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【人権】紛争鉱物規制/OECD紛争鉱物ガイダンス・ドッドフランク法・CMRT・CFSI

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紛争鉱物とは何か?

紛争鉱物とは、紛争地域において産出され、その鉱物の売却資金が紛争当事者の資金源となり、結果的に紛争を長引かせることに加担することとなる鉱物のことを言います。今日では特に、後述するように、コンゴ民主共和国およびコンゴ民主共和国に隣接する国々で採掘されるスズ・タンタル・タングステン・金の4種の鉱物を指すことが多くなっています。この紛争鉱物として指定されている4つの鉱物、スズ(Tin)、タンタル(Tantalite)、タングステン(Tungsten)、金(Gold)は、一般的に英語の頭文字をとって”3TG”と呼ばれています。

紛争鉱物という概念が生まれてきた背景には、社会情勢が不安定な地域で紛争が続いている大きな要因の一つに、鉱物など天然資源が資金源として機能しているという問題意識があります。議論当初は、上記に上げた3TGではなく、ダイヤモンドが話題の中心にありました。1990年代、アフリカのアンゴラ、コートジボアール、シエラレオネでの内戦や周辺国との対立において、ダイヤモンドが紛争の資金源として機能していることを国連が指摘します。この紛争に加担するダイヤモンドは「紛争ダイヤモンド(Conflict Diamond)」「血塗られたダイヤモンド(Bloody Diamond)」と呼ばれ、2000年に国連安全保障理事会決議にも後押しあり、国際会議で紛争ダイヤモンドの取引規制が世界的にスタートしました。そして、この「紛争と天然資源」のつながりを断絶する動きが、工業鉱物資源にも及び、紛争鉱物(Conflict Mineral)という言葉が新たに注目を集めています。

問題の関心が、紛争ダイヤモンドから紛争鉱物へと拡大するにあたり、企業への影響度は著しく増加しました。高級品として名高いダイヤモンドは、宝石や一部研磨工具などダイヤモンド製品そのものとして売買、取引がなされることが多いのに対し、3TGは携帯電話やパソコン等の電子部品素材として、目に見えない形で身の回り品に含まれています。製品のコンポーネントの中に3TGが含まれているのかどうか、それが紛争地域で採掘されたものかどうか。工業製品を扱う世界中の企業が、この問いに対して明確な回答を用意しなければならない状況になりつつあります。

紛争鉱物の概念整理を行った「OECD紛争鉱物ガイダンス」

紛争鉱物の問題意識が結実したのは2009年。OECD(経済協力開発機構)の投資委員会と開発援助委員会が、国連安全保障理事会の要請を受けて、「紛争・高リスク地域産鉱物サプライチェーン・デュー・ディリジェンス・ガイダンス(「OECD紛争鉱物ガイダンス)」と略)」を共同策定しました。このガイダンスは、紛争地域の3TGを供給または利用するすべての企業を対象とし、サプライチェーンにおいて遵守すべき項目を整理。同ガイダンスは、2010年には国連安全保障理事会でも支持され、2011年にはOECD理事会(OECDは先進国を中心に34カ国が加盟する国際機関)が同ガイダンスに基づく法整備をOECD加盟国・非加盟国双方に対して推進することを求める勧告決議が採択されます。同ガイダンスは、法的拘束力はないものの、各国の政策に大きな影響を与えるものとなっています。

では、OECD紛争鉱物ガイドラインが対象としている「紛争地域」は何を指すでしょうか?ガイドラインの中では、

“紛争地域および高リスク地域は、武力による紛争、広範にわたる暴力、もしくは人々に危害が及ぶその他のリスクの有無によって識別される。武力による紛争は様々な形をとることがあり、例えば、2ヵ国ないしそれ以上が関与することもあれば、解放戦争、反乱、内戦などによることもある、国際的もしくは非国際的対立などである。高リスク地域には、政情不安や抑圧、制度上の欠点、不安定などが見られる地域や、国内のインフラが崩壊した地域、さらに暴力が広範におよんでいる地域などがある。これらの地域では広範におよぶ人権侵害や、国内法または国際法違反が見られる。”

