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【金融】ESG投資とフィデューシャリー・デューティーの法理。ハーバード法学教授ら論文を読み解く

 ハーバード大学ロースクールのロバート・シットコフ教授とノースウェスタン大学法学部のマックス・シャンツェンバッハ教授は9月5日、ESG投資についてフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)観点から法学及び経済学について妥当性を分析した論文を発表した。

 ESG投資が米国でも広く普及する中、国連責任投資原則(PRI)はフィデューシャリー・デューティーの観点からもESG投資は、機関投資家にとっての「義務」との見方を強調している。一方、米国ではESG投資は、リターンを犠牲にするため、フィデューシャリー・デューティーに違反するとの意見も根強い。とりわけ、企業年金を所管する米労働省(DOL)は2015年から2018年まで3度にわたり、ESG投資の合法性に問題があるとの見方を示す一方、米政府監査院(GAO)は2018年、労働省に対し、関係者の混乱を招いているとして、ESG投資の当否をわける要件を明確にするよう要請した。米政府の中でも、的確な態度が示せないでいる。

 米国の企業年金基金法規である従業員退職所得保障法、通称ERISA法は、フィデューシャリー・デューティーにおいて、年金加入者の利益のみに忠実であることを義務化した「Sole Interest Rule」で知られる。このルールのもとでは、運用受託者や第三者の利益のために加入者の財務利益を犠牲にする行為は違法と判断される。今回の論文は、米法学界で著名なシットコフ教授が、米国でのフィデューシャリー・デューティーの観点から、ESG投資の当否を述べたことが注目を集めた。

 シットコフ教授らは、実践されているESG投資には、倫理的動機や第三者への便益を考慮するタイプ「collateral benefits ESG」と、受益者にとってのリスク調整後リターンを向上させるタイプ「risk-return ESG」に分別されると指摘。今回、ESG投資がリスク調整後リターンを向上させるか否かについては分析の対象外とし、年金基金運用、投資信託、慈善団体運用におけるESG投資の当否を分析した。

 シットコフ教授らの論文は、50ページを超え、最近のESG投資のトレンドや法的解釈を慎重に紐解いていった。その上で得た結論は、risk-return ESGはフィデューシャリー・デューティーの観点からも合法。しかし、ESG投資はリスク調整後リターンを追求する多くの投資戦略の一つにすぎず、PRI等が力説する「フィデューシャリー・デューティーの基でESG投資の義務」とまでは米国法では言えないと明言した。

 collateral benefits ESGは、フィデューシャリー・デューティーの観点から不適切とした。しかし、collateral benefits ESGでは、慈善団体の組織目的と第三者便益に整合性がある場合や、受益者との間で第三者便益を追求することが授権されている場合は、容認される可能性があると結論づけた。但し、PRIが主張する「リスク調整後リターンが同等の場合に社会・環境への便益の高い方を選ぶ」という行為については、Sole Interestかcollateral benefitsを明確に二分することを求めてきたERISA法のもとでは不適切な見解と拒否。仮にそのようなことがあった場合でも、金融教科書的には、流動性向上のため双方に投資することが最適とした。

 シットコフ教授らは、論文の最後で、今回の論文はPRIが主張する「ESG投資は義務」と見方に対抗するものとなっているが、一方で、「ESG投資は忠実義務の観点から違法」とする見方も早急すぎると言及。リスク調整リターンを上げられるとする運用者は、ESG投資を実行すればよいとした。

【論文】The Law and Economics of Environmental, Social, and Governance Investing by a Fiduciary

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 ハーバード大学ロースクールのロバート・シットコフ教授とノースウェスタン大学法学部のマックス・シャンツェンバッハ教授は9月5日、ESG投資についてフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)観点から法学及び経済学について妥当性を分析した論文を発表した。

 ESG投資が米国でも広く普及する中、国連責任投資原則(PRI)はフィデューシャリー・デューティーの観点からもESG投資は、機関投資家にとっての「義務」との見方を強調している。一方、米国ではESG投資は、リターンを犠牲にするため、フィデューシャリー・デューティーに違反するとの意見も根強い。とりわけ、企業年金を所管する米労働省(DOL)は2015年から2018年まで3度にわたり、ESG投資の合法性に問題があるとの見方を示す一方、米政府監査院(GAO)は2018年、労働省に対し、関係者の混乱を招いているとして、ESG投資の当否をわける要件を明確にするよう要請した。米政府の中でも、的確な態度が示せないでいる。

 米国の企業年金基金法規である従業員退職所得保障法、通称ERISA法は、フィデューシャリー・デューティーにおいて、年金加入者の利益のみに忠実であることを義務化した「Sole Interest Rule」で知られる。このルールのもとでは、運用受託者や第三者の利益のために加入者の財務利益を犠牲にする行為は違法と判断される。今回の論文は

