【環境】東京都のキャップ・アンド・トレード型二酸化炭素排出権取引制度(概要と解説)

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 1997年の京都議定書に盛り込まれた「排出権取引」という概念。発表当時は大きな話題を呼び、メディア報道でも取り上げられたものの、最近ではあまり話を聞かなくなったと感じる人も少なくないと思います。「排出権取引」という言葉は、今年発効したパリ協定にも入りませんでしたが、実際にはすでに世界の各地で誕生しています。  世界的に有名なのは、EUの排出権取引制度「EU ETS」。まずEU加盟国が国別の排出量制限枠で合意し、次に国が事業者等に排出許容量を割り当てます。排出量が許容量を上回った事業者は、排出量が許容量を下回り余剰分がある事業者から排出権を購入しなければなりません。排出権の購入は、同一企業グループの他国法人から購入、ブローカーを通じた二者間の相対売買、取引市場を通じた売買の3通りがあります。このように、排出枠を設定し、余剰分と不足分を売買によって調整する排出権取引制度のことを「キャップ・アンド・トレード型」と呼びます。  では日本ではどうでしょうか。日本ではまだ全国レベルの排出権取引制度は確立されていません。しかし、地方自治体レベルで排出権取引制度を開始している都道府県があります。東京都と埼玉県です。東京都は2010年4月から、埼玉県は2011年4月から、都県内の事業者に対してキャップ・アンド・トレード型排出権取引を義務化しています。あまり知られていないこの東京都と埼玉県の排出権取引制度。今回は東京都の排出権取引制度を解説していきます。 東京都が排出権取引制度を開始した背景  東京都は2007年、「東京都気候変動対策方針」の中で「カーボンマイナス東京10年プロジェクト基本方針」を発表し、2020年までに2000年比で温室効果ガスを20%削減することを表明。さらに2014年、2030年までに2000年比で30%削減する目標を設定しました。都内の部門別排出量では、業務部門(オフィスビルなど)が約40%と大きな割合を占めています。  東京都は2002年4月から大規模事業所を対象に温室効果ガスの排出量の目標設定、算定、報告を求める「地球温暖化対策計画書制度」を導入、さらに2005年からは事業者に自主的かつ計画的な削減対策を求めてきました。そして2008年7月、東京都の環境確保条例を改正し、「温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度」を導入、事業者に対して排出削減と排出取引制度への参加を義務付けました。そしてこの条例に基づき、2010年4月から東京都のキャップ・アンド・トレード型排出権取引制度がスタートしました。 対象事業所  東京都は、排出権取引を義務化する対象事業所を 3か年度(年度の途中から使用開始された年度を除く)連続して、 燃料、熱、電気の使用量が原油換算で年間合計1,500kL以上となった事業所 と定義しています。すなわち常に排出量の多い大規模事業所をターゲットとしています。東京都はこの対象事業所を「特定地球温暖化対策事業所」と呼んでいます。さらに、排出権取引の義務は特定地球温暖化対策事業所の所有者が負うことと定められています。つまり、賃貸ビルの場合は、テナントではなく物件のオーナーが義務を履行する責任を有しています。物件を信託している場合などには例外措置があります。  ここで言う「事業所」とは、基本的には建物や施設をひとつの事業所と考えますが、エネルギー供給事業者からの受電点やガス供給点が同一の場合、地域冷暖房施設について導管が連結している場合、共通の所有者が存在する建物・施設が隣接している場合、対象となる規模の事業所が道路や水路等を挟んで近接し主たる使用者が同一の場合は、複数の建物や施設をまとめて一つの事業所とみなされます。  また例外措置として、中小企業等が2分の1以上所有する大規模事業所は、排出権取引義務が免除されています。ここでいう「中小企業等」とは、(1)中小企業基本法に定める中小企業者(大企業等が1/2以上出資などの場合を除く)、(2)協業組合等、(3)事業協同組合等、(4)商店街振興組合等、(5)生活衛生同業組合等、(6)個人、を指します。   実施が義務化された内容  特定地球温暖化対策事業所に課されている義務は、 前年度の原油換算エネルギー使用量・特定温室効果ガス排出量の算定(検証が必須) 前年度のその他ガス排出量の算定(検証不要) 削減目標と削減計画の設定 統括管理者・技術管理者の選任 テナント事業者との協力推進体制 上記を記した計画書の提出・公表 自らの事業所における削減 削減義務量不足分の取引による調達(再生可能エネルギーの活用、他の事業所の削減量の調達ほか) 基準排出量の申請  このうち、緑字の内容が2008年の条例改正で定められた排出権取引義務の内容。一方の黒字の内容は以前から定められたていた温室効果ガス排出量の目標設定、算定、報告義務を指しています。そのため、中小企業等が2分の1以上所有する大規模事業所は、黒字の義務のみを負い、緑字の義務は免除されています。 削減対象の温室効果ガス  燃料、熱、電気の使用に伴い排出されるエネルギー起源の二酸化炭素(住居用の使用を除く)が削減義務化対象となります。東京都はこれを「特定温室効果ガス」と呼んでいます。  