【インド】企業のサステナビリティ報告のレベルが質・量ともに大きく向上。GRI調査

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 サステナビリティレポーティングガイドライン世界最大手のGRI(Global Reporting Initiative)の南アジア地域拠点、GRI Regional Hub South Asiaは11月2日、インドのサステナビリティ報告の現状をまとめた報告書「Sustainability Integration: Corporate Reporting Practices in India」を発表した。報告書の作成は、GRI South Asiaの他、インド経営大学院バンガロール校(Indian Institute of Management Bangalore)と、同拠点の共同設立者であるタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)と共同で行われた。  報告書によると、この10年間でインド企業のサステナビリティ報告書作成は質、量ともに大きな進展がみられる。量については、10年前には数社しかなかったサステナビリティ報告書の作成は、昨年は90社近くにまで増加。質の点でも、ステークホルダーによる期待の変化と規制上の要件に合致したものになってきている。背景には、サステナビリティ・アクションと業績、競合優位性の関係についての理解の深まりがあるという。 (出所)Sustainability Integration: Corporate Reporting Practices in India  今回の調査では、2013年5月から2015年12月までにインドで発行された174本のサステナビリティ報告書のうち、46社を抽出。報告書内容を、GRIのG4ガイドラインの標準開示項目である「戦略と分析」、「マテリアリティ」に関して評価を行った。さらに、売上高、業界、報告書作成経験年数(最低5年以上)の観点から選抜した6社の担当者に対しインタビューも実施した。  調査の中で見えてきたことは、G4の観点にもとづき、マクロ経済動向やマテリアリティに関する開示が増えてきたということ。また、サステナビリティの成果が徐々に役員会でも話し合われるようになってきとり、経営陣のコミットメントも増えてきているという。  一方の課題としては、サステナビリティ分野で経営幹部がリーダーシップを発揮している企業が依然非常に少ないこと、消費者や政府等情報開示の届け先の関心事を先取りしていこうという姿勢が少ないこと、企業独自のアプローチよりも規則に沿った開示が目立つこと、が挙げられている。  インド企業の現状の主な特徴としては、G4ガイドラインに沿い、マテリアリティを特定することの意義は浸透してきいると言え、93%以上の企業がマテリアリティ特定を実施している。しかしながら、サステナビリティ課題からくるリスクと機会の分析を包括的に情報開示している企業は39%と少なく、リスクや機会について情報開示することを躊躇する姿勢が伺える。また、リスクに関しても、貧困や格差の増大、水不足、異常気象の増加、変動の激しい相場、原材料コストの高騰等、マクロ経済や政治的なトレンドが長期的リスクに繋がることを認識している一方で、事故、災害、労働争議等の問題について開示するケースは少なかった。企業の中には、サステナビリティ報告の作成を通じて、サステナビリティ課題が事業に与える影響にあらためて気づき、サステナビリティと事業を統合させていくことにつながってきていると回答するところもあり、報告書作成が多くの気づきを与えていることもわかった。  欧米を中心に広がってきたサステナビリティ報告も、今では中国やインド企業も積極的に受け入れるようになってきている。もちろん、サステナビリティ報告書を作成することそのものに意味があるのではなく、作成の中で事業のリスクや機会を認識するという気づきや、情報開示を通じて外部ステークホルダーの視点を事業に組み入れていくことにこそ意味がある。この真の意味を掴み、企業価値と企業競争力をいかに上げていけるか。日本企業は、欧米企業だけでなく、実力をつけてきた新興国企業との競争にもさらされている。 【参照ページ】Materiality Disclosure is improving in India, according to a new study 【報告書】Sustainability Integration: Corporate Reporting Practices in India

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【インド】児童労働規制強化法が制定、家族経営企業労働を容認したことにユニセフは批判

