大都会・東京。最新の国勢調査によると、東京都23区の昼間人口は1200万人で、流入人口320万人、流出人口42万人という大規模な人の移動が毎日のように発生している。その都心の公共交通機関の中核を担う東京メトロ(正式名称・東京地下鉄)が、6月に年限10年のサステナビリティボンドを100億円発行した。債券格付はR&IでAA、JCRでAAA。利率は年0.275%。主幹事証券会社は、みずほ証券、SMBC日興証券、大和証券の3社。
東京メトロの営業路線は、9路線で総営業キロは195km。1日755万人(2019年度実績)の人々の移動を、180駅、2,716両もの鉄道車両で支えている。2019年度の売上は、4,330億円。そのうち鉄道収入が3,800億円と大半を占めるが、他にも駅の商業施設や広告からの収入も500億円ほどあり、経常利益は750億円。従業員は約1万人いる。前身となった帝都高速度交通営団(営団地下鉄)が1941年に発足してから約80年。2004年には株式会社に改組し、現在の株主構成は、日本政府(財務大臣)53.42%、東京都46.58%だが、早期の株式上場を検討している。
交通網という社会インフラを担う東京メトロは、新型コロナウイルス・パンデミックの影響をもちろん受けている。資金市場でも、投資家のマインドが掴みにくくなっている中での、今回の100億円のサステナビリティボンドの起債。東京メトロの狙いは何だったのか。起債の状況はどうだったのか。東京メトロの財務部と経営管理部に話を伺った。
今回のサステナビリティボンド発行に至った経緯は?
小澤武士 財務部財務課長
また、市場の広がりも意識しました。当社も古くから社債を発行していますが、グリーンボンドやサステナビリティボンドの発行が増えてきた状況の中で、当社もその流れを更に拡大していくことに寄与できればと考えておりました。
発行の検討は、約1年前から始めていたのですが、いろいろ準備を進めてきて、無事にこのタイミングでの発行に至りました。
増田英子 経営管理部サステナビリティ戦略担当課長
サステナビリティボンドの発行では、発行後のレポーティングなどで、定量的にインパクトを示すことが求められています。サステナビリティボンドの発行を通じて、当社の社会性の高さを定量的に示し、また社会全体に示すことで社内でもそれをしっかりと推進していけるのではないか。そういった狙いも、サステナビリティボンド発行には込められていました。 増田氏 いろいろな声も聞きながら見えてきたことは、やはり安全性の高さや、災害やテロにも強い交通機関であることが重要だということでした。これらは、いままでも当社として最重要視していましたので、あらためて重要性を確認できたというものでした。一方で、環境面では、今以上に意識を高めていかなければいけないという課題も見えてきました。 増田氏 資金使途の決定では、私たちの部署及び財務部で、社会と環境の両面から効果のある資金使途を検討・確認をした上で、社長が最終決定するというプロセスで進めていきました。 今回のサステナビリティボンドの資金使途は、全部で3つあります。 さらに、万が一の脱線時に列車を自動停止させる脱線検知装置も搭載しましたが、搭載は丸ノ内線2000系が当社初です。また車椅子やベビーカーなどのご利用に対応するフリースペースを全車両に設置しています。地下鉄の場合、基本的に暗い地下トンネルの中ですので、非常時でも乗客の方を不安にさせず、安全に誘導できるように特に気を配っております。これらはICMAのソーシャルボンド原則(SBP)の「基本的インフラ設備」に該当します。 丸ノ内線2000系車両は、一部は2019年2月から運行していますが、2023年度までに全52編成を導入する予定ですので、その費用の一部が今回の資金使途の対象となります。 資金使途全体としては、リファイナンスが50%、新規が50%です。特に新型車両については、これから導入のものが多くありますので、新規の割合が高くなっています。 小澤氏 実は他にも候補はたくさんありました。