【人権】「船の墓場」に学ぶサプライチェーン・マネジメント

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長年世界の物流を支えてきた海運業。現在に至っても物流の9割は貨物船による国際貿易が占めており、依然として世界経済の中核を担う存在であることは明らかです。ところが、サプライチェーンにおける重要性とは裏腹に、海運業の主役である貨物船がどのような末路をたどるのかはあまり注目されない部分でもあります。今回はバングラデシュ等の貨物船の解体作業地の現状、そしてそれに対する世界企業と日本企業の対応に違いについてご紹介し、船舶解体に関する問題から見える業界横断な問題に迫ります。 過酷な作業場としての「船の墓場」 船の墓場と呼ばれる場所があるのをご存知でしょうか。現在、我々が運輸に利用する貨物船もいずれは老朽化し、人知れずどこかで解体されることとなります。しかし、そんな船の材料にはアスベストや鉛などの有害物質が使われており、先進国で解体する場合、規制が厳しく解体業者は非常に高いコストを負担することになります。その結果、規制が緩く人件費を安く抑えることのできるバングラデシュ、インド、パキスタンといった国が選ばれ、まさしく「船の墓場」として解体作業場所となるのです。 アメリカの雑誌VICEが発表し、NGO団体Ship breaking platformでも紹介された動画“Where giant cargo ships go to die (貨物船はどこで死ぬのか)”において、この作業場が取り上げられています。 この動画において、働きに来ている人々は北部からの移民で最貧困国の出身であり、またそのほとんどは13-30才と若く、全体の四分の一は18才以下の少年であることが語られています。船舶の切断に関しても彼らには特別の防護服が用意されているわけではなく、部品の切断の際に発生する有害物質を吸い、日当$3程度という劣悪な労働条件の中でも家族を養うために否応なく働いています。 巨万の富を生む非道徳的リサイクルビジネス このような船舶解体ビジネスが横行する理由の一つとして、巨額の利益が見込めることが挙げられます。このビジネスモデルは以下のプロセスで成り立っています。 1)船を扱うブローカーから老朽化した船舶を買い取る 2)船長を雇い満潮時に海岸に船を着ける 3)干潮時に船舶の燃料や設備、備品を取り外し売り払う 4)干潮時に船を解体する 5)解体しスクラップとなったら建築用の鉄筋として売り払う 上記のプロセスで船舶の90%以上をリサイクルするわけですが、作業中に労働環境を整えず、低賃金で作業員を働かせているためコストが抑えられます。これが船舶解体ビジネスにより巨額の利益を生み出されるまでの大まかな流れです。 悪弊の一翼を担う日本 では、日本の海運業はこの問題にはどのような関係があるのでしょうか。海運業の全体像を捉えるためにWorld Biggest Shipping company(世界で最も大きな海運業者)を見てみましょう。 (TheRichestのWorld Biggest Shipping companyを元にニューラル作成) 日本国内で代表とされる日本郵船、三井商船は8位、9位と選出されており、世界に大きな責任を持つ存在として日本の海運業は、問題解決への取り組みが期待されます。 ところが、昨今のNGO団体Ship breaking platformの報告によると、これまで日本の海運業者は伝統的に中国の現代的なリサイクル施設を利用していたものの、2014年、ほとんどの日本船が南アジアの海岸に行き着いていたといいます。実際、同団体が発表しているTop dumpers (最も船舶を廃棄した企業)の一つとして商船三井が選出されてしまっています。不名誉な選出となった企業のリストは以下のようになっています。 (NGO SHIPBREAKING PLATFORMのプレスリリースを元にニューラル作成) この不名誉なリストの中にも商船三井は選出されており、海運業を代表する企業としての責任を果たすことを要求されていることが見て取れます。 目指すべき姿としてのリーディング・カンパニー それでは現状を踏まえた上で日本企業が目指すべき先進事例をご紹介します。前出のWorld Biggest Shipping company(世界で最も大きな海運業者)において日本企業よりも上位を占めるマースク(1位)とハパックロイド(6位)は現代的なリサイクル施設にて自身の船舶を解体することに取り組んでおり、Ship breaking platformからもRESPONSIBLE SHIPOWNERS(責任ある船舶所有者)として高評価を得ています。責任ある船舶所有者のリストは以下の通りです。 (NGO SHIPBREAKING PLATFORMのプレスリリースを元にニューラル作成) マースクを例にとって具体的活動内容を見てみましょう。同社は自社のホームページにおいて、提供するサービスとして「責任ある船舶リサイクル」について言及しており、その定義や背景、そして活動結果と今後の展望を公表しています。同社はISO14001 やOHSMS 18001の認定を受け、環境や安全性に関する厳格な国際基準を順守している施設を船舶解体場所として選び抜き、名実ともに世界最大の海運事業としての責任を果たしていると言えるでしょう。 他方、商船三井のCSRページにおける「シップリサイクル」は取り組み内容が箇条書きで記されており、達成度合いも◎達成、○概ね達成、△一部達成、●未達成といったやや抽象的なものとなっています。活動の進捗だけでなくステークホルダーとのコミュニケーションという観点から見ても行動指針や達成目標は明白であるべきだと言えるでしょう。 業界横断的に認識されるべきサプライチェーンの問題 今回、船舶解体に焦点を当てましたがこれは海運業だけに関わる問題ではありません。たとえば製造業であっても自社サプライチェーン上に海運が関わってくることは大いにあり得ます。マースクやハパックロイドといった世界を代表する企業は先進的に問題に取り組むことで、それを競争源としており、サステナブルな形での成長をこれからも続けていくと考えられます。そんな中、自社のサプライチェーン上に抱える問題に無関心であることは、環境や人権の配慮だけでなく事業成長の面からもマイナスであると言えます。長期的な展望の下、船舶解体を始めとするサプライチェーン上の問題に各社が積極的に取り組み、競争源泉としていくことが期待されます。