と幅広く定義しています。今後、様々な国際会議や各国政府は、規制をかける「紛争地域」を定義し、3TGの取扱規制を進めていく様相です。

紛争鉱物の法規制:米ドッド・フランク法

2009年にOECDで紛争鉱物ガイドラインの議論が活発化した後、紛争鉱物に関する大規模な法規制が世界で初めて制定されたのが米国です。2010年7月、長引くコンゴ民主共和国の武装集団の資金源を断つことを目的に、米国連邦政府は、金融規制改革法(ドッド・フランク法)を制定。コンゴ民主共和国及び周辺国産(アンゴラ、ザンビア、タンザニア、ウガンダ、南スーダン、ルワンダ、中央アフリカ共和国、コンゴ共和国、ブルンジ)の3TGを製品に使用する企業は、米証券取引委員会(SEC)に対する報告義務を課せられることになりました。そして2012年8月、SECはドッド・フランク法第1502条に基づき、具体的な開示内容に関する最終ルールを可決、決定しました。

対象企業

米国証券取引所の上場企業などSECへ報告書を提出している企業で、かつ3TGを含む製品の生産または委託生産に関わっている全ての企業。

実施義務内容

使用している3TGについての「合理的な原産国調査」を行い、「コンゴ民主共和国又は周辺国産ではない、もしくは再生利用品およびスクラップ起源である」かどうかを確認しなければならない。
調査の結果、「コンゴ民主共和国又は周辺国産ではない、もしくは再生利用品およびスクラップ起源である」と判明(もしくはそうでないと信じる合理的な理由がない)した場合は、SEC提出の専用報告フォームである”Form SD”に従い、実施した調査内容の簡潔な説明とその結果をForm SD上で開示しなければならない。またこの情報を自社HP上で開示するとともにそのHPアドレスを報告しなければならない。
一方、調査の結果、「コンゴ民主共和国又は周辺国産であり、かつ再生利用品およびスクラップ起源でもない」と判明(もしくはそうであるかもしれない)した場合は、これら鉱物の起源と加工・流通過程に関するデュー・ディリジェンスを行い、Form SDの添付書類として、第三者監査を受けた紛争鉱物報告書(詳細についてはコチラを参照)を提出しなければならない。さらに、紛争鉱物報告書の情報を自社HP上で開示するとともにそのHPアドレスをForm SD上で報告しなければならない。

過去製品についての免除措置

企業負担を軽減させるため、2013年1月31日より前に、コンゴ民主共和国外に存在していた紛争鉱物と派生物は調査対象から除外できる。

適用時期

企業の決算期に係らず2013年1月1日?2013年12月31日を初年度とし、その報告の期限は2014年5月31日。以降、毎年5月31日が報告期限。

ドッド・フランク法がもたらすインパクト

ドッド・フランク法は、主に米国上場企業を対象としており、それ以外の企業にはSECへの報告義務はありません。そのため、ドッド・フランク法の影響を受ける企業は世界全体で見たら少ないように見えますが、実際には世界の多くの企業がこの法の影響を受けることになります。その理由は、ドッド・フランク法は、米国上場企業に対して、サプライチェーンを遡って紛争鉱物を含むか否かを調査・報告するよう義務付けているためです。この法律が制定されたことで、米国上場企業はどんな些細な部材であっても3TGを含む製品を生産、もしくは委託生産している場合、購入先企業に対して調査を行うこととなり、購入先企業は米国上場企業でなくとも間接的に調査・報告をしなければなりません。同様に、購入先の購入先、購入先の購入先の購入先と、サプライチェーン全てにおいてこの法律はインパクトをもたらします。(但し、SECのFAQによると、あくまでも規制対象は製品生産に直接関わっている企業のみで、製品のパッケージのみに3TGが含まている場合や、3TGの輸送運搬のみに関与している企業は規制の対象外です。)ですので、日本企業であったとしても、ドッド・フランク法の影響は大きく受けることとなり、各社は対応に追われています。