サステナビリティボンドの発行には、当社の社会性を知っていただくという狙いがありましたので、最終的には社外の方から見てわかりやすいものを選んだというところはあります。 また、当社において重要度の高い「安全性」を高めるためには、ホームドアなどは非常に関連性が高いと思っています。 小澤氏 サステナビリティボンドに対して、当社の経営陣の間では、積極的に発行していこうという考えが強くあり、その上で準備を続けてきました。ですが、4月にいざ発行というタイミングとなり、コロナ影響が非常に強い状況でしたので、今発行すべきなのか、という意見もありました。しかしそれでも、サステナビリティボンドは、当社が中長期的に目指すもののために発行するのであり、そこはぶれずにやっていこうという結論となりました。 発行条件では、年限を最終的に10年としました。鉄道会社では、非常に期間の長い設備投資案件もあり、例えばトンネルは減価償却期間が60年間に設定されています。ですが今回の選定した資金使途のプロジェクトは、比較的短期間に導入できるものが多いことから、10年としました。 小澤氏 非常によいものになったと考えています。まず、債券発行におけるサステナビリティボンドの目的として、投資家層を拡大したいとの考えがありましたが、実際に今回の発行では30の機関投資家から投資表明をいただくことができました。同じ時期の他社の発行と比べても、非常に多くの投資表明をいただけたと思っております。 またそのうち7機関については初の投資表明と聞いており、円債で初めて投資表明をされた海外機関投資家も含まれていましたので、コロナの状況で当社がサステナビリティボンドを発行したことが、日本のサステナビリティボンド市場そのものの拡大にも寄与できたと感じています。 別の観点では、SDGsやESGに関連するサステナビリティ経営に関する状況や考え方について、投資家に直接説明できる機会を得ることができたというメリットもありました。 小澤氏 確かに、セカンドパーティー・オピニオンの取得などの追加コストはありましたが、サステナビリティボンドの発行は、当社の事業を知っていただくという広報の意味合いがありましたので、その面では追加コストは十分にペイするものだと判断していました。 また今回の発行で投資家が当社に関心を持っていただき、将来の発行で利率などを好条件に進められる可能性があるのであれば、むしろコスト面でも利点があると捉えていました。 ですので、追加コストは、サステナビリティボンド発行の障壁には全くなりませんでした。 小澤氏 当社は、東京を基盤に事業を展開しています。ですので、東京が盛り上がっていくことが、当社の成長にも直結してきますし、「東京メトロプラン2021」の中でも、「東京の魅力・活力の共創」を打ち出しています。当社のサステナブルな成長のためにも、やはり東京という地域そのものを盛り上げていける存在になっていきたいと思っています。 増田氏 今回の発行を通じて、社内の組織を活性化することができたという効果もありました。SDGsはどうしても従業員一人ひとりの視点からすると、少し遠いもののようにみてしまうようです。ですが、今回、車両の性能や太陽光発電など社員自身が手掛けているプロジェクトと紐付けて理解することで、自分たちの仕事がSDGsとつながっているという感覚を持つことができたという声も得られました。 私達自身も、今回の発行によって、これまでは少し関係性が薄かった部門とも直接じっくり話をするという機会を持つことができました。今後、当社のサステナビリティ経営のレベルをより一層高めていく上でも、社内のコミュニケーションを活発化できたという効果をみても、発行をしてよかったと感じています。議論の過程で見えてきた東京メトロの社会性のポイントは?
今回のサステナビリティボンドの資金使途は?
今回これらを資金使途として選んだポイントは?
コロナ禍での発行となりました。不安はありませんでしたか?
実際に発行して、結果はどうしたか?
サステナビリティボンド発行での追加コストはどう捉えましたか?
東京メトロの今後の展望は?