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2015/03/24 体系的に学ぶ

【TED】マイケル・サンデル対マイケル・ポーター 〜社会正義とCSVとは〜

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 今回ご紹介するのは、ハーバード大学の教授で著書『これからの正義の話をしよう』でおなじみのマイケル・サンデル氏と、ハーバード・ビジネス・スクールの教授で、CSVの提唱や著書『競争の戦略』で有名なマイケル・ポーター氏の討論動画だ。  それぞれの主張は同日に開催されたTED「Why we shouldn’t trust markets with our civic life」(マイケル・サンデル氏) およびTED「Why business can be good at solving social problems」(マイケル・ポーター氏) で明らかになっており、世界を代表するマイケル同士の対談とあって注目を集めた。 両者の基本的な立場はこうである。 マイケル・サンデル氏  市場原理がいたるところに登場した結果、現代社会はもはや「市場社会」と化してしまっており、日常に現れる全てのものに値段が付く現状を憂慮すべきだという。  現在たとえば、それが裁判の公聴の整理券獲得のためであれ、テーマパークの順番待ちであれ、お金を払うことで自ら順番を待つ必要はなくなっている。刑務所ですらお金を払うことで部屋をアップグレードできるのだ。  そのような市場社会に我々が不安を感じる理由は以下の2つだとしている。 1.資産の有無による不平等が発生するから 2.市場原理を導入することで物事の本質が失われるから  まず(1)について、お金で手に入るものが贅沢品に限られれば不平等はさして問題でないものの、市場社会においてそれは保険や教育など豊かな生活に不可欠なものにまで顕在化してきている。すべてが自由市場化することは、文字通りお金がモノを言う社会を指し、市民生活に不安感を与えているという。  そして(2)とは、すべてのものに値段がつくことで、それぞれの事柄が持つ意味合いを変えかねないということである。具体的には、成績を向上させることを意図して、子供に「本を一冊読んだら$2」といったモチベーションを与えた場合、目的は成績向上ではなくお金になってしまい、本を読むという行為を完遂するために薄い本を読み出し、結果的に成績は伸びないという。つまり、このようにお金が介在することにより本来的な意味が失われてしまうということが日常生活に現れることを危惧しているというわけだ。 マイケル・ポーター氏  一方、ポーター氏はNGOや慈善活動が社会に与えることのできる規模の小ささに焦点を当て、資本を基に大規模改善を図ることのできる経済主体としての企業の在り方を提唱している。  現在、我々は温暖化や大気汚染など様々な社会問題を抱えている。それに対してNGOらが取り組んでいるが資本規模的に大きな成果を出せずにいるという。そこで同氏が着目したのが、企業の事業活動を通した社会問題解決である。今まで社会問題への取り組みというのは企業にとってコストであり、利益とトレード・オフの関係になる慈善活動としての位置づけに甘んじてきた。しかし、実はこれはトレード・オフでないだけでなく、社会問題に真剣に向き合うことで利益に繋がることがわかってきているという。たとえば労働環境を整え事故発生率を抑えるためにかけたコストは事故による補償や悪評といったコストより低く、これにより「劣悪な労働環境」という問題を解決するといった例がこれに当てはまる。  同氏はこれをCSVと呼び身を切る社会貢献とは別物として紹介している。 (詳細は『【戦略】CSRからCSVへ? 〜CSV、CSR、サステナビリティ、CR、SRの違い〜』へ) 経済的・社会的価値の創造主体としての“ビジネス”を打ちたて、NGOや政府と協力することこそ、これからの社会問題に対峙に必要だという。 両者の問題認識  市場経済の浸食を危惧するサンデル氏と、市場の可能性を標榜するポーター氏。一見すると両者は対立するように見えるが、実はそうではない。  