ドッド・フランク法以外の法規制

ドッド・フランク法が米国で成立したことで、米国の国内および他国でも、紛争鉱物の規制が強化されつつあります。米国内では、カリフォルニア州やメリーランド州は、州政府の購買において紛争鉱物製品の購入を禁止する州法を可決。この動きは他の州にも広がりつつあります。また、EUでは、2014年3月に欧州委員会が「紛争地域原産鉱物の責任ある取引に関する統合アプローチ案」を公表、3TGの輸入業者に対して報告義務を課すEU法案を検討しており、これが可決されるとドッド・フランク法で定められた川下の製造業者だけでなく、川上の輸入業者にも報告義務が課せられるようになります。また、EUで検討中の同法案は、紛争地域を特定せず不特定国を対象としようとしており、企業は紛争地域の特定説明まで含めた説明が求められるようになるかもしれません。

紛争鉱物に対する企業対応

紛争鉱物の不使用証明を求められるようになった産業界も既に取組を開始しています。最も大きな取組は、EICC®/GeSIによるものです。EICC®(電子業界行動規範)は、2004年にHP、IBM、DELL等が電子業界の行動規範の統一化のために設立した指針および団体の名前で、米国の電子企業を中心に約100社が加盟しています。一方、GeSI(グローバル・eサステナビリティ・イニシアティブ)は、AT&T、Sprint、NOKIA、ZTEなどが加盟する2001年に設立されたEICC®の通信業界版。このEICC®とGeSIは2007年に覚書を交わし協力関係を締結。さらに2008年、両社は共同で紛争鉱物改善のための団体「Conflict-Free Sourcing Initiative(CFSI:紛争非関与調達イニシアチブ)」を設立、現在7業界から世界150社以上の企業が参加しています。

CFSIが展開している取組は主に2つあります。1つ目は、紛争フリー製錬所プログラム(cfsプログラム:conflict-free smelter)で、3TGの製錬所に対して紛争フリー認証を提供しています。CFSIは、製造業者が3TGやその加工品を調達することとなる源流である製錬所に目をつけ、企業が安心して調達できる製錬所を増やすことに取り組んでいます。3TGに関わる製錬所は世界に約500あると言われおり、この500ヶ所全ての製錬所を紛争フリー化することを目指しています。2つ目は、紛争鉱物報告テンプレート(CMRT)で、業界横断で活用できる紛争鉱物の報告用フォーマットを作成、提供しています。この共通フォーマットを用いることで、サプライチェーン上にいる各社の情報共有が容易になり、最終的にSECに提供するための”Form SD”も容易に作成できるように作られています。2014年4月にはCMRT3.0が発表され、もう一つの電子業界の国際的業界団体であるIPC(Association Connecting Electronics Industries)の標準規格のフォーマットにも適合できるようになりました。また、2015年4月には、最新版のCMRT4.0が発表され精錬所リストが更新された。

日本ではJEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)の「責任ある鉱物調達研究会」が、2012年7月にEICC®とGeSIの双方と覚書を締結し、紛争鉱物問題の対処について協力することに合意しました。日本企業だけで今後強化されると予想される紛争鉱物規制に対応するのは莫大なコストが発生するという判断からです。この合意により、JEITAの加盟企業はCFSIのプログラムの参加企業となり、世界各国の企業と共同歩調を取って問題に対処しています。

米国のドッド・フランク法で幕開けした紛争鉱物規制は、企業のCSR調達の中でもまさにホットなテーマです。CFSIなど業界団体が企業慣行がスムーズに進むよう制度整備を行っていますし、紛争鉱物に関与した際にSECに提出が義務付けられている紛争鉱物報告書の第三者認証サービスは、大手監査法人などがすでに開始しています。日本企業もサプライチェーンがグローバルに拡大している中、自社だけでなくサプライチェーン全体でのサステナビリティ計画やCSR戦略が必要だと以前から叫ばれてきましたが、この紛争鉱物問題を契機にますます必要性が増してきています。

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紛争鉱物とは何か?