(左) 山川祐典 財務部財務課課長補佐
(中左)小澤武士 財務部財務課長
(中右)増田英子 経営管理部サステナビリティ戦略担当課長
(右) 志田裕介 経営管理部サステナビリティ戦略担当課長補佐
大都会・東京。最新の国勢調査によると、東京都23区の昼間人口は1200万人で、流入人口320万人、流出人口42万人という大規模な人の移動が毎日のように発生している。その都心の公共交通機関の中核を担う東京メトロ(正式名称・東京地下鉄)が、6月に年限10年のサステナビリティボンドを100億円発行した。債券格付はR&IでAA、JCRでAAA。利率は年0.275%。主幹事証券会社は、みずほ証券、SMBC日興証券、大和証券の3社。
東京メトロの営業路線は、9路線で総営業キロは195km。1日755万人(2019年度実績)の人々の移動を、180駅、2,716両もの鉄道車両で支えている。2019年度の売上は、4,330億円。そのうち鉄道収入が3,800億円と大半を占めるが、他にも駅の商業施設や広告からの収入も500億円ほどあり、経常利益は750億円。従業員は約1万人いる。前身となった帝都高速度交通営団(営団地下鉄)が1941年に発足してから約80年。2004年には株式会社に改組し、現在の株主構成は、日本政府(財務大臣)53.42%、東京都46.58%だが、早期の株式上場を検討している。
交通網という社会インフラを担う東京メトロは、新型コロナウイルス・パンデミックの影響をもちろん受けている。資金市場でも、投資家のマインドが掴みにくくなっている中での、今回の100億円のサステナビリティボンドの起債。東京メトロの狙いは何だったのか。起債の状況はどうだったのか。東京メトロの財務部と経営管理部に話を伺った。
今回のサステナビリティボンド発行に至った経緯は?
小澤武士 財務部財務課長
また、市場の広がりも意識しました。当社も古くから社債を発行していますが、グリーンボンドやサステナビリティボンドの発行が増えてきた状況の中で、当社もその流れを更に拡大していくことに寄与できればと考えておりました。
発行の検討は、約1年前から始めていたのですが、いろいろ準備を進めてきて、無事にこのタイミングでの発行に至りました。
増田英子 経営管理部サステナビリティ戦略担当課長
サステナビリティボンドの発行では、発行後のレポーティングなどで、定量的にインパクトを示すことが求められています。サステナビリティボンドの発行を通じて、当社の社会性の高さを定量的に示し、また社会全体に示すことで社内でもそれをしっかりと推進していけるのではないか。そういった狙いも、サステナビリティボンド発行には込められていました。 増田氏 いろいろな声も聞きながら見えてきたことは、やはり安全性の高さや、災害やテロにも強い交通機関であることが重要だということでした。これらは、いままでも当社として最重要視していましたので、あらためて重要性を確認できたというものでした。一方で、環境面では、今以上に意識を高めていかなければいけないという課題も見えてきました。 増田氏 資金使途の決定では、私たちの部署及び財務部で、社会と環境の両面から効果のある資金使途を検討・確認をした上で、社長が最終決定するというプロセスで進めていきました。 今回のサステナビリティボンドの資金使途は、全部で3つあります。 さらに、万が一の脱線時に列車を自動停止させる脱線検知装置も搭載しましたが、搭載は丸ノ内線2000系が当社初です。また車椅子やベビーカーなどのご利用に対応するフリースペースを全車両に設置しています。地下鉄の場合、基本的に暗い地下トンネルの中ですので、非常時でも乗客の方を不安にさせず、安全に誘導できるように特に気を配っております。これらはICMAのソーシャルボンド原則(SBP)の「基本的インフラ設備」に該当します。 丸ノ内線2000系車両は、一部は2019年2月から運行していますが、2023年度までに全52編成を導入する予定ですので、その費用の一部が今回の資金使途の対象となります。 資金使途全体としては、リファイナンスが50%、新規が50%です。特に新型車両については、これから導入のものが多くありますので、新規の割合が高くなっています。 