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【金融】AI活用のESG評価「S-Ray」が算出した企業ランキング。日本企業トップ・ワースト5の状況

 ESGクオンツ運用会社英アラベスク・アセット・マネジメントが2017年にリリースした「S-Ray」。機械学習(マシンラーニング)と呼ばれるAI(人工知能)を活用し、ウェブの世界に溢れる膨大なテキスト情報「ビッグデータ」を分析。世界大手7,000社のESGスコアを毎日更新している。現在モニタリングしている情報ソースは20言語、5万ウェブサイト。ニュースメディアからNGOが発信するまで企業に関する幅広い情報を常に監視している。「S-Ray」は現在、欧米の大手機関投資家や日本の大手公的年金基金にすでに採用されている。

【参考】【インタビュー】アラベスク・アセット・マネジメントの企業サステナビリティ分析ツール「S-Ray」。部門長が語る開発背景と将来展望(2017年9月19日)

 またS-Rayは、一つの企業について「GCスコア」と「ESGスコア」の2つのスコアを付けている。GCスコアは、普遍的な規範である国連グローバル・コンパクト(UNGC)を用い、業界を問わず統一の「人権」「労働慣行」「環境」「腐敗防止」の4観点で企業を評価。一方、ESGスコアは、企業財務に影響を与えるマテリアリティを業界ごとに設定しスコアを付けている。

 S-Rayが、他のESG評価機関と大きく異なる点は、毎日スコアが更新される点だ。一般的なESG評価機関は、企業のウェブサイトやアニュアルレポート等を担当者が閲覧し、内容を判断してスコア化しているため、年に1回または2回ほどしか更新できない。他方S-Rayは、膨大なテキスト情報をAIが自動的に判定し、スコアに反映するため、即応性が非常に高い。企業に対する不祥事報道やNGO等による批判発表、もしくは企業や新聞等が発表する新規事業や新たな取組を、スコアにすぐに反映させることができる。また、人手が不要な分、日本企業でもすでに567社がスコアリング対象となるなど、一般的なESG評価機関より対象企業数も多い。

 では中身はどうだろうか。「AIが自動判定する」と言うと結果も気になってくる。欧米の機関投資家も、S-Rayを採用し始めているが、まだS-RayのESGスコアやGCスコアのみを用いた運用手法やインデックスの存在については、私自身はまだ耳にしたことがない。しかしそれでも、企業の投資判断やエンゲージメント検討のための参考データとしては、確かにS-Rayのスコアは使われ始めている。

 今回、アラベスク・アセット・マネジメントの協力を得、S-Rayでスコア付いている全日本企業567社のESGスコアを分析してみた。データのタイミングは2019年9月30日時点と3ヶ月前だが、その後に大きく報道された日産自動車のガバナンス・スコアが、この時点ですでに567位中399位だということに鑑みると、今でも十分に通用するスコアと言えるだろう。

 こちらは、縦軸にESGスコア、横軸に米ドル建ての時価総額を対数目盛で表示したものだ。時価総額とESGスコアの相関は、なんとなく右上がりにもみえるが、決定係数が0.09と低く、相関性があるとは必ずしも言えない。ESGスコアは、グローバルの基準で付けられているが、日本企業だけを抽出しても、50点を中心に上は70点、下は20点と幅広く分散していることがわかる。但し、時価総額が1,000万米ドル(約1.2兆円)を超えると、40点以下の頻度が著しく少なくなっており、マテリアルな非財務領域に最低限は対応できていく傾向にあると言える。

 また、個別銘柄を見ていくと興味深いことが見えてくる。以下に、日本企業のESGスコアのトップ5とワースト5を示した。

日本企業のトップ5

  1. 日油(化学)72.38
  2. 長瀬産業(化学商社)72.17
  3. 相鉄ホールディングス(鉄道)71.03
  4. 東邦ホールディングス(医薬品卸売)70.43
  5. 日東電工(化学)70.02