紛争鉱物とは、紛争地域において産出され、その鉱物の売却資金が紛争当事者の資金源となり、結果的に紛争を長引かせることに加担することとなる鉱物のことを言います。今日では特に、後述するように、コンゴ民主共和国およびコンゴ民主共和国に隣接する国々で採掘されるスズ・タンタル・タングステン・金の4種の鉱物を指すことが多くなっています。この紛争鉱物として指定されている4つの鉱物、スズ(Tin)、タンタル(Tantalite)、タングステン(Tungsten)、金(Gold)は、一般的に英語の頭文字をとって”3TG”と呼ばれています。

紛争鉱物という概念が生まれてきた背景には、社会情勢が不安定な地域で紛争が続いている大きな要因の一つに、鉱物など天然資源が資金源として機能しているという問題意識があります。議論当初は、上記に上げた3TGではなく、ダイヤモンドが話題の中心にありました。1990年代、アフリカのアンゴラ、コートジボアール、シエラレオネでの内戦や周辺国との対立において、ダイヤモンドが紛争の資金源として機能していることを国連が指摘します。この紛争に加担するダイヤモンドは「紛争ダイヤモンド(Conflict Diamond)」「血塗られたダイヤモンド(Bloody Diamond)」と呼ばれ、2000年に国連安全保障理事会決議にも後押しあり、国際会議で紛争ダイヤモンドの取引規制が世界的にスタートしました。そして、この「紛争と天然資源」のつながりを断絶する動きが、工業鉱物資源にも及び、紛争鉱物(Conflict Mineral)という言葉が新たに注目を集めています。

問題の関心が、紛争ダイヤモンドから紛争鉱物へと拡大するにあたり、企業への影響度は著しく増加しました。高級品として名高いダイヤモンドは、宝石や一部研磨工具などダイヤモンド製品そのものとして売買、取引がなされることが多いのに対し、3TGは携帯電話やパソコン等の電子部品素材として、目に見えない形で身の回り品に含まれています。製品のコンポーネントの中に3TGが含まれているのかどうか、それが紛争地域で採掘されたものかどうか。工業製品を扱う世界中の企業が、この問いに対して明確な回答を用意しなければならない状況になりつつあります。

紛争鉱物の概念整理を行った「OECD紛争鉱物ガイダンス」

紛争鉱物の問題意識が結実したのは2009年。OECD(経済協力開発機構)の投資委員会と開発援助委員会が、国連安全保障理事会の要請を受けて、「紛争・高リスク地域産鉱物サプライチェーン・デュー・ディリジェンス・ガイダンス(「OECD紛争鉱物ガイダンス)」と略)」を共同策定しました。このガイダンスは、紛争地域の3TGを供給または利用するすべての企業を対象とし、サプライチェーンにおいて遵守すべき項目を整理。同ガイダンスは、2010年には国連安全保障理事会でも支持され、2011年にはOECD理事会(OECDは先進国を中心に34カ国が加盟する国際機関)が同ガイダンスに基づく法整備をOECD加盟国・非加盟国双方に対して推進することを求める勧告決議が採択されます。同ガイダンスは、法的拘束力はないものの、各国の政策に大きな影響を与えるものとなっています。

では、OECD紛争鉱物ガイドラインが対象としている「紛争地域」は何を指すでしょうか?ガイドラインの中では、

“紛争地域および高リスク地域は、武力による紛争、広範にわたる暴力、もしくは人々に危害が及ぶその他のリスクの有無によって識別される。武力による紛争は様々な形をとることがあり、例えば、2ヵ国ないしそれ以上が関与することもあれば、解放戦争、反乱、内戦などによることもある、国際的もしくは非国際的対立などである。高リスク地域には、政情不安や抑圧、制度上の欠点、不安定などが見られる地域や、国内のインフラが崩壊した地域、さらに暴力が広範におよんでいる地域などがある。これらの地域では広範におよぶ人権侵害や、国内法または国際法違反が見られる。”

と幅広く定義しています。今後、様々な国際会議や各国政府は、規制をかける「紛争地域」を定義し、3TGの取扱規制を進めていく様相です。

紛争鉱物の法規制:米ドッド・フランク法

2009年にOECDで紛争鉱物ガイドラインの議論が活発化した後、紛争鉱物に関する大規模な法規制が世界で初めて制定されたのが

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紛争鉱物とは何か?