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 インド連邦上院(ラージヤ・サバー)は7月19日、児童労働(禁止及び規制)修正法案を通過し、インド連邦下院(ローク・サバー)も7月26日に通過、同法案が成立した。この法律は、全ての産業において14歳以下の児童労働を禁止することを定めるもの。また14歳から18歳までは危険を伴う労働に従事させてはならない。違反雇用主に対しては懲役3年以下と5万ルピー以下の罰金が科される。但し、例外規定があり、家族経営企業での放課後や長期休暇中の労働は規制しない。今回の法律制定の背景には、インドで根強く残る児童労働を抑止する狙いがあるが、早速国際機関やNGOからは今回の法律に対する批判の声が上がっている。     国連児童基金のインド支部、ユニセフ・インディアは7月25日、児童労働修正法が、家族経営企業での児童労働を容認したことに対し、家族労働を合法化し、貧しい家庭の子供たちの不利益を助長しかねないとする声明を発表した。ユニセフ・インディアは、この修正法により、ILO条約が「危険を伴う職業」と定めている職種リストを実質的に無効化してしまい、不法な環境下での児童労働につながってしまう可能性があることについても懸念している。  インドではおよそ1,020万人の子供たちが働いているという。2011年の国勢調査によると、児童労働に従事する割合は、指定部族で6.7%、指定カースト(いわゆる「不可触民」階級を指す)で3.9%と最も高くなっている。どちらのグループにおいても、地方部に住む児童のほうが都市部にすむ児童よりも多く労働に従事している傾向にあり、労働している多くの少年少女が学校をやめざるをえなくなっている。また、全体として働く少年少女の数は減ってはいるものの、都市部での児童労働は増えつつある。背景には、上京あるいは人身売買の結果、危険を伴う産業や建設現場での労働を強いられている実態があるという。とりわけ、綿、腕輪、巻たばこ、織絨毯などの製造や金属加工業などに多い。ユニセフ・インディアは、「家族経営の手伝いをする子供たち」という条件を除くよう強く勧告している。  さらに、今回制定した法律には人身売買に関する言及一切ない。ユニセフ・インディアは、全ステークホルダーの責任を確証する健全な監視機構が必要だとの見解も示した。同時に、徹底的に危険を伴う職業を洗い出し、定期的なチェックを進めること、また、新たなものが出てくれば追加してくべきであるとも勧告した。 【参照ページ】UNICEF concerned about amendments to India’s Child Labour Bill

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【中国】北京を襲った大気汚染。2016年の当局の対策は如何に

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 昨年末に北京を襲った深刻な大気汚染。12月7日から10日までの4日間、そして18日から22日までの5日間、大気汚染警戒レベルで最も深刻な「赤色警報」が発令された。これは健康被害をもたらすため外出を控えるようにという程のレベルだ。学校は休校になり、屋外工事なども休業となった。2015年1月から10月までは北京の大気汚染レベルは昨年より改善していたため、当局も油断していた気配がある。その後当局はどのような対応をとったのだろうか。  年越し間もない1月4日、共産党中央政治局常務委員(チャイナセブン)の一人、張高麗・国務院常務副総理(第一副首相)が北京市で関係者を集め座談会を開催した。北京市幹部に対し、直ちに厳格な対応策をとるように指示し、もし環境目標を達成できない場合は問責を行うとまで言及した。張氏は、具体的な措置として、石炭煤煙汚染取締の強化、自動車規制の強化、コーポレートガバナンスの強化、大気汚染警報発令時の対応強化、周辺地区との連携強化を挙げ、各関連当局が一丸となって事に当たることを言明した。  その10日後の1月13日、北京市政府常務会は「北京市2016年クリーン空気行動計画」を発表した。2016年中に他の市から北京市に入境する大型ディーゼル車は北京市首都高速道路である北京六環路以内に侵入することを禁止するという内容だ。さらに2020年までに同越境大型ディーゼル車は北京市への侵入を禁止することを目指す。また、違反者の取締を強化し、とりわけ同国が定める国Ⅲガソリン車、国Ⅳディーゼル車と偽る車両に対しては高額の罰金を課していく。さらに、2016年末までにハイブリッド車やEV車の累計台数目標を5万台とし、EV小型バス車両に対するEV充電ステーションの割合が70%となるようインフラ設備を設置、北京六環路以内では5km圏内ごとに公共EV充電ステーションを設置する。  ハイブリッド車、EV車、FCV車など新エネルギー車両については、中央政府も大規模に支援していく発表を昨年末にしていた。12月16日、国務院財政部、科学技術部、興業情報化部、国家発展改革委員会、国家エネルギー局の5部門は協働で「第13次5ヵ年計画・新エネルギー自動車充電設備奨励政策及び新エネルギー自動車普及通知」を発布し、全国省・市の新エネルギー車両普及助成金が総額2億元(約36億円)に達することを発表していた。さらに前日の12月15日には、国家発展改革委員会、住宅都市農村建設部、交通運輸部により、新エネルギー車両には駐車料金を割安にするなどの政策の方向性が示された。中国の自動車市場で、新エネルギー車両に対する需要は大きく拡大しそうだ。  また同行動計画では、石炭煤塵対策として2〜3年をかけて主要地区の「無煙化」を実施し、農村部では5年をかけて燃焼コンロの無煙化を進める。また、企業取締では、煤塵規制を遵守しない企業には対応を迫り、改善されない場合は北京市からの立ち退きを実施する。立ち退きは2016年だけでも2,500社に上る見通しだという。煤塵対策に関しては、9月30日に国際NGOのグリーンピースが中国の電力事業者26社の煤塵、二酸化硫黄、窒素酸化物排気量に関する調査をまとめ、主要12社全てがいずれかの排気量規制に実態として違反していることを明らかにしていた。グリーンピースは法規制の穴を指摘し、短時間に排気量を大幅に増やすオペレーションをすることで、「合法的に」違法行為を行えてしまうことに警鐘を鳴らしていた。煤塵については中央政府も北京市当局も目下規制強化の必要性を感じており、グリーンピース調査が大きな貢献をもたらしたと言えそうだ。  12月22日を最後に今日まで「赤色警報」は出ていないが、ひとつ手前の「黄色警報」は12月31日から1月2日にも発令されている。北京市、天津市、河北省のエリアは中国でも最も大気汚染が深刻なエリアだと言われている。改善が急を要しているものの時間はまだまだかかりそうだ。 【当局サイト】北京市環境保護局 【参照URL】新能源汽车产业2015年12月获9项政策支持 【参照URL】【新闻摘要】国内12家“超低排放”燃煤电厂的实际排放情况调查  

