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【食糧】気候変動で日本が食糧不足に陥る可能性は世界有数。2本の研究論文が映す最悪シナリオ

 2022年8月。アカデミックの世界から、2つの気候変動に関する将来予測の研究結果が発表された。いずれも世の中に複数あるシミュレーションの一つにすぎないものの、双方のシミュレーションでは人間社会が想像以上に悪い結末を迎えるという分析結果が出たことが、世の中に大きな衝撃を与えた。今回は最新のアカデミックの研究の内容をみていこう。

 まず一つ目は、英ケンブリッジ大学の生存リスク研究センター(CSER)のルーク・ケンプ博士率いる研究チームが、米学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」で発表した論文「Climate Endgame: Exploring catastrophic climate change scenarios」だ。

 同研究は、今後の社会設計のために、あえて気候変動がもたらす最悪シナリオを考慮すべきと提唱したユニークな論文だ。ケンプ博士らは、既存の研究が、1.5℃上昇や2℃上昇シナリオに集中していることを懸念し、最悪シナリオを想定することで、本当の脅威を浮彫にすべきと考えた。そこで、可能性が高くないとしても、気候変動が加速度的に進むティッピングポイントを迎え、社会が破局に向かう「気候エンドゲーム(破滅)」シナリオが起こりうることをあえて提示している。

 ケンプ博士らの研究では、まず、IPCCレポートで示された確率や、気候変動が自己増幅的に拡大する「ティッピング・ポイント」を迎えるリスクが高まっていることを踏まえ、2100年末までに地球の平均気温が3℃以上上昇することを指標として設定。それを基に4つの観点で研究を行った。1つ目は、長期的な異常な気候変動のダイナミクスがもたらす長期的インパクト。2つ目は、飢餓と栄養不足、異常気象、紛争、感染症による疾病率と死亡率の大幅増加の発生経路。3つ目は社会の脆弱性やリスクカスケード。4つ目は、これらを含めた破壊的損害シナリオの統合的評価だ。

 今回の論文では、すでに既存の他の論文で、個別の事象について悪いシナリオに言及されていることを多数紹介している。但し、今回の論文そのものでは、これらのリスクを統合的に評価するところまでは到達しておらず、これらの最悪ケースを組み合わせた最悪シナリオの作成を学術界全体に呼びかけることに力点がおかれた。それでも、気候変動により、紛争、疾病、政治的変化、経済的危機を含む可能性があり、場合によっては、核戦争のようなリスクまであるということを提示した点が大きな注目を集めた。

 もう一つ話題を集めた論文は、米ラトガース大学環境科学部のLili Xia博士らの研究チームが学術誌「Nature Food」で発表した論文「Global food insecurity and famine from reduced crop, marine fishery and livestock production due to climate disruption from nuclear war soot injection」。内容は、まさに核戦争による気象変化が食料安全保障にもたらす影響に関する分析だった。

 こちらの論文は、核兵器の爆発による煤煙の影響を、気候、作物、漁業モデルを用いて6つのシナリオから生じる影響を推定。貯蔵食料が消費された後の核戦争後の各国での食料カロリー総量を予測した。その結果、最良シナリオの500万tの煤煙排出シナリオでも、世界中のほぼ全ての国で大量の食糧不足につながり、インドとパキスタンの核戦争で20億人以上、米国とロシアの核戦争では、50億人以上が死亡するという算出結果となった。

 同研究では、従来の森林火災や噴火による煤煙排出の測定値を活用しつつ、放射能汚染により土壌と水の汚染も踏まえたモデルを作成した。変数では、家畜の飼料の利用パターンで、家畜継続、一部家畜から人間食料への転換、家畜なしの3段階のパターンを用意。加えて、食糧生産量の減少に対応して食糧輸出国が輸出を停止し、食糧の国際貿易が停止することを想定した。同論文では、国別の食料不足度を3段階で表示。その結果、煤煙の排出量に応じて、飢餓を迎える国は多くなり、さらに家畜を継続すればするほど飢餓を迎える国は多くなることがわかった。

 ちなみにいずれのシナリオでも食料不足に陥る国も複数あった。具体的には日本、韓国、湾岸諸国、アルジェリア、モーリタニア、ボツワナ、ノルウェー。食料自給率の低い日本は、非常に脆弱であることも浮き彫りとなった。

 さらにこちらの論文は、食糧不足に陥る中で、家庭からの食品廃棄物を消費するかどうかの分析も行った。当然、食品廃棄物を消費したほうが食糧不足を免れる国がでてくることもわかった。世界全体では、煤煙排出量が47tまでに収まれば、食料廃棄物を100%消費した場合、必要カロリーを調達できる試算となったが、それでも各国が協調しなければ、食糧不足に陥る国が出てくる。

 これら2つの研究は、独立に行われている研究だが、関連しているものが多い。例えば、ケンプ博士の研究は、最悪シナリオの必要性を提唱し、その中で、気候変動で社会が混乱に陥れば、核戦争に陥るリスクにまで触れていた。そしてXia博士の研究では、今後の悪いシナリオの一つとして、核戦争がさらに気象影響を与え、深刻な食糧不足に陥るという結果を導き出した。そして日本が極めて脆弱であることもわかった。双方を踏まえると、やはり日本は、自らの食料安全保障のためにも、気候変動を防ぐことを率先しなければならないということがみえてくる。

【参照ページ】Climate Endgame: Exploring catastrophic climate change scenarios
【参照ページ】Global food insecurity and famine from reduced crop, marine fishery and livestock production due to climate disruption from nuclear war soot injection

