【EU】欧州議会、企業年金EU指令改正案「IORP II」可決。ESG投資の全面実施を規定

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 EUの欧州議会は11月24日、欧州企業年金(IORP)指令の改正案(IORP II)を賛成512、反対77、棄権40の賛成多数で可決した。IORP IIの目玉は、企業年金運用プロセスにESGを組み入れることを求めた点にある。一方、審議の過程でもうひとつの目玉であった、企業年金商品を提供している保険会社に対して自己資本規制(ソルベンシー2)を課す内容は、保険会社からの反発も強く今回は導入が見送られた。  IORPは、EU市場が統一される中、企業年金基金のEU内越境組成や越境投資運用を促進するために2003年に制定されたEU指令で、現在は企業年金基金のガバナンスや透明性を高め、長期投資を支援していく内容などを盛り込んでいる。EU指令とは、EU法のひとつで、EU指令が制定されると、EU加盟国は指令内容を実質的に実現する国内法の制定が義務化される。EUの立法プロセスでは、欧州議会で過半数の賛成を得て通過した法案は、EU加盟国の閣僚で構成されるEU理事会に送られる。そしてEU理事会が特定多数決(EU条約が定める条件を満たす特別な多数決)で同法案を採択するとEU法として成立する。今回のIORP IIも、今後EU理事会で審議され、採択を得るプロセスに入る。同法案が成立するとEU加盟国は国内法を整備する義務が生じるが、同法案は国内法制定までの猶予期間を24ヶ月間と定めている。  IORP IIで定められたESGに関する規定は複数に及ぶ。まず、投資運用プロセスの中でESG要素を考慮することを定めた。とりわけESG要素として、「気候変動に関わるリスク、資源利用や環境に関するリスク、社会リスク、法規制変更により資産価値が毀損するリスク」を例示しており、いわゆる「座礁資産」の概念を明確に盛り込んだ。また、EU加盟国に対して企業年金基金が負う受託者責任の中に、ESGに関する善管注意義務を含めるよう求めた。さらに、法案の備考では、ESG情報開示の基準として国連責任投資原則(PRI)が定める6原則について初めて言及し、PRIの参照を要望した。  IORP IIは、その他、企業がEU域内の複数国で事業展開することが増えて生きている中、企業年金の国境を超えたEU化を推進するため、労働法や年金法など国内法の協調を求めていく内容なども盛り込んだ。  欧州議会によるとIORP IIは、総計2.5兆ユーロ(約300兆円)の資産を有する約125,000の企業年金が対象となる。これは、EU圏の労働人口の約20%を占める75万人の年金資産に相当する額だ。 【参考ページ】European Parliament passes revised IORP Directive 【参考ページ】Top 1000: Faint praise for IORP II compromise 【法案概要】Revision of the Institutions for Occupational Retirement Provision Directive (IORP II)

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【アメリカ】環境保護庁、航空機からの温室効果ガス排出基準規制の設定を最終決定

