【戦略】CSRからCSVへ? 〜CSV、CSR、サステナビリティ、CR、SRの違い〜

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マイケル・ポーター教授が火を付けた"CSV" 2011年にハーバード大学のマイケル・ポーター教授が、ハーバード・ビジネス・レビュー誌で発表した論文 "Creating Shared Value"。それ以降、日本でもCSVという言葉が多用されるようになりました。CSVを説明するにあたり、ポーター教授は論文の冒頭で、 Shared value is not social responsibility, philanthropy, or even sustainability, but a new way to achieve economic success. It is not on the margin of what companies do but at the center. と言及。「CSVは、社会的責任でもなく、慈善活動でもなく、サステナビリティでさえなく、経済的な成功を達成するための新たな道である」という表現から、CSVと既存のCSRやサステナビリティとを対立概念として置こうという意図が伺えます。 (出所:Michael Porter "Creating Shared Value" HBRをもとにSustainable Japan作成) ポーター教授の定義によると、CSRは、旧来的な慈善活動であり、外部の圧力によって渋々やらなければならない類のもの。一方CSVは、企業が競合優位性を発揮していくための自発的な価値創造の取り組み。ポーター教授は、大きなトレンドとして、今や企業はCSRからCSVへとシフトしてきていると説きます。その結果、日本国内でも「これからはCSRではなく、CSVだ」「本業と一体化したCSR」「守りのCSRから攻めのCSR」というような言い方が多くされるようになりました。今年12月10日に発売されたハーバード・ビジネス・レビュー日本版でも"CSV経営"というタイトルで特集が組まれています。 では、今後、CSRやサステナビリティという言葉の出現頻度は少なくなっていくのでしょうか。海外の様子を見ていると、そんなことはなさそうです。CSRの分野は、日本よりも欧米のほうが進展していると言われますが、日本で昨今CSVという言葉が非常に多用される一方で、欧米ではさほどCSVという言葉は使われてもいません。では、欧米はポーター教授のいう旧来型のCSRが依然として注目されているのかというと、そうでもありません。では、この単語の利用頻度の違いはどこから来るのかというと、それは単純に単語の定義が違うというだけの話なのです。 単語の使われ方の整理 CSRと同類の単語には、他にも、CR(Corporate Responsibility:企業の責任)、SR(Social Responsibility:社会的責任)があります。それぞれ、現在でも欧米では多く使われている言葉ですし、同様に、CSRやサステナビリティという単語も現在でも一般的に使われています。結論から先に言ってしまいますと、欧米では、CSR、サステナビリティ、CR、SRは、日本で現在認識されているCSVとほぼ同じ意味で使われており、明確に違いを言うことは極めて難しい状況です。では、なぜ似た意味の単語がここまで乱立してしまったのか。背景とともに、それぞれの単語を解説していきたいと思います。 Corporate Social Responsibility (CSR) 今回取り上げる、CSR、サステナビリティ、CR、SR、CSVの中で、CSRが最も早くから使われており、世界で最も普及している単語です。CSRという用語が市民権を得てきた1990年代は、欧米でも「CSR=慈善活動」という捉え方が一般的でした。しかし、その後、CSRの単語の意味は欧米で大きく変化していきます。先日、「【レポーティング】統合報告による企業情報開示の変革 〜武田薬品工業社の成功事例〜」でも紹介したとおり、2000年代にはCSR第二世代の考え方「CSR=リスク管理」という概念が芽生え、そして2010年代にはCSR第三世代「CSR=競合優位性の源泉」と考えられるようになりました。結果、第三世代のCSRの概念は、ポーター教授の言うCSVとほぼイコールであり、欧米のビジネス界には、ポーター教授はあまりにも時代遅れなCSRの定義を持ちだしているという見方もあるぐらいです。 ポーター教授の言うCSVを「CSR」という言葉で表現している代表的な機関はEUです。非財務情報の開示を積極的に推進しているEUは、"Corporate Social Responsibility (CSR)"という名称でアジェンダ設定しています。ですので、EU諸国の大半は、CSVのことを、引き続きCSRという言葉で表現しています。 Sustainability (サステナビリティ) ポーター教授は、「サステナビリティ」も旧来型CSRのひとつとして捉えており、CSVに取って代わられるというような表現をしていますが、これも欧米の実態とは大きくかけ離れています。サステナビリティを多用している国は米国です。単純にサステナビリティと言われたり、コーポレート・サステナビリティと言われたりしますが、意味は同じです。米国でも以前はCSRという言葉が最も多く使われていたのですが、CSRという単語が第一世代のCSRのイメージを強く想起してしまうため、それとは違う新たな用語として「サステナビリティ」が2000年代以降使われてきました。結果、アメリカ企業の大半はCSR報告書のことを「サステナビリティ報告書」と呼んでいます。このように、米国では「CSV=サステナビリティ」なのです。 世界の経済大国米国でサステナビリティという言葉が多用されるようになったことに呼応して、GRIもIIRCもSASBもサステナビリティという言葉を好んで使う傾向にあります。その結果、アメリカの影響を受け、世界中の多くの国で「サステナビリティ」という言葉が用いられるようになってきました。このトレンドに倣って、当サイトでもサステナビリティという言葉を常用しています。 Corporate Responsibility (CR) CSRに非常に似た言葉にCR (Corporate Responsibility)があります。CRという用語をよく使う機関はイギリス。イギリスもかつてはCSRという単語が最も普及してました。しかしながら、かつてのアメリカと同様、「CSR=慈善活動」となってしまっているイメージを破壊するため、新たにCRという言葉が考案されました。現在イギリスでは今回整理する5つの単語の中でCRが最も多く使われており、イギリスではCSR報告書は、「CR報告書」と呼ばれています。この背景には、イギリス政府自身がCRという言葉を使っていることにもありそうです。イギリスもCSV的な考え方の最先端を行く国ですが、政府が発表するドキュメントではCRが用いられています。 また、イギリスではCorporate Citizenshipという言葉もよく使われますが、これも同じ意味です。 Social Responsibility (SR) CSRからCorporateがなくなったのがSRです。SRという言葉が大々的に使われているのが、ISO26000(CSR基準)です。ISO26000では、CSRの標準化にあたり、企業だけでなく、いかなる団体にも参照してもらえるようにしようという発想が生まれ、Corporateの文字がなくなりました。Social Responsibilityという単語は、ISO26000の歴史がまだ浅いからか、他ではあまり使われていません。 Creating Shared Value (CSV) そしてCSV。CSVという単語が広く普及してきているのは世界で日本だけです。代わりにアメリカはサステナビリティという言葉を生み出しましたし、イギリスはCRを生み出しました。ですので、海外に行って「これからはCSRではなくCSVだ」と言っても正直あまり通じませんし、ポーター教授の論文も日本ほどは影響力はないようです。それは、ポーター教授が欧米で不人気ということではなく、上記でも書きましたが、ポーター教授があまりにも古いCSRの概念を持ちだしてたからなのではないかと感じています。しかしそれは、ポーター教授の主張が間違っていることは意味せず、繰り返しになるが、ポーター教授の視点は、アメリカではサステナビリティ、イギリスではCR、そしてEUではCSRという言葉を用いて、しっかり世界に根付き始めています。 文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治

