【アメリカ】ハーバード・ビジネス・スクールが教えるサステナビリティ戦略

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今回ご紹介するのは、世界最高峰のビジネススクールとして知られる米国Harvard Business School(ハーバード・ビジネス・スクール、以下HBS)が展開するエグゼクティブ向けプログラムのコースの一つ、”Aligning Sustainability with Corporate Performance(サステナビリティと企業パフォーマンスの統合)”の紹介動画だ。 動画に登場するのは同コースの担当教授を務めるRobert Eccles氏とGeorge Serafeim氏で、二人はいずれも世界のサステナビリティ分野をリードする人物だ。 Eccles教授はこれまでサステナビリティや企業報告をテーマに数々の書籍を執筆しており、”One Report: Integrated Reporting for a Sustainable Strategy”(Michael P. Krzus氏と共著)は2010年にビジネス・ファイナンス・マネジメントカテゴリにおいてPROSE賞を受賞している。また、同氏はIIRC(International Integrated Reporting Council:国際統合報告評議会)運営委員の一人で、米国SASB(Sustainability Accounting Standards Board:サステナビリティ会計基準評議会)のファウンダー兼会長でもあり、HBSではManagement Practiceを教えている。 一方のSerafeim准教授もサステナビリティ戦略や統合報告、サステナビリティ投資の分野において数多くの論文や書籍を執筆しており、GISR(Global Initiative for Sustainability Ratings)の技術審査委員、SASBの規格審査委員を務めているほか、サステナビリティ投資のアドバイザリー会社、KKS Advisorsのパートナーでもある。HBSではBusiness Administrationを教えている。 上記の動画では、両氏が企業活動にサステナビリティを統合する重要性について下記5つのポイントに沿って簡潔に説明してくれている。 Defining a Sustainable Strategy:サステナビリティ戦略の定義 Importance of a Sustainable Strategy:サステナビリティ戦略の重要性 How Companies Do It Right:サステナビリティ戦略をどう正しく実行するか Measuring Impact:インパクトの測定 Importance of Integrated Reporting:統合報告の重要性 上記5つのポイントについて、両氏が語るポイントを簡単にご紹介していく。 Defining a Sustainable Strategy(サステナビリティ戦略の定義) そもそも、サステナビリティ戦略とは何なのか?その定義について、Eccles教授は「サステナビリティ戦略とは、企業活動の中心に据えられるものであり、企業がどうすれば長期的な株主価値を創造し、持続可能な社会に貢献することができるかを熟視するための長期的視点のことを指す。そしてそれは事業が生み出す正と負の外部性を考慮することを意味する」と語る。 ここでのポイントは、下記の3つだろう。 企業活動の中心に据えられる 長期的な株主価値の創造 正と負の外部性を考慮する サステナビリティ戦略は企業戦略の核をなすものであり、株主利益と社会全体の利益の両方が志向されている点が重要だ。「負の外部性」という言葉が意味する通り、短期的・水平的な視点で見ると株主利益と社会の利益はベクトルが相反しているようにみえるが、未来を起点として長期的視点で見てみれば、両者のベクトルは同じ方向へ揃えることができる。そしてそのベクトルを可視化するものがサステナビリティ戦略なのだ。 ちなみに「外部性」とは、ある経済主体の意思決定(行為・経済活動)が他の経済主体の意思決定に影響を及ぼすことを指す。外部性には正の外部性(外部経済)と負の外部性(外部不経済)が存在するが、CO2排出による地球温暖化などは外部不経済の典型例だ。外部不経済を内部化するための仕組みとしては排出権取引や環境税などが挙げられるが、企業が事業を展開する上では、自社の事業が社会にどのような影響をもたらしているか、その外部性を考慮することが重要となる。 Importance of a Sustainable Strategy(サステナビリティ戦略の重要性) サステナビリティ戦略の重要性について、Serafeim准教授は「企業のESG(環境・社会・ガバナンス)課題は、 将来の財務パフォーマンスを予測する上で非常に重要なってきている。サステナブルな企業であるためには、意思決定プロセスの中に統合思考(Integrated Thinking)を持つ必要がある」と語る。 Serafeim教授が指摘するポイントは、投資家の目線から見たサステナビリティ戦略の重要性だ。ESG課題への取り組み状況や情報開示は、投資家が企業の業績予測をする上でより重要な情報となってきているのだ。 また、同氏は「金融資本、自然資本、人的資本、社会資本、そして知的資本など、資本は様々な形で存在する。