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【金融】グリーンシル問題とは何だったのか?〜サプライチェーン・ファイナンスの事の顛末〜

 ロンドンを拠点とする金融会社グリーンシル・キャピタルが3月8日、裁判所に経営破綻を申請した。同社は、サプライチェーンでの決済を融通するサービス「サプライチェーン・ファイナンス」の世界最大手のひとつだったが、「深刻な財政難」に陥って崩壊した。この問題は一体どのように始まり、そしてどのような影響をもたらしているのか。

グリーンシル・キャピタルとは

 グリーンシル・キャピタル(以下グリーンシル)は、オーストラリア人金融家のレックス・グリーンシル氏が2011年に設立。企業の請求書を有料で即時決済するサプライチェーン・ファイナンスを専門としており、流通での支払短縮化の役割を果たしてきた。グリーンシルは、サプライチェーン・ファイナンス(「リバース・ファクタリング」とも呼ばれる)、売掛金ファイナンス(「ファクタリング」とも呼ばれる)、将来売掛金ファイナンス(将来債権ファクタリング)の3つの事業を主な収益源としていた。

 従来のファクタリングは、企業が顧客に発行した請求書を第三者に売却し、第三者が顧客から代金を回収するもの。だが、リバース・ファクタリングでは、第三者(ここではグリーンシル)が、企業が取引先に支払うべき債務を、少し割引をした上で、元の企業が支払うよりもはるかに迅速に支払う。後日、そして第三者は企業から代金を受け取る。一方、将来の売上や支払いを期待して、販売前の企業に資金を貸し付けるのが「将来売掛金ファイナンス」。将来売掛金ファイナンスは、将来の売上や支払いの見込みに基づいて、販売前の企業に資金を貸し付けるもので、不確実な支払いを前提としており、リスクが高いと考えられている。

 従来、銀行はサプライチェーン・ファイナンスを行ってきたが、銀行を対象とした規制や資本規制により、このような融資は収益性が低くなってきている。リバース・ファクタリングに賛成の人は、債務をより迅速に解決できるため、サプライヤーにも企業にもメリットがあると言う。一方、リバース・ファクタリングに批判的な人は、企業が債務を隠蔽したり、取引関係にある強い側の常習的な支払い遅延を助長したりする可能性があると指摘している。

 グリーンシルは、その活動資金を調達するために、クレディ・スイスが運営するサプライチェーン専門の投資ファンドからの融資に依存していた。グリーンシルは定期的に債券を発行し、それをクレディ・スイスの100億米ドル規模のファンドが購入することで、グリーンシルに現金を供給していた。しかし、ブルームバーグやウォール・ストリート・ジャーナルによると、クレディ・スイスの投資ファンドは、グリーンシルの「将来売掛金ファイナンス」事業収益を原資産とする債券を購入したとされている。これらのファイナンスは、将来の不確実な売上を担保におり、元来リスクが高かった。

【参照動画】Greensill, Gupta and Cameron: what went wrong | FT Film

サプライチェーン・ファイナンスとは

 サプライチェーン・ファイナンスは、一般的な支払い問題を解決する性格をもっている。サプライヤーは通常、顧客に商品やサービスを提供し、請求書を発行して支払いを求める。サプライヤーは売掛金をすぐにでも回収したいと思うかもしれないが、顧客は支払いを遅らせたいと考える可能性もある。特に顧客が大企業で影響力を持っている場合には、2ヶ月以上支払いを待つように要求されることもある。リバースファクタリングでは、金融機関が顧客に代わってサプライヤーへの支払いを早めに行うことを提案し、手数料または手数料の一部として若干の割引を行います。顧客は、合意した後日、多くの場合4〜5ヵ月後に金融機関への支払いを済ませる。