小澤氏 実は他にも候補はたくさんありました。サステナビリティボンドの発行には、当社の社会性を知っていただくという狙いがありましたので、最終的には社外の方から見てわかりやすいものを選んだというところはあります。 また、当社において重要度の高い「安全性」を高めるためには、ホームドアなどは非常に関連性が高いと思っています。 小澤氏 サステナビリティボンドに対して、当社の経営陣の間では、積極的に発行していこうという考えが強くあり、その上で準備を続けてきました。ですが、4月にいざ発行というタイミングとなり、コロナ影響が非常に強い状況でしたので、今発行すべきなのか、という意見もありました。しかしそれでも、サステナビリティボンドは、当社が中長期的に目指すもののために発行するのであり、そこはぶれずにやっていこうという結論となりました。 発行条件では、年限を最終的に10年としました。鉄道会社では、非常に期間の長い設備投資案件もあり、例えばトンネルは減価償却期間が60年間に設定されています。ですが今回の選定した資金使途のプロジェクトは、比較的短期間に導入できるものが多いことから、10年としました。 小澤氏 非常によいものになったと考えています。まず、債券発行におけるサステナビリティボンドの目的として、投資家層を拡大したいとの考えがありましたが、実際に今回の発行では30の機関投資家から投資表明をいただくことができました。同じ時期の他社の発行と比べても、非常に多くの投資表明をいただけたと思っております。 またそのうち7機関については初の投資表明と聞いており、円債で初めて投資表明をされた海外機関投資家も含まれていましたので、コロナの状況で当社がサステナビリティボンドを発行したことが、日本のサステナビリティボンド市場そのものの拡大にも寄与できたと感じています。 別の観点では、SDGsやESGに関連するサステナビリティ経営に関する状況や考え方について、投資家に直接説明できる機会を得ることができたというメリットもありました。 小澤氏 確かに、セカンドパーティー・オピニオンの取得などの追加コストはありましたが、サステナビリティボンドの発行は、当社の事業を知っていただくという広報の意味合いがありましたので、その面では追加コストは十分にペイするものだと判断していました。 また今回の発行で投資家が当社に関心を持っていただき、将来の発行で利率などを好条件に進められる可能性があるのであれば、むしろコスト面でも利点があると捉えていました。 ですので、追加コストは、サステナビリティボンド発行の障壁には全くなりませんでした。 小澤氏 当社は、東京を基盤に事業を展開しています。ですので、東京が盛り上がっていくことが、当社の成長にも直結してきますし、「東京メトロプラン2021」の中でも、「東京の魅力・活力の共創」を打ち出しています。当社のサステナブルな成長のためにも、やはり東京という地域そのものを盛り上げていける存在になっていきたいと思っています。 増田氏 今回の発行を通じて、社内の組織を活性化することができたという効果もありました。SDGsはどうしても従業員一人ひとりの視点からすると、少し遠いもののようにみてしまうようです。ですが、今回、車両の性能や太陽光発電など社員自身が手掛けているプロジェクトと紐付けて理解することで、自分たちの仕事がSDGsとつながっているという感覚を持つことができたという声も得られました。 私達自身も、今回の発行によって、これまでは少し関係性が薄かった部門とも直接じっくり話をするという機会を持つことができました。今後、当社のサステナビリティ経営のレベルをより一層高めていく上でも、社内のコミュニケーションを活発化できたという効果をみても、発行をしてよかったと感じています。議論の過程で見えてきた東京メトロの社会性のポイントは?
今回のサステナビリティボンドの資金使途は?
今回これらを資金使途として選んだポイントは?
コロナ禍での発行となりました。不安はありませんでしたか?
実際に発行して、結果はどうしたか?
サステナビリティボンド発行での追加コストはどう捉えましたか?
東京メトロの今後の展望は?