サステナビリティ戦略を持つ会社は、これらを全て活用して、株主のために価値と利益を創造している」と付け加える。 企業はこうした様々な資本を活用して事業を展開し、アウトプット、アウトカムを生み出しているという考え方は統合報告の核をなす部分だが、これらの資本を有効に活用するためにはサステナビリティ戦略が必要だというのが同氏の考えだ。 How Companies Do It Right(サステナビリティ戦略をどう正しく実行するか) それでは、企業はどのようにサステナビリティ戦略を正しく実行していけばよいのだろうか?Eccles教授はそのポイントとして下記2点を挙げている。 何年、何十年と長期に渡り忠実に実行される計画を持っている 株主基盤のうちより長期志向の投資家の割合が高い 長期志向の投資家を株主基盤の中心に据えることで、企業は短期的な業績に囚われることなく、より長期視点に立った事業展開をすることができるようになる。 株主利益の最大化が企業経営者の義務である以上、株主のために働くのは当然のことだ。しかし、それ以上に大事なのは、どんな株主のために働くかという点だ。もし短期的利益よりも長期的利益を望む投資家が自社の主たる株主基盤となっているのであれば、サステナビリティ戦略を実行したい企業経営者は株主の意思と相反することなく思い切って戦略を推し進めることができるのだ。 しかし、そうした投資家を惹きつけるためには、そもそも投資家を納得させられるだけの優れた長期的なビジョンや計画が必要だ。つまり、長期視点に立った計画とそれを支持してくれる株主基盤は、サステナビリティ戦略を実行する上で必須のセットなのである。 また、Serafeim准教授がポイントに挙げるのは「信頼」だ。同氏は、「マネジメントレベルからチームにいたるまで、社内における信頼度が高いことが重要だ」という。また、「社内における信頼度が高い企業は概してイノベーティブな企業であり、常に変化し続ける市場からの期待と社会からの期待に対応することができる」とし、信頼の重要性を強調する。 信頼資本が高い企業は少ないコミュニケーションコストで迅速な意思決定を行うことができるということを考えれば、社内における「信頼」が、サステナビリティを実現する上で重要となる「変化への柔軟性」や「イノベーション」につながるという同氏の考えには説得力がある。 Measuring Impact(インパクトの測定) サステナビリティ戦略を具体的な活動に落とし込み、実践したあとに重要となるのが効果の測定だ。このインパクト測定について、Serafeim准教授は「様々な団体が環境・社会へのインパクトを測定するためのガイドラインを発行しているが、最も生産的な方法は、自社のビジネスモデルと各事業間の費用と効果の関係性を理解したうえで、 組織内部における価値創造プロセスを捉えた自社固有の測定方法を考え出すことだ」と語る。 また、同氏は「そうすることで、様々なステークホルダーに自社の価値創造プロセスを理解してもらうために、どうすればその統合された測定基準を用いて彼らとコミュニケーションをとることができるかについて考え始めることができる」と付け加える。 Serafeim准教授が指摘するのは、自社の価値創造プロセスを理解したうえで自社ならではの測定方法を生み出すことの重要性、そしてそれを用いてステークホルダーとコミュニケーションをとることの重要性だ。 インパクト測定に本格的に取り組もうとすると、その測定方法を考えるプロセスや実際の測定プロセスを通じて必然的にステークホルダーとの濃密なコミュニケーションが求められる。自社の事業がどんなインパクトをもたらしているのかを一番よく知っているのはステークホルダーだからだ。 そして、その測定プロセスにおけるステークホルダーとのコミュニケーションそのものを通じて、自社の戦略改善につながる多くの示唆や気づきを得ることができる。 Importance of Integrated Reporting(統合報告の重要性) 統合された報告の大切さについて、Eccles教授は「統合報告の鍵となる要素は会社が財務パフォーマンスと非財務パフォーマンス(環境・社会・ガバナンス)の両方を報告することができることだが、その中でも決定的に重要なのは、それらの関連性を示すことだ」と言う。また、「統合された報告がなければ投資家が会社の事業の効率性を理解し、判断することが非常に難しくなってしまう」と同氏は付け加える。 IIRCの統合報告フレームワークにおいても「情報の結合性」は基本原則の一つとして重要視されており、その中には財務情報と非財務情報の結合性も含まれている。企業が展開するサステナビリティ・CSR活動が本当の意味で株主の長期的価値創造につながっているかどうかを判断する上では、この財務・非財務に明確かつ論理的な関連性があるかが鍵を握る。 まとめ いかがだろうか?たった数分間のインタビューながら、両教授のコメントから得られる示唆はとても多い。上記のように、サステナビリティ戦略の定義、重要性の理解、戦略の実行、インパクト測定、統合報告という一連のPDCAサイクルをしっかりと回していくことが、自社および社会のサステナビリティを高めることにつながる。 【コースページ】Aligning Sustainability with Corporate Performance 【参考サイト】Harvard Business School

