Sustainable Japan | 世界のサステナビリティ・ESG投資・SDGs

【戦略】デロイト、PwC、Qualtrics、エデルマンの調査から見る日本企業のサステナビリティ構造課題

 デロイト、Qualtrics、エデルマン、PwCは各々1月19日から1月21日の間に、年次の調査結果を発表した。それぞれは個別に実施されている調査だが、全体を俯瞰していくと、時代の変化と日本企業が抱える構造的な課題が見えてくる。今回は、それぞれの調査結果に触れながら、課題解決の方向性を見ていこう。

経営者が社会課題に注目する理由

 昨今日本でも、国連持続可能な開発目標(SDGs)を意識した経営を打ち出す企業が増えてきた。こうした企業はアクションを発表する度に「SDGsのゴールに貢献する」という表現をすることも増えてきている。またESG投資の潮流を理由に社会・環境課題を考慮すると謳う企業も同じく増加している。

 これについて、デロイトは1月21日、CXOクラスの経営者に「第四次産業革命」に関して実施する意識調査の結果を発表した。同調査は今年で3回目となり、今年は「パーパスと利益」という最近のトレンドに乗っかり、経営者が社会課題に取り組む理由について聞いている。


(出所)デロイト

 結果はグローバルと日本で非常に対照的なものとなった。世界19ヵ国の平均では、「収益(Revenue)の創出」との回答が最も多く42%。ステークホルダーの対話を通じて自社の機会とリスクを発見していくというサステナビリティ経営手法と呼応するように「外部ステークホルダーの優先事項」との回答が39%、「従業員との関係強化、新規採用」とした企業も22%と多かった。企業の評判(Reputation)も18%あった。

 一方で日本では、「収益の創出」が最も低くわずか1%しかなく、社会課題から事業機会を創出していこう動きはほとんどなかった。その反面、「外部ステークホルダーの優先事項」が36%、「従業員との関係強化、新規採用」が33%と高く、日本の担当者が「ESG投資家が関心を高めている」「採用に効果がある」と経営陣に説明し、事業そのものを強くするためと説明してこなかった様子が伺える。日本では、「取り組みをしていない」が35%で上から2番目、「その他」も23%と多かった。

第四次産業革命への備え

 また、日本では経団連や政府が「Society 5.0」というコンセプトを掲げ、IoT、AI、ロボット、分散型台帳技術等によるデジタル革新で社会課題と価値創造を実現していくことを標榜している。このSociety 5.0は、第四次産業革命のコンセプトに近似しており、今回のデロイトの調査は、日本の産業政策と日本企業の経営陣の認識をチェックする最良のものとなっている。


(出所)デロイト

 その結果、第四次産業革命における人材投資の優先事項について、グローバル全体では、「必要となるスキルの理解」が59%、「社員の研修との能力開発」が4%となっており、必要スキルを見定めて社員のスキル開発で対応していく姿勢が見て取れる。一方、日本では、「社員の研修との能力開発」が78%、「適切な人材の獲得と定着」が76%と非常に高く、社内のスキル開発と社外の人材獲得の双方を重視している一方、そもそもどのようなスキルが必要となるかが定まっていないと推察できる結果だった。また、「将来必要となるスキルが自社にはあるか」でも日本は1%と低く、スキルには不安を感じる一方、何を磨くかが定まらないまま人事が躍起になっているようにも思える。

 今年23回目を迎えるPwCの「世界CEO意識調査」からも同様に人材面での課題が浮かび上がってくる。


(出所)PwC

 自社のスキルアップ・プログラムの進捗状況では、「将来の成長戦略を推進するために必要な技能の定義」では日本は1%と非常に低かった。それに対し中国は41%と比較的楽観的な回答を示している。その他の項目でも、ダイバーシティ戦略、従業員との対話、従業員のテクノロジー知識の向上等でも、日本は非常に低い回答となっており、ほとんど経団連や国が掲げるコンセプトへの備えが、米国や中国と比べてもできていないことが明るみとなった。