【出典】FTリサーチより翻訳

サプライチェーン・ファイナンスの論点

 サプライチェーン・ファイナンスを利用している企業は、金融機関に資金を借りているが、経理担当者はこの資金を負債としては分類しない。その代わり、企業は通常、貸借対照表の「買掛金」または「未払金」の項目に、サプライヤーに支払う他の請求書と一緒に計上する。決算書の脚注には、この項目のうち、どのぐらいがサプライヤーから金融機関に譲り渡された債務であるかが説明されているかもしれないが、一般的にはそれを開示する義務はない。

 結果として、開示の不備は、格付会社と米国証券取引委員会を含む規制当局の双方で悩みのタネとなっている。ビッグ4の監査法人も、2019年に米国の会計監視機関であるFASBに連名で書簡を送り、財務情報開示の「透明性と一貫性の向上」を求めている。

グリーンシル問題の経緯と内容

 今回のグリーンシル危機は、2020年の夏、保険大手の東京海上ホールディングス株式会社の子会社である保険代理店The Bond & Creditで始まった。The Bond & Creditは、グリーンシルが行ったファイナンスをカバーする46億米ドルの保険契約を延長しないことを決定し、そのビジネスの承認に重要な役割を果たしたマネージャーも解雇。さらに、同時期にドイツの規制当局であるBaFinが、ブレーメンで急成長しているグリーンシル銀行に対する調査を開始したことも、グリーンシルの問題を大きくした。

 BaFinは、グリーンシル銀行の資産の多くが、サンジーブ・グプタ氏関連の資産に結びついていることを懸念する。サンジーブ・グプタ氏は、「鋼鉄の男」とも呼ばれた元商品取引員で、GFGアライアンスを経営。GFGアライアンスは、鉄鋼、アルミニウム、再生可能エネルギー等の事業を展開しており、多くの事業は過去5年間で約60億米ドルを投じて、人気のない金属関連事業資産を買収・再生するという猛烈なペースで構築してきていた。

 しかし、調査の結果、グリーンシル銀行が、まだ発生していないグプタ氏の取引の請求を、発生したかのように計上していたこと等の不正も発覚。このような圧力が徐々に高まっていく中、ソフトバンク・ビジョン・ファンドを通じて15億米ドルを同社に投資していたソフトバンクグループは2020年末にグリーンシルへの投資額を減らす。

 2月に入り、BaFinからの圧力により、グリーンシルはグプタ氏へのエクスポージャーの買い手探しを開始し、状況は加速度的に悪化した。AtheneとApollo Global Managementとの間で、一部の資産を売却するための交渉を開始しましたが、状況の悪化により、グリーンシルの支援者や投資家は警戒を強めていた。

 オーストラリアでは、The Bond & Creditが3月1日に失効した保険の延長を求めた訴訟で、グリーンシルが敗訴。 保険が適用されないと、信用力が疑問視され、資産評価が厳しくなり、クレディ・スイスは「かなりの不確実性」を理由に、グリーンシルとリンクしたファンドを凍結。GAMもこれに追随し、3月3日、ドイツの金融当局は預金者と債権者の資金を救うために、グリーンシル銀行の資産の移動や処分を禁じる保全命令を出した。グリーンシルの幹部は、債務超過が迫る中、必死に会社を救おうとしたが、グリーンシル氏の弟を含む複数の取締役が会社を去り、パニック状態に陥った。そして3月8日に経営破綻となる。

グリーンシル倒産の影響

 グリーンシルが倒産したことで、グプタ氏が経営するGFCの倒産リスクが浮上している。裁判書資料によると、GFGはグリーンシルの融資を受けられなくなった場合、「債務超過に陥るだろう」と警告。新たな資金の出し手が必要となっている。関係者によると、スペイン政府はすでに、アルミニウム工場の買収を進める前に、GFGの一部門に支払い能力があることを証明するよう求めているという。グリーンシルに関連する資産の買収を交渉中のAtheneは、GFGに関連する資産を議論の対象から外した模様。グリーンシルは、彼にとって最大の資金提供者でしたが、この金融機関の破綻により、彼は新たな資金を求めています。