(左) 山川祐典 財務部財務課課長補佐
(中左)小澤武士 財務部財務課長
(中右)増田英子 経営管理部サステナビリティ戦略担当課長
(右) 志田裕介 経営管理部サステナビリティ戦略担当課長補佐
大都会・東京。最新の国勢調査によると、東京都23区の昼間人口は1200万人で、流入人口320万人、流出人口42万人という大規模な人の移動が毎日のように発生している。その都心の公共交通機関の中核を担う東京メトロ(正式名称・東京地下鉄)が、6月に年限10年のサステナビリティボンドを100億円発行した。債券格付はR&IでAA、JCRでAAA。利率は年0.275%。主幹事証券会社は、みずほ証券、SMBC日興証券、大和証券の3社。
東京メトロの営業路線は、9路線で総営業キロは195km。1日755万人(2019年度実績)の人々の移動を、180駅、2,716両もの鉄道車両で支えている。2019年度の売上は、4,330億円。そのうち鉄道収入が3,800億円と大半を占めるが、他にも駅の商業施設や広告からの収入も500億円ほどあり、経常利益は750億円。従業員は約1万人いる。前身となった帝都高速度交通営団(営団地下鉄)が1941年に発足してから約80年。2004年には株式会社に改組し、現在の株主構成は、日本政府(財務大臣)53.42%、東京都46.58%だが、早期の株式上場を検討している。
交通網という社会インフラを担う東京メトロは、新型コロナウイルス・パンデミックの影響をもちろん受けている。資金市場でも、投資家のマインドが掴みにくくなっている中での、今回の100億円のサステナビリティボンドの起債。東京メトロの狙いは何だったのか。起債の状況はどうだったのか。東京メトロの財務部と経営管理部に話を伺った。
今回のサステナビリティボンド発行に至った経緯は?
小澤武士 財務部財務課長
また、市場の広がりも意識しました。当社も古くから社債を発行していますが、グリーンボンドやサステナビリティボンドの発行が増えてきた状況の中で、当社もその流れを更に拡大していくことに寄与できればと考えておりました。
発行の検討は、約1年前から始めていたのですが、いろいろ準備を進めてきて、無事にこのタイミングでの発行に至りました。
増田英子 経営管理部サステナビリティ戦略担当課長
サステナビリティボンドの発行では、発行後のレポーティングなどで、定量的にインパクトを示すことが求められています。サステナビリティボンドの発行を通じて、当社の社会性の高さを定量的に示し、また社会全体に示すことで社内でもそれをしっかりと推進していけるのではないか。そういった狙いも、サステナビリティボンド発行には込められていました。 増田氏 いろいろな声も聞きながら見えてきたことは、やはり安全性の高さや、災害やテロにも強い交通機関であることが重要だということでした。これらは、いままでも当社として最重要視していましたので、あらためて重要性を確認できたというものでした。一方で、環境面では、今以上に意識を高めていかなければいけないという課題も見えてきました。 増田氏 資金使途の決定では、私たちの部署及び財務部で、社会と環境の両面から効果のある資金使途を検討・確認をした上で、社長が最終決定するというプロセスで進めていきました。 今回のサステナビリティボンドの資金使途は、全部で3つあります。 さらに、万が一の脱線時に列車を自動停止させる脱線検知装置も搭載しましたが、搭載は丸ノ内線2000系が当社初です。また車椅子やベビーカーなどのご利用に対応するフリースペースを全車両に設置しています。地下鉄の場合、基本的に暗い地下トンネルの中ですので、非常時でも乗客の方を不安にさせず、安全に誘導できるように特に気を配っております。これらはICMAのソーシャルボンド原則(SBP)の「基本的インフラ設備」に該当します。 丸ノ内線2000系車両は、一部は2019年2月から運行していますが、2023年度までに全52編成を導入する予定ですので、その費用の一部が今回の資金使途の対象となります。 資金使途全体としては、リファイナンスが50%、新規が50%です。特に新型車両については、これから導入のものが多くありますので、新規の割合が高くなっています。 