本動画でサンデル氏が言明しているように、同氏が危惧しているのは市場原理が日常生活にまで入り込み、自由市場の下にすべての事柄に値段がつけられる社会であり、市場経済そのものはむしろ【ツール】として利用するべきだとしている。これはポーターが提唱するビジネスによる経済的・社会的価値創造を否定しているわけではない。  もちろんポーター氏が主張する“ビジネス”による社会問題解決とは、市場経済を利用したものであるため、それが市場社会にまで及んでいる場合はサンデル氏に非難されるべき対象になるといえよう。しかし、今回ポーター氏が提唱したCSVとは「日常のすべてのものに値段が付けられた社会」を条件に行われることではなく、社会問題を解決する【ツール】として企業活動という市場経済を利用しているに過ぎない。例えば、サンデル氏は、文化的・精神的なものにまで市場経済という得体のしれないものが一方的に「価格付け」することを大きく危惧している様子があるが、ポーター氏のCSVのもとでは、価格付けとはむしろステークホルダーとの関係性を通じて形成され、その中には社会的価値や環境的価値が含まれていくだけでなく、市民・地域社会の価値観もその中に包摂されていく。企業活動がモチベーションとするコストメリットとは、そのような多様な価値観の中で形成された「価格」によって行われていくため、サンデル氏の懸念は、ポーター氏のアイデアによってむしろ解消していくとも言える。  今回、両者の対談を経て、行き過ぎた市場経済は市民生活を苦しめ得るが、市場経済は上手く使うことで現代社会が抱える問題の解決に寄与し、市民生活の豊かさにも貢献することが改めて明らかになった。「正義とは何か」で著名なサンデル氏との対話によって、CSVの哲学もより磨き上げられたのはないだろうか。

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2015/03/18 事例を見る

【7月?11月(全5回)・東京】ネットワークフォーラム「経営とマテリアリティ ?経営とCSRの統合に向けて?」を開催!

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日本企業のCSRは、G4および統合報告書の流れ、さらにポーター教授によるCSV概念の登場などにより、大きな潮目の変化を迎えています。これまでのCSRでは「うちの会社らしい」「うちの会社だからできる」CSR活動、が推奨されてきましたが、今後は中期事業計画、また事業部門の事業戦略の中に「マルチステークホルダー」という視点で具体的に盛り込む内容となってきています。 このフォーラムでは、そうした新潮流をとらえ、経営とCSRの統合とはどういう方向で進むのかというテーマに絞り、参加企業同士がそれぞれの取り組みを持ち寄り討議することで深めていきます。 このテーマを多角的に論じるため、各回に実務経験者を講師に迎えております。また、CSR部門だけではなく、経営企画部門やIR部門の方々にもご参加いただきたく考えております。ぜひこの機会にご参画いただき、企業価値向上に結びつける知見をお持ち帰りください。 日時・プログラム 1回:2014年7月2日(水)16:30?18:00 経営とマテリアリティ(クレイグ・コンサルティング代表 小河) 2回:2014年8月6日(水)16:00?18:00 CSRと経営戦略の融合(EY総合研究所(株) 講師:牛島慶一氏) 3回:2014年9月3日(水)16:00?18:00  (18:30?懇親会を予定しています) 財務情報+非財務情報を有機的につなぐには何が必要か (元(株)資生堂 SRコンサルタント 講師:山崎直実氏) 4回:2014年10月1日(水)16:00?18:00 ステークホルダーレビューを経営にどう活かすか (株式会社国際社会経済研究所 講師:鈴木均氏) 5回:2014年11月5日(水)16:30?18:00 参加企業の課題・悩み等の共有・解決(フリーディスカッション/ファシリテーター小河) 詳細 フォーラム概要および各回の詳細については下記よりご確認いただけます。 http://www.craig.co.jp/pdf/goannai.pdf(PDF形式) 主催 株式会社クレイグ・コンサルティング お申込み 下記よりお申し込みください。 http://www.craig.co.jp/news/