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【人権】「目的」か「結果」か 〜攻めのダイバーシティに向けて〜

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 ダイバーシティというテーマで、これまで3つの記事でお伝えしてきました。ダイバーシティを考えるにあたって、そもそもなぜ世界的にダイバーシティが求められているのかを歴史的背景と共に迫ったのが初回の「【人権】ダイバーシティは本当に必要なのか?(上)〜欧米におけるダイバーシティの意味〜」でした。国内において民族的・宗教的・性的多様性が高い欧米諸国が、能力の高い人材を獲得しようと考えた場合、ダイバーシティは避けては通れない問題だということが背景にありました。  続いて、日本という文脈においてはどのように解釈されるべきなのかについては第2回「【人権】ダイバーシティは本当に必要なのか?(下)〜日本のダイバーシティ新展開〜」で解説しました。国内の多様性が比較的低いと言われ、性別に重きの置かれている日本の企業も、グローバル化の流れを受けて海外進出を果たしていき、諸外国の抱える問題への対処に苦労しています。ダイバーシティという概念はもはや海外での成功の必要条件になりつつあるといえるでしょう。同時に、このダイバーシティは海外進出ではなく国内市場に重きを置く企業にとっても避けては通れない問題になりつつあることも説明しました。労働力不足が叫ばれる未来の日本で人材を獲得していくためにはダイバーシティは不可欠です。  ダイバーシティが企業にとって喫緊の課題となることを理解した上で、ダイバーシティが企業にもたらすメリットが何であるのかを示したのが、第3回「【人権】ダイバーシティ・マネジメントの恩恵と制約」です。ビジネスという観点から問題を捉えた場合、「効率的経営」と「イノベーション」がダイバーシティから得られる具体的なメリットであることを解説しました。ここで言う効率的経営とは、人種・性別・宗教に関係なく真に優秀な社員をしかるべきポジションに配置することでパフォーマンスを上げることを指します。またイノベーションとは複雑な問題に取り組む際に多角的なアプローチをとることでソリューションの精度を向上させることを意味します。つまり、グローバリゼーションとともにさらに複雑さを増す問題を解決するため、先進的な企業はダイバーシティに取り組み始めているというわけです。  逆に、多様性を排除し、同質な人だけが集まる組織の練り出す解は、その同質性ゆえに個人が出す解と差異のないものとなりがちです。つまり組織としての課題解決能力を向上させることができないというわけです。同質な人材を集め労働集約的な働き方で栄華を極めることができたのも今は昔。問題解決に必要なのは同質性ではなく、異質性が鍵を握る時代にあるのです。  過去3回の記事ではダイバーシティが「なぜ」重要なのかを解説してきました。そこで今回は、実際「どのように」ダイバーシティを達成し、多様性ある組織を構築していくべきかに話を移していきたいと思います。 ダイバーシティの捉え方  まず、ダイバーシティに優れた組織を構築するにあたって、重要な出発点は、ダイバーシティについての課題を正しく認識することです。「組織内ダイバーシティが達成されていないこと自体」が課題なのか。それとも「組織がダイバーシティの成立を難しくする構造を内包していること」が課題なのか。この2つは似ているようで全く違うことです。前者のようにダイバーシティの達成を「目的」と捉えた場合、アクションとしてはダイバーシティを向上させるための制度充実などの施策を打つという手法をとりがちです。一方、後者はダイバーシティの達成を「結果」として捉えているため、ダイバーシティの本質的な意味を捉え、ダイバーシティの成立を阻害している組織構造を改善するという施策を打つことになります。  結論を言うと、ダイバーシティを「結果」として捉えたほうが、企業価値を向上させる大きな効果を期待できます。それではなぜ「目的」としてのダイバーシティは上手くいかないのでしょうか。 一つ目の問題は、ただ闇雲に数値上の多様性を高めただけの組織は、シナジーを生むための要件を満たすことがなく、ただまとまりのない組織になってしまうからです。第3回の記事でお伝えしたように、多様性がシナジーを生み大きな成果をもたらすためには以下の6つの条件を満たす必要があります。 設定された問題が解決や予測を必要とし、適切に難しいこと 解決者は大きな集団から選出されたチームであること チームに所属する解決者が全員充分に賢いこと チームに所属する解決者が持つ観点や経験則が多様であること チームメイトが壁にぶつかった際にチームの誰かが解を向上できること チームメイトの仲が良いこと  二つ目の問題は、多様性の数値的な向上だけに邁進すると逆差別を引き起こすことになるためです。