団)の3社のコンソーシアムで、社名の頭文字をとって「CBC」。CBCコンソーシアムは、DLE(直接リチウム抽出)技術を採用。従来の製法では、採掘資源に含まれるリチウムの約40%から50%しか抽出できないが、CBCのDLE技術では90%抽出が可能。YLBはリチウム抽出80%を最低要件として設けていた。

 今回の落札は、CATLにとっても新たなリチウム資源確保でき、大きな意味を持つが、それ以上にボリビア政府にとっての意味は大きい。ボリビア政府は、すでに1980年代の段階で、ウユニ塩湖は地球上で最も重要なリチウム鉱床のある場所であるという調査結果を得ていたが、リチウム採掘はこれまで低迷し、チリやアルゼンチンに大きな遅れをとっていた。

 その背景は、リチウム資源からの経済便益をボリビア国内に還元する仕組みづくりに失敗してきたことにある。ボリビアでは、1982年に債務危機によりハイパーインフレが発生し、1986年に当時のパス・エステンソロ政権は新自由主義的改革を断行。ウユニ塩湖でのリチウム開発も、米ノースカロライナ州のリチウム・コーポレーション・オブ・アメリカ(Lithco)に丸投げする施策をとった。その結果、ポトシ市民委員会(COMCIPO)、トマス・フリアス・デ・ポトシ大学(UTF)、南アルティプラーノ農民労働者単一連盟(FRUTCAS)等が団結し、社会的な反対運動を展開。結果、Lithcoによる開発計画は頓挫した。この頃から、ボリビアでは反政府の社会運動が大きなうねりをあげる。

 ボリビアでは2006年に、反政府社会運動を展開した社会主義運動(MAS)の指導者の一人だったエボ・モラレス氏が、同国初の先住民出身の大統領に就任。さらに、大統領選挙公約中から、先住民の権利拡大、地方分権推進、農地改革、天然資源主権を柱とする新憲法制定を公約として掲げ、国会では3分の2以上の賛成を得て、国民投票に付されたが、そこから国を上げての大きな政治対立が発生した。2008年9月に、南米諸国連合(UNASUR)等の国際社会が介入し、両者は対話を再開。同10月新憲法案の内容につき政治合意を見、2009年1月に国民投票が実施され、約60%の賛成多数で承認された。新憲法では、天然資源開発に関し、天然資源の所有権は国家の独占的な権限とし、地域住民との協議のもとでのみ実施されるとなっていた。

 しかし実際には、リチウム資源開発の動きは停滞した。ボリビア政府は、リチウム資源の採掘だけでなく、国内で抽出までを産業化する構想を抱きつつも、YLBでの事業化は暗礁に乗り上げてきた。ようやく、資源採掘での環境アセスメントに関する1回目のパブリックコメント募集が2012年に、炭酸リチウム工場の建設を視野に入れた2回目のパブリックコメント募集が2018年に実施。しかしその直後の2019年10月にモラレス大統領が4選を決めるも、不正選挙疑惑で大規模抗議デモが起こり、モラレス政権と対立した米政府も同調。ボリビア国軍や国家警察までもがモラレス大統領に辞職勧告を突き付けられ、同11月に辞任。メキシコ経由でアルゼンチンに亡命した。再びリチウム開発事業は暗雲が立ち込める。

 副大統領と上院議長も兼任していたモラレス氏がいなくなったことで、反モラレス派のヘアニネ・アニェス上院副議長が暫定大統領に就任。しかし、直後から新型コロナウイルス・パンデミックで再び支持率が低迷し、2020年10月に大統領選選挙への出馬を事態。最終的にモラレス派のルイス・アルセが大統領に就任した。アルせ大統領は、2021年3月にアニェス前暫定大統領を、モラレス退陣クーデターの疑いで逮捕。アニェス氏は収監され、自殺未遂も起こしている。

 その中で、今回のCBCの落札が発表された。アルセ大統領は今回、新憲法下でボリビア政府が天然資源主権を保持したままでの資源開発モデルになると表明。塩田売却でも、コンセッション方式でもない新たな方式となる。具体的には、YLBがリチウム抽出(プラント建設・運用・保守)、炭酸リチウムの工業化、製品マーケティングを担当。CBCは、第1段階で10億8,300万米ドル以上を投入し、プラント立上げと関連する道路や電力供給等のインフラ整備、リチウム抽出後の炭酸リチウムの開発と製品化を担い、生産チェーン側の所有権を持つ形となる。