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2014/12/16 体系的に学ぶ

【従業員】プロボノの戦略的活用方法 〜企業×プロボノ セミナー参加レポート〜

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日本経済界でも関心が高まるプロボノ 「プロボノ」。ラテン語で「公共善のために」を意味する"pro bono publico"を語源とし、英語でpro bonoと呼ばれている言葉です。日本では、専門的なスキルをもとにしたボランティア活動などと紹介され、通常のボランティアと区別する意味合いで使われています。もともとはアメリカで発展してきたこのプロボノという概念、当初は専門的なスキルが内部調達できないNPOなどに対し、ビジネスパーソンがボランティアとして力を貸すという、個人とNPOの直接的な関係性によって成り立ってきました。そのプロボノが今、海外企業によって、積極的に活用されるようになってきています。そして、この流れが日本にも波及しようとしています。 日本の経済界を代表する組織、経団連。今年9月19日、経団連の中で社会貢献担当者が集まる社会貢献担当者懇親会に、プロボノを推進する2つのNPOが招かれ、国内外のプロボノの状況を踏まえ、プロボノの活用方法に関するプレゼンテーションがなされました。 社会貢献担当者懇談会でプレゼンテーションを行ったNPOのひとつがNPO法人サービスグラント(以下、サービスグラント)です。2005年からプロボノ活動家を登録し、NPOに対して紹介する団体としてスタートしました。2009年にはNPO法人となり、企業に対して積極的にプロボノ活動への参加を呼びかけています。10月29日、そのサービスグラントが経団連会館で「企業×プロボノ セミナー」を開催。企業のCSR部門の方々を中心に約100名が集まりました。私もこのセミナー参加してきましたので、セミナーでの報告内容も踏まえ、プロボノの今と明日をご紹介していきます。 社会貢献活動としての日本のプロボノ セミナーは、日本企業による事例紹介、海外のプロボノ推進団体からの事例紹介、そして日本での普及に向けたパネルディスカッションの3部構成。冒頭の日本企業の事例紹介は、日本のジョンソン・エンド・ジョンソン社と三菱商事社が担当します。ジョンソン・エンド・ジョンソン社がプロボノを開始したのは今年7月、参加するNPO団体から課題を共有し、それに対しジョンソン・エンド・ジョンソンの社員が業務の知見をもとにアドバイスをするという1日限定のイベントをサービスグラントのサポートのもとで開催しました。ジョンソン・エンド・ジョンソン社が会社としてプロボノを始めるきっかけとなったのは、もともと個人的にプロボノ活動に従事していた同社社員からの紹介でした。プロボノ活動の良さを知ってもらいたいと社内に自ら働きかけた結果、社会貢献活動の一環として会社として取り組むようになったと言います。一方、三菱商事社のプロボノは東日本大震災の被災地支援。すでにのべ3,000人以上がボランティアとして現地入りした他、奨学金や復興融資資金としての資金提供もなされています。 このように、現在、プロボノに取り組んでいる日本企業の多くは、プロボノを社会貢献活動として実施しています。社会貢献活動と言えば、従来はNPOや被災者に対する金銭的な支援が主でした。しかしながら、資金提供は比較的手間も少ないのに対し、プロボノは準備やアフターケアなど労力を要します。それでもプロボノが企業内で機運が醸成されたきた背景には、従業員による「社会貢献したい」という思いがあります。特に最近では若い世代から「何か自分で社会の役に立ちたい」と思う人が増えているようで、プロボノを実施していることで自社に対するロイヤリティも高まっているようです。 この社員からの自発的なプロボノ欲求には、取り組んでいる企業自身もメリットを感じているようです。ジョンソン・エンド・ジョンソン社と三菱商事社のプレゼンテーションの中でも、参加した社員が充実感を得、再度参加したいというフィードバックが多いことも共有されました。また、参加した人々から、日頃接点がない他の部署の社員との交流を通じて社内ネットワークが広がった、NPOへのアドバイスを通じて自身のスキル向上にもつながったという、企業の組織力向上にも繋がるという嬉しい声が続々出ていると言います。プロボノには、サービスの受益者であるNPOだけでなく、サービスの提供者であるプロボノ実施者や実施企業にも感謝されるという、ウィン・ウィンの関係が構築できる効果があるようです。 人材開発としての海外のプロボノ 一方で、日本とは桁外れてプロボノが進展しているアメリカの状況はどうでしょうか。アメリカでのプロボノ推進の老舗的な存在であるTaprootから、現況の説明がありました。Taprootは2001年に設立されたNPOで、現在は、ニューヨーク、サンフランシスコ、ロサンジェルス、ワシントンDC、シカゴにオフィスを構える全米を代表するプロボノ支援団体です。 Taprootがこれまでに動員したプロボノ活動者は約7,500人で、およそ2,500のプロジェクトが進行しています。この原稿を執筆時点でのサービスグラントの動員数が186プロジェクト、2,200名なので、いかにTaprootが巨大な存在になっているかご理解いただけるかと思います。 さらに、Taprootはプロボノを狭義で定義しています。上図は、Taprootによる分類ですが、彼らはプロボノは専門知識を有する「Pro bono Professional Expertise」や「Board Service」をプロボノとし、それ以外の単純労働力提供(ゴミ拾いなど)や一般技能提供(日本人による日本語教育など)はプロボノではないとしています。プレゼンの中でも、三菱商事社の被災地支援はプロボノではなくExtra HandsだとTaprootは言明していました。この狭義のプロボノで、常時7,500人規模を動員しているプロボノは本当に大きな存在です。 また、この動員数の多くは企業から提供されています。Taprootにプロボノ人材を提供している企業には、LinkedIn, GAP, Chevron, HP, CITI BANK, American Express, Microsoft, UPSなど錚々たる企業がいます。多くの企業では6ヶ月間〜9ヶ月間という長期のプロボノプロジェクトに参加していたりもします。もちろん、企業には無償で行っているため、ここから収益は得られません。一見すると、業務妨害にもなりかねないこのプロボノ活動に、なぜここまでアメリカの企業は参加しているのでしょうか。 アメリカ企業の多くは、このプロボノを社会貢献活動ではなく人材開発という実利に着目しています。ここが現在の日本企業との大きな相違点です。プレゼンの中でも、「91%のFortune500企業の人事部門の管理職は、NPOに対して知識や専門性をボランティアで提供することは、ビジネススキルやリーダーシップを磨く効果的な方法だと回答している」との報告がありました。私自身、以前、Taprootのサンフランシスコ支社を訪問したことがあるのですが、そこでも「GAPではプロボノに参加しリーダーシップを育成することが管理職昇進への条件となっている」と説明を受けたこともあります。従って、アメリカの企業の中でプロボノ活動を遂行しているのはCSR部門ではなくむしろ人事部。ヘッドカウント(人員の頭数)を意識するアメリカ企業は日本企業以上に人件費に神経を尖らせていると言われますが、それでも人材開発としてプロボノに人員を会社の人事部が送り込んでいたりします。 もちろん、中には「6ヶ月〜9ヶ月間も人員派遣するのは長すぎる」ということで、1日で完結するプロボノプログラムの企業ニーズも多く、Taprootはこの短期間プログラムの実施も進めているようです。 次にはシンガポールの様子を見てみましょう。セミナーではシンガポールのプロボノ推進団体であるEmpactによる現状報告もありました。Empactは2011年に設立された若いNPOく、「アメリカと比べたらシンガポールはまだベイビーです」と謙遜していましたが、共有された活動内容は既に高い次元に行っていました。プレゼンテーションの中での紹介事例には、部署間のコミュニケーション不足に悩んでいた世界的な大手金融機関がプロボノを使ってプロジェクトに取り組むことで社内のコミュニケーション向上に寄与したという事例や、シンガポールにアジア地域統括拠点を置く世界的な消費財メーカーの役員陣がプロボノプロジェクトを使って自身のメンター力を向上させた事例などが紹介されていました。Empactでは、企業側の組織課題とNPO側の経営課題をうまくマッチングするプロジェクトを考案することで双方にとって大きな実利のあるプロボノ案件を生み出しています。 また、Empactは、役員陣が参加した消費財メーカーのプロジェクトからの大きな収穫として、プロボノに役員が参加することで社内全体のCSR意識が大きく向上したことを挙げ、昨今CSRの社内浸透に苦労している企業にとって、プロボノへの経営幹部の参加が大きな打開策になるのではと提言もしていました。これには私もなるほどと納得してしまいました。 企業がプロボノに取り組むための課題とその解決策 最後のセッションは、「企業がプロボノに取り組むための課題とその解決策」と題し、長年プロボノを続けてきているNEC社とパナソニック社のCSR担当の方をパネラーに、経団連社会貢献担当者懇親会の座長を務める、金田晃一・武田薬品工業コーポレート・コミュニケーション部(CSR)シニアマネジャーがモデレーター役となったパネルディスカッションでした。金田氏からは「シンガポールがベイビーだとしたら、日本は一体何なのか」とのコメントもあり、NEC社とパナソニック社からも率直な課題感が飛び出していました。両社から伺えたのは、事業部からの理解と人事部からの理解の双方の面で苦しんできたということです。ディスカッションの中では、「無償でサービス提供したら事業と競業してしまうのではないか」という事業部からの懸念にどのように対処するのかという話題も出、プロボノ推進団体のサービスグラントからは「そもそもサービスを購入できるような団体はプロボノではなくサービスを購入したほうが早いし確実。プロボノを提供する団体とはサービスを有償で受けられないようなところが対象」と説明もありました。一方、人事部からの理解の面では、そもそも社会貢献活動として始まっているため人事部との意見交換もまだ少なく、新人研修としてプロボノを導入しようとしたが人事部の理解が得られず実現できなかった企業の事例も紹介されていました。 このように、日米の間にはプロボノの位置づけに大きな格差が存在しています。アメリカ企業は、人材開発というプロボノの戦略的な活用方法を見出し、多くの企業が積極的に取り組んでいます。また、シンガポールでの事例のようにCSRの社内浸透のため役員クラスのプロボノ動員という戦略的な活用方法も新たに発見されてきています。繰り返しですが、プロボノは受益者であるNPOだけでなく提供者である企業そのものにも使い方次第でプラスの効果を創出できます。プロボノを検討している企業の皆さんも、サービスグラントのようなプロボノ推進団体の協力を得つつ、「どのような組織課題をプロボノを解決するのか」というテーマで一度人事部の方々と話し合ってみると良いように思います。 文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治