紛争鉱物とは、紛争地域において産出され、その鉱物の売却資金が紛争当事者の資金源となり、結果的に紛争を長引かせることに加担することとなる鉱物のことを言います。今日では特に、後述するように、コンゴ民主共和国およびコンゴ民主共和国に隣接する国々で採掘されるスズ・タンタル・タングステン・金の4種の鉱物を指すことが多くなっています。この紛争鉱物として指定されている4つの鉱物、スズ(Tin)、タンタル(Tantalite)、タングステン(Tungsten)、金(Gold)は、一般的に英語の頭文字をとって”3TG”と呼ばれています。

紛争鉱物という概念が生まれてきた背景には、社会情勢が不安定な地域で紛争が続いている大きな要因の一つに、鉱物など天然資源が資金源として機能しているという問題意識があります。議論当初は、上記に上げた3TGではなく、ダイヤモンドが話題の中心にありました。1990年代、アフリカのアンゴラ、コートジボアール、シエラレオネでの内戦や周辺国との対立において、ダイヤモンドが紛争の資金源として機能していることを国連が指摘します。この紛争に加担するダイヤモンドは「紛争ダイヤモンド(Conflict Diamond)」「血塗られたダイヤモンド(Bloody Diamond)」と呼ばれ、2000年に国連安全保障理事会決議にも後押しあり、国際会議で紛争ダイヤモンドの取引規制が世界的にスタートしました。そして、この「紛争と天然資源」のつながりを断絶する動きが、工業鉱物資源にも及び、紛争鉱物(Conflict Mineral)という言葉が新たに注目を集めています。

問題の関心が、紛争ダイヤモンドから紛争鉱物へと拡大するにあたり、企業への影響度は著しく増加しました。高級品として名高いダイヤモンドは、宝石や一部研磨工具などダイヤモンド製品そのものとして売買、取引がなされることが多いのに対し、3TGは携帯電話やパソコン等の電子部品素材として、目に見えない形で身の回り品に含まれています。製品のコンポーネントの中に3TGが含まれているのかどうか、それが紛争地域で採掘されたものかどうか。工業製品を扱う世界中の企業が、この問いに対して明確な回答を用意しなければならない状況になりつつあります。

紛争鉱物の概念整理を行った「OECD紛争鉱物ガイダンス」

紛争鉱物の問題意識が結実したのは2009年。OECD(経済協力開発機構)の投資委員会と開発援助委員会が、国連安全保障理事会の要請を受けて、「紛争・高リスク地域産鉱物サプライチェーン・デュー・ディリジェンス・ガイダンス(「OECD紛争鉱物ガイダンス)」と略)」を共同策定しました。このガイダンスは、紛争地域の3TGを供給または利用するすべての企業を対象とし、サプライチェーンにおいて遵守すべき項目を整理。同ガイダンスは、2010年には国連安全保障理事会でも支持され、2011年にはOECD理事会(OECDは先進国を中心に34カ国が加盟する国際機関)が同ガイダンスに基づく法整備をOECD加盟国・非加盟国双方に対して推進することを求める勧告決議が採択されます。同ガイダンスは、法的拘束力はないものの、各国の政策に大きな影響を与えるものとなっています。

では、OECD紛争鉱物ガイドラインが対象としている「紛争地域」は何を指すでしょうか?ガイドラインの中では、

“紛争地域および高リスク地域は、武力による紛争、広範にわたる暴力、もしくは人々に危害が及ぶその他のリスクの有無によって識別される。武力による紛争は様々な形をとることがあり、例えば、2ヵ国ないしそれ以上が関与することもあれば、解放戦争、反乱、内戦などによることもある、国際的もしくは非国際的対立などである。高リスク地域には、政情不安や抑圧、制度上の欠点、不安定などが見られる地域や、国内のインフラが崩壊した地域、さらに暴力が広範におよんでいる地域などがある。これらの地域では広範におよぶ人権侵害や、国内法または国際法違反が見られる。”

と幅広く定義しています。今後、様々な国際会議や各国政府は、規制をかける「紛争地域」を定義し、3TGの取扱規制を進めていく様相です。

紛争鉱物の法規制:米ドッド・フランク法

2009年にOECDで紛争鉱物ガイドラインの議論が活発化した後、紛争鉱物に関する大規模な法規制が世界で初めて制定されたのが

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紛争鉱物とは何か?