例えば日本企業のダイバーシティ推進で陥りがちなのが、女性管理職比率向上のために男性社員が逆差別を受けるないし受けていると感じるというケースです。またこのような数合わせだけで設置された女性管理職のポジションは名誉職的に位置づけられていたり、本人の実力と乖離しているという評判が社内に立ったりと、不協和音を生み出している企業も少なくありません。このようにダイバーシティの数値目標自体を「目的」として置いてしまうのは効果的だとは言えません。  それではダイバーシティを「結果」として捉え、ダイバーシティの成立を阻害している組織構造を改善するためにはどのようなアクションが必要なのでしょうか。まず、ダイバーシティが達成されている理想的な組織とは、従業員が各自の異質性を活かせるポジションに配置されることで、組織全体が高いパフォーマンスを実現し、またそのパフォーマンスが適切に評価される組織です。このような組織になるための要件としては、 職務内容が明確であること 従業員が適性ある職務についていること 職務の難易度と成果を基に公平に評価されること の3点が満たされている必要があります。つまり、現状この要件を満たせていない組織構造こそが、解決すべき「問題」であり、その解決が日本企業のダイバーシティ向上に寄与するということです。 組織構造内に問題を抱える背景  では、日本ではなぜダイバーシティについて未だに足踏みする企業が多いのでしょうか。その原因には前述したダイバーシティを成立させるための組織の3条件が未整備であることにあると言えます。そしてその背景には日本の人事制度にあると言われています。  日本企業の多くは、従業員の「能力」を基にポジションや報酬を決める職能資格制度を採用しています。そしてここで言う「能力」とは、業務における成果のことではなく、潜在能力のことを指しています。では潜在能力とは何でしょうか。日本では潜在能力を図るに際し、最も重要視してきたのが勤続年数です。どんなポジションであれ、同じ企業の中で長く経験を積めば積むほど業務をする上での潜在能力は自ずと高まっていくという考え方です。この考え方が日本に年功序列システム・定期昇給という概念を生み出してきました。この人事制度のもとでは、長く会社に奉公している人材が評価されます。また、この仕事ではなく人に対して報酬額を決めるという属人的制度においては、各ポジションにおける職務が明確化されず、(1)職務内容が明確であることや(3)職務の難易度と成果を基に公平に評価されること、を満たしづらいのです。  そして、職能資格制度を長年続けてきた日本企業の多くは、採用に際して総合職という形をとっています。これは、勤続年数を重視し、終身的に一つの企業で勤めあげる中で様々な部署を経験したゼネラリストの養成を前提とした制度です。ところが、この前提からは「各部署で求められる能力は異なる」という点が抜け落ちてしまっています。職能資格制度のもとで「勤続年数が1年経てば潜在能力は皆同じだけ増える」としてきた考え方には、専門性という概念や能力の異質性という概念が馴染みにくいのです。その結果、日本企業においては必ずしもその職務と能力適正がマッチした人材がその部署を担当しているわけではなく、さらに、一定の任期の後に異動が前提となっているため、その職務でプロフェッショナルを目指すモチベーションが高まりづらいとも言えます。これらが(2)従業員が適性ある職務についていること、を満たせない状況を作り出しています。 (出所)公益財団法人日本生産性本部「第14回 日本的雇用・人事の変容に関する調査」  実際に数値でも確認してみましょう。公益財団法人日本生産性本部の2014年調査では、非管理職層に職能給(職能資格制度)や年齢・勤続給を導入しているところが非常に多いことが見て取れます。日本では、職能資格制度が年齢・勤続給とほぼ同じ使われ方をしてきたため、両者はほぼ同一と言っても過言ではありません。また、後ほど説明する役割・職務給においても、実際の運用が職能資格制度と変わらないと言われることも日本では多く、実態としては上記の数値以上に職能資格制度の色合いは濃いと言えるでしょう。 職務制度と部門別採用  他方、ダイバーシティを成立させる人事制度として適切なものとして、「職務等級制度」と「部門別採用」が挙げられます。明確に定義された職務に対しどの程度成果を挙げられたのかを基準に公平に評価する職務等級制度を導入することで、各部門が担当する職務や責任の幅や求められる人材像も明確化されます。これにより(1)職務内容が明確であることや(2)従業員が適性ある職務についていること、(3)職務の難易度と成果を基に公平に評価されること、をそれぞれ達成できます。職務等級制度の替わりに役割等級制度を導入している企業もあります。役割等級制度とは、職務等級制度よりもポジションの定義を緩やかに実施し、社員の自発性や変革能力を引き出そうという制度のことを意味しますが、職務等級制度と同様に(1)(2)(3)の結果を享受できるということにおいては違いはありません。  そして職務等級制度を軸とした人材獲得や育成を目指す場合、総合職といった新卒一括採用ではなく「部門別採用」が適していると言えます。各部門の求める明確な像と採用された社員の能力のマッチ度が高くなるため、その部門におけるプロフェッショナルとしての育成が可能になります。