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2014/10/30 体系的に学ぶ

【エネルギー】再生可能エネルギー政策は失敗したのか? 会計検査院報告を読み解く

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会計検査院が過去5年間の再エネ公共事業の成果を監査 10月8日に、会計検査院が「再生可能エネルギーに関する事業の実施状況等について」という報告書を発表しました。これを受け、読売新聞が「故障・苦情…国補助金の再生エネ41設備が休止」というニュース記事をリリース。再生可能エネルギーに懐疑的な人々からは、ツイッターやブロクなどで「言わんこっちゃない。」「もうやめようよ。税金ををドブに捨てるようなもの。」などの声が上がっています。一体何が、書かれていたのか。今回は、会計検査院の報告書の中身をご紹介したいと思います。 ちなみに、会計検査院とは、政府の税金の使い方に関する監査を行う機関。企業に例えるなら監査役による会計監査と似ています。会計検査院の監査は税務調査のように選択式で実施されており、今回は最近注目されている再生可能エネルギー案件も対象となりました。但し、今回の報告において、東日本大震災で被害が大きかった岩手県、宮城県、福島県は対象外となっています。 読売新聞の記事で設備の休止がクローズアップされたことで、政府による再生可能エネルギー事業そのものが失敗だと非難する声が上がっていますが、本当にそうなのでしょうか。一般的にプロジェクトの成否を判断するには判断軸が必要です。政府による事業にも同様に成否を測る尺度が必要。では、再生可能エネルギー事業における成否の尺度とは何でしょうか。本来的には、政策目標である再生可能エネルギー比率の向上にどれだけ貢献しているか、さらにその政策目標をいかに低コストで実現できたのかが尺度と言えそうです。しかしながら、今回の会計検査院の報告にはこれらのデータは示されていません。替わりに用いられている主要なデータは、?各補助金の金額、?補助金によって建設された再エネ設備の数、計画エネルギー量と実績エネルギー量です。これらからは、補助金の投資効率はわからないものの、補助金によって何が生み出されたのかがわかるようになっています。 国庫投入と固定価格買取制度 国が行っている再生可能エネルギー推進事業には大きく分けて2つあります。1つ目は、補助金を投じて再生可能エネルギー設備そのものを直接的に増やそうというもの。もう一つは、電力会社に再生可能エネルギーによる電力を強制的に固定価格で買い取らせることで、市場原理を用いて再生可能エネルギー設備を増やそうというもの。巷で話題の固定価格買取制度は当然後者です。ちなみに、読売新聞が報じた41設備云々という話は、前者の補助金事業によるものの話であり、固定価格買取制度によって進んだ民間の大規模再生可能エネルギー施設等は全く関係ないということは先にお伝えしておきます。 2009年度から2013年度までの過去5年間で投入された国庫の額を報告書から計算しました。 過去5年間で総額4,763億円が投じられています。また国庫のほとんどは、地方政府による中規模の再生可能エネルギー設備と、住宅用の太陽光発電設備(経済産業省が太陽光発電協会を通じて補助金を給付している事業)に投じられています。また、この国庫によって建設された又は建設が補助された設備は合計約110万。住宅用の太陽光発電普及のための助成を除いた国と地方政府双方によるものだけでも7,836設備あります。 次に容量の内訳を見ていきましょう。発電設備の合計は629万kW、発熱容量は115MJ/hです。629万kWと言われてもピンとこないかもしれません。ちなみに、福島第一原子力発電所の1号機から6号機までの合計が約470万kWですので、福島第一原子力発電所の1.3個分に相当するということです。住宅用を除いた国・地方政府の合計は154万kWで、関西電力の美浜原子力発電所の容量が167万kWですので、これより若干下回る程度です。エネルギー関連にお詳しい方であれば、発電設備容量がそのまま実際の推定発電可能量を表すことではないということはご存知かと思います。例えば、常時容量いっぱい稼働可能な原子力発電所に比べ、風がないと風力発電は発電できませんし、雨天では太陽光発電は発電できません。そこで続いて、発電量の計画値と実績値を見ていきましょう。 (※データは2013年度の数値) 上記は地方政府が国庫を活用して導入した6,628設備のうち、年間計画発電量が設定され、かつ発電実績が把握できる4,407設備の2013年度のデータです。まず、注目すべきは、再生可能発電全体において計画値に対して発電実績が96.4%と悪くない数値であるという点です。何かと槍玉にあげられる太陽光発電においては計画値に対して112.6%とかなり好調です。もうひとつの注目すべき点は発電量が絶対量としてどのぐらい高いのかという点です。地方政府の導入設備の年間発電量は合計約26億kWh。これを6,628設備全体に換算し直すと約41億kWh。震災前の2010年度の福島第一原子力発電所の年間発電量が約330億kWhですので、およそ8分の1の発電量を地方政府が導入した再生可能エネルギー発電で賄っている計算になります(美浜原子力発電所の2010年度年間発電量121億kWhを基点とすると約3分の1です)。この福島第一原子力発電所の1/8という数値のインパクトは捉え方により意見が異なりますが、5年間で地方政府だけで大型原子力発電所の1/8の電力を賄うの発電所を設置したというのは、決して少ない数字ではないと思います。 さらに、上図で示した地方政府の設備設置場所を見てみると興味深いことがわかります。まず、設備のうち太陽光発電が占める割合が極めて高く(95.5%)、中でも、学校、庁舎、ごみ処理施設、上下水道施設、その他の公共施設という既存の政府関連施設の太陽光発電だけで全体の80%を占めています。新たに用地を確保することなく、既存施設のスペース活用だけで、福島第一原子力発電所の1/8を賄えているということはとても優秀だと言えます。 41設備が休止の意味 さて冒頭が示した41設備が休止の意味を見ていきましょう。会計検査院の報告書では、国・地方政府により設置された7,836設備を対象とした調査で、現在41設備が休止していることを明らかにしています。 ここでの注目点は、?7,836設備のうち活動休止はわずか41設備で、7,795設備は稼働している(稼働率99.5%)、?休止41設備のうち故障原因解明中や修理中のものが21と半数を占める、?再稼働予定のない設備はゼロ、ということです。故障や修理については他の発電設備でも避けられないことであり、地方政府導入の設備は基本的に高い稼働率を誇っていると言えます。会計検査院は報告書の中で、休止中の設備について、中央政府から地方政府に対して再稼働か廃止かを迫るよう求めているのも事実ですが、それは一般的な話であり、何も会計検査院が再生可能エネルギー設備に対して烙印を押しているわけではありません。 また、報告書の中では、すでに7設備が廃止されたことも明らかにしていますが、そのうち、やむを得ない故障が2件、事故が2件、建物売却が1件、事業中止が1件、経営破綻が1件であり、事業者の過失や都合による4件については国庫補助金が返金されています。(事業中止の1件については、文部科学省の補助金事業であり、こちらについては返金規定が未整備で返金されないようです。) 固定価格買取制度は国庫とは無関係 ここまで、政府の補助金による直接的な再生可能エネルギーの拡大事業をみてきましたが、では固定価格買取制度についてはどうでしょうか。まず、繰り返しになりますが、固定価格買取制度においては、国庫の負担はありません。電力会社が発電事業者から電力を固定価格で買い取る財源については、電力消費者から賦課金という形で徴集されているからです。 固定価格買取制度については、政府から対象設備として認定を受けた件数(認定件数)に対して、実際に運転を開始した件数(導入件数)が著しく低いということが、以前からメディアなどでも指摘されてきました。 この状況に対して、会計検査院報告書では、 経済産業省は、特段の理由なく認定設備の運転を開始しない事業者がいるとして、24年度中に認定を受けた運転開始前の400kW以上の太陽光発電設備計4,699件(これに係る認定出力1331万kW)について、認定基準等を踏まえて当該設備を設置する場所及び当該設備の仕様がそれぞれ土地の取得若しくは賃貸借又は発注により決定しているかなどについて再エネ法の報告規定に基づき調査し、26年2月にその結果を公表している(図表2-8参照)。この調査結果によれば、設置場所又は仕様のいずれかが未決定のもの、いずれも未決定のもの及び調査に対し未回答等のものがあり、その認定件数は計1,643件(4,699件の34.9%)、これらに係る認定出力は737万kW(1331万kWの55.3%)となっていた。そして、経済産業省によれば、これら1,643件の再エネ発電設備について、順次、行政手続法(平成5年法律第88号)に基づく聴聞を開始し、聴聞においても当該設備の設置場所及び仕様が未決定と認められた場合には、当該設備の認定を取り消すこととしている。 と経済産業省が対策に乗り出すことを明らかにしています。 また、国庫が投入されていないと言えども、国民から賦課金という形で強制的に徴集をしている政策でもあり、無駄のないお金の流れについて注意するよう会計検査院も報告書の中で呼びかけています。 再生可能エネルギーの国庫補助金事業は失敗とは言えない 再生可能エネルギー事業に5年間で投下された4,763億円。この税金投入は意味があった、事業が成功したというためには、税金投入の資金効率性や再生可能エネルギー比率の向上、ひいては国民のエネルギー予算全体の削減への寄与、CO2排出量の削減への寄与など、最終的なアウトカムに関するデータ収集がまだまだ必要です。しかしながら、今回の会計検査院の報告を見る限りにおいては、再生可能エネルギーに対する国庫補助金は無駄遣いであったとか、再生可能エネルギーそのものが失敗しているとは言えないのではないかと思います。特に税金を投下した事業では、主に既存施設のスペースを活用するだけで、大規模原子力発電所の数分の一の規模の発電をすでに実現していますし、さらに住宅用の太陽光発電も急速に増加してきているからです。41設備の休止というのも全体のわずか0.5%であり、全てが再稼働を予定していることを考えると、地方政府の補助金申請過程で審査がある程度はしっかりと機能していた言うことができます。 日本にとってしばらく重要な課題であり続けるエネルギー問題。重要であるからこそ、方向性についての見極めが非常に大切です。すでに取り組まれている予算投下プロジェクトは、謂わば判断の上での試金石。今回は会計検査院の報告書を細かく紹介してきましたが、試金石の判断においては感情的な判断や決め付けは結果の意味を取り違える危険性が大いにあります。大事な問題だからこそ、しっかりとした分析と議論が必要なのではないかと考えています。 文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治

