Sustainable Japan | 世界のサステナビリティ・ESG投資・SDGs

【金融】サステナビリティ情報開示と株価シンクロニシティの関係。ハーバード大准教授ペーパーを読み解く

 非財務情報の開示と金融市場への影響についての著名な研究者であるジョージ・セラファイム・ハーバード・ビジネス・スクール准教授を中心とする研究チームは6月7日、サステナビリティ情報の開示と株価に関する新たなワーキングペーパー「Stock Price Synchronicity and Material Sustainability Information」をハーバード大学のウェブサイト上で発表しました。セラファイム准教授は、過去にも、サステナビリティ情報開示と信用リスクとの関連性を示すペーパーを発表していましたが、今回は、サステナビリティ情報開示と株価に関する発見を報告しています。

 サステナビリティ情報開示と株価の関連性については、これまでも「開示が進んでいる企業の方が株価が高い」「サステナビリティ・アクションを起こしている企業の方が株価が高い」など様々な研究結果が発表されています。今回セラファイム准教授らが着目したのは、「株価シンクロニシティ」という分野。「株価シンクロニシティ」は、比較的新しい金融学の分野で、株価変動が市場全体の変動とどのように関連しているかが研究されています。一般的に株価に影響を与える情報には、企業固有の情報(Firm-specific information)と市場全体の情報の2種類があります。最近の研究では、先進国よりも発展途上国のほうが、企業株価が市場全体の株価に左右されることが多い、すなわち「株価シンクロニシティ」が高いことがわかっています。今回のワーキングペーパーでは、サステナビリティ情報開示に積極的な企業が「株価シンクロニシティ」を低くできているかについて分析がなされました。

 セラファイム准教授らは、分析にあたり、サステナビリティ報告ガイドラインの中でも、投資家目線で開示項目が推奨されている米SASB(米国サステナビリティ会計基準審議会)のガイドラインに着目。米国上場企業1,133社が2007年から2014年までの間に開示し、ブルームバーグに掲載されいてる情報を分析対象としました。ブルームバーグは、様々なソースからサステナビリティ情報の収集を行っていますが、SASBが業種ごとに「マテリアル」と定めた全ての項目が掲載されているわけではありません。しかし、今回の分析では、ブルームバーグ掲載情報のみが分析対象となり、企業ごとにESG開示スコアを算出し、スコアと「株価シンクロニシティ」の回帰分析をなされました。

 回帰分析の結果は、SASB定義のマテリアルなサステナビリティ情報がブルームバーグに開示されている度合いと株価シンクロニシティの相関係数が「-0.51」。強い負の相関関係が得られました。このことは、SASB定義のマテリアルなサステナビリティ情報が開示されているほど、市場の動きに左右されない企業の株価形成が実現できるということを意味します。セラファイム准教授らは、SASB定義の情報開示が本当に寄与しているかを特定するために、併せてGRIガイドラインに基づく情報開示の度合いと、サステナビリティ報告書の発行有無の2つの変数を用いて分析したところ、どちらも有意な影響は見られませんでした。すなわち、株価影響においては、GRIではなくSASBに基づく情報開示が、またサステナビリティ報告書の発行を問わず、ウェブサイト、決算発表会などでの情報開示が有効に働くということがわかりました。

 さらに、SASBに基づく情報開示と株価シンクロニシティの負の相関が生じやすい企業の特性についても分析がなされました。企業特性では、MSCIが企業のESG課題エクスポージャーをスコア化した「MSCI Intangible Value Assessment(IVA)」と、企業経営の中にESG課題が統合されている尺度を示すトムソン・ロイターの「Asset4」の2つが用いられました。分析結果からは、MSCIのIVA値が高い企業、すなわちESG課題が経営に与える影響の大きい業種の企業の方が、SASBに基づく情報開示と株価シンクロニシティの負の相関が強いことがわかりました。同様に、Asset4の値が高い企業、すなわち企業経営にESGが統合されている企業の方が、SASBに基づく情報開示と株価シンクロニシティの負の相関が強いことがわかりました。このことから、ESGへの脆弱性の高い業種の企業であるほど、さらには企業経営にESGを統合している企業であるほど、SASBに基づく情報開示を行うことで、市場全体の影響を受けない株価形成が可能となることが見えてきました。