 一方、グリーンシルに融資をしていたクレディ・スイスのファンドは、ファンドを清算し、顧客に残金を返却。同時にクレディ・スイスは、2020年にグリーンシルに融資していた1.4億米ドルのブリッジ・ローンもデフォルトとなった。クレディ・スイスは、ファンドに出資していた多くの投資家を窮地に追い込んだことで、訴訟を起こされる可能性もあるという。

 他にも、英国では、国民健康保険がグリーンシルに頼らず、薬局に直接請求払いをしなければならなくなり、パンデミックの影響で財政がさらに逼迫した。また、グリーンシル銀行に資金を預けていたドイツの地方自治体は、資金を失うリスクにもさらされている。

 ドイツでは、グリーンシル子会社の独グリーンシル銀行の破産手続きを3月16日に開始。同行の資産は2020年12月末で45億ユーロ(約5800億円)。グリーンシル銀行の預金者に対しては、BaFinが3月16日、預金保険基金制度の下で、預金補償の実行を決定。しかし預金保険基金の資産減少を補填するため、ドイツ大手のドイツ銀行とコメルツ銀行に対し資金拠出が求められる流れになるとも言われている。

【参照動画】Greensill, Gupta and Cameron: what went wrong | FT Film

ソフトバンクグループとクレディ・スイスの関係の悪化

 クレディ・スイスは、グリーンシル・キャピタルの破綻を受け、ソフトバンクグループに対する訴訟を準備していると報じられている。理由は、ソフトバンググループが2019年に15億米ドルを出資したグリーンシルの倒産だけでなく、グリーンシルが、ソフトバンクグループが出資している他の企業にも融資しており、その融資分の返済も怪しくなってきたことにある。具体的には、米建設テックのカテラの4.4億米ドル、サンジーブ・グプタ氏のリバティ・スチールの12億米ドル、Bluestone Resourcesの6.9億米ドルの合計23億米ドルの資金回収が困難。クレディ・スイスの損失額は最大で30億米ドルにもなる模様。カテラは最終的に6月6日に経営破綻した。

 さらにカテラを巡る資金の流れも火種となっている。カテラは2020年に経営難に陥った際、グリーンシルはカテラへの融資債権を放棄。その資金損失もあり、ソフトバンクグループは2020年11月にグリーンシルに4.4億米ドル出資したとみられている。グリーンシルに融資していたクレディ・スイスのファンドは、ソフトバンクグループのグリーンシルへの出資分で資金償還をするつもりだったが、グリーンシルは独子会社グリーンシル銀行に資金を移し、グリーンシル銀行の資金基盤強化に充てていたという。2021年1月の時点で、4.4億米ドルがクレディ・スイスに送られておらず、3月中旬には償還期限を迎えることへの懸念が広がっていた。

 そのため、クレディ・スイスは3月1日にグリーンシルの資金を凍結し、その数日後にグリーンシル社は債務超過に陥った。クレディ・スイスは、一連の動向を調査しており、ソフトバンクグループの責任を追及するに至った。ウォール・ストリート・ジャーナルの報道によると、クレディ・スイスは、ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏個人との融資関係を解消し、ソフトバンクグループとの取引も縮小したという。

 この問題に対し、ソフトバンクグループは、出資先の企業同士を紹介し合うことはあるとは話しつつも、責任はないとの立場を貫いている。また、クレディ・スイスが裁判でソフトバンクグループから資金を回収したとしても、ソフトバンクグループ全体の財務に与える影響は軽微という。

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 ロンドンを拠点とする金融会社グリーンシル・キャピタルが3月8日、裁判所に経営破綻を申請した。同社は、サプライチェーンでの決済を融通するサービス「サプライチェーン・ファイナンス」の世界最大手のひとつだったが、「深刻な財政難」に陥って崩壊した。この問題は一体どのように始まり、そしてどのような影響をもたらしているのか。