 第四次産業革命に対する政府規制の将来像についても、日本企業は規制がなく自由にインターネットや、プラットフォーマー・ビジネス、個人情報利用が進められるという楽観的な考え方を披露したが、世界では政府の規制が強まるとの見方が強く、大きな差異が見て取れた。このままいくと、日本企業は将来の規制対応を見越した先手アクションに遅れが出る可能性がある。


(出所)PwC

世の中への関心

 SAPグループのQualtricsは、世界経済フォーラムの場で、「社会的団結力」と「サステナブルな社会」に関する2つのインターネット世論調査結果を発表した。


(出所)Qualtrics

 まず、「ニュースや最新時事をチェックしているか」で、非常に頻繁にチェックしている答えた割合は、日本が最も低くわずか20%という結果となった。変化の激しい時代に事業の機会とリスクを素早く掴むには、変化のキャッチアップが重要となるが、社会全体として日本はこの習慣が弱いことがわかった。


(出所)Qualtrics

 また、「科学者の環境についての見解を信じるか」では、「大いに信じる」とした割合が、日本は25%と、ロシアに次いで2番目に低く、科学者に非常に懐疑的なこともわかった。環境に懐疑的な発言で注目を集めたトランプ大統領を支持した米国でも、同割合は45%あり、日本は米国以上に環境懐疑派が多いことになる。

 プラスチック包装・容器に関する意識では、西欧、東欧・中央アジア、北米では「大好き」「好き」の割合が約20%と非常に少ない一方、東アジア・太平洋、南アジア、中東・北アフリカでは、「大好き」「好き」が約半数に達し、好まれていることがわかった。反対に「大嫌い」では、概ね20%と国別にそこまで大きな違いない中、東アジア・太平洋だけでは4%と非常に少なかった。日本・韓国・中国ではプラスチック禁止に共感する人が少ないことが伺える。

信頼されているのは誰か

 21世紀は「信頼の世紀」という言い方をする人もいる。エデルマンは「信頼バロメーター」に関するレポートを毎年出しており、今年で20回目を数える。


(出所)Edelman

 企業と政府の市民からの信頼度を、先進国/途上国、GDP成長率と所得不平等の3軸で国を4分類し比較したところ、いずれの分類の国でも企業の方が政府よりも信頼されているという結果となった。とりわけ、発展途上国では経済成長や所得格差是正に失敗すると政府の信頼度が著しく低くなることもわかった。


(出所)Edelman

 誰の意見が最も信頼できるかでは、企業専門家が最も高く68%。次いで、学術専門家、自分と同じ立場の人、一般従業員、CEOの順となった。反対に低い方からいくと、政府官僚、ジャーナリスト、NGO代表の順に低く、一般的に「公共」とみなされやすい人の意見の方が信用されていなかった。

【参照ページ】第四次産業革命における世界の経営者の意識調査(2020年版)
【参照ページ】Industry 4.0: At the intersection of readiness and responsibility
【参照ページ】PwC Japan、「第23回世界CEO意識調査」の日本調査結果を発表
【参照ページ】23rd Annual Global CEO Survey
【参照ページ】New research: Understanding world issues through the experiences of those who are living them

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 デロイト、Qualtrics、エデルマン、PwCは各々1月19日から1月21日の間に、年次の調査結果を発表した。それぞれは個別に実施されている調査だが、全体を俯瞰していくと、時代の変化と日本企業が抱える構造的な課題が見えてくる。今回は、それぞれの調査結果に触れながら、課題解決の方向性を見ていこう。

経営者が社会課題に注目する理由

 昨今日本でも、国連持続可能な開発目標(SDGs)を意識した経営を打ち出す企業が増えてきた。こうした企業はアクションを発表する度に「SDGsのゴールに貢献する」という表現をすることも増えてきている。またESG投資の潮流を理由に社会・環境課題を考慮すると謳う企業も同じく増加している。