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2014/10/19 体系的に学ぶ

【人権】ダイバーシティは本当に必要なのか?(下)〜日本のダイバーシティ新展開〜

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日本のダイバーシティの特徴 前回の「ダイバーシティは本当に必要なのか?(上)〜欧米におけるダイバーシティの意味〜」では、欧米と日本との間で大きく異なるダイバーシティ概念の背景として、そもそも日本と欧米では社会の多様性が違っているということを説明しました。欧米には様々な人種、民族が住んでおり、そのもとで能力・パフォーマンスを重視して採用をすると自然と社内が多様化します。そして、自然と集まる多様な人々に働きやすい環境を作るという目的で、ダイバーシティ・マネジメントという概念が生まれてきました。 一方日本は、欧米に比べ多様性が小さく、欧米で生まれたダイバーシティの必要性があまり認識されてきませんでした。過去日本でダイバーシティがホットな話題になったのは、1985年の男女雇用機会均等法の制定時です。1981年に発行した女性差別撤廃条約や、当時相次いで最高裁の違憲判決が出た日産自動車事件、住友セメント事件、伊豆シャボテン公園事件が契機となり、日本でも倫理的な側面から職場で男性と女性を同等に扱う機運が高まり、それ以降ダイバーシティといえば「女性」という風潮が現在まで続いています。 ところが、その日本でも、ダイバーシティの経済的必要性がここ数年で著しく高まっています。変化をもたらしている大きな要因は、?グローバル企業の海外進出の活発化、?ローカル企業の労働力不足です。 グローバル企業の真のグローバル化 グローバル企業が属しているビジネス環境とは、人材獲得力が競争の勝敗を左右する世界です。進出先で事業活動を遂行するには、現地の従業員やマネージャーを採用しなければなりません。そのため採用活動は、現地企業や他のグローバル企業との人材の取り合いが必至となるのです。国籍・民族の多様化は、グローバル企業本社にも及びます。グローバルなビジネス環境で真に勝っていくためには、国籍を問わず世界中の優秀な人材を本社組織の中にも呼び込まなければなりません。欧米のグローバル企業はいち早くこの競争に先手を打っており、本社経営陣の国籍多様化や現地採用人材の本社登用を促進し、国籍を問わない人事制度を構築してきています。 テレビやビジネス雑誌など多くのメディアでも報じられているように、日本のグローバル企業が海外市場でまだまだ苦戦しています。人材採用においても、日本企業は苦しい状況です。アジアの経済発展の中心の一つであるシンガポールでは、働きたい企業の上位に日本企業は1社も入ってこないというリサーチ結果も報告されています。理由としては、日本企業が外国人にとって働きやすい環境ではないということが挙げられてもいます。グローバル企業が真のグローバル化を果たすためには、国籍・民族のダイバーシティ・マネジメント、すなわち日本人以外の人々にとって働きやすい環境を整備して行く必要があります。 大きな影を落とすローカル企業の労働力不足 日本経済が活気を取り戻すためには、これらのグローバル企業が海外市場で成功を収めていくことが必要と言われていますが、グローバルなビジネス環境で事業をしている日本企業のインパクトは実は日本経済の約3割に過ぎません。それ以外の多くの日本企業は、日本国内で小売や運輸、医療福祉や飲食店を営んでいるローカル企業です。では、このローカル企業は、ダイバーシティ・マネジメントとは無縁でいられるかというととんでもありません。実は、グローバル企業以上に日本のローカル企業はダイバーシティ・マネジメントが事業継続の根管を握る時代へと突入しています。 ここ数年で大きくクローズアップされてきた日本のローカル企業の課題は、労働力不足です。日本で労働力不足が課題となってきたというとピンとこない方も多いと思います。例えばこの十数年間「日本企業は国際競争力を高めるために、海外移転を進めている」「日本は人口が減少し、市場が縮小している」「かつて賑わいを見せた商店街は今やシャッター通りと化している」「事業撤退により大量のリストラが行わることになった」と説明が随所でなされてきたためです。その結果、多くの人びとの頭のなかでは、「日本は人余りで、働く場所が少なくなっている」と理解してしまっています。ところが、日本は今、明らかな労働力不足の時代を迎え始めているのです。 突然降って湧いたような「労働力不足」問題について、経営共創基盤CEOの冨山和彦氏は著書『なぜローカル経済から日本は甦るのか』の中で解説をしてくれています。冨山氏はまず、日本には、グローバル経済圏とローカル経済圏を明確にわけて理解する必要があると説きます。日本のグローバル経済圏では依然として人余りの状況が続いており、海外進出や海外市場での苦戦、新興国企業のキャッチアップなどにより、日本企業はスリム化を実行に移し、迅速な意思決定と資本効率の向上のために人件費生産性を向上させなくてはいけなくなっています。一方、日本のローカル経済圏では深刻な人不足が発生するという真逆の事態が生じています。背景にあるのは、?少子化、?若者の都市への移住、?団塊の世代の大量退職。 特に?団塊の世代の大量退職により、5年前ほどから労働力不足がより深刻化しました。結果、人口減少社会や過疎化などでローカル経済圏は市場がどんどん小さくなっていますが、それ以上に労働力が減少するという状況が起こっています。冨山氏は前述の著書の中で、事態を下記のように分析しています。 「1947年から1949年に生まれた団塊の世代が、2012年から65歳以上の高齢者になり始めた2013年10月の人口推計では、高齢者の比率が初めて25%を超えた。彼らが平均寿命を迎えるまでのおよそ20年間は、高齢者の数が圧倒的に多くなる。段階の世代以後の数は急激に少なくなっているとともに、少子化が深刻化しているので、人手不足に関しては最も逼迫が大きい時期を迎える。 ただ、この20年間を過ぎて段階の世代が寿命を迎えると、高齢者の絶対数も減少に転じる。それでも、真に有効な少子化対策が実施されない限り子どもの数は増えないと予測されるので、生産年齢人口が増加に転じることは考えられない。結局、人手不足の構図は解消しないのである。深刻な人手不足の状態がこれから20年は続くという事実は、決して一過性とは言えない。加えてその先も好転が予測できないのであれば、構造的な問題として対処していかないとこの状況はしのげない。」 実際にローカル経済圏に属するサービス業では、人不足から年々時給が高まっています。 データでも裏打ちされるサービス分野の人手不足 冨山氏が指摘するサービス分野の人手不足は、様々なデータにも表れています。 (出所:リクルートジョブズ「2014年7月度 アルバイト・パート募集時平均時給調査」) 上記のリクルートジョブズ社の調査では、飲食店や物流、清掃職のアルバイト・パートの時給が急速に上がっています。今日、企業は人手不足を解消するために、賃金をあげて採用をしようとしていますが、それでも人手不足が解消できないほど、ローカル経済圏の人手不足は深刻化しています。 同様に、ローカル経済圏が人手不足の様子は、厚生労働省の有効求人倍率からも確認できます。 (出所:厚生労働省「一般職業紹介状況7月分」) 上記は2014年7月時の有効求人倍率のデータです。倍率が2倍以上の職種を赤くしましたが、東日本大震災からの復興や2020年オリンピックで需要の多い建設分野を除けば、医療・福祉サービス、飲食・小売、運輸、保安などサービス分野で人手不足が発生している様子がわかります。 ローカル経済圏の鍵をにぎる女性のダイバーシティ 繰り返しになりますが、日本経済の約7割はグローバル市場環境とは無縁なローカル経済圏でのビジネスです。そして、このローカル経済圏を支えているのは女性です。 (出所:総務省「平成22年労働力調査」) こちらは2010年の日本の性別別の職種別就業者数の状況を示したものです。男性が建設、製造、運輸、卸売・小売での就業者が多いのに対し、女性は卸売・小売、飲食、医療・福祉の分野に労働力を提供していることがわかります。日本経済の多数を占めるローカル経済圏では、すでに女性によって業界が支えられています。日本では「ダイバーシティ=女性」という考え方がなんとなく定着してきた背景には、このようにすでに日本が女性の経済力を当てにしなければ成立しえないところまできているという事情があるのです。 このように、「女性の活用」「女性の働き方」という日本のダイバーシティ推進は、すでに倫理的必要性という次元から、経済的必要性という次元にまで展開してきています。最近では、労働力を確保できないという理由で、閉店を余儀なくされる飲食チェーンやスーパーも出てきているほどです。もちろん、この「女性」という中にも求める働き方は多様です。育児をしながら短期で仕事をしたいという方もいますし、仕事のやりがいを求めて責任のあるポジションに就きたいという方もいます。労働力が枯渇している、この分野では、様々な働き方を求める女性がいるという事実に向き合い、それぞれのタイプの女性をうまく活用していく制度づくりや環境づくりが求められています。 女性だけのダイバーシティを越えて ローカル経済圏におけるダイバーシティの推進は、女性だけに留まりません。すでに、多くの女性が仕事を求め、労働力を提供していても、まだまだ労働力は不足しています。少子化で若者の数はさらに減っていきます。そこで、期待される労働力の提供者は、外国人と高齢者です。東京都内でも最近、外国人の方がコンビニエンスストアや飲食店で勤務している様子を目にする機会が増えてきました。背景には、外国人にとって働きやすい国になるというお題目以上に、外国人従業員に支えてもらわなければ、事業が継続できなくなっているという現状があります。しかしながら、日本の地方都市や農村部では、外国人に対する理解がまだまだ進みません。すると、今後高齢者をどのように活用していけるかが事業継続に関わってきます。高齢者に対するダイバーシティはますますホットなテーマになっていきます。 今回は、ダイバーシティをいかにして推進していくかという点については触れることができませんでしたが、ダイバーシティの重要性は以前とは比較できないほど大きくなっています。グローバル企業における外国人従業員の位置づけ、そしてローカル企業における女性、外国人、高齢者労働力の確保。どちらもが、以前は日本が直面していなかった新たなテーマです。1985年に男女雇用機会均等法が成立してから、間もなく30年。ダイバーシティの意義は大きな変化のときを迎えています。 文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治