紛争鉱物とは、紛争地域において産出され、その鉱物の売却資金が紛争当事者の資金源となり、結果的に紛争を長引かせることに加担することとなる鉱物のことを言います。今日では特に、後述するように、コンゴ民主共和国およびコンゴ民主共和国に隣接する国々で採掘されるスズ・タンタル・タングステン・金の4種の鉱物を指すことが多くなっています。この紛争鉱物として指定されている4つの鉱物、スズ(Tin)、タンタル(Tantalite)、タングステン(Tungsten)、金(Gold)は、一般的に英語の頭文字をとって”3TG”と呼ばれています。

紛争鉱物という概念が生まれてきた背景には、社会情勢が不安定な地域で紛争が続いている大きな要因の一つに、鉱物など天然資源が資金源として機能しているという問題意識があります。議論当初は、上記に上げた3TGではなく、ダイヤモンドが話題の中心にありました。1990年代、アフリカのアンゴラ、コートジボアール、シエラレオネでの内戦や周辺国との対立において、ダイヤモンドが紛争の資金源として機能していることを国連が指摘します。この紛争に加担するダイヤモンドは「紛争ダイヤモンド(Conflict Diamond)」「血塗られたダイヤモンド(Bloody Diamond)」と呼ばれ、2000年に国連安全保障理事会決議にも後押しあり、国際会議で紛争ダイヤモンドの取引規制が世界的にスタートしました。そして、この「紛争と天然資源」のつながりを断絶する動きが、工業鉱物資源にも及び、紛争鉱物(Conflict Mineral)という言葉が新たに注目を集めています。

問題の関心が、紛争ダイヤモンドから紛争鉱物へと拡大するにあたり、企業への影響度は著しく増加しました。高級品として名高いダイヤモンドは、宝石や一部研磨工具などダイヤモンド製品そのものとして売買、取引がなされることが多いのに対し、3TGは携帯電話やパソコン等の電子部品素材として、目に見えない形で身の回り品に含まれています。製品のコンポーネントの中に3TGが含まれているのかどうか、それが紛争地域で採掘されたものかどうか。工業製品を扱う世界中の企業が、この問いに対して明確な回答を用意しなければならない状況になりつつあります。

紛争鉱物の概念整理を行った「OECD紛争鉱物ガイダンス」

紛争鉱物の問題意識が結実したのは2009年。OECD(経済協力開発機構)の投資委員会と開発援助委員会が、国連安全保障理事会の要請を受けて、「紛争・高リスク地域産鉱物サプライチェーン・デュー・ディリジェンス・ガイダンス(「OECD紛争鉱物ガイダンス)」と略)」を共同策定しました。このガイダンスは、紛争地域の3TGを供給または利用するすべての企業を対象とし、サプライチェーンにおいて遵守すべき項目を整理。同ガイダンスは、2010年には国連安全保障理事会でも支持され、2011年にはOECD理事会(OECDは先進国を中心に34カ国が加盟する国際機関)が同ガイダンスに基づく法整備をOECD加盟国・非加盟国双方に対して推進することを求める勧告決議が採択されます。同ガイダンスは、法的拘束力はないものの、各国の政策に大きな影響を与えるものとなっています。

では、OECD紛争鉱物ガイドラインが対象としている「紛争地域」は何を指すでしょうか?ガイドラインの中では、

“紛争地域および高リスク地域は、武力による紛争、広範にわたる暴力、もしくは人々に危害が及ぶその他のリスクの有無によって識別される。武力による紛争は様々な形をとることがあり、例えば、2ヵ国ないしそれ以上が関与することもあれば、解放戦争、反乱、内戦などによることもある、国際的もしくは非国際的対立などである。高リスク地域には、政情不安や抑圧、制度上の欠点、不安定などが見られる地域や、国内のインフラが崩壊した地域、さらに暴力が広範におよんでいる地域などがある。これらの地域では広範におよぶ人権侵害や、国内法または国際法違反が見られる。”