この「職務等級制度」と「部門別採用」の二本柱により、組織内では同一職務同一賃金が実現し人材の最適配置の下でパフォーマンス向上を図ることができます。 公平性の徹底  しかし、導入にあたっては注意しなければならない点も存在します。組織を動かす上で整備しなければならないことは制度だけでなく、企業文化という名の従業員の認識にも及びます。城繁幸氏は著書『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』において、人事部およびトップ層が自己保身をしつつ、成果主義を進めたことにより評価の正当性が失われるだけなく現場もモチベーションが低下し、結果的には企業ブランドの棄損にまで至ったと証言しています。同書において職務等級制度は痛烈な失敗例として語られているため、職務等級制度導入に反対の論拠として引用されることが少なくありませんが、実は職務等級制度自体が問題なのではないと同書中でも明確に言及されています。職務等級制度失敗の核はむしろ、運用を徹底できなかった点にあったと言えます。 そもそも本社人事や経営陣にブラックボックスを用意するなどと言った中途半端な職務等級制度導入は(3)職務の難易度と成果を基に公平に評価されること、を満たしていないことになり、結果としてのダイバーシティ達成にも繋がりません。公平性が担保されて初めて機能するのが職務等級制度であるため、成功させるには組織全体での徹底した取り組みが必至なのです。 「結果」としてのダイバーシティ  ダイバーシティの成立を難しくする組織構造を解決する手段としての職務等級制度についてお話しました。パフォーマンスに基づく評価を行うことで、民族や宗教、性別に関係なく真に問題に対するソリューションを生み出すことが期待できる人材、また既存の解を向上させることのできる人材が採用・配置されることになります。その結果として現れるのが本当の「ダイバーシティ」です。 ダイバーシティというのは企業が抱える問題に対して“適切に多様な”アプローチを取ることができる時に初めて機能します。そのため、例えば直面した問題の解決に際して「性別」よりも「思考」の多様性が必要とされる場合には、必ずしも女性が登用されるべきではないという事態も起こりうるということです。  実際問題として、組織に占める女性の割合に対し管理職が極端に少ない日本の現状では、公平な職務等級制度に基づき最適な人材配置をすれば、多くのケースでは女性の管理職比率は向上すると言えます。しかし、やはりダイバーシティの主眼は、性別ではなく思考の多様性です。思考の多様性を追求しダイバーシティを「結果」として置く場合、女性管理職比率が下がることもありうるでしょう。しかし、これが公平な評価の下で従業員を適正配置した「結果」でれば、これはこの企業における現状の最高のダイバーシティ状態だと言えます。  女性の管理職比率が下がることを推奨しているのかという感情を抱いた方もおられるかもしれませんが、それは誤解です。繰り返しになりますが、女性の管理職比率が著しく低い日本では、適切な職務等級制度を運用することで女性の管理職比率は向上すると確信しますが、ここではあくまでその背景となるダイバーシティの捉え方をお伝えさせて頂きました。日本政府は2003年に男女共同参画推進本部において「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度になるように期待する。」という数値目標を掲げました。しかし、この目標には現状は遠く及ばないと聞きます。日本企業の多くでは、ダイバーシティという言葉ゆえにそれ自体を目的したアプローチが未だ主流となっています。しかし、問題の根源を特定することなく枝葉に対していかに良いアプローチをしても、効果が現れないか、もしくは一時的に効果が出ても根本的な解決には繋がりません。「人事体制の変革」という組織全体での取り組みが必要なダイバーシティの問題。グローバル化の波に乗る新興国の勢いが高まる中、日本企業が生き残るためには、女性の社会進出のためだけの施策としてではなく、経営戦略として捉えることが重要になってきていると言えるでしょう。

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2015/03/10 体系的に学ぶ

【ランキング】2015年 ダボス会議「Global 100 Index: 世界で最も持続可能性のある企業100社」

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※最新年度版は【ランキング】2017年 ダボス会議「Global 100 Index: 世界で最も持続可能性のある企業100社」へ 世界経済フォーラムが毎年1月にスイス東部のダボスで開催するダボス会議。同フォーラムで毎年恒例のセッションとなっているのが“Global 100 Most Sustainable Corporations in the World” (Global 100 Index)であり、この結果がカナダの出版社により「世界で最も持続可能性のある企業100社」(ランキング)として発表されます。それではまず2015年、上位にランクインした企業から見て行きましょう。 Global 100 トップ10 (CorporateKnights社の発表を基にニューラル作成) 昨年に引き続きトップ10にランクインしたのは、 バイオジェン・アイデック アディダス ケッペル ランド ケスコ BMW セントリカ シュナイダーエレクトリック の7社。つまり大半は2年連続での上位ランクインということになります。