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 米環境保護庁(EPA)は7月25日、航空機からの温室効果ガス排出規制を制定することを最終決定した。航空機からの温室効果ガス排出が、すでに規制が設けられている車やトラックなどと同様に、環境や人体に悪影響を及ぼしているという判断を下した。今後、EPAは、大気浄化法(CAA)23条(a)(2)(A)に基づき、温室効果ガス6ガス(二酸化炭素、メタン等)の排出基準を定めていく。排出基準設定に当たっては、産業界やNGOなど幅広い関係者からパブリックコメントを募る予定。  米国航空機の温室効果ガス排出量は、同国の輸送・交通分野で3番目に多い約12%を占め、これは米国全体の排出量の3%に及ぶ。また、全世界の航空機からの排出量では29%を占める巨大な割合。欧州ではすでに2012年1月より、EU域内の航空会社に温室効果ガスの排出枠を割り当て、枠を超えた企業にはその分の排出量の購入を義務化する排出量取引制度(EU-ETS)をEU法によって導入されている。この制度はEU域内の発着便全てに一律適用されるため、導入前には米国の主要航空会社が猛反発し、欧州司法裁判所での裁判闘争のもとで導入問題なしとの最終決着をした経緯があった。今回EPAが航空環境規制の強化に乗り出すことで、航空機からの温室効果ガス排出量割合が高い米国での排出削減が進むと期待されている。  EPAが規制強化に乗り出した背景には、航空機の温室効果ガス排出規制を定めようという機運が国際的に高まっていることがある。今年2月には、国際民間航空機関(ICAO)の航空環境保全会議(CAEP)で、国際的な排出基準設定及び関連規定を定めることを決定。今年10月に開かれるICAO総会で承認される見込み。先立って今年5月のG7伊勢志摩サミットでも、首脳宣言の中に国際航空便の温室効果ガス排出量を削減する国際ルール作りをG7諸国先導するという内容が盛り込まれていた。航空の分野でも国際線に関するルール作りは難易度が高い。国際線は、出発地、経由地、到着地と複数の国をまたがって運航されているため、温室効果ガス排出量を国単位で算定することが難しいためだ。現段階でも各国が算出する温室効果ガス排出量の中に国際線は含まれていない。また各国が制定するの温室効果ガス削減対象の中にも国際線は入っていない。ICAOで国際線のルール作りが進むと、航空会社にとっての「言い訳」が封じられ、国内線の環境規制も追い風になる。  EPAは、基準設定にあたっては、米連邦航空局(FAA)と連携していく。規制の対象となる航空機は、国際航空機の排出基準値に則り、最大離陸重量(MTOM)が5,700kg以上の亜音速(音速以下)のもの、及び最大離陸重量が8,618kg以上の(ターボプロップ機のような)亜音速プロペラ機とされている。具体的には、小型ジェット機のセスナ・サイテーションCJBやエンブラエルE170から、民間最大のジェット機、エアバス380やボーイング747など。ターボプロップ機としては、ATR72、ボンバルディアQ400などが該当する。一方で、小型のターボプロット機やジェット機、ピストンエンジン機、ヘリコプター、軍用機等、対象となるエンジンを使用してないものについては今回の規制から外れる見込み。それでも、規制の対象となる全米航空機は、航空機からの温室効果ガス排出量の89%をカバーする。 【参照ページ】EPA Determines that Aircraft Emissions Contribute to Climate Change Endangering Public Health and the Environment

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【アメリカ】環境保護庁、シェールガス・シェールオイルのメタンガス規制発表

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 米環境保護庁(EPA)は5月12日、石油・ガス産業におけるメタンガス、VOC(揮発性有機化合物)、有害大気汚染物質の排出基準を厳しくする新規制を発表した。メタンガスの排出規制強化に関しては、今年3月の米加首脳会談で合意に達しており、米環境保護庁も規制強化の指針を発表していた。今回具体的な強化基準が発表されたことで、オバマ政権の気候変動目標に向けさらに一歩踏み出したこととなる。  温室効果ガスの中でもメタンガスが与える影響は悪く、地球温暖化への影響は二酸化炭素の25倍と言われている。メタンガスは米国で発生する温室効果ガスの中で二酸化炭素に次ぎ二番目に多く、そのうち3分の1はオイルや天然ガス生産から発生している。とりわけシェールガスやシェールオイルなど新分野での資源採掘時に副次的に発生するメタンガスは、既存の規制で対応できておらず、メタンガス大量発生の温床となっていた。今回強化された基準では、2012年に制定された現行法では規制の対象となっていなかった水圧破砕技術をメタンガス規制の対象とするとともに、同様に規制が免除されていた小規模油田・ガス田も対象に加えた。また、ガス圧縮施設でのガス漏洩監視報告頻度を従来の2倍に増やした。規制対象は新設および増改築設備が主な対象だが、既存設備に対する情報報告義務制度(Information Collection Request:ICR)も制定する考えで、現在パブリックコメントを受け付けている。  米政府は今回の規制強化により、2025年には、メタンガスを51万ショートトン削減、オゾン生成揮発性有機化合物を25万ショートトン、有害大気汚染物質を3,900ショートトン削減できると見込んでいる。51万ショートトンのメタンガス削減は、二酸化炭素削減1,100万トンに相当する。また、経済効果としても、6億9000万米ドル相当の環境便益があり、がんや呼吸器系疾患の減少にも繋がるという。米国政府は2025年までに2012年比でメタンガス排出量を40%から45%削減する目標を掲げており、今回の規制強化が実現に向けての一端を担う。現行設備に課される予定の情報報告義務制度(ICR)に関しては、今年中に油田・ガス田オーナーに対してサーベイを実施し、制度の詳細を固める。また、法定報告義務以外にも第三者が追加情報の開示を要請できる制度も検討している。  世界的に化石燃料からの脱却機運が高まる中、米国政府はシェールガスやシェールオイルを新たな産業と位置づけており、潮流から逆行する動きを見せてきた。とりわけシェールガスやシェールオイルは、化石燃料としての環境負荷をもたらすだけでなく、採掘時に副次的なメタンガスや他の有害物質を生成するという深刻な環境被害をもたらしてきた。米国政府は、産業育成・エネルギー自給率の向上と気候変動対策というジレンマに陥っているが、今回の発表ではシェールガス・シェールオイルという産業育成は維持したまま、副次的な環境被害に関して歯止めをかけるという取り組みだ。一定の評価はできるが、シェールガス・シェールオイルの発展そのものの動向については、オバマ後の次期政権に持ち越される。 【参照ページ】EPA Releases First-Ever Standards to Cut Methane Emissions from the Oil and Gas Sector