 アルセ大統領は、2025年第1四半期に国産原材料を使用したリチウム電池の輸出を開始する目標を表明済み。今回の入札でCBC以外に応札した5つのコンソーシアムである米国のライラック・ソリューションズ、ロシアのウラニアム・ワン・グループ、中国のCITIC GUOANグループ(中信国安集団)とCRIG(中国鉄道国際集団)、中国のFUSION ENERTECH、中国のTBEAグループとの交渉も継続中という。さらにボリビア政府は、2030年までに世界のリチウム供給シェア40%という野心も掲げており、英ウォーリック大学との間で、リチウムバッテリーの研究開発での協力関係も締結している。

 一方、今回のリチウム資源開発プロジェクトが、ボリビア社会からの信任を得られるかはまだ不明。すでに、環境アセスメントの段階から、先住民族との協議が不足しているとの声も上がっており、先住民族の権利という人権問題や、環境汚染、労働慣行上の問題もくすぶっている。

【参照ページ】Bolivia presenta al mundo el modelo soberano de inversiones en la industria del litio
【参照ページ】THE INDUSTRIALISATION OF LITHIUM AND CITIZEN PARTICIPATION IN BOLIVIA
【参照ページ】中国EVバッテリー大手CATL、ウユニ塩湖などでリチウム生産に参入

 ボリビア炭化水素エネルギー省(MHE)は1月20日、ボリビアリチウム公社(YLB)が計画しているポトシ県ウユニ塩湖とオルーロ県コイパサ塩湖の2ヶ所で行うリチウム採掘事業で、中国EVバッテリー大手CATL(寧徳時代新能源科技)率いるCBCコンソーシアムが落札したと発表した。

 ボリビアのリチウム埋蔵量は2,100万tで、全世界の23.4%を占め、世界最大。特に、ボリビア、チリ、アルゼンチンが国境を接するアンデス高原地域一帯は「リチウム・トライアングル」と呼ばれ、世界のリチウム埋蔵量の55%を占める。YLBは、同2カ所のサイトで純度99.5%の炭酸リチウムを、年最大2万5,000tずつ生産する計画。

 今回落札したCBCは、CATL、CATLのバッテリーリサイクル子会社BRUNP(広東邦普循環科技)、中国コバルト、ニオブ、モリブデン採掘大手CMOC(洛陽欒川鉬業集団)の3社のコンソーシアムで、社名の頭文字をとって「CBC」。CBCコンソーシアムは、DLE(直接リチウム抽出)技術を採用。従来の製法では、採掘資源に含まれるリチウムの約40%から50%しか抽出できないが、CBCのDLE技術では90%抽出が可能。YLBはリチウム抽出80%を最低要件として設けていた。

 今回の落札は、CATLにとっても新たなリチウム資源確保でき、大きな意味を持つが、それ以上にボリビア政府にとっての意味は大きい。ボリビア政府は、すでに1980年代の段階で、ウユニ塩湖は地球上で最も重要なリチウム鉱床のある場所であるという調査結果を得ていたが、リチウム採掘はこれまで低迷し、チリやアルゼンチンに大きな遅れをとっていた。

 その背景は、リチウム資源からの経済便益をボリビア国内に還元する仕組みづくりに失敗してきたことにある。ボリビアでは、1982年に債務危機によりハイパーインフレが発生し、1986年に当時のパス・エステンソロ政権は新自由主義的改革を断行。ウユニ塩湖でのリチウム開発も、米ノースカロライナ州のリチウム・コーポレーション・オブ・アメリカ(Lithco)に丸投げする施策をとった。その結果、ポトシ市民委員会(COMCIPO)、トマス・フリアス・デ・ポトシ大学(UTF)、南アルティプラーノ農民労働者単一連盟(FRUTCAS)等が団結し、社会的な反対運動を展開。結果、Lithcoによる開発計画は頓挫した。この頃から、ボリビアでは反政府の社会運動が大きなうねりをあげる。