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2014/05/27 行動する

【アメリカ】CSE社が15年の経験を詰め込んだサステナビリティ(CSR)実務書を出版

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アメリカを代表するサステナビリティ・シンクタンクCentre for Sustainability and Excellence (CSE)のNikos Avlonas社長とGeorge Nassos顧問は、CSRに関する著作「Practical Sustainability Strategies: How to Gain a Competitive Advantage.」を出版した。出版3週間ですでにアメリカでベストセラーとなっている。主な内容は、サステナビリティに関する理論的なソリューションの開発やケーススタディを提示するとともに、組織がユニークな競争優位を獲得し、維持するための実践的な戦略などが書かれている。出版記念パーティーには、学界、企業組織や地元メディアから多数の専門家が出席した。Nikos Avlonas氏は、同書は過去15年にわたって、フォーチュン500企業や、北米/欧州/アジア/中東の組織に著者本人が戦略コンサルティングや研修サービスを提供してきた経験を元に書かれたことを明らかにした。また、パーティ出席者からは、同書が企業サステナビリティや企業経営戦略に与える影響はとても大きいと賞賛の声が上がった。

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【アメリカ】スプリント社CEOの環境面での取り組みを表彰

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Corporate Responsibility Magazine とCOMMIT!Forumは、アメリカの加入者数第3位の携帯電話事業者であるSprintのCEOであるDan Hesse氏に"2013 Corporate Responsibility Lifetime Achievement Award"を贈ると発表した。この賞は、リスクを恐れず、しっかりとしたビジョンとパイオニア精神で、自身のフィールドで高い成果を収めた個人に対し与えられるものだという。 Dan Hesse氏は、2008年より、同社の企業活動が環境に与える負荷を軽減するために、10年単位でさまざまな計画を実行している。気候変動や電話のリサイクル、エコフレンドリーな電話の提供など、内容は多岐にわたる。 ソフトバンク社による買収で、日本でも大きな話題となっているSprint。日本にはSprintの環境に対する取組はあまり伝わってこないのが残念だ。Sprintの事例を知ることで、日本の通信業界にとっても取り組むべき施策の方向性が見えてくるだろう。 【企業サイト】Sprint

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2014/01/08 最新ニュース

【カナダ】新たな成長サイクルがみえてきた:EDCがカナダと世界の経済回復の兆しを予測

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カナダ輸出開発公社(EDC)は、世界経済は新たな成長サイクルの足がかりをようやくつかんだと発表した。 日本やEUをはじめ、先進地域でのOECD景気先行指標は上昇。世界経済を牽引する米国でも、国の財政危機による経済悪化の懸念はぬぐえないものの建設業界をはじめ民間経済は悪くない。EDCは、2014年の世界経済成長率を3.9%、続く2年は3.2%程度と予想。先進地域での世界GDPへの貢献度は新興国より高くなるだろうと分析する。 持続可能なグローバル経済の回復と成長のポイントはふたつ。かくれた需要を掘りあてること。もうひとつは、長い間失っていた自信を取り戻すこと。 回復のうねりを実感するなかで、EDCはカナダの企業が輸出や国際投資ビジネスのチャンスをつかむための有益な情報を提供するほか、民間・公的金融機関と連携し融資や保険の支援のほかリスク分析なども行っている。 【企業サイト】カナダ輸出開発公社(EDC)

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2013/11/05 最新ニュース
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