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 ハーバード大学ロースクールのロバート・シットコフ教授とノースウェスタン大学法学部のマックス・シャンツェンバッハ教授は9月5日、ESG投資についてフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)観点から法学及び経済学について妥当性を分析した論文を発表した。

 ESG投資が米国でも広く普及する中、国連責任投資原則(PRI)はフィデューシャリー・デューティーの観点からもESG投資は、機関投資家にとっての「義務」との見方を強調している。一方、米国ではESG投資は、リターンを犠牲にするため、フィデューシャリー・デューティーに違反するとの意見も根強い。とりわけ、企業年金を所管する米労働省(DOL)は2015年から2018年まで3度にわたり、ESG投資の合法性に問題があるとの見方を示す一方、米政府監査院(GAO)は2018年、労働省に対し、関係者の混乱を招いているとして、ESG投資の当否をわける要件を明確にするよう要請した。米政府の中でも、的確な態度が示せないでいる。

 米国の企業年金基金法規である従業員退職所得保障法、通称ERISA法は、フィデューシャリー・デューティーにおいて、年金加入者の利益のみに忠実であることを義務化した「Sole Interest Rule」で知られる。このルールのもとでは、運用受託者や第三者の利益のために加入者の財務利益を犠牲にする行為は違法と判断される。今回の論文は

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 ハーバード大学ロースクールのロバート・シットコフ教授とノースウェスタン大学法学部のマックス・シャンツェンバッハ教授は9月5日、ESG投資についてフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)観点から法学及び経済学について妥当性を分析した論文を発表した。

 ESG投資が米国でも広く普及する中、国連責任投資原則(PRI)はフィデューシャリー・デューティーの観点からもESG投資は、機関投資家にとっての「義務」との見方を強調している。一方、米国ではESG投資は、リターンを犠牲にするため、フィデューシャリー・デューティーに違反するとの意見も根強い。とりわけ、企業年金を所管する米労働省(DOL)は2015年から2018年まで3度にわたり、ESG投資の合法性に問題があるとの見方を示す一方、米政府監査院(GAO)は2018年、労働省に対し、関係者の混乱を招いているとして、ESG投資の当否をわける要件を明確にするよう要請した。米政府の中でも、的確な態度が示せないでいる。

 米国の企業年金基金法規である従業員退職所得保障法、通称ERISA法は、フィデューシャリー・デューティーにおいて、年金加入者の利益のみに忠実であることを義務化した「Sole Interest Rule」で知られる。このルールのもとでは、運用受託者や第三者の利益のために加入者の財務利益を犠牲にする行為は違法と判断される。今回の論文は、米法学界で著名なシットコフ教授が、米国でのフィデューシャリー・デューティーの観点から、ESG投資の当否を述べたことが注目を集めた。

 シットコフ教授らは、実践されているESG投資には、倫理的動機や第三者への便益を考慮するタイプ「collateral benefits ESG」と、受益者にとってのリスク調整後リターンを向上させるタイプ「risk-return ESG」に分別されると指摘。今回、ESG投資がリスク調整後リターンを向上させるか否かについては分析の対象外とし、年金基金運用、投資信託、慈善団体運用におけるESG投資の当否を分析した。

 シットコフ教授らの論文は、50ページを超え、最近のESG投資のトレンドや法的解釈を慎重に紐解いていった。その上で得た結論は、risk-return ESGはフィデューシャリー・デューティーの観点からも合法。しかし、ESG投資はリスク調整後リターンを追求する多くの投資戦略の一つにすぎず、PRI等が力説する「フィデューシャリー・デューティーの基でESG投資の義務」とまでは米国法では言えないと明言した。

 collateral benefits ESGは、フィデューシャリー・デューティーの観点から不適切とした。しかし、collateral benefits ESGでは、慈善団体の組織目的と第三者便益に整合性がある場合や、受益者との間で第三者便益を追求することが授権されている場合は、容認される可能性があると結論づけた。但し、PRIが主張する「リスク調整後リターンが同等の場合に社会・環境への便益の高い方を選ぶ」という行為については、Sole Interestかcollateral benefitsを明確に二分することを求めてきたERISA法のもとでは不適切な見解と拒否。仮にそのようなことがあった場合でも、金融教科書的には、流動性向上のため双方に投資することが最適とした。

 シットコフ教授らは、論文の最後で、今回の論文はPRIが主張する「ESG投資は義務」と見方に対抗するものとなっているが、一方で、「ESG投資は忠実義務の観点から違法」とする見方も早急すぎると言及。リスク調整リターンを上げられるとする運用者は、ESG投資を実行すればよいとした。

【論文】The Law and Economics of Environmental, Social, and Governance Investing by a Fiduciary

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