日本企業のワースト5

  1. 西日本フィナンシャルホールディングス(銀行)19.97
  2. 日医工(医薬品)24.63
  3. 日立キャピタル(リース)23.14
  4. 信金中央金庫(地方金融)24.38
  5. コメリ(ホームセンター)24.60

 S-RayのESGスコアでは、一般的なESG評価機関よりも時価総額が低い企業も対象にしているため、他のランキングよりも興味深い結果が得られる。トップ5に入った企業は、日東電工を除けば時価総額4,000億円未満だが、着実にレポーティングを行い、ESGを経営に織り込んでいる印象のある企業が多く並んだ。日東電工はMSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数の採用企業だ。一方で下位評価だった企業は、こちらも同じく時価総額4,000億円未満だが、確かにESG分野では印象の薄い企業となった。一般的なESG評価機関は、現時点では時価総額の大きい企業しか評価対象としていないため、「ESG株式インデックスに採用された」というニュースが出せるのも大手企業しかない。また統合報告書表彰やフォーラム等の壇上に上がる企業も、超大手が中心だったりするが、S-Rayのスコアは、キラッと光る企業を浮かび上がらせたり、反対にリスクを多く抱えていそうな企業を照らし出していると言えるのではないだろうか。

 ちなみに時価総額1兆円を超える企業では、京セラが11位、花王が15位、東京エレクトロンが22位に入った。いずれもESG分野で名前をよく聞く企業だ。残念ながら、時価総額1兆円を超える企業で下位だったのは、日本郵政の555位。ガバナンス・スコアが14.41と非常に低く、ESGスコア全体の足を引っ張っている。また野村ホールディングスも524位と低かったが、ESGスコアが33.14と下位6%に入るのに対し、GCスコアは61.15と高く上位25%以内に入っている。野村ホールディングスがESGスコアが低いポイントは、ガバナンスが15.39と低く種々の不祥事が響いている点。それと対象的に環境スコア74.63、社会スコア63.97と非常に高かった。要素別のスコアも示唆に富んでいる。

 また、参考までに、12月12日時点での最新データを用いて、時価総額上位15企業のESGスコアでのランキングを見たところ、首位はNTTドコモだった。スコアは、9月30日時点の58.78から大きく上昇し、12月12日では71.01となっていた。他方、同15企業の中で最も低いのは前述の日本郵政だが、スコアは26.81から38.36に上がっていた。

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 ESGクオンツ運用会社英アラベスク・アセット・マネジメントが2017年にリリースした「S-Ray」。機械学習(マシンラーニング)と呼ばれるAI(人工知能)を活用し、ウェブの世界に溢れる膨大なテキスト情報「ビッグデータ」を分析。世界大手7,000社のESGスコアを毎日更新している。現在モニタリングしている情報ソースは20言語、5万ウェブサイト。ニュースメディアからNGOが発信するまで企業に関する幅広い情報を常に監視している。「S-Ray」は現在、欧米の大手機関投資家や日本の大手公的年金基金にすでに採用されている。

【参考】【インタビュー】アラベスク・アセット・マネジメントの企業サステナビリティ分析ツール「S-Ray」。部門長が語る開発背景と将来展望(2017年9月19日)

 またS-Rayは、一つの企業について「GCスコア」と「ESGスコア」の2つのスコアを付けている。GCスコアは、普遍的な規範である国連グローバル・コンパクト(UNGC)を用い、業界を問わず統一の「人権」「労働慣行」「環境」「腐敗防止」の4観点で企業を評価。一方、ESGスコアは、企業財務に影響を与えるマテリアリティを業界ごとに設定しスコアを付けている。

 S-Rayが、他のESG評価機関と大きく異なる点は、毎日スコアが更新される点だ。一般的なESG評価機関は、企業のウェブサイトやアニュアルレポート等を担当者が閲覧し、内容を判断してスコア化しているため、年に1回または2回ほどしか更新できない。他方S-Rayは、膨大なテキスト情報をAIが自動的に判定し、スコアに反映するため、即応性が非常に高い。企業に対する不祥事報道やNGO等による批判発表、もしくは企業や新聞等が発表する新規事業や新たな取組を、スコアにすぐに反映させることができる。また、人手が不要な分、日本企業でもすでに567社がスコアリング対象となるなど、一般的なESG評価機関より対象企業数も多い。