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2014/09/19 体系的に学ぶ

【人権】ダイバーシティは本当に必要なのか?(上)〜欧米におけるダイバーシティの意味〜

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ダイバーシティ・ランキング世界1位のノバルティス 世界の企業ダイバーシティ・ランキング「The DiversityInc Top 50 List」を毎年調査・発表している米国DiversityInc社。2014年には、スイス・バーゼルに本社を置く製薬会社Novartis Pharmaceuticals Corporation社がランキング1位を獲得しました。同社は毎年上位にランクインする常連企業です。彼らはダイバーシティについてこう語っています。 "You don’t need 10 people in the room who think exactly the same. You need 10 people in the room with very unique points of view, and can reach consensus on what a thing to do is for the customer." 「会議室に全く同じ考えを持つ10人は必要ない。会議室に必要なのは独自の考え方を持つ10人。そうすることで、顧客のために何をなすべきかについて合意に至ることができる。」 DiversityIncは今回Novartisを1位に選んだ理由として、人口バランスの向上や評価軸の策定、及び退役軍人、LGBT、障がい者の雇用と定着に本社主導で取り組んだことことを挙げています。上記のNovartis社自身の言葉にあるように、同社が重視しているのは多様な意見と切磋琢磨の上での高次元の合意形成。より深い検討を行うために、従業員の多様性を尊重していると言うわけです。 ダイバーシティ・マネジメントという用語は1960年にアメリカで誕生した言葉で、日本でも1990年代からよく用いられるようになりました。日本経団連も、ダイバーシティを「多様な属性(性別、年齢、国籍など)や価値・発想をとり入れることで、ビジネス環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、企業の成長と個人のしあわせにつなげようとする戦略」と定義しています。ビジネスパーソンであれば、一度は耳にしたことがあるダイバーシティ。ところが、実際に個々人にダイバーシティの定義を尋ねると千差万別の答えが返ってきます。「女性管理職比率の増加」「女性の短期勤務制度の整備」「外国人の積極採用」等々。ダイバーシティという言葉が普及する反面、ダイバーシティの意味付けは人によってバラバラです。 なぜダイバーシティを推進するのか?この問に対しても回答は多様です。「平等に扱うのが人としての責務」「多様な意見が議論を活発化する」「マーケットが多様化した今、商品開発に多様な声を反映させる必要がある」「多様化させた企業は株価が上がる」。一方で、ダイバーシティに懐疑的な意見もあります。「多様な考え方は仕事の効率を下げる」「強固で一体な企業文化こそ大切だ」「女性ばかりを優遇するのは逆差別だ」「能力だけで正当に評価すべきで性別・国籍バランスなどは企業力を下げる」「管理職になりたくない女性もいるので、女性社員に一律昇進を要望するのは良くない」。いずれも一理ありそうな主張です。 ダイバーシティは本当に必要なのか?なぜ欧米企業はダイバーシティを推進しているのか?これだけダイバーシティ推進が自明のテーマとなった世の中で、これらの問いに敢えて向かうことは勇気のいることかもしれません。しかし、これだけバラバラなダイバーシティ観がある今こそ、原点に立ち返ってみる必要があるように感じます。今回(欧米の動向)と次回(日本国内の動向)の2回にわたって、ダイバーシティの根本を考えてみたいと思います。 DiversityInc Top 50の顔ぶれと評価軸 冒頭で触れたThe DiversityInc Top 50 List。上位にランクインしている企業はどんなところでしょうか。 1. Novartis Pharmaceuticals Corporation(米国の製薬会社) 2. Sodexo(フランスの食品メーカー) 3. EY(世界的な会計事務所) 4. Kaiser Permanente(米国の医療法人) 5. PricewaterhouseCoopers(世界的な会計事務所) 6. MasterCard Worldwide(世界的なカード決済企業) 7. Procter & Gamble(世界的な消費財メーカー) 8. Prudential Financial(米国の生命保険会社) 9. Johnson & Johnson(世界的な消費財・医薬品メーカー) 10. AT&T(米国の通信会社) 11. Deloitte(世界的な会計事務所) 12. Accenture(米国のITコンサルティング会社) 13. Abbott(米国の製薬会社) 14. Merck & Co(米国の製薬会社) 15. Cummins(米国のディーゼルエンジンメーカー) 16. Marriott International(世界的なホテルチェーン) 17. Wells Fargo(米国の商業銀行) 18. Cox Communications(米国の通信会社) 19. Aetna(米国の医療保険会社) 20. General Mills(米国の食品メーカー) 上位には欧米のグローバル企業が多く登場しています。このDiversityIncのランキング、自主的に参加を表明した企業だけが対象となるため、不参加企業はそもそもランキングには出てきません。日本企業は50位までには1社もありませんが、これはまだ参加していない企業が多いからかもしれません。一方、欧米の主要企業の多くはこのランキングに自主的に参加している様子が窺え、彼らがこのランキングを重視していることがわかります。 では、ランキングはどのように付けられているのでしょうか。評価軸は全部4つあります。 1. 人材登用:人種、民族、性別、年齢を公平に扱った採用等 2. 人材開発:人種、民族、性別、年齢を平等に扱ったトレーニング、働きやすさ整備、昇進等 3. トップの関与:経営陣の制度整備意欲、説明責任、経営陣自身の多様化等 4. サプライヤーの多様化:サプライヤー選定での多様化考慮、サプライヤートレーニング等 興味深いのは、日本ではダイバーシティというテーマで取り上げられる対象が「女性」に限定されることが多いのに対し、このランキングではLGBTを含む「性別」を始め、人種、民族、年齢なども取り上げられている点。そして、サプライヤーにまで影響力を及ぼすことが期待されている点です。欧米でのダイバーシティは、日本でのダイバーシティに比べて幅広い人たちに対する社会的包摂を要求しています。そして、欧米企業は、この「要求の多い」ダイバーシティに対して熱心に向き合おうとしている印象を受けます。なぜここまでダイバーシティを推進したり、多様な属性の人たちに対して真剣に配慮したり、社会的包摂を強く求めたりするのでしょうか。 ダイバーシティは社会的正義のため? ダイバーシティは人権のために推進しなければならないという考え方があります。CSRレポーティングの標準ガイドラインとなっているGRI第4版(G4)にも、「ガバナンス組織の構成と従業員区分別の内訳(性別、年齢、マイノリティーグループその他の多様性指標別)」を報告するよう要求しています。また、ISO26000も「組織は、自らが関係する人々の多様性について肯定的かつ建設的な観点に立つことができる。組織は、人権に関連した側面だけでなく、多様な人的資源及び関係を全面的に構築することで価値が付加されるという意味で自らの業務にもたらされる利益をも考慮することができる。」と組織における多様性を推進しています。