と幅広く定義しています。今後、様々な国際会議や各国政府は、規制をかける「紛争地域」を定義し、3TGの取扱規制を進めていく様相です。

紛争鉱物の法規制:米ドッド・フランク法

2009年にOECDで紛争鉱物ガイドラインの議論が活発化した後、紛争鉱物に関する大規模な法規制が世界で初めて制定されたのが米国です。2010年7月、長引くコンゴ民主共和国の武装集団の資金源を断つことを目的に、米国連邦政府は、金融規制改革法(ドッド・フランク法)を制定。コンゴ民主共和国及び周辺国産(アンゴラ、ザンビア、タンザニア、ウガンダ、南スーダン、ルワンダ、中央アフリカ共和国、コンゴ共和国、ブルンジ)の3TGを製品に使用する企業は、米証券取引委員会(SEC)に対する報告義務を課せられることになりました。そして2012年8月、SECはドッド・フランク法第1502条に基づき、具体的な開示内容に関する最終ルールを可決、決定しました。

対象企業

米国証券取引所の上場企業などSECへ報告書を提出している企業で、かつ3TGを含む製品の生産または委託生産に関わっている全ての企業。

実施義務内容

使用している3TGについての「合理的な原産国調査」を行い、「コンゴ民主共和国又は周辺国産ではない、もしくは再生利用品およびスクラップ起源である」かどうかを確認しなければならない。
調査の結果、「コンゴ民主共和国又は周辺国産ではない、もしくは再生利用品およびスクラップ起源である」と判明(もしくはそうでないと信じる合理的な理由がない)した場合は、SEC提出の専用報告フォームである”Form SD”に従い、実施した調査内容の簡潔な説明とその結果をForm SD上で開示しなければならない。またこの情報を自社HP上で開示するとともにそのHPアドレスを報告しなければならない。
一方、調査の結果、「コンゴ民主共和国又は周辺国産であり、かつ再生利用品およびスクラップ起源でもない」と判明(もしくはそうであるかもしれない)した場合は、これら鉱物の起源と加工・流通過程に関するデュー・ディリジェンスを行い、Form SDの添付書類として、第三者監査を受けた紛争鉱物報告書(詳細についてはコチラを参照)を提出しなければならない。さらに、紛争鉱物報告書の情報を自社HP上で開示するとともにそのHPアドレスをForm SD上で報告しなければならない。

過去製品についての免除措置

企業負担を軽減させるため、2013年1月31日より前に、コンゴ民主共和国外に存在していた紛争鉱物と派生物は調査対象から除外できる。

適用時期

企業の決算期に係らず2013年1月1日?2013年12月31日を初年度とし、その報告の期限は2014年5月31日。以降、毎年5月31日が報告期限。

ドッド・フランク法がもたらすインパクト

ドッド・フランク法は、主に米国上場企業を対象としており、それ以外の企業にはSECへの報告義務はありません。そのため、ドッド・フランク法の影響を受ける企業は世界全体で見たら少ないように見えますが、実際には世界の多くの企業がこの法の影響を受けることになります。その理由は、ドッド・フランク法は、米国上場企業に対して、サプライチェーンを遡って紛争鉱物を含むか否かを調査・報告するよう義務付けているためです。この法律が制定されたことで、米国上場企業はどんな些細な部材であっても3TGを含む製品を生産、もしくは委託生産している場合、購入先企業に対して調査を行うこととなり、購入先企業は米国上場企業でなくとも間接的に調査・報告をしなければなりません。同様に、購入先の購入先、購入先の購入先の購入先と、サプライチェーン全てにおいてこの法律はインパクトをもたらします。(但し、SECのFAQによると、あくまでも規制対象は製品生産に直接関わっている企業のみで、製品のパッケージのみに3TGが含まている場合や、3TGの輸送運搬のみに関与している企業は規制の対象外です。)ですので、日本企業であったとしても、ドッド・フランク法の影響は大きく受けることとなり、各社は対応に追われています。