2014年のダボス会議の記事「【ランキング】2014年 ダボス会議「Global 100 Index: 世界で最も持続可能性のある企業100社」」でもお話したように、最近は上位の顔ぶれが安定しつつあり、事実この7社のうち6社は三年連続でのトップ10入りとなります。このトレンドは全体にも言え、全100社のうち64社は昨年から、そのうち45社は2年前から、つまり三年連続でランクインをしています。 また、日本でも知名度の高い以下のような企業もランクインしています。 14位 ロレアル (フランス 化粧品) 18位 ジョンソン&ジョンソン (アメリカ 医薬品) 22位 ユニリーバ (イギリス 消費財) 26位 コカコーラ (アメリカ 食品) 33位 ノキア (フィンランド ハードウェア) 45位 サムソン電子 (韓国 電機) 50位 エーザイ (日本 医薬品) 51位 LG電子 (韓国 電機) 54位 アクセンチュア (アイルランド IT) 55位 シーメンス (ドイツ 電機) 56位 インテル (アメリカ 半導体) 60位 ダイムラー (ドイツ 自動車) 61位 Adobe (アメリカ ソフトウェア) 69位 シスコシステムズ (アメリカ ハードウェア) 73位 レノボ グループ (中国 ハードウェア) 74位 GE (アメリカ 電機) 75位 H&M (スウェーデン 消費財) 81位 ルノー (フランス 自動車) 82位 BNP パリバ (フランス 金融) 88位 ロンドン証券取引所グループ (イギリス 金融) Global 100 地域別社数ランキング 次に地域別ランクイン企業数に着目してみましょう。 (CorporateKnights社の発表を基にニューラル作成) ヨーロッパ、北米の企業で84社と8割以上を占めていることがお分かりいただけると思います。 (CorporateKnights社の発表を基にニューラル作成) さらに過去5年間の地域別ランクイン企業数の変化に着目すると、ヨーロッパが多く占めている一方、北米地域の躍進が目覚ましいことがわかります。それに対してアジア企業のランクイン数は右肩下がりになっています。この原因は何なのでしょうか。 Global 100 アジア内国別ランクイン社数ランキング そこで今度はアジアの詳細に着目してみましょう。 (CorporateKnights社の発表を基にニューラル作成) 過去5年間で著しくランクイン数を減らしているのは、日本です。実際、2015年にランクインしたのは50位のエーザイのみ。他方、韓国やシンガポールは着実にランクイン数を増やしており、特にシンガポールはケッペル ランド社が2015年のグローバル100で4位につけるに至っています。また今回、2005年にランキングが始まって以来初めて香港以外の中国企業としてレノボグループがランクインしたことも注目すべき点だと言えます。 ランキングの基準①(4つのスクリーニング) それでは、具体的にどのようなプロセスを経てGlobal 100が選出されているかをご紹介しましょう。まず、毎年10月1日時点において時価総額200万米ドル以上の企業が自動的に評価対象となります。その後に4段階のスクリーニングが行われ、そのスクリーニング基準を満たさない企業はその時点でランキング対象から除外されます(但し、昨年のGlobal 100ランクイン企業は、制裁スクリーニングに引っかからない限り、自動的にランキングの対象となります)。それを通過した企業のみにスコアリングが為され、ランキングされていきます。スクリーニングは以下の4点により行われます。 サステナビリティ情報開示 財務状況 製品カテゴリー 制裁 1. サステナビリティ情報開示 まず最初にスクリーニングがなされるのは、サステナビリティ情報の開示の有無によってです。開示情報は以下の12項目に分類されます。 エネルギー生産性 炭素生産性 水生産性 廃棄物生産性 リーダーシップ多様性 役員報酬制度 CEO報酬と従業員平均報酬の比率 年金保護 離職率 安全生産性 イノベーション能力 税納付 この12項目のうち業界ごとに「優先的KPI」が定められており、その優先的KPIを9つ以上開示していれば、このスクリーニングを突破することができます。業界ごとに定められる「優先的KPI」は、業界内に属している企業のうち最低でも10%の企業が開示しているものが選定されます。 2. 財務状況 情報開示のスクリーニングを通過すると次は財務状況でスクリーニングされます。具体的には以下の要件のうち5つ以上満たす必要があります。 純利益が黒字であること 営業キャッシュフローが黒字であること (純利益/期初総資産)が前年度の数値を上回っていること 営業キャッシュフローが純利益を上回っていること 長期負債÷総資産の年平均額が増加していないこと 流動比率が高まっていないこと 前年に普通株式発行を行っていないこと 粗利益が前年より増加していること 総資産回転率が向上していること 3. 製品カテゴリー 財務状況のスクリーニングを通過すると次は製品カテゴリーのスクリーンが行われます。以下のいずれかに該当する企業はランキング対象から除外されます。 GICS業界分類でタバコ業界に属する企業 GICS業界分類で宇宙・防衛業界に属し、かつ防衛事業が売上の半分以上を占める企業 4. 制裁 最後に、2014年10月1日までの過去12ヶ月の間に、サステナビリティに関する問題で罰金を受けていないかがチェックされます。罰金額が総収益に占める割合の大きさが業界内で上位(ワースト)25%以内にいなければ、このスクリーニングを通過します。 