 これについて、デロイトは1月21日、CXOクラスの経営者に「第四次産業革命」に関して実施する意識調査の結果を発表した。同調査は

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 デロイト、Qualtrics、エデルマン、PwCは各々1月19日から1月21日の間に、年次の調査結果を発表した。それぞれは個別に実施されている調査だが、全体を俯瞰していくと、時代の変化と日本企業が抱える構造的な課題が見えてくる。今回は、それぞれの調査結果に触れながら、課題解決の方向性を見ていこう。

経営者が社会課題に注目する理由

 昨今日本でも、国連持続可能な開発目標(SDGs)を意識した経営を打ち出す企業が増えてきた。こうした企業はアクションを発表する度に「SDGsのゴールに貢献する」という表現をすることも増えてきている。またESG投資の潮流を理由に社会・環境課題を考慮すると謳う企業も同じく増加している。

 これについて、デロイトは1月21日、CXOクラスの経営者に「第四次産業革命」に関して実施する意識調査の結果を発表した。同調査は

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 デロイト、Qualtrics、エデルマン、PwCは各々1月19日から1月21日の間に、年次の調査結果を発表した。それぞれは個別に実施されている調査だが、全体を俯瞰していくと、時代の変化と日本企業が抱える構造的な課題が見えてくる。今回は、それぞれの調査結果に触れながら、課題解決の方向性を見ていこう。

経営者が社会課題に注目する理由

 昨今日本でも、国連持続可能な開発目標(SDGs)を意識した経営を打ち出す企業が増えてきた。こうした企業はアクションを発表する度に「SDGsのゴールに貢献する」という表現をすることも増えてきている。またESG投資の潮流を理由に社会・環境課題を考慮すると謳う企業も同じく増加している。

 これについて、デロイトは1月21日、CXOクラスの経営者に「第四次産業革命」に関して実施する意識調査の結果を発表した。同調査は今年で3回目となり、今年は「パーパスと利益」という最近のトレンドに乗っかり、経営者が社会課題に取り組む理由について聞いている。


(出所)デロイト

 結果はグローバルと日本で非常に対照的なものとなった。世界19ヵ国の平均では、「収益(Revenue)の創出」との回答が最も多く42%。ステークホルダーの対話を通じて自社の機会とリスクを発見していくというサステナビリティ経営手法と呼応するように「外部ステークホルダーの優先事項」との回答が39%、「従業員との関係強化、新規採用」とした企業も22%と多かった。企業の評判(Reputation)も18%あった。

 一方で日本では、「収益の創出」が最も低くわずか1%しかなく、社会課題から事業機会を創出していこう動きはほとんどなかった。その反面、「外部ステークホルダーの優先事項」が36%、「従業員との関係強化、新規採用」が33%と高く、日本の担当者が「ESG投資家が関心を高めている」「採用に効果がある」と経営陣に説明し、事業そのものを強くするためと説明してこなかった様子が伺える。日本では、「取り組みをしていない」が35%で上から2番目、「その他」も23%と多かった。

第四次産業革命への備え

 また、日本では経団連や政府が「Society 5.0」というコンセプトを掲げ、IoT、AI、ロボット、分散型台帳技術等によるデジタル革新で社会課題と価値創造を実現していくことを標榜している。このSociety 5.0は、第四次産業革命のコンセプトに近似しており、今回のデロイトの調査は、日本の産業政策と日本企業の経営陣の認識をチェックする最良のものとなっている。


(出所)デロイト

 その結果、第四次産業革命における人材投資の優先事項について、グローバル全体では、「必要となるスキルの理解」が59%、「社員の研修との能力開発」が4%となっており、必要スキルを見定めて社員のスキル開発で対応していく姿勢が見て取れる。一方、日本では、「社員の研修との能力開発」が78%、「適切な人材の獲得と定着」が76%と非常に高く、社内のスキル開発と社外の人材獲得の双方を重視している一方、そもそもどのようなスキルが必要となるかが定まっていないと推察できる結果だった。また、「将来必要となるスキルが自社にはあるか」でも日本は1%と低く、スキルには不安を感じる一方、何を磨くかが定まらないまま人事が躍起になっているようにも思える。