 また、金融学の中での別の研究テーマである「情報移転(Informateion Transfer)」の観点からも分析がされました。情報移転とは、ある企業での特定の事象発生の情報が、別の企業の株価にも影響を与えるという現象を言います。セラファイム准教授らは、SASBにも基づく情報開示が進んでいる業種と遅れている業種で株価シンクロニシティとの相関が異なるのではないかという点に着目しました。分析結果からは、「情報開示が進んでいる業種ほど、SASBに基づく情報開示と株価シンクロニシティの負の相関が強い」、同時に「情報開示が遅れている業種ほど、SASBに基づく情報開示と株価シンクロニシティの負の相関が弱い」ことがわかりました。つまり、情報開示が進んでいる業種の企業は、情報開示を怠ると株価が市場に左右されやすくなるということを示しています。

 このように、ワーキングペーパーでは、投資家目線でマテリアリティが定義されたSASBに基づく情報開示が、市場に左右されにくい株価形成にとって非常に重要となることがわかりました。SASBは、米国市場を対象に策定されたガイドラインのため、今回は米国上場企業のみが分析対象となりましたが、今後他の地域でも同様な結果が見られるかという研究が進んでいきそうです。

【ワーキングペーパー】Stock Price Synchronicity and Material Sustainability Information

ここから先は登録ユーザー限定のコンテンツとなります。ログインまたはユーザー登録を行って下さい。

 非財務情報の開示と金融市場への影響についての著名な研究者であるジョージ・セラファイム・ハーバード・ビジネス・スクール准教授を中心とする研究チームは6月7日、サステナビリティ情報の開示と株価に関する新たなワーキングペーパー「Stock Price Synchronicity and Material Sustainability Information」をハーバード大学のウェブサイト上で発表しました。セラファイム准教授は、過去にも、サステナビリティ情報開示と信用リスクとの関連性を示すペーパーを発表していましたが、今回は、サステナビリティ情報開示と株価に関する発見を報告しています。

 サステナビリティ情報開示と株価の関連性については、これまでも「開示が進んでいる企業の方が株価が高い」「サステナビリティ・アクションを起こしている企業の方が株価が高い」など様々な研究結果が発表されています。今回セラファイム准教授らが着目したのは、「株価シンクロニシティ」という分野。「株価シンクロニシティ」は、比較的新しい金融学の分野で、株価変動が市場全体の変動とどのように関連しているかが研究されています。一般的に株価に影響を与える情報には、企業固有の情報(Firm-specific information)と市場全体の情報の2種類があります。最近の研究では、先進国よりも発展途上国のほうが、企業株価が市場全体の株価に左右されることが多い、すなわち「株価シンクロニシティ」が高いことがわかっています。今回のワーキングペーパーでは、サステナビリティ情報開示に積極的な企業が「株価シンクロニシティ」を低くできているかについて分析がなされました。

 セラファイム准教授らは、分析にあたり、サステナビリティ報告ガイドラインの中でも、投資家目線で開示項目が推奨されている米SASB(米国サステナビリティ会計基準審議会)のガイドラインに着目。米国上場企業1,133社が2007年から2014年までの間に開示し、ブルームバーグに掲載されいてる情報を分析対象としました。ブルームバーグは、様々なソースからサステナビリティ情報の収集を行っていますが、SASBが業種ごとに「マテリアル」と定めた全ての項目が掲載されているわけではありません。しかし、今回の分析では、ブルームバーグ掲載情報のみが分析対象となり、企業ごとにESG開示スコアを算出し、スコアと「株価シンクロニシティ」の回帰分析をなされました。