一方、非エネルギー起源の二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、ハイドロフルオロカーボン類、パーフルオロカーボン類、六ふっ化硫黄、三ふっ化窒素のいわゆる「6.5ガス」は、算定・報告義務はありますが、総量削減義務はありません。「6.5ガス」を削減した場合は、「特定温室効果ガス」の総量削減の削減分としてカウントできますが、排出権取引の対象にすることはできません。 削減目標設定  排出総量削減義務は、事業所タイプによって3つの区分に分けられ、第一計画期間、第二計画期間それぞれに削減義務率が定められています。基準年度排出量は、原則として2002年度から2007年度の5年の間の連続する3か年度の平均によって算出されます。どの連続する3か年度の平均にするかは事業所が自由に選択できます。 (出所)東京都環境局  第一計画期間の削減義務は、オフィスでは平均8%、工場では平均6%。第二計画期間では、第一計画期間を大きく上回る17%、15%と設定されています。各計画期間の終了後約1年半の間は「整理期間」として未達成分を排出権取引を通じて補わなければならず、1年半を経過した日が義務履行期限となっています。  削減義務は、第一、第二のそれぞれ5年間平均で削減目標を達成できればよく、毎年常に削減目標を達成しなければいけないわけではありません。そのため、例えば計画期間初年度に削減目標を超過してしまったとしても残りの4年間で挽回できるということです。  また、医療施設、情報処理システムに係る需要設備、水道、産業廃棄物処理施設、低温倉庫、中央卸売市場など「電気事業法第27条の使用制限の緩和対象事業所」は、第二計画期間の削減義務目標が緩和されることがあります。東京都が優良企業と認める「トップレベル事業所」に認定された場合にも、削減義務が緩和されます。 事業所での削減目標方法  特定温室効果ガスの削減方法は大きく2つの方法があります。一つは省エネ機器の導入や節電等を通じて電力消費量を減らすこと。もう一つは消費する電力や熱を低炭素電力や低炭素熱に変更することです。東京都は、二酸化炭素排出係数が小さくかつ再生可能エネルギー割合の高い電力、また二酸化炭素排出係数が小さい熱を消費する場合には削減量として算出できる仕組みを整備しています。 排出権取引を通じた削減量の補完  自らの事業所での削減量が削減義務量に達しない場合は、排出権取引を通じて削減量を補完する必要があります。具体的には、削減義務を上回る削減量を達成し「クレジット」を獲得した事業所から、「クレジット」を購入することを指します。  東京都が許可しているクレジットには5種類あります。 (1)超過削減量クレジット  最も一般的な形式で、義務を越えて削減した量がそのままクレジットとなります。削減義務量を計画期間の各年度に按分し、その超過削減分を計画期間2年度目から移転することが可能です。すなわち一定の実績をあげた事業所は計画期間終了前でもクレジットを売却することができます。クレジットの売却上限額については、過大な削減量売却益がでないよう、基準排出量の半分が売却上限に設定されています。また、超過削減を達成した事業所は、自ずとクレジットが獲得できるわけではなく、東京都が定める報告をして初めてクレジットとして認められます。 (2)都内中小クレジット  都内の中小規模事業所において、認定基準に基づいた対策による削減量がクレジットとなります。東京都が対策項目を指定することで手続きを簡素化し、中小規模事業に対して排出量取引への参加や削減対策へのインセンティブを与えています。 (3)再エネクレジット  再生可能エネルギー環境価値がクレジットとなります。具体的には、太陽光や風力、地熱、バイオマスなどを対象とし、グリーンエネルギー証書又はRPS法における新エネルギー相当量などの他制度による環境価値、環境価値換算量や、東京都が認定する設備により創出された環境価値がクレジットとなります。 (4)都外クレジット  東京都以外の大規模事業所の省エネ対策による削減量がクレジットとなります。これは、計画的な省エネ投資を全国的に進める企業の対策の効率性を考慮したものです。しかし、あくまで東京都の目的は都内の二酸化炭素排出総量削減であるため、大規模事業所のみを対象とし、推計削減率が東京都の指定を上回る場合に限り、削減義務量の3分の1までを上限として利用できる仕組みとなっています。 (5)埼玉連携クレジット  埼玉県内にある事業所が保有するクレジットを購入することができます。 排出権取引価格  排出権取引価格は、売買双方の交渉と合意によって決定され、東京都として上限価格や下限価格は設定されていません。また、東京都自身がクレジットを売却する場合は東京都が取引価格を設定、公表します。 罰則規定  事業所が義務履行期間内に目標を達成できなかった場合、措置命令として不足量の1.3倍の削減量が課されます。この削減量は、次期の削減目標に上乗せされる形となります。さらに、この措置命令に違反した場合、すなわちこの1.3倍の目標をも達成できなかった場合には、東京都は事業所に対し、違反事実の公表、上限50万円の罰金、その上東京都知事が不足分排出権を購入した代行取引の費用請求を出します。 第一計画期間の実績  2010年から2014年までの第一計画期間は、2016年9月末に義務履行期限を迎え、東京都は同11月に第一計画期間の実績を公表しました。結果は、すべての対象事業所が削減義務を達成。2010年から2014年の間に全体で二酸化炭素排出量が約1,400万トン削減されました。 (出所)東京都環境局  義務達成方法の割合では、自らの事業所での削減だけで達成した事業者が1,262で全体の91%。排出権取引をして義務を達成した事業所が124で全体の9%でした。 (出所)東京都環境局 排出権取引でのクレジット活用は、超過削減量クレジットが大半を占め83.4%、次に再エネクレジットが12.3%でした。また取引相手では、同一法人・グループ企業内での取引が55%と過半数を占め、グループや企業内でやりくりできたところがほとんどでした。グループ・企業外を取引相手とした場合の取引手法は直接取引が14%、仲介事業者の活用が31%でした。取引価格は:二酸化炭素トン当たり1,000円から2,000円でした。  第一計画期間が全事業所で達成された背景には、2011年に東日本大震災が発生し節電が大きく進展したことが挙げられています。より高い義務が課される第二計画期間では、自らの対策のみで義務を達成できるとした事業所が77%に留まり、残り23%は排出権取引を活用するだろうとしています。第二計画期間では排出権取引量の需給が逼迫し、価格が上がるかもしれません。各事業所にはより効果的な削減対策が求められます。  現在、埼玉県でも同様の排出量取引制度が導入されており、制度設計や運営では東京都との連携も行われています。東京都と埼玉県は他の自治体にもキャップ・アンド・トレード型の排出権取引制度を推進していくことを表明しており、今後他の自治体に拡大していくことが期待されています。 【参照ページ】東京都環境局「大規模事業所への温室効果ガス排出総量 削減義務と排出量取引制度(概要)」(2016年5月) 【参照ページ】東京都「都のキャップ&トレード制度について」 【参照ページ】東京都環境局「全ての対象事業所が第一計画期間のCO2総量削減義務を達成しました」(2016年11月4日)

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【中国】中国版RoHS指令を改正。対象商品を大規模に拡大。今年7月から施行

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 工業情報化部、国家発展改革委員会、科学技術部、財政部、環境保護部、商務部、海関総署、国家品質監督検査検疫総局は2016年1月6日、共同で発表を行い、「中国版RoHS指令」の改正法を公布した。今回公布されたのは「電気電子産品有害物質制限使用管理弁法」。中国が2006年2月に公布、2007年3月に第一段階が発行した「電子情報製品生産汚染防止管理弁法」は電気産品の特定有害物質の使用制限を規定するもので、「中国版RoHS指令」と呼ばれてきた。今回公布されたものは規制を強化する改正法、2015年5月に草案が公表されており、今回ついに公布に至った。2016年7月1日に施行となる。  旧法では電子情報製品だけが対象となっていたが、新法では冷蔵庫や洗濯機など家電製品を含めた幅広い電気電子製品が対象となる。新法は第三条で「電気電子産品」とは何かを定義しており、電気または電磁力を用い、直流1500ワット以下、交流1000ワット以下の全ての製品が新法と対象だ。但し、発送電関連製品は今回の規制の対象外となる。工業情報化部は今回の法律の制定にあたり、「中国企業はこれまでダブルスタンダードを用いてきている。海外向けには海外の厳しい規制基準を満たすため有害物質の使用制限する一方、国内向け製品については相応の措置をとらないという事態を招いていた」と指摘。海外との規制水準との差を埋めることを主眼としている。  使用制限される有害物質も拡大される。旧法では鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、ポリ臭化ビフェニル(PBB)、ポリ臭化ジフェニルエーテル (PBDE)の使用が制限されていただけだったが、新法では、PBBとPBDEは同様だが、「鉛及びその化合物」、「水銀及びその化合物」、「カドミウム及びその化合物」、「六価クロム及びその化合物」と化合物も対象となる。また、旧法と同様、「国家が規定するその他の有害物質」についても規制対象となる。  管理方法も強化される。旧法では政府が定める「重点管理リスト」に載った製品を対象とし、対象製品については「強制認証制度」を適用し、認証がないと中国国内で販売できない仕組みだった。しかしながら、パソコン等旧法が規制対象とした製品は製品サイクルが2〜3ヶ月と短いものが多く、上市タイミングを逃し、企業の損失が大きくなることが懸念されていた。結果的に、旧法では第1ステップとして定めた、「環境保護使用期限マーク」や「リサイクルマーク」の表示義務だけが施行されており、第2ステップの強制認証制度は施行されないままだった。新法ではこれを改め、強制認証制度を正式に廃止、「重点管理リスト」に替わり「基準到達管理リスト」で製品品目毎の規制物質や規制基準値を定める「合格評価制度」を導入する。合格評価制度で定められる基準値には、政府が定める法定基準や業界基準とする。  また、新法では新たに国家の科学技術開発に関する内容も盛り込んだ。規制有害物質の代替物質や減量化の開発に向け、科学研究、技術開発と国際協力のサポートを政府が推進していく。  基準到達管理リストや合格評価制度の詳細については、今後施行までに工業情報化部が作成していくと見られている。 【参照URL】《电器电子产品有害物质限制使用管理办法》解读

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