さらに、G4とISO26000に多様性に関する表記が盛り込まれた元である国際労働機関(ILO)の「雇用及び職業についての差別待遇に関する条約(111号条約)」は、前文で「フィラデルフィア宣言が、すべての人間は、人種、信条又は性にかかわりなく、自由及び尊厳並びに経済的保障及び機会均等の条件において、物質的福祉及び精神的発展を追求する権利をもつことを確認していることを考慮し」と、ダイバーシティ尊重は人権であると定義しています。(ちなみに、日本は同条約をまだ批准してはいません。)ダイバーシティ推進の活動家は、このようにダイバーシティ擁護はそもそも社会的正義であり、義務であるという見方をする傾向があります。 一方、経営の舵を握る経営陣は、社会的正義というだけではものごとを進めづらく、何か実利があって欲しいと考えているのが実情です。不快に思われる方もいるかもしれませんが、人がなぜルールを守ろうとするのかについては「法と経済学」という分野で研究されており、行為主体はルールを順守する実利がなければ、ルールを守ろうとしないという実証結果も出ています。そこで、企業はダイバーシティを推進するにあたり、「実利」を検討することになります。冒頭のNavartis社は、ダイバーシティを推進することで、会議での議論のレベルを上げること説明しています。では、企業にとってダイバーシティを推進することの実利とは一体何なのでしょうか? ダイバーシティの推進で株価は上がる? (出所:経済産業省経済産業政策局経済社会政策室資料) 検討されているダイバーシティの実利に、ダイバーシティを推進すると株価や投資リターンが上がるというものがあります。上記は、今年6月に経済産業省の会議で使われた資料です。この資料では、女性の役員比率が高いほどROEやEBITが高い(図の左上)、女性の活躍促進している企業ほど株式市場全体よりリターンが大きい(図の左下)、ワークライフバランスに取り組むと生産性が高い(図の右側)と示されています。論点は女性に関するダイバーシティに限られていますが、この資料は女性登用と株価との相関関係を示してくれています。しかし反論もあります。女性登用と株価との相関関係は、必ずしも女性を登用すると株価が上がるという因果関係を示しているわけではなく、株価や生産性が高くゆとりのある企業だからこそ女性登用アクションを取れるのだ、という見解です。因果関係を立証することは相関関係を立証するより遥かに困難ため、どちらの因果関係が正しいのかは未だはっきりとはしていません。性別、国籍、民族などのダイバーシティについても同様に、欧米の企業も因果関係の立証に現在取り組んでいる最中です。株価だけでなく、多様な従業員が多様な商品ニーズを吸い上げることによる売上高の増加やマーケットシェアの拡大という効果についても、確固たるデータはまだ存在していないと言われています。 ご注意頂きたいのは、ここでお伝えしようとしていることは、ダイバーシティの推進は株価や生産性、マーケットシェアを上げるかどうかはまだ確かではないということです。ダイバーシティを推進しても株価は上がらないと言っているわけではありません。株価は上がるかもしれないし、株価は下がるかもしれないし、株価には何も影響を与えないかもしれない。まだ関係が客観的にはよくわかっていないということです。未知の分野ですので、ダイバーシティの推進は株価を押し上げると信じ推進する企業は、それはそれでひとつの戦略であり、素晴らしいと思います。冒頭のNorartis社の事例では、会議の多様な意見は顧客により近い存在になると信じ、ランキングトップに君臨しています。何を信じ、何を立証しようとするかは、まさに経営者のビジョン、手腕であり、未知なものだからという理由で否定する類のものではありません。 ダイバーシティの推進は労働力の確保 では、ダイバーシティの推進が株価や生産性、マーケットシェアに与える影響が不確かな中、どうして多くの欧米企業はダイバーシティの推進に取り組んでいるのでしょうか。その背景には、「事業価値が上がるからダイバーシティを推進する」という日本人が考えるような概念だけでなく、もっと根本的に「ダイバーシティを尊重しないと事業が成立しない」という彼ら特有の事情があります。それは、事業活動を営む上で必要となる労働力を確保するためには、自ずと多様な人種、民族、性別の人を採用・登用しなければいけないという事情です。 例えば、エネルギー米大手パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック・カンパニー(Pacific Gas and Electric Company)の多様性担当副社長(Vice President, Chief Diversity Officer)William H. Harper氏は以前講演の中で、「アメリカでは、『多様性』というと、すぐに人種や民族のことを意味します。どうすれば、人種や民族の違う従業員同士が、オープンで互いを尊重する風土を作っていけるのか、これは企業の利益向上のために非常に重要です。」と語っています。多様な人種や民族が住むアメリカでは、必要なスキルやマインドを持つ人材を採用しようとすると、自ずと様々な人種、民族の人々を組織の中に包摂することになります。そして、ダイバーシティとは多様な構成となっているチーム・組織に、いかに働きやすい環境を与えていけるかということを意味しています。 欧米企業は2つの意味で多様な世界に直面しています。ひとつは国内の視点。すでに社会全体に大きな多様性が存在しており、その中から能力・パフォーマンスを基に獲得したい人材を確保していく結果、組織内部も同様に多様になります。もうひとつは国外の視点。欧米企業はすでにグローバル企業として自国だけでなく世界各国で事業活動を営んでいるところが多く、それが企業グループ全体の中に多様な人種、民族を包摂することにつながります。欧米のグローバル企業は、世界中でより優秀な人材を確保しようとする結果、本部組織ですら多様性を認めなければならないという必要性に直面しており、優秀な人材が確保し続けられるかどうかが世界市場での勝敗を喫するファクターとなっています。また、欧米の小売、運輸、医療サービスなどローカル企業は、サービス提供をするための多くの労働力を必要としており、ダイバーシティを推進しなければ、退職者が続出し、サービス提供が継続できないという状況下にあります。結果的に、ダイバーシティの推進は「やったほうがいい」という性格のものというより、「やらなければならない」ものと位置づける土壌が存在しているのです。 ダイバーシティと能力主義の関係 このように整理してくると、ダイバーシティに対する日本と欧米の大きな環境の違いが理解できてきます。例えば、日本ではダイバーシティ推進に対する否定的な意見として「女性ばかりを優遇するのは公平ではない」「がむしゃらに働くのは企業文化の一つであり多様性の許容は企業文化の毀損だ」「ダイバーシティを考慮してポストを考えるより、純粋に能力・パフォーマンスだけを見て考えるのが企業力向上の道筋だ」というものがあります。すなわち、能力主義とダイバーシティが対立概念として捉えられており、能力・パフォーマンス重視で採用・登用する結果、多様性のバランスは偏り、そのバランスを是正しようとすると公平さがなくなるという主張が生まれています。 一方、欧米では、ダイバーシティの推進と能力主義が同一のものとして捉えられています。すなわち、能力・パフォーマンスを重視した採用・登用を行うには、人種・民族・性別などの偏見をなくし、純粋に能力・パフォーマンスだけでジャッジすべきだという考え方です。今や様々な国籍・民族の人が同じ職場で仕事をするようになってきたアジア地域の都市圏でも、同様の考え方が普及してきています。 日本のダイバーシティはどうなるのか? 欧米ほどは社会全体が多様化しておらず、企業のグローバル化も進んでいない日本。その日本において、これまで欧米とはダイバーシティの受け止め方が大きく異なってきたことは、仕方のないことかもしれません。但し、少し先の日本の未来に視野を転ずると、ダイバーシティを軽視していられない時代が迫ってきています。次回、「ダイバーシティは本当に必要なのか?(下)〜日本のダイバーシティ新展開〜」では、今まさに日本のビジネス環境に起きている大きな変化を取り上げ、日本における今後のダイバーシティの姿を見ていきたいと思います。 文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治