ドッド・フランク法以外の法規制

ドッド・フランク法が米国で成立したことで、米国の国内および他国でも、紛争鉱物の規制が強化されつつあります。米国内では、カリフォルニア州やメリーランド州は、州政府の購買において紛争鉱物製品の購入を禁止する州法を可決。この動きは他の州にも広がりつつあります。また、EUでは、2014年3月に欧州委員会が「紛争地域原産鉱物の責任ある取引に関する統合アプローチ案」を公表、3TGの輸入業者に対して報告義務を課すEU法案を検討しており、これが可決されるとドッド・フランク法で定められた川下の製造業者だけでなく、川上の輸入業者にも報告義務が課せられるようになります。また、EUで検討中の同法案は、紛争地域を特定せず不特定国を対象としようとしており、企業は紛争地域の特定説明まで含めた説明が求められるようになるかもしれません。

紛争鉱物に対する企業対応

紛争鉱物の不使用証明を求められるようになった産業界も既に取組を開始しています。最も大きな取組は、EICC®/GeSIによるものです。EICC®(電子業界行動規範)は、2004年にHP、IBM、DELL等が電子業界の行動規範の統一化のために設立した指針および団体の名前で、米国の電子企業を中心に約100社が加盟しています。一方、GeSI(グローバル・eサステナビリティ・イニシアティブ)は、AT&T、Sprint、NOKIA、ZTEなどが加盟する2001年に設立されたEICC®の通信業界版。このEICC®とGeSIは2007年に覚書を交わし協力関係を締結。さらに2008年、両社は共同で紛争鉱物改善のための団体「Conflict-Free Sourcing Initiative(CFSI:紛争非関与調達イニシアチブ)」を設立、現在7業界から世界150社以上の企業が参加しています。

CFSIが展開している取組は主に2つあります。1つ目は、紛争フリー製錬所プログラム(cfsプログラム:conflict-free smelter)で、3TGの製錬所に対して紛争フリー認証を提供しています。CFSIは、製造業者が3TGやその加工品を調達することとなる源流である製錬所に目をつけ、企業が安心して調達できる製錬所を増やすことに取り組んでいます。3TGに関わる製錬所は世界に約500あると言われおり、この500ヶ所全ての製錬所を紛争フリー化することを目指しています。2つ目は、紛争鉱物報告テンプレート(CMRT)で、業界横断で活用できる紛争鉱物の報告用フォーマットを作成、提供しています。この共通フォーマットを用いることで、サプライチェーン上にいる各社の情報共有が容易になり、最終的にSECに提供するための”Form SD”も容易に作成できるように作られています。2014年4月にはCMRT3.0が発表され、もう一つの電子業界の国際的業界団体であるIPC(Association Connecting Electronics Industries)の標準規格のフォーマットにも適合できるようになりました。また、2015年4月には、最新版のCMRT4.0が発表され精錬所リストが更新された。

日本ではJEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)の「責任ある鉱物調達研究会」が、2012年7月にEICC®とGeSIの双方と覚書を締結し、紛争鉱物問題の対処について協力することに合意しました。日本企業だけで今後強化されると予想される紛争鉱物規制に対応するのは莫大なコストが発生するという判断からです。この合意により、JEITAの加盟企業はCFSIのプログラムの参加企業となり、世界各国の企業と共同歩調を取って問題に対処しています。

米国のドッド・フランク法で幕開けした紛争鉱物規制は、企業のCSR調達の中でもまさにホットなテーマです。CFSIなど業界団体が企業慣行がスムーズに進むよう制度整備を行っていますし、紛争鉱物に関与した際にSECに提出が義務付けられている紛争鉱物報告書の第三者認証サービスは、大手監査法人などがすでに開始しています。日本企業もサプライチェーンがグローバルに拡大している中、自社だけでなくサプライチェーン全体でのサステナビリティ計画やCSR戦略が必要だと以前から叫ばれてきましたが、この紛争鉱物問題を契機にますます必要性が増してきています。

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