小澤氏 実は他にも候補はたくさんありました。サステナビリティボンドの発行には、当社の社会性を知っていただくという狙いがありましたので、最終的には社外の方から見てわかりやすいものを選んだというところはあります。 また、当社において重要度の高い「安全性」を高めるためには、ホームドアなどは非常に関連性が高いと思っています。 小澤氏 サステナビリティボンドに対して、当社の経営陣の間では、積極的に発行していこうという考えが強くあり、その上で準備を続けてきました。ですが、4月にいざ発行というタイミングとなり、コロナ影響が非常に強い状況でしたので、今発行すべきなのか、という意見もありました。しかしそれでも、サステナビリティボンドは、当社が中長期的に目指すもののために発行するのであり、そこはぶれずにやっていこうという結論となりました。 発行条件では、年限を最終的に10年としました。鉄道会社では、非常に期間の長い設備投資案件もあり、例えばトンネルは減価償却期間が60年間に設定されています。ですが今回の選定した資金使途のプロジェクトは、比較的短期間に導入できるものが多いことから、10年としました。 小澤氏 非常によいものになったと考えています。まず、債券発行におけるサステナビリティボンドの目的として、投資家層を拡大したいとの考えがありましたが、実際に今回の発行では30の機関投資家から投資表明をいただくことができました。同じ時期の他社の発行と比べても、非常に多くの投資表明をいただけたと思っております。 またそのうち7機関については初の投資表明と聞いており、円債で初めて投資表明をされた海外機関投資家も含まれていましたので、コロナの状況で当社がサステナビリティボンドを発行したことが、日本のサステナビリティボンド市場そのものの拡大にも寄与できたと感じています。 別の観点では、SDGsやESGに関連するサステナビリティ経営に関する状況や考え方について、投資家に直接説明できる機会を得ることができたというメリットもありました。 小澤氏 確かに、セカンドパーティー・オピニオンの取得などの追加コストはありましたが、サステナビリティボンドの発行は、当社の事業を知っていただくという広報の意味合いがありましたので、その面では追加コストは十分にペイするものだと判断していました。 また今回の発行で投資家が当社に関心を持っていただき、将来の発行で利率などを好条件に進められる可能性があるのであれば、むしろコスト面でも利点があると捉えていました。 ですので、追加コストは、サステナビリティボンド発行の障壁には全くなりませんでした。 小澤氏 当社は、東京を基盤に事業を展開しています。ですので、東京が盛り上がっていくことが、当社の成長にも直結してきますし、「東京メトロプラン2021」の中でも、「東京の魅力・活力の共創」を打ち出しています。当社のサステナブルな成長のためにも、やはり東京という地域そのものを盛り上げていける存在になっていきたいと思っています。 増田氏 今回の発行を通じて、社内の組織を活性化することができたという効果もありました。SDGsはどうしても従業員一人ひとりの視点からすると、少し遠いもののようにみてしまうようです。ですが、今回、車両の性能や太陽光発電など社員自身が手掛けているプロジェクトと紐付けて理解することで、自分たちの仕事がSDGsとつながっているという感覚を持つことができたという声も得られました。 私達自身も、今回の発行によって、これまでは少し関係性が薄かった部門とも直接じっくり話をするという機会を持つことができました。今後、当社のサステナビリティ経営のレベルをより一層高めていく上でも、社内のコミュニケーションを活発化できたという効果をみても、発行をしてよかったと感じています。 ここから先は有料登録会員限定のコンテンツとなります。有料登録会員へのアップグレードを行って下さい。議論の過程で見えてきた東京メトロの社会性のポイントは?
今回のサステナビリティボンドの資金使途は?
今回これらを資金使途として選んだポイントは?
コロナ禍での発行となりました。不安はありませんでしたか?
実際に発行して、結果はどうしたか?
サステナビリティボンド発行での追加コストはどう捉えましたか?
東京メトロの今後の展望は?