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【中国】中国版RoHS指令を改正。対象商品を大規模に拡大。今年7月から施行

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 工業情報化部、国家発展改革委員会、科学技術部、財政部、環境保護部、商務部、海関総署、国家品質監督検査検疫総局は2016年1月6日、共同で発表を行い、「中国版RoHS指令」の改正法を公布した。今回公布されたのは「電気電子産品有害物質制限使用管理弁法」。中国が2006年2月に公布、2007年3月に第一段階が発行した「電子情報製品生産汚染防止管理弁法」は電気産品の特定有害物質の使用制限を規定するもので、「中国版RoHS指令」と呼ばれてきた。今回公布されたものは規制を強化する改正法、2015年5月に草案が公表されており、今回ついに公布に至った。2016年7月1日に施行となる。  旧法では電子情報製品だけが対象となっていたが、新法では冷蔵庫や洗濯機など家電製品を含めた幅広い電気電子製品が対象となる。新法は第三条で「電気電子産品」とは何かを定義しており、電気または電磁力を用い、直流1500ワット以下、交流1000ワット以下の全ての製品が新法と対象だ。但し、発送電関連製品は今回の規制の対象外となる。工業情報化部は今回の法律の制定にあたり、「中国企業はこれまでダブルスタンダードを用いてきている。海外向けには海外の厳しい規制基準を満たすため有害物質の使用制限する一方、国内向け製品については相応の措置をとらないという事態を招いていた」と指摘。海外との規制水準との差を埋めることを主眼としている。  使用制限される有害物質も拡大される。旧法では鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、ポリ臭化ビフェニル(PBB)、ポリ臭化ジフェニルエーテル (PBDE)の使用が制限されていただけだったが、新法では、PBBとPBDEは同様だが、「鉛及びその化合物」、「水銀及びその化合物」、「カドミウム及びその化合物」、「六価クロム及びその化合物」と化合物も対象となる。また、旧法と同様、「国家が規定するその他の有害物質」についても規制対象となる。  管理方法も強化される。旧法では政府が定める「重点管理リスト」に載った製品を対象とし、対象製品については「強制認証制度」を適用し、認証がないと中国国内で販売できない仕組みだった。しかしながら、パソコン等旧法が規制対象とした製品は製品サイクルが2〜3ヶ月と短いものが多く、上市タイミングを逃し、企業の損失が大きくなることが懸念されていた。結果的に、旧法では第1ステップとして定めた、「環境保護使用期限マーク」や「リサイクルマーク」の表示義務だけが施行されており、第2ステップの強制認証制度は施行されないままだった。新法ではこれを改め、強制認証制度を正式に廃止、「重点管理リスト」に替わり「基準到達管理リスト」で製品品目毎の規制物質や規制基準値を定める「合格評価制度」を導入する。合格評価制度で定められる基準値には、政府が定める法定基準や業界基準とする。  また、新法では新たに国家の科学技術開発に関する内容も盛り込んだ。規制有害物質の代替物質や減量化の開発に向け、科学研究、技術開発と国際協力のサポートを政府が推進していく。  基準到達管理リストや合格評価制度の詳細については、今後施行までに工業情報化部が作成していくと見られている。 【参照URL】《电器电子产品有害物质限制使用管理办法》解读

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【中国】北京を襲った大気汚染。2016年の当局の対策は如何に