 回帰分析の結果は、

ここから先は登録ユーザー限定のコンテンツとなります。ログインまたはユーザー登録を行って下さい。

 非財務情報の開示と金融市場への影響についての著名な研究者であるジョージ・セラファイム・ハーバード・ビジネス・スクール准教授を中心とする研究チームは6月7日、サステナビリティ情報の開示と株価に関する新たなワーキングペーパー「Stock Price Synchronicity and Material Sustainability Information」をハーバード大学のウェブサイト上で発表しました。セラファイム准教授は、過去にも、サステナビリティ情報開示と信用リスクとの関連性を示すペーパーを発表していましたが、今回は、サステナビリティ情報開示と株価に関する発見を報告しています。

 サステナビリティ情報開示と株価の関連性については、これまでも「開示が進んでいる企業の方が株価が高い」「サステナビリティ・アクションを起こしている企業の方が株価が高い」など様々な研究結果が発表されています。今回セラファイム准教授らが着目したのは、「株価シンクロニシティ」という分野。「株価シンクロニシティ」は、比較的新しい金融学の分野で、株価変動が市場全体の変動とどのように関連しているかが研究されています。一般的に株価に影響を与える情報には、企業固有の情報(Firm-specific information)と市場全体の情報の2種類があります。最近の研究では、先進国よりも発展途上国のほうが、企業株価が市場全体の株価に左右されることが多い、すなわち「株価シンクロニシティ」が高いことがわかっています。今回のワーキングペーパーでは、サステナビリティ情報開示に積極的な企業が「株価シンクロニシティ」を低くできているかについて分析がなされました。

 セラファイム准教授らは、分析にあたり、サステナビリティ報告ガイドラインの中でも、投資家目線で開示項目が推奨されている米SASB(米国サステナビリティ会計基準審議会)のガイドラインに着目。米国上場企業1,133社が2007年から2014年までの間に開示し、ブルームバーグに掲載されいてる情報を分析対象としました。ブルームバーグは、様々なソースからサステナビリティ情報の収集を行っていますが、SASBが業種ごとに「マテリアル」と定めた全ての項目が掲載されているわけではありません。しかし、今回の分析では、ブルームバーグ掲載情報のみが分析対象となり、企業ごとにESG開示スコアを算出し、スコアと「株価シンクロニシティ」の回帰分析をなされました。

 回帰分析の結果は、

ここから先は登録ユーザー限定のコンテンツとなります。ログインまたはユーザー登録を行って下さい。

ここから先は有料登録会員限定のコンテンツとなります。有料登録会員へのアップグレードを行って下さい。

 非財務情報の開示と金融市場への影響についての著名な研究者であるジョージ・セラファイム・ハーバード・ビジネス・スクール准教授を中心とする研究チームは6月7日、サステナビリティ情報の開示と株価に関する新たなワーキングペーパー「Stock Price Synchronicity and Material Sustainability Information」をハーバード大学のウェブサイト上で発表しました。セラファイム准教授は、過去にも、サステナビリティ情報開示と信用リスクとの関連性を示すペーパーを発表していましたが、今回は、サステナビリティ情報開示と株価に関する発見を報告しています。

 サステナビリティ情報開示と株価の関連性については、これまでも「開示が進んでいる企業の方が株価が高い」「サステナビリティ・アクションを起こしている企業の方が株価が高い」など様々な研究結果が発表されています。今回セラファイム准教授らが着目したのは、「株価シンクロニシティ」という分野。「株価シンクロニシティ」は、比較的新しい金融学の分野で、株価変動が市場全体の変動とどのように関連しているかが研究されています。一般的に株価に影響を与える情報には、企業固有の情報(Firm-specific information)と市場全体の情報の2種類があります。最近の研究では、先進国よりも発展途上国のほうが、企業株価が市場全体の株価に左右されることが多い、すなわち「株価シンクロニシティ」が高いことがわかっています。今回のワーキングペーパーでは、サステナビリティ情報開示に積極的な企業が「株価シンクロニシティ」を低くできているかについて分析がなされました。