 今年23回目を迎えるPwCの「世界CEO意識調査」からも同様に人材面での課題が浮かび上がってくる。


(出所)PwC

 自社のスキルアップ・プログラムの進捗状況では、「将来の成長戦略を推進するために必要な技能の定義」では日本は1%と非常に低かった。それに対し中国は41%と比較的楽観的な回答を示している。その他の項目でも、ダイバーシティ戦略、従業員との対話、従業員のテクノロジー知識の向上等でも、日本は非常に低い回答となっており、ほとんど経団連や国が掲げるコンセプトへの備えが、米国や中国と比べてもできていないことが明るみとなった。

 第四次産業革命に対する政府規制の将来像についても、日本企業は規制がなく自由にインターネットや、プラットフォーマー・ビジネス、個人情報利用が進められるという楽観的な考え方を披露したが、世界では政府の規制が強まるとの見方が強く、大きな差異が見て取れた。このままいくと、日本企業は将来の規制対応を見越した先手アクションに遅れが出る可能性がある。


(出所)PwC

世の中への関心

 SAPグループのQualtricsは、世界経済フォーラムの場で、「社会的団結力」と「サステナブルな社会」に関する2つのインターネット世論調査結果を発表した。


(出所)Qualtrics

 まず、「ニュースや最新時事をチェックしているか」で、非常に頻繁にチェックしている答えた割合は、日本が最も低くわずか20%という結果となった。変化の激しい時代に事業の機会とリスクを素早く掴むには、変化のキャッチアップが重要となるが、社会全体として日本はこの習慣が弱いことがわかった。


(出所)Qualtrics

 また、「科学者の環境についての見解を信じるか」では、「大いに信じる」とした割合が、日本は25%と、ロシアに次いで2番目に低く、科学者に非常に懐疑的なこともわかった。環境に懐疑的な発言で注目を集めたトランプ大統領を支持した米国でも、同割合は45%あり、日本は米国以上に環境懐疑派が多いことになる。

 プラスチック包装・容器に関する意識では、西欧、東欧・中央アジア、北米では「大好き」「好き」の割合が約20%と非常に少ない一方、東アジア・太平洋、南アジア、中東・北アフリカでは、「大好き」「好き」が約半数に達し、好まれていることがわかった。反対に「大嫌い」では、概ね20%と国別にそこまで大きな違いない中、東アジア・太平洋だけでは4%と非常に少なかった。日本・韓国・中国ではプラスチック禁止に共感する人が少ないことが伺える。

信頼されているのは誰か

 21世紀は「信頼の世紀」という言い方をする人もいる。エデルマンは「信頼バロメーター」に関するレポートを毎年出しており、今年で20回目を数える。


(出所)Edelman

 企業と政府の市民からの信頼度を、先進国/途上国、GDP成長率と所得不平等の3軸で国を4分類し比較したところ、いずれの分類の国でも企業の方が政府よりも信頼されているという結果となった。とりわけ、発展途上国では経済成長や所得格差是正に失敗すると政府の信頼度が著しく低くなることもわかった。


(出所)Edelman

 誰の意見が最も信頼できるかでは、企業専門家が最も高く68%。次いで、学術専門家、自分と同じ立場の人、一般従業員、CEOの順となった。反対に低い方からいくと、政府官僚、ジャーナリスト、NGO代表の順に低く、一般的に「公共」とみなされやすい人の意見の方が信用されていなかった。

【参照ページ】第四次産業革命における世界の経営者の意識調査(2020年版)
【参照ページ】Industry 4.0: At the intersection of readiness and responsibility
【参照ページ】PwC Japan、「第23回世界CEO意識調査」の日本調査結果を発表
【参照ページ】23rd Annual Global CEO Survey
【参照ページ】New research: Understanding world issues through the experiences of those who are living them

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