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 昨年末に北京を襲った深刻な大気汚染。12月7日から10日までの4日間、そして18日から22日までの5日間、大気汚染警戒レベルで最も深刻な「赤色警報」が発令された。これは健康被害をもたらすため外出を控えるようにという程のレベルだ。学校は休校になり、屋外工事なども休業となった。2015年1月から10月までは北京の大気汚染レベルは昨年より改善していたため、当局も油断していた気配がある。その後当局はどのような対応をとったのだろうか。  年越し間もない1月4日、共産党中央政治局常務委員(チャイナセブン)の一人、張高麗・国務院常務副総理(第一副首相)が北京市で関係者を集め座談会を開催した。北京市幹部に対し、直ちに厳格な対応策をとるように指示し、もし環境目標を達成できない場合は問責を行うとまで言及した。張氏は、具体的な措置として、石炭煤煙汚染取締の強化、自動車規制の強化、コーポレートガバナンスの強化、大気汚染警報発令時の対応強化、周辺地区との連携強化を挙げ、各関連当局が一丸となって事に当たることを言明した。  その10日後の1月13日、北京市政府常務会は「北京市2016年クリーン空気行動計画」を発表した。2016年中に他の市から北京市に入境する大型ディーゼル車は北京市首都高速道路である北京六環路以内に侵入することを禁止するという内容だ。さらに2020年までに同越境大型ディーゼル車は北京市への侵入を禁止することを目指す。また、違反者の取締を強化し、とりわけ同国が定める国Ⅲガソリン車、国Ⅳディーゼル車と偽る車両に対しては高額の罰金を課していく。さらに、2016年末までにハイブリッド車やEV車の累計台数目標を5万台とし、EV小型バス車両に対するEV充電ステーションの割合が70%となるようインフラ設備を設置、北京六環路以内では5km圏内ごとに公共EV充電ステーションを設置する。  ハイブリッド車、EV車、FCV車など新エネルギー車両については、中央政府も大規模に支援していく発表を昨年末にしていた。12月16日、国務院財政部、科学技術部、興業情報化部、国家発展改革委員会、国家エネルギー局の5部門は協働で「第13次5ヵ年計画・新エネルギー自動車充電設備奨励政策及び新エネルギー自動車普及通知」を発布し、全国省・市の新エネルギー車両普及助成金が総額2億元(約36億円)に達することを発表していた。さらに前日の12月15日には、国家発展改革委員会、住宅都市農村建設部、交通運輸部により、新エネルギー車両には駐車料金を割安にするなどの政策の方向性が示された。中国の自動車市場で、新エネルギー車両に対する需要は大きく拡大しそうだ。  また同行動計画では、石炭煤塵対策として2〜3年をかけて主要地区の「無煙化」を実施し、農村部では5年をかけて燃焼コンロの無煙化を進める。また、企業取締では、煤塵規制を遵守しない企業には対応を迫り、改善されない場合は北京市からの立ち退きを実施する。立ち退きは2016年だけでも2,500社に上る見通しだという。煤塵対策に関しては、9月30日に国際NGOのグリーンピースが中国の電力事業者26社の煤塵、二酸化硫黄、窒素酸化物排気量に関する調査をまとめ、主要12社全てがいずれかの排気量規制に実態として違反していることを明らかにしていた。グリーンピースは法規制の穴を指摘し、短時間に排気量を大幅に増やすオペレーションをすることで、「合法的に」違法行為を行えてしまうことに警鐘を鳴らしていた。煤塵については中央政府も北京市当局も目下規制強化の必要性を感じており、グリーンピース調査が大きな貢献をもたらしたと言えそうだ。  12月22日を最後に今日まで「赤色警報」は出ていないが、ひとつ手前の「黄色警報」は12月31日から1月2日にも発令されている。北京市、天津市、河北省のエリアは中国でも最も大気汚染が深刻なエリアだと言われている。改善が急を要しているものの時間はまだまだかかりそうだ。 【当局サイト】北京市環境保護局 【参照URL】新能源汽车产业2015年12月获9项政策支持 【参照URL】【新闻摘要】国内12家“超低排放”燃煤电厂的实际排放情况调查  

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【エネルギー】環境政策の盲点(2) 〜自動車の燃費規制は省エネに寄与するのか?〜