グリーンシル・キャピタルとは

 グリーンシル・キャピタル(以下グリーンシル)は、オーストラリア人金融家のレックス・グリーンシル氏が2011年に設立。企業の請求書を有料で即時決済するサプライチェーン・ファイナンスを専門としており、流通での支払短縮化の役割を果たしてきた。グリーンシルは、サプライチェーン・ファイナンス(「リバース・ファクタリング」とも呼ばれる)、売掛金ファイナンス(「ファクタリング」とも呼ばれる)、将来売掛金ファイナンス(将来債権ファクタリング)の3つの事業を主な収益源としていた。

 従来のファクタリングは、企業が顧客に発行した請求書を第三者に売却し、第三者が顧客から代金を回収するもの。だが、リバース・ファクタリングでは、第三者(ここではグリーンシル)が、企業が取引先に支払うべき債務を、少し割引をした上で、元の企業が支払うよりもはるかに迅速に支払う。後日、そして第三者は企業から代金を受け取る。一方、将来の売上や支払いを期待して、販売前の企業に資金を貸し付けるのが「将来売掛金ファイナンス」。将来売掛金ファイナンスは、将来の売上や支払いの見込みに基づいて、販売前の企業に資金を貸し付けるもので、不確実な支払いを前提としており、リスクが高いと考えられている。

 従来、銀行はサプライチェーン・ファイナンスを行ってきたが、銀行を対象とした規制や資本規制により、このような融資は収益性が低くなってきている。リバース・ファクタリングに賛成の人は、債務をより迅速に解決できるため、サプライヤーにも企業にもメリットがあると言う。一方、リバース・ファクタリングに批判的な人は、企業が債務を隠蔽したり、取引関係にある強い側の常習的な支払い遅延を助長したりする可能性があると指摘している。

 グリーンシルは、その活動資金を調達するために、クレディ・スイスが運営するサプライチェーン専門の投資ファンドからの融資に依存していた。グリーンシルは定期的に債券を発行し、それをクレディ・スイスの100億米ドル規模のファンドが購入することで、グリーンシルに現金を供給していた。しかし、ブルームバーグやウォール・ストリート・ジャーナルによると、クレディ・スイスの投資ファンドは、グリーンシルの「将来売掛金ファイナンス」事業収益を原資産とする債券を購入したとされている。これらのファイナンスは、将来の不確実な売上を担保におり、元来リスクが高かった。

【参照動画】Greensill, Gupta and Cameron: what went wrong | FT Film

サプライチェーン・ファイナンスとは

 サプライチェーン・ファイナンスは、一般的な支払い問題を解決する性格をもっている。サプライヤーは通常、顧客に商品やサービスを提供し、請求書を発行して支払いを求める。サプライヤーは売掛金をすぐにでも回収したいと思うかもしれないが、顧客は支払いを遅らせたいと考える可能性もある。特に顧客が大企業で影響力を持っている場合には、2ヶ月以上支払いを待つように要求されることもある。リバースファクタリングでは、金融機関が顧客に代わってサプライヤーへの支払いを早めに行うことを提案し、手数料または手数料の一部として若干の割引を行います。顧客は、合意した後日、多くの場合4〜5ヵ月後に金融機関への支払いを済ませる。


【出典】FTリサーチより翻訳

サプライチェーン・ファイナンスの論点

 サプライチェーン・ファイナンスを利用している企業は、金融機関に資金を借りているが、経理担当者はこの資金を負債としては分類しない。その代わり、企業は通常、貸借対照表の「買掛金」または「未払金」の項目に、サプライヤーに支払う他の請求書と一緒に計上する。決算書の脚注には、この項目のうち、どのぐらいがサプライヤーから金融機関に譲り渡された債務であるかが説明されているかもしれないが、一般的にはそれを開示する義務はない。

 結果として、開示の不備は、格付会社と米国証券取引委員会を含む規制当局の双方で悩みのタネとなっている。ビッグ4の監査法人も、2019年に米国の会計監視機関であるFASBに連名で書簡を送り、財務情報開示の「透明性と一貫性の向上」を求めている。