(左) 山川祐典 財務部財務課課長補佐
(中左)小澤武士 財務部財務課長
(中右)増田英子 経営管理部サステナビリティ戦略担当課長
(右) 志田裕介 経営管理部サステナビリティ戦略担当課長補佐
大都会・東京。最新の国勢調査によると、東京都23区の昼間人口は1200万人で、流入人口320万人、流出人口42万人という大規模な人の移動が毎日のように発生している。その都心の公共交通機関の中核を担う東京メトロ(正式名称・東京地下鉄)が、6月に年限10年のサステナビリティボンドを100億円発行した。債券格付はR&IでAA、JCRでAAA。利率は年0.275%。主幹事証券会社は、みずほ証券、SMBC日興証券、大和証券の3社。
東京メトロの営業路線は、9路線で総営業キロは195km。1日755万人(2019年度実績)の人々の移動を、180駅、2,716両もの鉄道車両で支えている。2019年度の売上は、4,330億円。そのうち鉄道収入が3,800億円と大半を占めるが、他にも駅の商業施設や広告からの収入も500億円ほどあり、経常利益は750億円。従業員は約1万人いる。前身となった帝都高速度交通営団(営団地下鉄)が1941年に発足してから約80年。2004年には株式会社に改組し、現在の株主構成は、日本政府(財務大臣)53.42%、東京都46.58%だが、早期の株式上場を検討している。
交通網という社会インフラを担う東京メトロは、新型コロナウイルス・パンデミックの影響をもちろん受けている。資金市場でも、投資家のマインドが掴みにくくなっている中での、今回の100億円のサステナビリティボンドの起債。東京メトロの狙いは何だったのか。起債の状況はどうだったのか。東京メトロの財務部と経営管理部に話を伺った。
今回のサステナビリティボンド発行に至った経緯は?
小澤武士 財務部財務課長
また、市場の広がりも意識しました。当社も古くから社債を発行していますが、グリーンボンドやサステナビリティボンドの発行が増えてきた状況の中で、当社もその流れを更に拡大していくことに寄与できればと考えておりました。
発行の検討は、約1年前から始めていたのですが、いろいろ準備を進めてきて、無事にこのタイミングでの発行に至りました。
増田英子 経営管理部サステナビリティ戦略担当課長
サステナビリティボンドの発行では、発行後のレポーティングなどで、定量的にインパクトを示すことが求められています。サステナビリティボンドの発行を通じて、当社の社会性の高さを定量的に示し、また社会全体に示すことで社内でもそれをしっかりと推進していけるのではないか。そういった狙いも、サステナビリティボンド発行には込められていました。 増田氏 いろいろな声も聞きながら見えてきたことは、やはり安全性の高さや、災害やテロにも強い交通機関であることが重要だということでした。これらは、いままでも当社として最重要視していましたので、あらためて重要性を確認できたというものでした。一方で、環境面では、今以上に意識を高めていかなければいけないという課題も見えてきました。 増田氏 資金使途の決定では、私たちの部署及び財務部で、社会と環境の両面から効果のある資金使途を検討・確認をした上で、社長が最終決定するというプロセスで進めていきました。 今回のサステナビリティボンドの資金使途は、全部で3つあります。 さらに、万が一の脱線時に列車を自動停止させる脱線検知装置も搭載しましたが、搭載は丸ノ内線2000系が当社初です。また車椅子やベビーカーなどのご利用に対応するフリースペースを全車両に設置しています。地下鉄の場合、基本的に暗い地下トンネルの中ですので、非常時でも乗客の方を不安にさせず、安全に誘導できるように特に気を配っております。これらはICMAのソーシャルボンド原則(SBP)の「基本的インフラ設備」に該当します。 丸ノ内線2000系車両は、一部は2019年2月から運行していますが、2023年度までに全52編成を導入する予定ですので、その費用の一部が今回の資金使途の対象となります。 資金使途全体としては、リファイナンスが50%、新規が50%です。特に新型車両については、これから導入のものが多くありますので、新規の割合が高くなっています。 小澤氏 実は他にも候補はたくさんありました。