 では中身はどうだろうか。「AIが自動判定する」と言うと

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 ESGクオンツ運用会社英アラベスク・アセット・マネジメントが2017年にリリースした「S-Ray」。機械学習(マシンラーニング)と呼ばれるAI(人工知能)を活用し、ウェブの世界に溢れる膨大なテキスト情報「ビッグデータ」を分析。世界大手7,000社のESGスコアを毎日更新している。現在モニタリングしている情報ソースは20言語、5万ウェブサイト。ニュースメディアからNGOが発信するまで企業に関する幅広い情報を常に監視している。「S-Ray」は現在、欧米の大手機関投資家や日本の大手公的年金基金にすでに採用されている。

【参考】【インタビュー】アラベスク・アセット・マネジメントの企業サステナビリティ分析ツール「S-Ray」。部門長が語る開発背景と将来展望(2017年9月19日)

 またS-Rayは、一つの企業について「GCスコア」と「ESGスコア」の2つのスコアを付けている。GCスコアは、普遍的な規範である国連グローバル・コンパクト(UNGC)を用い、業界を問わず統一の「人権」「労働慣行」「環境」「腐敗防止」の4観点で企業を評価。一方、ESGスコアは、企業財務に影響を与えるマテリアリティを業界ごとに設定しスコアを付けている。

 S-Rayが、他のESG評価機関と大きく異なる点は、毎日スコアが更新される点だ。一般的なESG評価機関は、企業のウェブサイトやアニュアルレポート等を担当者が閲覧し、内容を判断してスコア化しているため、年に1回または2回ほどしか更新できない。他方S-Rayは、膨大なテキスト情報をAIが自動的に判定し、スコアに反映するため、即応性が非常に高い。企業に対する不祥事報道やNGO等による批判発表、もしくは企業や新聞等が発表する新規事業や新たな取組を、スコアにすぐに反映させることができる。また、人手が不要な分、日本企業でもすでに567社がスコアリング対象となるなど、一般的なESG評価機関より対象企業数も多い。

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【参考】【インタビュー】アラベスク・アセット・マネジメントの企業サステナビリティ分析ツール「S-Ray」。部門長が語る開発背景と将来展望(2017年9月19日)

 またS-Rayは、一つの企業について「GCスコア」と「ESGスコア」の2つのスコアを付けている。GCスコアは、普遍的な規範である国連グローバル・コンパクト(UNGC)を用い、業界を問わず統一の「人権」「労働慣行」「環境」「腐敗防止」の4観点で企業を評価。一方、ESGスコアは、企業財務に影響を与えるマテリアリティを業界ごとに設定しスコアを付けている。

 S-Rayが、他のESG評価機関と大きく異なる点は、毎日スコアが更新される点だ。一般的なESG評価機関は、企業のウェブサイトやアニュアルレポート等を担当者が閲覧し、内容を判断してスコア化しているため、年に1回または2回ほどしか更新できない。他方S-Rayは、膨大なテキスト情報をAIが自動的に判定し、スコアに反映するため、即応性が非常に高い。企業に対する不祥事報道やNGO等による批判発表、もしくは企業や新聞等が発表する新規事業や新たな取組を、スコアにすぐに反映させることができる。また、人手が不要な分、日本企業でもすでに567社がスコアリング対象となるなど、一般的なESG評価機関より対象企業数も多い。

 では中身はどうだろうか。「AIが自動判定する」と言うと結果も気になってくる。欧米の機関投資家も、S-Rayを採用し始めているが、まだS-RayのESGスコアやGCスコアのみを用いた運用手法やインデックスの存在については、私自身はまだ耳にしたことがない。しかしそれでも、企業の投資判断やエンゲージメント検討のための参考データとしては、確かにS-Rayのスコアは使われ始めている。