 セラファイム准教授らは、分析にあたり、サステナビリティ報告ガイドラインの中でも、投資家目線で開示項目が推奨されている米SASB(米国サステナビリティ会計基準審議会)のガイドラインに着目。米国上場企業1,133社が2007年から2014年までの間に開示し、ブルームバーグに掲載されいてる情報を分析対象としました。ブルームバーグは、様々なソースからサステナビリティ情報の収集を行っていますが、SASBが業種ごとに「マテリアル」と定めた全ての項目が掲載されているわけではありません。しかし、今回の分析では、ブルームバーグ掲載情報のみが分析対象となり、企業ごとにESG開示スコアを算出し、スコアと「株価シンクロニシティ」の回帰分析をなされました。

 回帰分析の結果は、SASB定義のマテリアルなサステナビリティ情報がブルームバーグに開示されている度合いと株価シンクロニシティの相関係数が「-0.51」。強い負の相関関係が得られました。このことは、SASB定義のマテリアルなサステナビリティ情報が開示されているほど、市場の動きに左右されない企業の株価形成が実現できるということを意味します。セラファイム准教授らは、SASB定義の情報開示が本当に寄与しているかを特定するために、併せてGRIガイドラインに基づく情報開示の度合いと、サステナビリティ報告書の発行有無の2つの変数を用いて分析したところ、どちらも有意な影響は見られませんでした。すなわち、株価影響においては、GRIではなくSASBに基づく情報開示が、またサステナビリティ報告書の発行を問わず、ウェブサイト、決算発表会などでの情報開示が有効に働くということがわかりました。

 さらに、SASBに基づく情報開示と株価シンクロニシティの負の相関が生じやすい企業の特性についても分析がなされました。企業特性では、MSCIが企業のESG課題エクスポージャーをスコア化した「MSCI Intangible Value Assessment(IVA)」と、企業経営の中にESG課題が統合されている尺度を示すトムソン・ロイターの「Asset4」の2つが用いられました。分析結果からは、MSCIのIVA値が高い企業、すなわちESG課題が経営に与える影響の大きい業種の企業の方が、SASBに基づく情報開示と株価シンクロニシティの負の相関が強いことがわかりました。同様に、Asset4の値が高い企業、すなわち企業経営にESGが統合されている企業の方が、SASBに基づく情報開示と株価シンクロニシティの負の相関が強いことがわかりました。このことから、ESGへの脆弱性の高い業種の企業であるほど、さらには企業経営にESGを統合している企業であるほど、SASBに基づく情報開示を行うことで、市場全体の影響を受けない株価形成が可能となることが見えてきました。

 また、金融学の中での別の研究テーマである「情報移転(Informateion Transfer)」の観点からも分析がされました。情報移転とは、ある企業での特定の事象発生の情報が、別の企業の株価にも影響を与えるという現象を言います。セラファイム准教授らは、SASBにも基づく情報開示が進んでいる業種と遅れている業種で株価シンクロニシティとの相関が異なるのではないかという点に着目しました。分析結果からは、「情報開示が進んでいる業種ほど、SASBに基づく情報開示と株価シンクロニシティの負の相関が強い」、同時に「情報開示が遅れている業種ほど、SASBに基づく情報開示と株価シンクロニシティの負の相関が弱い」ことがわかりました。つまり、情報開示が進んでいる業種の企業は、情報開示を怠ると株価が市場に左右されやすくなるということを示しています。

 このように、ワーキングペーパーでは、投資家目線でマテリアリティが定義されたSASBに基づく情報開示が、市場に左右されにくい株価形成にとって非常に重要となることがわかりました。SASBは、米国市場を対象に策定されたガイドラインのため、今回は米国上場企業のみが分析対象となりましたが、今後他の地域でも同様な結果が見られるかという研究が進んでいきそうです。

【ワーキングペーパー】Stock Price Synchronicity and Material Sustainability Information

ここから先は登録ユーザー限定のコンテンツとなります。ログインまたはユーザー登録を行って下さい。