 ボリビアでは2006年に、反政府社会運動を展開した社会主義運動(MAS)の指導者の一人だったエボ・モラレス氏が、同国初の先住民出身の大統領に就任。さらに、大統領選挙公約中から、先住民の権利拡大、地方分権推進、農地改革、天然資源主権を柱とする新憲法制定を公約として掲げ、国会では3分の2以上の賛成を得て、国民投票に付されたが、そこから国を上げての大きな政治対立が発生した。2008年9月に、南米諸国連合(UNASUR)等の国際社会が介入し、両者は対話を再開。同10月新憲法案の内容につき政治合意を見、2009年1月に国民投票が実施され、約60%の賛成多数で承認された。新憲法では、天然資源開発に関し、天然資源の所有権は国家の独占的な権限とし、地域住民との協議のもとでのみ実施されるとなっていた。

 しかし実際には、リチウム資源開発の動きは停滞した。ボリビア政府は、リチウム資源の採掘だけでなく、国内で抽出までを産業化する構想を抱きつつも、YLBでの事業化は暗礁に乗り上げてきた。ようやく、資源採掘での環境アセスメントに関する1回目のパブリックコメント募集が2012年に、炭酸リチウム工場の建設を視野に入れた2回目のパブリックコメント募集が2018年に実施。しかしその直後の2019年10月にモラレス大統領が4選を決めるも、不正選挙疑惑で大規模抗議デモが起こり、モラレス政権と対立した米政府も同調。ボリビア国軍や国家警察までもがモラレス大統領に辞職勧告を突き付けられ、同11月に辞任。メキシコ経由でアルゼンチンに亡命した。再びリチウム開発事業は暗雲が立ち込める。

 副大統領と上院議長も兼任していたモラレス氏がいなくなったことで、反モラレス派のヘアニネ・アニェス上院副議長が暫定大統領に就任。しかし、直後から新型コロナウイルス・パンデミックで再び支持率が低迷し、2020年10月に大統領選選挙への出馬を事態。最終的にモラレス派のルイス・アルセが大統領に就任した。アルせ大統領は、2021年3月にアニェス前暫定大統領を、モラレス退陣クーデターの疑いで逮捕。アニェス氏は収監され、自殺未遂も起こしている。

 その中で、今回のCBCの落札が発表された。アルセ大統領は今回、新憲法下でボリビア政府が天然資源主権を保持したままでの資源開発モデルになると表明。塩田売却でも、コンセッション方式でもない新たな方式となる。具体的には、YLBがリチウム抽出(プラント建設・運用・保守)、炭酸リチウムの工業化、製品マーケティングを担当。CBCは、第1段階で10億8,300万米ドル以上を投入し、プラント立上げと関連する道路や電力供給等のインフラ整備、リチウム抽出後の炭酸リチウムの開発と製品化を担い、生産チェーン側の所有権を持つ形となる。

 アルセ大統領は、2025年第1四半期に国産原材料を使用したリチウム電池の輸出を開始する目標を表明済み。今回の入札でCBC以外に応札した5つのコンソーシアムである米国のライラック・ソリューションズ、ロシアのウラニアム・ワン・グループ、中国のCITIC GUOANグループ(中信国安集団)とCRIG(中国鉄道国際集団)、中国のFUSION ENERTECH、中国のTBEAグループとの交渉も継続中という。さらにボリビア政府は、2030年までに世界のリチウム供給シェア40%という野心も掲げており、英ウォーリック大学との間で、リチウムバッテリーの研究開発での協力関係も締結している。

 一方、今回のリチウム資源開発プロジェクトが、ボリビア社会からの信任を得られるかはまだ不明。すでに、環境アセスメントの段階から、先住民族との協議が不足しているとの声も上がっており、先住民族の権利という人権問題や、環境汚染、労働慣行上の問題もくすぶっている。

【参照ページ】Bolivia presenta al mundo el modelo soberano de inversiones en la industria del litio
【参照ページ】THE INDUSTRIALISATION OF LITHIUM AND CITIZEN PARTICIPATION IN BOLIVIA
【参照ページ】中国EVバッテリー大手CATL、ウユニ塩湖などでリチウム生産に参入

 ボリビア炭化水素エネルギー省(MHE)は1月20日、ボリビアリチウム公社(YLB)が計画しているポトシ県ウユニ塩湖とオルーロ県コイパサ塩湖の2ヶ所で行うリチウム採掘事業で、中国EVバッテリー大手CATL(寧徳時代新能源科技)率いるCBCコンソーシアムが落札したと発表した。