グリーンシル問題の経緯と内容

 今回のグリーンシル危機は、

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 ロンドンを拠点とする金融会社グリーンシル・キャピタルが3月8日、裁判所に経営破綻を申請した。同社は、サプライチェーンでの決済を融通するサービス「サプライチェーン・ファイナンス」の世界最大手のひとつだったが、「深刻な財政難」に陥って崩壊した。この問題は一体どのように始まり、そしてどのような影響をもたらしているのか。

グリーンシル・キャピタルとは

 グリーンシル・キャピタル(以下グリーンシル)は、オーストラリア人金融家のレックス・グリーンシル氏が2011年に設立。企業の請求書を有料で即時決済するサプライチェーン・ファイナンスを専門としており、流通での支払短縮化の役割を果たしてきた。グリーンシルは、サプライチェーン・ファイナンス(「リバース・ファクタリング」とも呼ばれる)、売掛金ファイナンス(「ファクタリング」とも呼ばれる)、将来売掛金ファイナンス(将来債権ファクタリング)の3つの事業を主な収益源としていた。

 従来のファクタリングは、企業が顧客に発行した請求書を第三者に売却し、第三者が顧客から代金を回収するもの。だが、リバース・ファクタリングでは、第三者(ここではグリーンシル)が、企業が取引先に支払うべき債務を、少し割引をした上で、元の企業が支払うよりもはるかに迅速に支払う。後日、そして第三者は企業から代金を受け取る。一方、将来の売上や支払いを期待して、販売前の企業に資金を貸し付けるのが「将来売掛金ファイナンス」。将来売掛金ファイナンスは、将来の売上や支払いの見込みに基づいて、販売前の企業に資金を貸し付けるもので、不確実な支払いを前提としており、リスクが高いと考えられている。

 従来、銀行はサプライチェーン・ファイナンスを行ってきたが、銀行を対象とした規制や資本規制により、このような融資は収益性が低くなってきている。リバース・ファクタリングに賛成の人は、債務をより迅速に解決できるため、サプライヤーにも企業にもメリットがあると言う。一方、リバース・ファクタリングに批判的な人は、企業が債務を隠蔽したり、取引関係にある強い側の常習的な支払い遅延を助長したりする可能性があると指摘している。

 グリーンシルは、その活動資金を調達するために、クレディ・スイスが運営するサプライチェーン専門の投資ファンドからの融資に依存していた。グリーンシルは定期的に債券を発行し、それをクレディ・スイスの100億米ドル規模のファンドが購入することで、グリーンシルに現金を供給していた。しかし、ブルームバーグやウォール・ストリート・ジャーナルによると、クレディ・スイスの投資ファンドは、グリーンシルの「将来売掛金ファイナンス」事業収益を原資産とする債券を購入したとされている。これらのファイナンスは、将来の不確実な売上を担保におり、元来リスクが高かった。

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サプライチェーン・ファイナンスとは

 サプライチェーン・ファイナンスは、一般的な支払い問題を解決する性格をもっている。サプライヤーは通常、顧客に商品やサービスを提供し、請求書を発行して支払いを求める。サプライヤーは売掛金をすぐにでも回収したいと思うかもしれないが、顧客は支払いを遅らせたいと考える可能性もある。特に顧客が大企業で影響力を持っている場合には、2ヶ月以上支払いを待つように要求されることもある。リバースファクタリングでは、金融機関が顧客に代わってサプライヤーへの支払いを早めに行うことを提案し、手数料または手数料の一部として若干の割引を行います。顧客は、合意した後日、多くの場合4〜5ヵ月後に金融機関への支払いを済ませる。