ランキングの基準②(スコアリング) スコアリングする際の評価基準は、「サステナビリティ情報開示」のスクリーニングで使用した優先的KPIが用いられます。優先的KPIごとの数値の平均がその企業のスコアとなり、そのスコアに準じて順位が決まります。また、評価基準は毎年少しずつ変更がありましたが、2015年は前年からの変更はありませんでした。 エネルギー生産性: 売上 ÷ 直接的および間接的なエネルギー消費量 炭素生産性: 売上 ÷ 二酸化炭素排出量 水生産性: 売上 ÷ 水使用量 廃棄物生産性: 売上 ÷ 廃棄物排出量 リーダーシップ多様性: 女性役員の割合 役員報酬制度:サステナビリティ指標に連動した報酬制度の有無 CEO報酬と従業員平均報酬の比率 年金保護: 未積立年金債務 ÷ 時価総額 離職率: 離職者数 ÷ 総従業員数 安全生産性: 事故死者数+20万人時間当りの労働喪失時間数 イノベーション能力: R&D投資 ÷ 売上 税納付: 税金納付額 ÷ EBITDA 2015年のランキング発表を受けて Global 100のランキング上位の企業は順位を守り続けているものの、変化がないわけではなく、むしろランクインしている企業全体のスコアは前年比で向上しています。これは現状ランク外にいる企業が新たにランクインするハードルが高くなっていることを意味しており、国際的に高い評価を得ることは以前と比べ難しくなってきていると言えます。 それでは、企業にとって、Global 100にランクインすることにはどのような意味があるでしょうか。厳しいスクリーニングを通過し、財務・非財務面で高い評価を得たGlobal 100企業の投資リターンは、ベンチマーク指標であるMSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス (ACWI) に比べ高いことが統計的に報告されています。すなわち、Global 100に採用されることで、投資家からの高い評価を得やすくなるということです。 実は、今回選定されたGlobal 100企業の投資パフォーマンスは、初めてMSCI ACWIを下回るという数値も観測されました。しかしこの数値の背景には、両インデックスの選定基準ではなく、単純に為替による影響が大きいと言われています。2014年は米ドルが多くの通貨に対して高騰するというマクロ経済環境となりましたが、Global 100企業の米ドル取引割合が19%に過ぎないのに対し、MSCI ACWIを構成する企業の米ドル取引割合は約50%でした。結果的に、米ドルベースでの取引が多いMSCI ACWIが為替益の恩恵を受けやすく、Global 100よりパフォーマンスが上がったと分析されています。そのため、Global 100企業に対する投資家の期待は引き続き高くなっていくと思われます。 CorporateKnights以外にもいろいろな機関が評価指標やランキングを発表する中、依然として大きな関心を集めるGlobal 100。海外のグローバル企業の取組や意識のレベルが大きく向上する中、日本企業の今後の動きにも期待していきたいです。

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2015/01/27 体系的に学ぶ

【人権】ダイバーシティ・マネジメントの恩恵と制約

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ダイバーシティ・マネジメントの意義 以前「ダイバーシティは本当に必要なのか?(上)〜欧米におけるダイバーシティの意味〜」において、日本と欧米における「ダイバーシティ」という概念の成立背景の違いについてお話ししました。欧米は国内の民族的・宗教的多様性が高いため、国内労働市場から採用する際にどうしても多様性と向き合わなければなりません。そしてこの姿勢は企業が海外展開し、グローバルな労働市場で採用活動をする際にも活かされます。一方、日本では国内の民族的・宗教的多様性は比較的小さく、それ故労働市場においても注目を浴びる差異は性別がメインでした。ところがグローバルに採用活動を行う場合には性別以外にも民族・宗教・言語・LGBT等、向き合わなければならない事柄は多く存在します。優秀な人材を獲得するためにはそれぞれに対する理解を深める必要がありますが、現状マネジメント体制構築に苦労しており、それが採用活動に影を落としていると言われます。 そしてこれはグローバルに展開する企業に限った話ではなく、ローカルに根ざした企業であっても労働不足の観点からダイバーシティに向き合わなければならない状況まできていることを「ダイバーシティは本当に必要なのか?(下)〜日本のダイバーシティ新展開〜」でお話ししました。それでは、ダイバーシティとは「受け入れないと事業が成り立たないから」しぶしぶ取り組む類のものなのでしょうか。マイナス要素の補填以外にも株価や投資リターンが上がる等ダイバーシティから恩恵を受けている例は実際に存在します。しかしダイバーシティと株価の向上の関係は、相関関係なのか因果関係なのか定かではありません。そのため、まずは一般的に語られるダイバーシティの恩恵を整理し、それらが組織内部にどのような変革をもたらすのかを説明したいと思います。 ダイバーシティの恩恵 一般的にダイバーシティがもたらす恩恵は社会正義・効率的経営・イノベーションの文脈で語られます。「社会正義」とは例えば倫理的配慮からのアファーマティブ・アクション等のことを指します。