 ボリビアのリチウム埋蔵量は2,100万tで、全世界の23.4%を占め、世界最大。特に、ボリビア、チリ、アルゼンチンが国境を接するアンデス高原地域一帯は「リチウム・トライアングル」と呼ばれ、世界のリチウム埋蔵量の55%を占める。YLBは、同2カ所のサイトで純度99.5%の炭酸リチウムを、年最大2万5,000tずつ生産する計画。

 今回落札したCBCは、CATL、CATLのバッテリーリサイクル子会社BRUNP(広東邦普循環科技)、中国コバルト、ニオブ、モリブデン採掘大手CMOC(洛陽欒川鉬業集団)の3社のコンソーシアムで、社名の頭文字をとって「CBC」。CBCコンソーシアムは、DLE(直接リチウム抽出)技術を採用。従来の製法では、採掘資源に含まれるリチウムの約40%から50%しか抽出できないが、CBCのDLE技術では90%抽出が可能。YLBはリチウム抽出80%を最低要件として設けていた。

 今回の落札は、CATLにとっても新たなリチウム資源確保でき、大きな意味を持つが、それ以上にボリビア政府にとっての意味は大きい。ボリビア政府は、すでに1980年代の段階で、ウユニ塩湖は地球上で最も重要なリチウム鉱床のある場所であるという調査結果を得ていたが、リチウム採掘はこれまで低迷し、チリやアルゼンチンに大きな遅れをとっていた。

 その背景は、リチウム資源からの経済便益をボリビア国内に還元する仕組みづくりに失敗してきたことにある。ボリビアでは、1982年に債務危機によりハイパーインフレが発生し、1986年に当時のパス・エステンソロ政権は新自由主義的改革を断行。ウユニ塩湖でのリチウム開発も、米ノースカロライナ州のリチウム・コーポレーション・オブ・アメリカ(Lithco)に丸投げする施策をとった。その結果、ポトシ市民委員会(COMCIPO)、トマス・フリアス・デ・ポトシ大学(UTF)、南アルティプラーノ農民労働者単一連盟(FRUTCAS)等が団結し、社会的な反対運動を展開。結果、Lithcoによる開発計画は頓挫した。この頃から、ボリビアでは反政府の社会運動が大きなうねりをあげる。

 ボリビアでは2006年に、反政府社会運動を展開した社会主義運動(MAS)の指導者の一人だったエボ・モラレス氏が、同国初の先住民出身の大統領に就任。さらに、大統領選挙公約中から、先住民の権利拡大、地方分権推進、農地改革、天然資源主権を柱とする新憲法制定を公約として掲げ、国会では3分の2以上の賛成を得て、国民投票に付されたが、そこから国を上げての大きな政治対立が発生した。2008年9月に、南米諸国連合(UNASUR)等の国際社会が介入し、両者は対話を再開。同10月新憲法案の内容につき政治合意を見、2009年1月に国民投票が実施され、約60%の賛成多数で承認された。新憲法では、天然資源開発に関し、天然資源の所有権は国家の独占的な権限とし、地域住民との協議のもとでのみ実施されるとなっていた。

 しかし実際には、リチウム資源開発の動きは停滞した。ボリビア政府は、リチウム資源の採掘だけでなく、国内で抽出までを産業化する構想を抱きつつも、YLBでの事業化は暗礁に乗り上げてきた。ようやく、資源採掘での環境アセスメントに関する1回目のパブリックコメント募集が2012年に、炭酸リチウム工場の建設を視野に入れた2回目のパブリックコメント募集が2018年に実施。しかしその直後の2019年10月にモラレス大統領が4選を決めるも、不正選挙疑惑で大規模抗議デモが起こり、モラレス政権と対立した米政府も同調。ボリビア国軍や国家警察までもがモラレス大統領に辞職勧告を突き付けられ、同11月に辞任。メキシコ経由でアルゼンチンに亡命した。再びリチウム開発事業は暗雲が立ち込める。

 副大統領と上院議長も兼任していたモラレス氏がいなくなったことで、反モラレス派のヘアニネ・アニェス上院副議長が暫定大統領に就任。しかし、直後から新型コロナウイルス・パンデミックで再び支持率が低迷し、2020年10月に大統領選選挙への出馬を事態。最終的にモラレス派のルイス・アルセが大統領に就任した。アルせ大統領は、2021年3月にアニェス前暫定大統領を、モラレス退陣クーデターの疑いで逮捕。アニェス氏は収監され、自殺未遂も起こしている。