【出典】FTリサーチより翻訳

サプライチェーン・ファイナンスの論点

 サプライチェーン・ファイナンスを利用している企業は、金融機関に資金を借りているが、経理担当者はこの資金を負債としては分類しない。その代わり、企業は通常、貸借対照表の「買掛金」または「未払金」の項目に、サプライヤーに支払う他の請求書と一緒に計上する。決算書の脚注には、この項目のうち、どのぐらいがサプライヤーから金融機関に譲り渡された債務であるかが説明されているかもしれないが、一般的にはそれを開示する義務はない。

 結果として、開示の不備は、格付会社と米国証券取引委員会を含む規制当局の双方で悩みのタネとなっている。ビッグ4の監査法人も、2019年に米国の会計監視機関であるFASBに連名で書簡を送り、財務情報開示の「透明性と一貫性の向上」を求めている。

グリーンシル問題の経緯と内容

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 ロンドンを拠点とする金融会社グリーンシル・キャピタルが3月8日、裁判所に経営破綻を申請した。同社は、サプライチェーンでの決済を融通するサービス「サプライチェーン・ファイナンス」の世界最大手のひとつだったが、「深刻な財政難」に陥って崩壊した。この問題は一体どのように始まり、そしてどのような影響をもたらしているのか。

グリーンシル・キャピタルとは

 グリーンシル・キャピタル(以下グリーンシル)は、オーストラリア人金融家のレックス・グリーンシル氏が2011年に設立。企業の請求書を有料で即時決済するサプライチェーン・ファイナンスを専門としており、流通での支払短縮化の役割を果たしてきた。グリーンシルは、サプライチェーン・ファイナンス(「リバース・ファクタリング」とも呼ばれる)、売掛金ファイナンス(「ファクタリング」とも呼ばれる)、将来売掛金ファイナンス(将来債権ファクタリング)の3つの事業を主な収益源としていた。

 従来のファクタリングは、企業が顧客に発行した請求書を第三者に売却し、第三者が顧客から代金を回収するもの。だが、リバース・ファクタリングでは、第三者(ここではグリーンシル)が、企業が取引先に支払うべき債務を、少し割引をした上で、元の企業が支払うよりもはるかに迅速に支払う。後日、そして第三者は企業から代金を受け取る。一方、将来の売上や支払いを期待して、販売前の企業に資金を貸し付けるのが「将来売掛金ファイナンス」。将来売掛金ファイナンスは、将来の売上や支払いの見込みに基づいて、販売前の企業に資金を貸し付けるもので、不確実な支払いを前提としており、リスクが高いと考えられている。

 従来、銀行はサプライチェーン・ファイナンスを行ってきたが、銀行を対象とした規制や資本規制により、このような融資は収益性が低くなってきている。リバース・ファクタリングに賛成の人は、債務をより迅速に解決できるため、サプライヤーにも企業にもメリットがあると言う。一方、リバース・ファクタリングに批判的な人は、企業が債務を隠蔽したり、取引関係にある強い側の常習的な支払い遅延を助長したりする可能性があると指摘している。

 グリーンシルは、その活動資金を調達するために、クレディ・スイスが運営するサプライチェーン専門の投資ファンドからの融資に依存していた。グリーンシルは定期的に債券を発行し、それをクレディ・スイスの100億米ドル規模のファンドが購入することで、グリーンシルに現金を供給していた。しかし、ブルームバーグやウォール・ストリート・ジャーナルによると、クレディ・スイスの投資ファンドは、グリーンシルの「将来売掛金ファイナンス」事業収益を原資産とする債券を購入したとされている。これらのファイナンスは、将来の不確実な売上を担保におり、元来リスクが高かった。

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サプライチェーン・ファイナンスとは

 サプライチェーン・ファイナンスは、一般的な支払い問題を解決する性格をもっている。サプライヤーは通常、顧客に商品やサービスを提供し、請求書を発行して支払いを求める。サプライヤーは売掛金をすぐにでも回収したいと思うかもしれないが、顧客は支払いを遅らせたいと考える可能性もある。特に顧客が大企業で影響力を持っている場合には、2ヶ月以上支払いを待つように要求されることもある。リバースファクタリングでは、金融機関が顧客に代わってサプライヤーへの支払いを早めに行うことを提案し、手数料または手数料の一部として若干の割引を行います。顧客は、合意した後日、多くの場合4〜5ヵ月後に金融機関への支払いを済ませる。