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最近、自動車購入の際に、燃費を重視する消費者が増えてきています。2月4日付の日経新聞も「<消費者の目>低価格・低燃費志向に」という内容を報じました。消費者の行動が変化してきたことの背景には、環境意識の高まりもありますが、それ以外にも経済的な側面についても考慮する必要がありそうです。 経済的側面としては、昨今、米国のシェールガス革命に端を発し原油価格が下落していますが、ガソリンの出費を抑えたいというニーズは少なくありません。こういった経済的理由を背景に、家計に優しい燃費の良い車が選ばれているというわけです。そして、これに呼応し政府も、自動車の燃費を改善するため、1987年に燃費規制を法整備しました。車の重量ごとに燃費改善の達成目標を設定し、それをクリアするよう自動車メーカー各社へ要求したのです。この燃費規制は今日に至るまで数回に渡り改訂され、日本の自動車の燃費改善に貢献してきたと言われています。最近では、エコカー減税なども導入され、日本政府は自動車が与える環境負荷の削減に取り組みつづけています。 ところで、この自動車燃費規制は本当に省エネルギーに寄与しているのでしょうか。環境政策検証の第2弾は、この自動車燃費規制の効果がテーマです。ここで、再度登場して頂くのは、前回「【エネルギー】環境政策の盲点(1) 〜電気料金の段階制は省エネに寄与するのか?〜」で紹介した米ボストン大学ビジネススクール伊藤公一朗助教授。伊藤氏は、米シカゴ大学ジェームズ・M・サリー助教授と共著で、論文「The Economics of Attribute-Based Regulation: Theory and Evidence from Fuel-Economy Standards」(製品属性に基づく規制の経済学:燃費基準からの理論と証拠)を発表し、日本の自動車燃費規制の経済学的な検証を行っています。この論文を基に規制の実態に迫ります。 伊藤 公一朗(いとう・こういちろう) 米ボストン大学助教授 宮城県仙台市生まれ。仙台一高、京都大学経済学部卒業。ブリティッシュ・コロンビア大学修士課程、カリフォルニア大学バークレー校博士課程修了(Ph.D)。スタンフォード大学経済政策研究所研究員を経て、2013年よりボストン大学ビジネススクール助教授。専門は、環境・エネルギー経済学、産業組織論、公共経済学。 段階制の自動車燃費規制 まず、現在の日本の燃費規制が採用されるに至った理由から見ていきましょう。省エネルギー政策である燃費規制の目的は、もちろん燃費を向上させることです。単純に考えれば、すべての車種に対して一律に同じ燃費規制値を課せば、各社の努力により燃費改善が実現されそうですが、一律燃費規制は最終的には採用されませんでした。背景には、政治的な理由と経済的な理由がありました。 政治的な理由としては、一律の燃費規制が大型車の購買層の負担増に繋がってしまうことが挙げられます。一律に規制値が設けられた場合、重量の関係で大型車の燃費改善は非常に厳しいものとなります。もともと軽い小型車は燃費が良いのに対し、重い大型車は燃費が悪いため、一律の数値を目指すには大型車にはより多くの改善が要求されてしまうからです。燃費改善にかけた費用は当然自動車の価格に反映されます。結果、大型自動車は値上がりする可能性が高くなります。所有する車の大きさと所得は正の相関を持つことが統計的に明らかになっており、大型車の価格上昇は高所得層への負担を大きくするのです。つまり、所得層に応じて燃費改善、すなわち環境改善への負担を衡平にしようとすると、必然的に一律規制は不適切となります。 経済学からも同じことが言えます。経済学から規制を考える際には、社会全体で最小の費用で効果を出すという「規制の経済学」の基本原理があります。この原則に基づくと、同じコストをかけるのであれば、全ての車種の規制を一律に設定するよりも、重い車種も軽い車種も現状の燃費から均一に一定程度改善することのほうが大きな効果が得られます。逆に、一律の規制値を設ける方法では、社会全体の費用が必要以上にかかってしまうというわけです。 そこで、どの車種でも、規制達成費用が均一となる方法として採択されたのが階段状の燃費規制です。一定範囲の自動車重量ごとに規制値を設け、改善にかかる費用をできる限り均一にし、結果として社会全体の費用を最小に抑えることが、この政策の狙いというわけです。 (図1. 日本の自動車燃費規制) 2008年には燃費規制が強化され、規制値が高まっただけでなく、階段を構成する自動車の重量範囲も狭くなり、より段の細かい燃費規制が出来上がりました。 環境負荷を上げるインセンティブ ところが、伊藤氏は、この階段状の燃費規制には抜け穴があるということを明らかにしました。そもそも政策の出発点は、環境への配慮にありました。そしてこれを達成するには企業がより燃費の良い自動車を生産する必要がありますが、図1を元に検証してみると、企業は別の方法で規制を克服できることがわかります。 