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2014/09/14 体系的に学ぶ

【日本】2020東京オリンピック・パラリンピックに向けて動き出した日本のグリーンビルディング

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今回ご紹介する動画は、先月6月23日に東京で開催された「GBJシンポジウム2014」の様子。主催は日本でLEED(Leadership in Energy & Environmental Design)の普及を推進している一般社団法人グリーンビルディングジャパン(以下、GBJ)だ。 LEEDとは、米国の非営利団体USGBC(U.S. Green Building Council:米国グリーンビルディング協会)が開発・運用している任意の第三者評価・認証システムで、エネルギー効率や環境面、人々の健康、安全な材料の選択などに配慮した建造物やエリア開発に認証が与えられる。評価・認証にあたっては企画・設計から施工、運営・メンテナンスにいたるまでの幅広い項目が評価され、評価の総合点によってプラチナ、ゴールド、シルバー、認定という4段階の認証を受けることができる。 GBJはUSGBCと連携して日本でLEED普及に取り組む唯一の団体として2013年2月に設立され、従来からの日本の強みでもある環境建築技術をLEEDというプラットフォームを活かして世界に発信していくための取り組みを進めている。 LEED認証の取得は建造物の環境性能・エネルギー効率の高さを示す客観的な指標として資産価値の向上にもつながるため、現在世界全体で急速に普及が進んでおり、2013年5月時点でLEED申請中・認証済み建造物は52,000件を超えている。 アジアでは中国で急速に普及が進んでいるほか、東南アジア諸国でも徐々に認証件数が増えつつある。日本は2013年5月時点でLEED認証を受けた建造物は33件であったが、2014年7月時点では52件まで認証実績が増えた他に74プロジェクトが現在認証を目指しての取り組みを進めており、今後の本格的な市場の拡大が期待されている。 また、USGBCによれば2015年までにビルマーケット全体の40?48%がグリーンビルディングとして建設されると予測され、その全体の価値は1200?1450億ドルになると推定されている。気候変動が世界共通のグローバルイシューとして認識される中、グリーンビルディング市場は今後も非常に高い成長性が見込まれている。 こうした世界的なグリーンビルディング推進の流れを受けて開催されたのが今回のシンポジウムだ。今回のテーマは「オリンピック・パラリンピックにおけるグリーンビルディング」。 当日は、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて日本は今後どのようにグリーンビルディングの取り組みを推進し、この分野でリーダーシップを発信していくべきかについて、USGBCで国際担当ディレクターを務めるJennivine Kwan氏、COOを務めるMahesh Ramanujam氏らをゲストに迎えて話し合われた。 オリンピックというと競技や選手ばかりに目が行きがちだが、2008年の北京オリンピック・パラリンピック以降、特に大会のテーマとして重要性が増してきているのが「サステナビリティ」だ。特に2012年に開催されたロンドンオリンピック・パラリンピックは、大会の準備段階から大会開催期間中、そして開催後にいたるまで全ての過程においてサステナビリティの概念が中心に据えられた大会として有名で、史上最も環境に優しい大会だと言われている。 2020東京オリンピック・パラリンピックにおいても、引き続きサステナビリティが大会の中心テーマとなることは間違いない。その意味で、今回のオリンピック・パラリンピック開催は2020年に向けて日本におけるグリーンビルディングを推進し、更に大会を通じてその取り組みや成果を世界にアピールする絶好の機会だと言える。 また、オリンピックに限らずとも建築の分野からサステナビリティ向上に取り組むグリーンビルディングの概念は今後、業界を問わず主たるトレンドとなっていくはずだ。既に世界では多くの企業や団体がこの分野にビジネスチャンスを見出し、不動産業界、建設業界、エネルギー業界、素材メーカー、建築資材メーカー、環境配慮型商品・サービス開発企業、環境コンサルティング会社など幅広い業界、業種のプレイヤーが一緒になって大きなうねりを作りだしている。 日本におけるLEEDの普及はまだ始まったばかりだが、環境建築は日本が強みを持つ分野の一つでもある。LEEDというグローバルの共通言語を上手に活用しながら日本のグリーンビルディングにおける国際的なプレゼンスを高めていくことができれば、産業界にとっても非常に大きなインパクトが生まれるはずだ。 ぜひ今後のGBJの活動に期待したい。 【団体サイト】Geen Building Japan 【参考サイト】U.S. Green Building Council