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 2022年8月。アカデミックの世界から、2つの気候変動に関する将来予測の研究結果が発表された。いずれも世の中に複数あるシミュレーションの一つにすぎないものの、双方のシミュレーションでは人間社会が想像以上に悪い結末を迎えるという分析結果が出たことが、世の中に大きな衝撃を与えた。今回は最新のアカデミックの研究の内容をみていこう。

 まず一つ目は、

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 2022年8月。アカデミックの世界から、2つの気候変動に関する将来予測の研究結果が発表された。いずれも世の中に複数あるシミュレーションの一つにすぎないものの、双方のシミュレーションでは人間社会が想像以上に悪い結末を迎えるという分析結果が出たことが、世の中に大きな衝撃を与えた。今回は最新のアカデミックの研究の内容をみていこう。

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 まず一つ目は、英ケンブリッジ大学の生存リスク研究センター(CSER)のルーク・ケンプ博士率いる研究チームが、米学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」で発表した論文「Climate Endgame: Exploring catastrophic climate change scenarios」だ。

 同研究は、今後の社会設計のために、あえて気候変動がもたらす最悪シナリオを考慮すべきと提唱したユニークな論文だ。ケンプ博士らは、既存の研究が、1.5℃上昇や2℃上昇シナリオに集中していることを懸念し、最悪シナリオを想定することで、本当の脅威を浮彫にすべきと考えた。そこで、可能性が高くないとしても、気候変動が加速度的に進むティッピングポイントを迎え、社会が破局に向かう「気候エンドゲーム(破滅)」シナリオが起こりうることをあえて提示している。

 ケンプ博士らの研究では、まず、IPCCレポートで示された確率や、気候変動が自己増幅的に拡大する「ティッピング・ポイント」を迎えるリスクが高まっていることを踏まえ、2100年末までに地球の平均気温が3℃以上上昇することを指標として設定。それを基に4つの観点で研究を行った。1つ目は、長期的な異常な気候変動のダイナミクスがもたらす長期的インパクト。2つ目は、飢餓と栄養不足、異常気象、紛争、感染症による疾病率と死亡率の大幅増加の発生経路。3つ目は社会の脆弱性やリスクカスケード。4つ目は、これらを含めた破壊的損害シナリオの統合的評価だ。

 今回の論文では、すでに既存の他の論文で、個別の事象について悪いシナリオに言及されていることを多数紹介している。但し、今回の論文そのものでは、これらのリスクを統合的に評価するところまでは到達しておらず、これらの最悪ケースを組み合わせた最悪シナリオの作成を学術界全体に呼びかけることに力点がおかれた。それでも、気候変動により、紛争、疾病、政治的変化、経済的危機を含む可能性があり、場合によっては、核戦争のようなリスクまであるということを提示した点が大きな注目を集めた。

 もう一つ話題を集めた論文は、米ラトガース大学環境科学部のLili Xia博士らの研究チームが学術誌「Nature Food」で発表した論文「Global food insecurity and famine from reduced crop, marine fishery and livestock production due to climate disruption from nuclear war soot injection」。内容は、まさに核戦争による気象変化が食料安全保障にもたらす影響に関する分析だった。

 こちらの論文は、核兵器の爆発による煤煙の影響を、気候、作物、漁業モデルを用いて6つのシナリオから生じる影響を推定。貯蔵食料が消費された後の核戦争後の各国での食料カロリー総量を予測した。その結果、最良シナリオの500万tの煤煙排出シナリオでも、世界中のほぼ全ての国で大量の食糧不足につながり、インドとパキスタンの核戦争で20億人以上、米国とロシアの核戦争では、50億人以上が死亡するという算出結果となった。

 同研究では、従来の森林火災や噴火による煤煙排出の測定値を活用しつつ、放射能汚染により土壌と水の汚染も踏まえたモデルを作成した。変数では、家畜の飼料の利用パターンで、家畜継続、一部家畜から人間食料への転換、家畜なしの3段階のパターンを用意。加えて、食糧生産量の減少に対応して食糧輸出国が輸出を停止し、食糧の国際貿易が停止することを想定した。同論文では、国別の食料不足度を3段階で表示。その結果、煤煙の排出量に応じて、飢餓を迎える国は多くなり、さらに家畜を継続すればするほど飢餓を迎える国は多くなることがわかった。

 ちなみにいずれのシナリオでも食料不足に陥る国も複数あった。具体的には日本、韓国、湾岸諸国、アルジェリア、モーリタニア、ボツワナ、ノルウェー。食料自給率の低い日本は、非常に脆弱であることも浮き彫りとなった。

 さらにこちらの論文は、食糧不足に陥る中で、家庭からの食品廃棄物を消費するかどうかの分析も行った。当然、食品廃棄物を消費したほうが食糧不足を免れる国がでてくることもわかった。世界全体では、煤煙排出量が47tまでに収まれば、食料廃棄物を100%消費した場合、必要カロリーを調達できる試算となったが、それでも各国が協調しなければ、食糧不足に陥る国が出てくる。

 これら2つの研究は、独立に行われている研究だが、関連しているものが多い。例えば、ケンプ博士の研究は、最悪シナリオの必要性を提唱し、その中で、気候変動で社会が混乱に陥れば、核戦争に陥るリスクにまで触れていた。そしてXia博士の研究では、今後の悪いシナリオの一つとして、核戦争がさらに気象影響を与え、深刻な食糧不足に陥るという結果を導き出した。そして日本が極めて脆弱であることもわかった。双方を踏まえると、やはり日本は、自らの食料安全保障のためにも、気候変動を防ぐことを率先しなければならないということがみえてくる。

【参照ページ】Climate Endgame: Exploring catastrophic climate change scenarios
【参照ページ】Global food insecurity and famine from reduced crop, marine fishery and livestock production due to climate disruption from nuclear war soot injection

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