上図は、燃費規制で制定された重量ごとの燃費達成基準を表した図です。燃費達成基準は、2008年に強化され、規制値が高まるとともに、同時に階段を構成する自動車の重量範囲も狭くなり、より段の細かい燃費規制が出来上がりました。 新基準でも旧基準でも、政策の骨子は変わっていません。自動車の重量が軽くなるほど燃費規制が厳しくなり、自動車の重量が重くなるほど燃費規制は緩くなっています。この制度の下で、企業が基準を達成するためには2つの選択肢があります。1つは燃費を改善する、すなわち図の上の方に進むことで、基準値をクリアする方法で、これは燃費規制の目的に則したものです。もう1つは、燃費をそのままに車の重量を重くして規制をクリアする、すなわち図の右の方に進むという方法です。後者を選択すると、基本的に車は重くなるほど燃費が悪くなりますので、環境にはマイナスのダメージを与えるものとなります。 それでは、実際に企業はどちらを選択しているのでしょうか。国土交通省が公開している自動車燃費一覧というデータをこの階段状の環境規制値のデータと照らし合わせてみた結果が以下の図2と3です。 (図2. 燃費規制値と自動車の分布 <政策変更前>) (図3. 燃費規制値と自動車の分布 <政策変更後>) 図2は、2008年の燃費規制強化前の燃費基準と実際の車種の出現頻度を表したものです。多くの車種は規制が緩くなるギリギリの点に綺麗に集中していることがお分かり頂けると思います。しかし、これはたまたまそうであったのかもしれません。そこで、2008年の燃費規制強化後にどのようになったかを図3で見ていきましょう。結果は同じく、規制が緩くなるギリギリの点に車種の出現頻度が移動しました。ここから言えることは明確です。企業は意図的に図の右の方に進める対応をしているということです。事実、計量経済学に基づく統計によると、市場における10%の車に平均110キロの重量増加が発生しているといいます。これは本来の目的である「環境への配慮」とは逆の効果を生み出していることになります。 社会全体への負担の増加 この規制により、社会は2つのコストを背負っています。 1. 重量増加により、環境へ悪影響を大きくしていることによる損失 2. 重量増加により、自動車事故時の死亡率を高めてしまうことによる損失 実はこの政策は日本だけでなく、アメリカやヨーロッパ、中国といった世界の四大自動車市場においても採用されており、その被害総額は計り知れません。少なくともこれらのうち、2点目だけでも自動車市場全体で約1000億円の損失が発生すると伊藤氏は算出しています。そこで、伊藤氏は代替点を提案しています。 コンプライアンス・トレーディング(規制達成値取引制度) 1つ目は、2012年よりアメリカにて採用されている「コンプライアンス・トレーディング(規制達成値取引制度)」です。コンプライアンス・トレーディングの基本的発想はCO2の排出権取引と同じです。つまり、全ての車種に一律に規制値を設定し、その規制値を上回る燃費を達成できた企業は余剰達成分を他の企業と取引できるということです。このシステムを現状の階段状の燃費規制に組み込むことによるメリットは次の2点です。 1. 全ての車種に同じ規制値が課せられるため、重量を増加させるインセンティブを生み出さない 2. 余剰達成分が取引できるため、全ての車種にとって規制達成にかかる費用が均一化される この施策のメリットは上記の通りですが、最大の問題は日本では企業間の取引が制度的に認められていないことにあります。適切な競争が行われるような制度設計を整えることは当然必要ですが、環境への負担軽減という目的を達成するためには近い将来、検討するべき政策デザインだと伊藤氏は総括しています。 段階制が抱える問題点 今回は、燃費規制の段階制の問題点を検証しました。繰り返しになりますが、問題は段階制であって、燃費規制そのものではありません。実際に日本は燃費規制によって、大きな燃費改善を実現しました。制度面で優れていた点は、頻繁に基準値改訂を行って達成基準を厳しくしていき、そしてその達成基準の設定においてトップランナー方式を導入した点です。トップランナー方式とは、達成基準を決める際に、市場に出ている最も優れた燃費性能を実現している車種の燃費をもとに、新達成基準を算出するという手法です。どんどん厳しくなる燃費規制によって、全体的に燃費改善が成し遂げられました。問題は段階制なのです。 前回に引き続き環境政策の盲点について深掘りすることで、一見して効果のあるように見える政策も目的に反する結果を生んでいる可能性があることをご紹介しました。近年、環境が抱える問題は地域や社会を巻き込みながら地球規模のレベルまで大きくなってきています。打ち出した施策の目的は何であるかを明確にした上で、適切に効果測定を行い、改善を図る。こうしたPDCAサイクルを回す速度の向上はグローバル化したビジネスにおいてだけでなく、切迫した環境政策にも求められることだと言えるでしょう。