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2014/07/31 最新ニュース

【環境】世界で広がる水不足 〜日本の水は本当に安泰なのか?〜

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地球は本当に水の惑星? 「水の惑星」と呼ばれる地球。地球の表面の3分の2は水で覆われており、約14億立方キロメートルの水があると言われています。一見、潤沢にありそうにみえる水。しかし水資源は今、希少資源として呼ばれるまでになっています。背景にあるのは、人間の生活様式の変化です。生活に欠かせない水。その水の希少資源化は私たちの生活に今後どのような影響を与えていくのでしょうか。 地球の水のうち、水資源はわずか0.01% (出所:国土交通省「国際的な水資源問題への対応」) 宇宙から見える地球の青い姿。しかしその中で、私たちの生活に利用可能な水資源は、わずか0.01%しかありません。地球上の水の多くは塩分を含む海水で、その割合は97%。残りの淡水も、多くは氷雪、氷河の形態で存在しており、利用はできません。さらに、残りの液体状の水のうち、ほとんどは地下水として地中深くに浸透しており、人間が利用可能な淡水はたったの0.01%しかないのです。この0.01%しかない貴重な水資源も、汚染してしまえば当然、利用ができなくなります。これが、「水の惑星」地球で、水不足が発生する基本的な構造なのです。 世界人口の増加とともに進む水不足 (出所:国土交通省「国際的な水資源問題への対応」) 水不足を招いている最大の要因は人口増加。日本国内では人口減少という言葉も耳にしますが、世界全体では依然人口は増加していきます。人口増加と人間の水利用量の間には高い相関関係があり、2025年までの数値予測でも人口と水利用量はともに急増する見込みです。 (出所:国土交通省「国際的な水資源問題への対応」) 著しく水利用量が増加している地域は、経済発展めまぐるしいアジア。1950年には860億tだった使用量は、2025年には3,104億tまで3.6倍に拡大する見通しです。さらに、2025年の段階では水使用量が少ないアフリカ、中南米も、将来的に水使用量が増えていく可能性が高い予備軍です。 生活が豊かになるに連れ、人々が利用する水資源量は増加します。生活の豊かさそのものを抑制するという考え方も過去数十年の間に叫ばれましたが、その試みは成功したとは言えません。人々が自分の生活の豊かさを犠牲にするのは簡単ではないからです。結果的に描けてしまうのは、今後数十年は水資源の需要が増加していくという道筋です。 気候変動も水資源可能の上での大きなリスク要因 (出所:国土交通省「国際的な水資源問題への対応」) 人口増加で水利用量増加が確実に見込まれる上に、気候変動もさらなるリスク要因となります。気候変動により降水量は増えも減りもするかもしれませんが、人間が利用可能な淡水は減ります。まず、気候変動で地球の温度が上がり、海水面が上昇すると、海水の量は増え淡水の量は減ると言われています。結果的に、人間が利用可能な淡水の量は減ります。また、気候変動で気温や降雨量の変動幅が拡大すると、それに対応するための社会インフラや貯水技術などが必要となり、水に対して社会はより脆弱になります。その上、上の図にあるように、気候変動は生態系の変化ももたらし、水資源利用可能量を減らす恐れもあります。気候変動は水資源にとって大きなリスク要因なのです。 先進国でも悪化している水ストレス (出所:World Resources Institute "AqUEDUCT GLOBAL MAPS 2.0") では、それぞれの地域でどのぐらい水資源は深刻化していくのでしょうか。水資源の枯渇化を示す代表的な尺度に「水ストレス」があります。水ストレスとは、「人口一人当たりの利用可能水資源量」のことで、図の濃い赤の地域は、その地域の水資源供給量に対して需要が多く、需給が逼迫している状況を示しています。反対に、赤色が薄い地域は、供給量に対する需要が少ない状況を示しています。世界の中で水ストレスが高い地域は、人口密度の高い東アジアや米国西部及び東海岸、また水供給の少ないアフリカ・中東アジアから南アジアにかけて。水消費量の増加が著しいアジア地域では、急速に水インフラ整備プロジェクトが進行していますが、豊かさの上昇にまだインフラは追いつけていません。ちなみに、この図の中で、日本も水ストレスが高い地域と認識されています。しかしながら、日本に住む人々にとってそこまでの深刻感は感じてはいないでしょう。では、どうして日本は比較的水資源に困らない生活ができているのか。そのカラクリは、後述するように、日本は他国から水資源を大量に輸入しているからです。 国内でミネラルウォーターの需要は急増。輸入にも依存。 (出所:日本ミネラルウォーター協会「ミネラルウォーター類 国産、輸入の推移」) 国内の水状況を知る上で、最初に水資源の代表選手「飲料水」から見てみましょう。国内のミネラルウォーター市場は2000年代から急拡大。特に、2006年の健康ブーム、2011年の東日本大震災でミネラルウォーターの需要と供給は急増しました。日本人が安全な水を買い求めるようになった行動変化に対応して、日本人に人気の高い国産ミネラルウォーターの増産が急ピッチで進んでいますが、それでもニーズに追いついてはいません。不足量は海外からの輸入(エビアン、ボルビック、クリスタルカイザー)で補われています。高コスト体質の国産ミネラルウォーターの増産は今後ペースダウンするとも言われており、将来急激な需要増がある場合には輸入で賄わざる得ない状況となりそうです。ですが全体的には、日本の飲料水の輸入シェアはわずか10数%と高くはありません。このように、日本が大量に輸入している水資源は、飲料水ではありません。 仮想水換算では日本は世界最大の水資源輸入国 (出所:Aquastat) こちらは世界の水利用の用途を示したものです。飲料水を含む生活用水(トイレ、風呂、選択、料理など)は全体の8%でしかなく、その他は70%の農業用水と22%の工業用水です。人間は水資源を生活用水としてではなく、食糧や工業製品の生産用途で使っているのです。すなわち、水不足によって打撃を受けるのは、直接口にする飲料水ばかりか、人間生活を支える生産活動全般なのです。 それでは、日本はどのような水資源を大量に輸入しているのでしょうか。水資源の分野には「仮想水(バーチャル・ウォーター)」という考え方があります。食糧や工業製品の生産には、食糧を栽培するのに必要な水、家畜の飼育に必要な水、さらにその家畜の肥料を育てるのに必要な水、工業生産の加工や洗浄に必要な水など大量の水資源を必要とします。仮想水とは、その食糧や工業製品を輸入している国において、もしその輸入食糧や輸入工業製品を生産するとしたら、どの程度の水が必要かを推定したものです。 (出所:JICA) 日本の仮想水輸入量は2005年時点で約804億t、世界最大の仮想水輸入国です。つまり、日本は水そのものの輸入はそれほど多くはありませんが、食糧や工業製品の輸入国として、本来国内で生産したら必要であったはずの水資源を他国で支給してもらっているのです。これが、日本は水ストレスが高い国であるにもかかわらず、水不足に苦しまないでいられるカラクリです。 日本の仮想水輸入量804億tはとても膨大です。国内の実際の水利用量は下図のように800億t超。すなわち、日本は国内の実際の水利用量とほぼ同量の水を仮想輸入している計算になるのです。 (出所:国土交通省) 日本の未来と世界の未来 (出所:Pennsylvania State University) 日本は高い経済力のおかげで、他国から水資源を仮想水という形で調達し、世界の中でも豊かな生活を送ってきました。水資源を大量に必要とする牛肉や電化製品に囲まれた日本は、上の図にもあるように、お腹いっぱいに水を含んで、消費ができる幸せな環境です。ところが、これからはそうもいきません。冒頭で見たように、アジア諸国を始め、世界各国では水の消費量が増えてきています。これまでは、日本が世界からかき集めてこれた水資源も、世界の水資源の総量が増えなければ、確実に減少していきます。今、日本国内と海外の両面において、淡水の効率的な利用を追求する大きな必要性があります。飲料水が豊富にある日本といえども、生活の豊かさを維持していくためには、世界の水不足と向き合っていかなければならないのです。 文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治

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2014/07/10 体系的に学ぶ
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