 今回、アラベスク・アセット・マネジメントの協力を得、S-Rayでスコア付いている全日本企業567社のESGスコアを分析してみた。データのタイミングは2019年9月30日時点と3ヶ月前だが、その後に大きく報道された日産自動車のガバナンス・スコアが、この時点ですでに567位中399位だということに鑑みると、今でも十分に通用するスコアと言えるだろう。

 こちらは、縦軸にESGスコア、横軸に米ドル建ての時価総額を対数目盛で表示したものだ。時価総額とESGスコアの相関は、なんとなく右上がりにもみえるが、決定係数が0.09と低く、相関性があるとは必ずしも言えない。ESGスコアは、グローバルの基準で付けられているが、日本企業だけを抽出しても、50点を中心に上は70点、下は20点と幅広く分散していることがわかる。但し、時価総額が1,000万米ドル(約1.2兆円)を超えると、40点以下の頻度が著しく少なくなっており、マテリアルな非財務領域に最低限は対応できていく傾向にあると言える。

 また、個別銘柄を見ていくと興味深いことが見えてくる。以下に、日本企業のESGスコアのトップ5とワースト5を示した。

日本企業のトップ5

  1. 日油(化学)72.38
  2. 長瀬産業(化学商社)72.17
  3. 相鉄ホールディングス(鉄道)71.03
  4. 東邦ホールディングス(医薬品卸売)70.43
  5. 日東電工(化学)70.02

日本企業のワースト5

  1. 西日本フィナンシャルホールディングス(銀行)19.97
  2. 日医工(医薬品)24.63
  3. 日立キャピタル(リース)23.14
  4. 信金中央金庫(地方金融)24.38
  5. コメリ(ホームセンター)24.60

 S-RayのESGスコアでは、一般的なESG評価機関よりも時価総額が低い企業も対象にしているため、他のランキングよりも興味深い結果が得られる。トップ5に入った企業は、日東電工を除けば時価総額4,000億円未満だが、着実にレポーティングを行い、ESGを経営に織り込んでいる印象のある企業が多く並んだ。日東電工はMSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数の採用企業だ。一方で下位評価だった企業は、こちらも同じく時価総額4,000億円未満だが、確かにESG分野では印象の薄い企業となった。一般的なESG評価機関は、現時点では時価総額の大きい企業しか評価対象としていないため、「ESG株式インデックスに採用された」というニュースが出せるのも大手企業しかない。また統合報告書表彰やフォーラム等の壇上に上がる企業も、超大手が中心だったりするが、S-Rayのスコアは、キラッと光る企業を浮かび上がらせたり、反対にリスクを多く抱えていそうな企業を照らし出していると言えるのではないだろうか。

 ちなみに時価総額1兆円を超える企業では、京セラが11位、花王が15位、東京エレクトロンが22位に入った。いずれもESG分野で名前をよく聞く企業だ。残念ながら、時価総額1兆円を超える企業で下位だったのは、日本郵政の555位。ガバナンス・スコアが14.41と非常に低く、ESGスコア全体の足を引っ張っている。また野村ホールディングスも524位と低かったが、ESGスコアが33.14と下位6%に入るのに対し、GCスコアは61.15と高く上位25%以内に入っている。野村ホールディングスがESGスコアが低いポイントは、ガバナンスが15.39と低く種々の不祥事が響いている点。それと対象的に環境スコア74.63、社会スコア63.97と非常に高かった。要素別のスコアも示唆に富んでいる。

 また、参考までに、12月12日時点での最新データを用いて、時価総額上位15企業のESGスコアでのランキングを見たところ、首位はNTTドコモだった。スコアは、9月30日時点の58.78から大きく上昇し、12月12日では71.01となっていた。他方、同15企業の中で最も低いのは前述の日本郵政だが、スコアは26.81から38.36に上がっていた。

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