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2014/08/20 最新ニュース

【国際】IIRC、GRI、ISO、SASBらと共に企業報告に関する新たな共同イニシアティブを開始

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6月17日にアムステルダムで行われたICGN(International Corporate Governance Network:国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク)の年次総会にて、「企業報告ダイアログ(The Corporate Reporting Dialogue、以下CRD)が正式に活動を開始すると発表された。 CRDは統合報告に関する国際フレームワークのIIRC(International Integrated Reporting Council)が提唱するイニシアティブで、異なる企業報告フレームワークの整合性や一貫性、比較しやすさを高めることで企業、投資家双方の負担を軽減し、今後の企業報告におけるグローバルの包括的な展望を示すことを目指している。 CRDにはCDPやGRI、ISO、SASBなど、企業報告の分野において国際的に大きな影響力を持っている組織が多数参加している。 CRDの議長を務めるHuguette Labelle氏は、「企業報告をめぐる世界は変化を迎えている。そのあまりの長さゆえに、これまでの企業報告は断片化され、戦略的な価値創造プロセスから完全に分断されてしまっていた。しかし、孤立した変化では、現代の企業や投資慣行の複雑さを反映するには不十分だ。 CRDは企業報告を読み手に合わせた形に新しく作り直し、企業とその主要なステークホルダーの関係の再構築に役立つ、より一貫性、効率性の高いものにするためのコラボレーションだ。このイニシアティブの議長を務めることはとても名誉なことだ」と語った。 CRDでは、異なる企業報告の方向性や内容、現在開発中の報告の枠組み、基準、そして関連要求事項に整合性をもたらすような、より実用的な方法の開発を目指している。 今後、CRDの活動の進展に伴いより広範な企業報告に関する展望が共有される予定だが、当初は様々な企業報告フレームワーク、基準同士のつながりや統合報告との関連性にスポットが当てられる予定だ。 CRDへの参加組織は以下の通り。 CDP Climate Disclosure Standards Board (CDSB) Financial Accounting Standards Board (FASB) Global Reporting Initiative (GRI) International Accounting Standards Board (IASB) International Integrated Reporting Council (IIRC) International Public Sector Accounting Standards Board (IPSASB) International Organization for Standardization (ISO) Sustainability Accounting Standards Board (SASB) 現在企業報告の分野においては統合報告に関する国際フレームワークのIIRCをはじめ、上記のように複数の異なる報告基準やガイドラインが並存しているのが現状だ。こうした中で今後どの報告フレームワークが本流となっていくのか、グローバルの動向が気になっているという企業報告担当者の方も多いのではないだろうか。 その意味で、今回のCRDの活動開始はグローバルな企業報告の在り方を前進させる上で大きな一歩だといえる。今後、現在の状況がどのように変化し、最終的にどのような包括的な枠組みが提示されるのか、これからの動きに注目していきたい。 【参考サイト】IIRC

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