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2015/02/17 体系的に学ぶ

【エネルギー】風力発電と低周波音問題 〜現状と対策〜

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低周波音という風力発電のデメリット 風力発電は再生可能エネルギーの中でも発電コストが低く、将来を有望視されるエネルギー源ですが、懸念材料がないわけではありません。風力発電の普及において、最大の懸案材料となりえるのが低周波音被害です。 (出所:環境省「よくわかる低周波音」) 低周波音とは、空気の振動によって発生するとても「低い」音です。人間の耳は、空気の振動を音として認識しており、振動の周期(周波数)が高いものを高音、周波数の低いものを低音として認識できるようになっています。今回取り上げる低周波音は、音の中でもかなり低い領域(概ね100Hz以下)のもので、人間の耳でとらえられる可聴音のものから、さらに低く人間は感知できないものまでを含んでいます。低周波そのものにも様々な種類があります。波が打ち寄せる海の音の様に癒やしの音もあれば、工事現場から発せられる音のように不快感や圧迫感を感じるものもあります。今回取り上げる風力発電は、風車という構造上どうしても、空気の動きに変化を与えます。そして、場合によってはそれが人に不快感を与えるタイプの低周波を発してしまうことがあります。それが問題となります。 円満解決が難しいトラブルの発生 日本で風力発電の低周波音問題がクローズアップされたのは、2007年のことです。愛知県で風力発電トラブルが発生した際です。同年1月に、愛知県豊田市と田原市には各1基の風力発電機が運転を開始。その後、田原市で2名、豊田市で26名が健康の不調を訴え、行政が乗り出す事態となりました。一般的に、低周波音の調査では、調査員が現地の低周波音を実際に耳で確認したり、測定器を使って低周波音の音域や音の強さ(デシベル)を計測します。法的紛争にまで発展した田原市と豊田市では、環境省も腰を上げて実測を行いましたが、結果はシロ。人体に悪影響を与える種類の低周波音は発生していないという結論となりました。しかし、これで問題が解決したわけではありません。それは、低周波音の種類と人体への影響については万人が納得する基準が未だ見出されておらず、科学者の間でも見解が一致していないためです。特に、環境省の調査報告で、10Hz以下の低周波音は観測されるが、10Hz以下の低周波音は耳が感知できる音域ではないため健康被害はない(これを感覚閾値論と言います)、としたことに対して、耳が感知できないものでも人体に悪影響を及ぼしうるとする反論が登場しています。 さらに紛争の収拾を難しくするのが、風力発電と低周波音の因果関係の立証です。そもそも低周波音は空気の振動であって、その空気の振動が何によってもたらされているかという因果関係は極めて計測が難しいものです。事件の現場にも、人間社会や自然環境から空気に対する影響はたくさんあり、低周波音があったからといって、それを風力発電機が原因となっていると特定することは難しいのです。健康被害を訴える方からすると、風力発電事業者が責任逃れを主張しているようにも聞こえますし、風力発電事業者からすると言い掛かりのような気持ちも芽生え、双方の気持ちのすれ違いが発生してしまいます。 予防原則と低周波音規制 このように環境・健康被害については、科学の見解の不一致により紛争解決がスムーズにいかなくなることが往々にしてあります。但し、それでは人々が安心して暮らせません。そこで、現在、環境法の分野が採用している考え方が「予防原則」です。予防原則とは、1990年代に欧米を中心に生まれてきた新しい概念で、環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす仮説上の恐れがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状況でも、事前に規制措置とっても良いという考え方のことです。一見、当たり前のように思えますが、これが登場した時は画期的な考え方でした。通常、何か事件があった場合、裁判では立証責任が課せられ、立証を果たせなかった場合は無罪となります。また、事件で相手に対して不当に不利益を与えた場合は有罪となります。例えば、環境省が因果関係が不明なままにある環境規制を発し、実際には悪影響がなかったことが判明すると、営業妨害として環境省が裁判で敗訴し賠償責任を負わせられる可能性もあります。予防原則では、このように因果関係が不明な状況でも、実際には発生しうるかもしれない悪影響を防止するために事前に規制を課すことは、その実際の因果関係に依らず正当である、という考え方なのです。 風力発電の低周波音に対する規制は、世界各国で対応が分かれています。