 その中で、今回のCBCの落札が発表された。アルセ大統領は今回、新憲法下でボリビア政府が天然資源主権を保持したままでの資源開発モデルになると表明。塩田売却でも、コンセッション方式でもない新たな方式となる。具体的には、YLBがリチウム抽出(プラント建設・運用・保守)、炭酸リチウムの工業化、製品マーケティングを担当。CBCは、第1段階で10億8,300万米ドル以上を投入し、プラント立上げと関連する道路や電力供給等のインフラ整備、リチウム抽出後の炭酸リチウムの開発と製品化を担い、生産チェーン側の所有権を持つ形となる。

 アルセ大統領は、2025年第1四半期に国産原材料を使用したリチウム電池の輸出を開始する目標を表明済み。今回の入札でCBC以外に応札した5つのコンソーシアムである米国のライラック・ソリューションズ、ロシアのウラニアム・ワン・グループ、中国のCITIC GUOANグループ(中信国安集団)とCRIG(中国鉄道国際集団)、中国のFUSION ENERTECH、中国のTBEAグループとの交渉も継続中という。さらにボリビア政府は、2030年までに世界のリチウム供給シェア40%という野心も掲げており、英ウォーリック大学との間で、リチウムバッテリーの研究開発での協力関係も締結している。

 一方、今回のリチウム資源開発プロジェクトが、ボリビア社会からの信任を得られるかはまだ不明。すでに、環境アセスメントの段階から、先住民族との協議が不足しているとの声も上がっており、先住民族の権利という人権問題や、環境汚染、労働慣行上の問題もくすぶっている。

【参照ページ】Bolivia presenta al mundo el modelo soberano de inversiones en la industria del litio
【参照ページ】THE INDUSTRIALISATION OF LITHIUM AND CITIZEN PARTICIPATION IN BOLIVIA
【参照ページ】中国EVバッテリー大手CATL、ウユニ塩湖などでリチウム生産に参入

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 ボリビア炭化水素エネルギー省(MHE)は1月20日、ボリビアリチウム公社(YLB)が計画しているポトシ県ウユニ塩湖とオルーロ県コイパサ塩湖の2ヶ所で行うリチウム採掘事業で、中国EVバッテリー大手CATL(寧徳時代新能源科技)率いるCBCコンソーシアムが落札したと発表した。

 ボリビアのリチウム埋蔵量は2,100万tで、全世界の23.4%を占め、世界最大。特に、ボリビア、チリ、アルゼンチンが国境を接するアンデス高原地域一帯は「リチウム・トライアングル」と呼ばれ、世界のリチウム埋蔵量の55%を占める。YLBは、同2カ所のサイトで純度99.5%の炭酸リチウムを、年最大2万5,000tずつ生産する計画。

 今回落札したCBCは、CATL、CATLのバッテリーリサイクル子会社BRUNP(広東邦普循環科技)、中国コバルト、ニオブ、モリブデン採掘大手CMOC(洛陽欒川鉬業集団)の3社のコンソーシアムで、社名の頭文字をとって「CBC」。CBCコンソーシアムは、DLE(直接リチウム抽出)技術を採用。従来の製法では、採掘資源に含まれるリチウムの約40%から50%しか抽出できないが、CBCのDLE技術では90%抽出が可能。YLBはリチウム抽出80%を最低要件として設けていた。

 今回の落札は、CATLにとっても新たなリチウム資源確保でき、大きな意味を持つが、それ以上にボリビア政府にとっての意味は大きい。ボリビア政府は、すでに1980年代の段階で、ウユニ塩湖は地球上で最も重要なリチウム鉱床のある場所であるという調査結果を得ていたが、リチウム採掘はこれまで低迷し、チリやアルゼンチンに大きな遅れをとっていた。

 その背景は、リチウム資源からの経済便益をボリビア国内に還元する仕組みづくりに失敗してきたことにある。ボリビアでは、1982年に債務危機によりハイパーインフレが発生し、1986年に当時のパス・エステンソロ政権は新自由主義的改革を断行。ウユニ塩湖でのリチウム開発も、米ノースカロライナ州のリチウム・コーポレーション・オブ・アメリカ(Lithco)に丸投げする施策をとった。その結果、ポトシ市民委員会(COMCIPO)、トマス・フリアス・デ・ポトシ大学(UTF)、南アルティプラーノ農民労働者単一連盟(FRUTCAS)等が団結し、社会的な反対運動を展開。結果、Lithcoによる開発計画は頓挫した。この頃から、ボリビアでは反政府の社会運動が大きなうねりをあげる。