【出典】FTリサーチより翻訳

サプライチェーン・ファイナンスの論点

 サプライチェーン・ファイナンスを利用している企業は、金融機関に資金を借りているが、経理担当者はこの資金を負債としては分類しない。その代わり、企業は通常、貸借対照表の「買掛金」または「未払金」の項目に、サプライヤーに支払う他の請求書と一緒に計上する。決算書の脚注には、この項目のうち、どのぐらいがサプライヤーから金融機関に譲り渡された債務であるかが説明されているかもしれないが、一般的にはそれを開示する義務はない。

 結果として、開示の不備は、格付会社と米国証券取引委員会を含む規制当局の双方で悩みのタネとなっている。ビッグ4の監査法人も、2019年に米国の会計監視機関であるFASBに連名で書簡を送り、財務情報開示の「透明性と一貫性の向上」を求めている。

グリーンシル問題の経緯と内容

 今回のグリーンシル危機は、2020年の夏、保険大手の東京海上ホールディングス株式会社の子会社である保険代理店The Bond & Creditで始まった。The Bond & Creditは、グリーンシルが行ったファイナンスをカバーする46億米ドルの保険契約を延長しないことを決定し、そのビジネスの承認に重要な役割を果たしたマネージャーも解雇。さらに、同時期にドイツの規制当局であるBaFinが、ブレーメンで急成長しているグリーンシル銀行に対する調査を開始したことも、グリーンシルの問題を大きくした。

 BaFinは、グリーンシル銀行の資産の多くが、サンジーブ・グプタ氏関連の資産に結びついていることを懸念する。サンジーブ・グプタ氏は、「鋼鉄の男」とも呼ばれた元商品取引員で、GFGアライアンスを経営。GFGアライアンスは、鉄鋼、アルミニウム、再生可能エネルギー等の事業を展開しており、多くの事業は過去5年間で約60億米ドルを投じて、人気のない金属関連事業資産を買収・再生するという猛烈なペースで構築してきていた。

 しかし、調査の結果、グリーンシル銀行が、まだ発生していないグプタ氏の取引の請求を、発生したかのように計上していたこと等の不正も発覚。このような圧力が徐々に高まっていく中、ソフトバンク・ビジョン・ファンドを通じて15億米ドルを同社に投資していたソフトバンクグループは2020年末にグリーンシルへの投資額を減らす。

 2月に入り、BaFinからの圧力により、グリーンシルはグプタ氏へのエクスポージャーの買い手探しを開始し、状況は加速度的に悪化した。AtheneとApollo Global Managementとの間で、一部の資産を売却するための交渉を開始しましたが、状況の悪化により、グリーンシルの支援者や投資家は警戒を強めていた。

 オーストラリアでは、The Bond & Creditが3月1日に失効した保険の延長を求めた訴訟で、グリーンシルが敗訴。 保険が適用されないと、信用力が疑問視され、資産評価が厳しくなり、クレディ・スイスは「かなりの不確実性」を理由に、グリーンシルとリンクしたファンドを凍結。GAMもこれに追随し、3月3日、ドイツの金融当局は預金者と債権者の資金を救うために、グリーンシル銀行の資産の移動や処分を禁じる保全命令を出した。グリーンシルの幹部は、債務超過が迫る中、必死に会社を救おうとしたが、グリーンシル氏の弟を含む複数の取締役が会社を去り、パニック状態に陥った。そして3月8日に経営破綻となる。