日本では環境省が低周波音被害に対しての対応マニュアル「低周波音問題対応の手引書」を地方自治体に配布して、事件発生時の事後対応については整備してきていますが、予防原則に立脚した低周波音対象の規制法はいまだなく、騒音規制法、振動規制法という関連法で辛うじて対応をしている状況です。相次ぐ被害の訴えに対して、弁護士会からも環境省の規制未整備に対する不作為も指摘されています。 一方で、スウェーデンやポーランドなどでは、下図にあるように、予防原則に基づく事前規制が敷かれています。法規制では、各音域(Hz)ごとにデシベル基準を設定し、それ以下に低周波音の発生を抑える義務が課されています。同様の法案の必要性について、いま諸外国でも一斉に議論がスタートしています。 (出所:日本弁護士連合会「低周波音被害について医学的な調査・研究と十分な規制基準を求める意見書」) 事前規制強化に反対する人の意見は、不要な規制によって風力発電の設置数が伸び悩むということをあげています。諸外国の結果は、この主張にイエスともノーとも言えるものです。予防原則措置がヨーロッパ諸国に多く、またヨーロッパには風力発電立国が多いことから、予防原則を確立することで社会の不安を払拭し風力発電が容易に増やせるとも言えそうです。但し一方で、風力発電の数が急増し被害の訴えが増えた後に、ヨーロッパで法規制が強化され、今後は伸び悩むとも言えそうです。 低周波音問題とサステナビリティ活動 予防原則の有無について議論が世界で巻き起こっている中、真に大事なことは、いかにして風力発電を社会にとっても安全性の高いものにしていくかです。そのための方法は主に2つあります。1つ目は、低周波音発生防止技術のイノベーション。風力発電が発生させる低周波音被害を少なくできればできるほど社会にとっては望ましいということに反論する人はあまりいないでしょう。課題は、低周波音発生の対策コストです。事前に予防をすればするほど、予防器具を購入したり、予防技術を開発するコストがかかります。そのコストが減少すればするほど、社会的にも経済的にも低周波音対策を行うことに合理性が生まれます。もう1つの方法は、洋上風力発電の促進です。洋上風力発電の発展も低周波音問題の新たな解決方法となりえます。洋上風力発電は、そもそも風力発電機を人間社会から離れた洋上に設置されるため、低周波音が発生された場合でも、人間社会には届きづらいというメリットがあります。また、現在、日本などが取り組んでいる浮体式洋上風力はさらに沖合に風力発電機を設置する方式でもあり、低周波音被害はより少なくすることができます。 低周波音被害が発生した後に、被害者を救済することもCSR活動として讃えられるべき活動ですが、低周波音被害そのものをなくしていく取組も同じくサステナビリティアクションとして事業会社が誇れる内容です。風力発電の低周波音発生防止のための技術開発や洋上風力発電の開発は今後求められていく取組です。このような取組は、サステナビリティ報告書や統合報告書の中で、十分にアピールできます。 文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治

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2014/07/23 体系的に学ぶ

【アメリカ】Green America、有害物質規制法の更新を要求

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サスティナビリティを推進する団体、Green AmericaがTSCA(有害物質規制法)更新の要求を発表した。 TSCAは1976年に適用されたが、その後改正されることなく未だに適用され続けている。明らかに現代にそぐわない本法律は以前から問題視されていた。本要求は化学物質の規制を行い、より安全に企業が製品を生産させる土壌を作ることが目的。Green Americaは「万が一の時に国家は国民を守る義務がある。しかし、現在のTSCAではそうするだけの基準を満たしていない」と主張した。 人権法など1世紀も前に制定されながら内容が大きく変化する必要のない法とは異なり、TSCAは、科学技術の進歩や新たな物質の発明により、恒常的に改正が必要とされる性格の法だ。40年近く遵守されていたTSCAだが、時代遅れとなった法は、現代のシーンに見合ったものに見直される必要がある。 【団体サイト】Green America 【発表の詳細はコチラ】Safer Chemicals Biz Petition

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2014/01/18 最新ニュース
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