サステナビリティボンドの発行には、当社の社会性を知っていただくという狙いがありましたので、最終的には社外の方から見てわかりやすいものを選んだというところはあります。 また、当社において重要度の高い「安全性」を高めるためには、ホームドアなどは非常に関連性が高いと思っています。 小澤氏 サステナビリティボンドに対して、当社の経営陣の間では、積極的に発行していこうという考えが強くあり、その上で準備を続けてきました。ですが、4月にいざ発行というタイミングとなり、コロナ影響が非常に強い状況でしたので、今発行すべきなのか、という意見もありました。しかしそれでも、サステナビリティボンドは、当社が中長期的に目指すもののために発行するのであり、そこはぶれずにやっていこうという結論となりました。 発行条件では、年限を最終的に10年としました。鉄道会社では、非常に期間の長い設備投資案件もあり、例えばトンネルは減価償却期間が60年間に設定されています。ですが今回の選定した資金使途のプロジェクトは、比較的短期間に導入できるものが多いことから、10年としました。 小澤氏 非常によいものになったと考えています。まず、債券発行におけるサステナビリティボンドの目的として、投資家層を拡大したいとの考えがありましたが、実際に今回の発行では30の機関投資家から投資表明をいただくことができました。同じ時期の他社の発行と比べても、非常に多くの投資表明をいただけたと思っております。 またそのうち7機関については初の投資表明と聞いており、円債で初めて投資表明をされた海外機関投資家も含まれていましたので、コロナの状況で当社がサステナビリティボンドを発行したことが、日本のサステナビリティボンド市場そのものの拡大にも寄与できたと感じています。 別の観点では、SDGsやESGに関連するサステナビリティ経営に関する状況や考え方について、投資家に直接説明できる機会を得ることができたというメリットもありました。 小澤氏 確かに、セカンドパーティー・オピニオンの取得などの追加コストはありましたが、サステナビリティボンドの発行は、当社の事業を知っていただくという広報の意味合いがありましたので、その面では追加コストは十分にペイするものだと判断していました。 また今回の発行で投資家が当社に関心を持っていただき、将来の発行で利率などを好条件に進められる可能性があるのであれば、むしろコスト面でも利点があると捉えていました。 ですので、追加コストは、サステナビリティボンド発行の障壁には全くなりませんでした。 小澤氏 当社は、東京を基盤に事業を展開しています。ですので、東京が盛り上がっていくことが、当社の成長にも直結してきますし、「東京メトロプラン2021」の中でも、「東京の魅力・活力の共創」を打ち出しています。当社のサステナブルな成長のためにも、やはり東京という地域そのものを盛り上げていける存在になっていきたいと思っています。 増田氏 今回の発行を通じて、社内の組織を活性化することができたという効果もありました。SDGsはどうしても従業員一人ひとりの視点からすると、少し遠いもののようにみてしまうようです。ですが、今回、車両の性能や太陽光発電など社員自身が手掛けているプロジェクトと紐付けて理解することで、自分たちの仕事がSDGsとつながっているという感覚を持つことができたという声も得られました。 私達自身も、今回の発行によって、これまでは少し関係性が薄かった部門とも直接じっくり話をするという機会を持つことができました。今後、当社のサステナビリティ経営のレベルをより一層高めていく上でも、社内のコミュニケーションを活発化できたという効果をみても、発行をしてよかったと感じています。議論の過程で見えてきた東京メトロの社会性のポイントは?
今回のサステナビリティボンドの資金使途は?
今回これらを資金使途として選んだポイントは?
コロナ禍での発行となりました。不安はありませんでしたか?
実際に発行して、結果はどうしたか?
サステナビリティボンド発行での追加コストはどう捉えましたか?
東京メトロの今後の展望は?
(左) 山川祐典 財務部財務課課長補佐
(中左)小澤武士 財務部財務課長
(中右)増田英子 経営管理部サステナビリティ戦略担当課長
(右) 志田裕介 経営管理部サステナビリティ戦略担当課長補佐