グリーンシル倒産の影響

 グリーンシルが倒産したことで、グプタ氏が経営するGFCの倒産リスクが浮上している。裁判書資料によると、GFGはグリーンシルの融資を受けられなくなった場合、「債務超過に陥るだろう」と警告。新たな資金の出し手が必要となっている。関係者によると、スペイン政府はすでに、アルミニウム工場の買収を進める前に、GFGの一部門に支払い能力があることを証明するよう求めているという。グリーンシルに関連する資産の買収を交渉中のAtheneは、GFGに関連する資産を議論の対象から外した模様。グリーンシルは、彼にとって最大の資金提供者でしたが、この金融機関の破綻により、彼は新たな資金を求めています。

 一方、グリーンシルに融資をしていたクレディ・スイスのファンドは、ファンドを清算し、顧客に残金を返却。同時にクレディ・スイスは、2020年にグリーンシルに融資していた1.4億米ドルのブリッジ・ローンもデフォルトとなった。クレディ・スイスは、ファンドに出資していた多くの投資家を窮地に追い込んだことで、訴訟を起こされる可能性もあるという。

 他にも、英国では、国民健康保険がグリーンシルに頼らず、薬局に直接請求払いをしなければならなくなり、パンデミックの影響で財政がさらに逼迫した。また、グリーンシル銀行に資金を預けていたドイツの地方自治体は、資金を失うリスクにもさらされている。

 ドイツでは、グリーンシル子会社の独グリーンシル銀行の破産手続きを3月16日に開始。同行の資産は2020年12月末で45億ユーロ(約5800億円)。グリーンシル銀行の預金者に対しては、BaFinが3月16日、預金保険基金制度の下で、預金補償の実行を決定。しかし預金保険基金の資産減少を補填するため、ドイツ大手のドイツ銀行とコメルツ銀行に対し資金拠出が求められる流れになるとも言われている。

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ソフトバンクグループとクレディ・スイスの関係の悪化

 クレディ・スイスは、グリーンシル・キャピタルの破綻を受け、ソフトバンクグループに対する訴訟を準備していると報じられている。理由は、ソフトバンググループが2019年に15億米ドルを出資したグリーンシルの倒産だけでなく、グリーンシルが、ソフトバンクグループが出資している他の企業にも融資しており、その融資分の返済も怪しくなってきたことにある。具体的には、米建設テックのカテラの4.4億米ドル、サンジーブ・グプタ氏のリバティ・スチールの12億米ドル、Bluestone Resourcesの6.9億米ドルの合計23億米ドルの資金回収が困難。クレディ・スイスの損失額は最大で30億米ドルにもなる模様。カテラは最終的に6月6日に経営破綻した。

 さらにカテラを巡る資金の流れも火種となっている。カテラは2020年に経営難に陥った際、グリーンシルはカテラへの融資債権を放棄。その資金損失もあり、ソフトバンクグループは2020年11月にグリーンシルに4.4億米ドル出資したとみられている。グリーンシルに融資していたクレディ・スイスのファンドは、ソフトバンクグループのグリーンシルへの出資分で資金償還をするつもりだったが、グリーンシルは独子会社グリーンシル銀行に資金を移し、グリーンシル銀行の資金基盤強化に充てていたという。2021年1月の時点で、4.4億米ドルがクレディ・スイスに送られておらず、3月中旬には償還期限を迎えることへの懸念が広がっていた。

 そのため、クレディ・スイスは3月1日にグリーンシルの資金を凍結し、その数日後にグリーンシル社は債務超過に陥った。クレディ・スイスは、一連の動向を調査しており、ソフトバンクグループの責任を追及するに至った。ウォール・ストリート・ジャーナルの報道によると、クレディ・スイスは、ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏個人との融資関係を解消し、ソフトバンクグループとの取引も縮小したという。

 この問題に対し、ソフトバンクグループは、出資先の企業同士を紹介し合うことはあるとは話しつつも、責任はないとの立場を貫いている。また、クレディ・スイスが裁判でソフトバンクグループから資金を回収したとしても、ソフトバンクグループ全体の財務に与える影響は軽微という。

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