 ボリビアでは2006年に、反政府社会運動を展開した社会主義運動(MAS)の指導者の一人だったエボ・モラレス氏が、同国初の先住民出身の大統領に就任。さらに、大統領選挙公約中から、先住民の権利拡大、地方分権推進、農地改革、天然資源主権を柱とする新憲法制定を公約として掲げ、国会では3分の2以上の賛成を得て、国民投票に付されたが、そこから国を上げての大きな政治対立が発生した。2008年9月に、南米諸国連合(UNASUR)等の国際社会が介入し、両者は対話を再開。同10月新憲法案の内容につき政治合意を見、2009年1月に国民投票が実施され、約60%の賛成多数で承認された。新憲法では、天然資源開発に関し、天然資源の所有権は国家の独占的な権限とし、地域住民との協議のもとでのみ実施されるとなっていた。

 しかし実際には、リチウム資源開発の動きは停滞した。ボリビア政府は、リチウム資源の採掘だけでなく、国内で抽出までを産業化する構想を抱きつつも、YLBでの事業化は暗礁に乗り上げてきた。ようやく、資源採掘での環境アセスメントに関する1回目のパブリックコメント募集が2012年に、炭酸リチウム工場の建設を視野に入れた2回目のパブリックコメント募集が2018年に実施。しかしその直後の2019年10月にモラレス大統領が4選を決めるも、不正選挙疑惑で大規模抗議デモが起こり、モラレス政権と対立した米政府も同調。ボリビア国軍や国家警察までもがモラレス大統領に辞職勧告を突き付けられ、同11月に辞任。メキシコ経由でアルゼンチンに亡命した。再びリチウム開発事業は暗雲が立ち込める。

 副大統領と上院議長も兼任していたモラレス氏がいなくなったことで、反モラレス派のヘアニネ・アニェス上院副議長が暫定大統領に就任。しかし、直後から新型コロナウイルス・パンデミックで再び支持率が低迷し、2020年10月に大統領選選挙への出馬を事態。最終的にモラレス派のルイス・アルセが大統領に就任した。アルせ大統領は、2021年3月にアニェス前暫定大統領を、モラレス退陣クーデターの疑いで逮捕。アニェス氏は収監され、自殺未遂も起こしている。

 その中で、今回のCBCの落札が発表された。アルセ大統領は今回、新憲法下でボリビア政府が天然資源主権を保持したままでの資源開発モデルになると表明。塩田売却でも、コンセッション方式でもない新たな方式となる。具体的には、YLBがリチウム抽出(プラント建設・運用・保守)、炭酸リチウムの工業化、製品マーケティングを担当。CBCは、第1段階で10億8,300万米ドル以上を投入し、プラント立上げと関連する道路や電力供給等のインフラ整備、リチウム抽出後の炭酸リチウムの開発と製品化を担い、生産チェーン側の所有権を持つ形となる。

 アルセ大統領は、2025年第1四半期に国産原材料を使用したリチウム電池の輸出を開始する目標を表明済み。今回の入札でCBC以外に応札した5つのコンソーシアムである米国のライラック・ソリューションズ、ロシアのウラニアム・ワン・グループ、中国のCITIC GUOANグループ(中信国安集団)とCRIG(中国鉄道国際集団)、中国のFUSION ENERTECH、中国のTBEAグループとの交渉も継続中という。さらにボリビア政府は、2030年までに世界のリチウム供給シェア40%という野心も掲げており、英ウォーリック大学との間で、リチウムバッテリーの研究開発での協力関係も締結している。

 一方、今回のリチウム資源開発プロジェクトが、ボリビア社会からの信任を得られるかはまだ不明。すでに、環境アセスメントの段階から、先住民族との協議が不足しているとの声も上がっており、先住民族の権利という人権問題や、環境汚染、労働慣行上の問題もくすぶっている。

【参照ページ】Bolivia presenta al mundo el modelo soberano de inversiones en la industria del litio
【参照ページ】THE INDUSTRIALISATION OF LITHIUM AND CITIZEN PARTICIPATION IN BOLIVIA
【参照ページ】中国EVバッテリー大手CATL、ウユニ塩湖などでリチウム生産に参入