「効率的経営」とは人材の適正配置を指します。具体的には、人種・性別・宗教に関係なく真に優秀な社員をいるべき場所に配置することでパフォーマンスを上げることを意味し、“真に優秀”の定義が何かの議論を抜きにすれば、人材の適正配置は当然享受し得るメリットだと言えます。では「イノベーション」はどうでしょうか。ここで言うイノベーションとは、“多様な人が集まるチームは未知の解に辿り着くことができる”、“集団で取り組む方が個人で取り組むよりも解がブラッシュアップされる”といった類のものです。この主張を裏付けるため、一様な組織で問題解決にあたる場合と多様な組織で問題解決にあたる場合を比較してみましょう。以下"ダイバーシティ経営企業100選ベストプラクティス集"に選出された株式会社金子製作所を例に説明していきます。 創業以来、技術向上に特化した経営を行ってきた彼らは「組織が硬直し、新たな挑戦を阻む風土になり、生産管理・品質管理の面でも顧客ニーズに対応できていない」という問題を抱えていたそうです。つまり、業界や組織の常識に囚われた一様な組織となってしまい、壁にぶつかっていたということです。金子製作所に限らず、一様に優秀な社員が集まったが故にぶつかった壁を乗り越えるのに苦労している企業は少なくありません。なぜならば、一様であるが故に皆が同じ壁で行き止まるからです。極端な話、「社員が皆優秀だが一様である組織」で問題解決に取り組むのは、「優秀な個人」が問題解決に取り組むのと変わらないことになります。 そこで実際に金子製作所が取った策は「女性取締役や社外専門家の活用」でした。金子製作所が抱える問題を見る角度には「管理部門からの視点」、「現場からの視点」など様々な【観点】がありますが、今回活躍した女性取締役はもともと経理部として入社しており、「経理部からの視点」や「業界常識に捉われない視点」を持っていました。そしてその【経験則】を活かし、人事考課や受発注、収益状況まで社内状況を数値として把握できたことに加え、客観的な視点から改善策を提案しました。また、その提案をサポートした社外の専門家たちにも、各々の専門領域からの【観点】や自身の【経験則】があり、それを活かして制度・組織風土改革を実行しました。その後、大手企業からの受注に際し、生産管理・品質管理の徹底が経営課題となった際には社外から品質管理の【観点】や【経験則】を持つ人材を雇用し業務改革に取り組み、結果的として広く事業展開に成功しました。 この例における状況設定やアプローチは簡易化されていますが、実際に我々が問題解決を図る際にも基本的には、ここに書かれているような【観点】や【経験則】を用いて解を導いています。しかし、自分の持つ【観点】や【経験則】が正しい解に到達するのに適したツールではないということもしばしば起こります。その時に多様な【観点】や【経験則】を用いることで、個人で行き詰まっていた壁を越え、本来では到達し得ない解に至る。これがダイバーシティにより「イノベーション」が創出されるケースです。 ダイバーシティの恩恵を受けるための条件 しかし、三人寄れば文殊の知恵という言葉が示すように誰でもいいから集まればいいのかと言うとそうではなく、ダイバーシティから恩恵を受けるには条件が付きます。それでは、条件に触れる前にまず以下の例ついて考えてみてください。 「少子化問題の解決策」をテーマとし、問題解決メンバーとして経済学者、政治家、医療従事者、保育士が選出されました。この場合、メンバーの誰かが一人で出す解より、全員で協力する方が多角的視点からアイデアが出されるため、良い結果を期待したくなるかと思います。ところが同じメンバーに、協力体制の下で「心臓手術の執刀医」をお願いする人はそういないでしょう。医療従事者以外が実際に執刀する際に役立つとは考え難いからです。ミシガン大学教授のスコット・ペイジ氏は著書『「多様な意見」はなぜ正しいのか 衆愚が集合知に変わるとき』の中で、ダイバーシティの恩恵を受けるために必要な条件として以下の6つを挙げています。 設定された問題が解決や予測を必要とし、適切に難しいこと 解決者は大きな集団から選出されたチームであること チームに所属する解決者が全員充分に賢いこと チームに所属する解決者が持つ観点や経験則が多様であること チームメイトが壁にぶつかった際にチームの誰かが解を向上できること チームメイトの仲が良いこと ここで注意していただきたいのは「心臓手術の執刀医」に多様性が必要ないというわけでも、心臓手術が簡単な問題だというわけでもないという点です。このケースにおいて多様性が機能しなかったのは、チームが持ち合わせた【観点】や【経験則】が、彼らの取り組む問題に対して適切なものではなく、医療従事者が出す解を他の誰も向上できないためです。つまり、問題解決のためのチームを編成するには、「問題に適した多様性」が必要であるということです。 先ほど挙げた金子製作所の例で言えば、 組織の硬直化が起きており、全員が壁に行き詰まり解決できない問題であった 男女に関係なく、また組織にも閉じず社外からも解決者を選択した 問題解決者として登場した人物は卓越した賢さをもっていた バックグラウンドの違う問題解決者たちの観点や経験則は多様であった それぞれの持ちうる専門性や性別が違うことにより、誰かが壁にぶつかった際にも解を向上させることのできる環境が整っていた 事後承諾的だが、このプロジェクトが上手くいったところからも問題解決に支障をきたすような妨害をするメンバーはいなかったと考えられる というように、ダイバーシティが機能するための条件を満たしていたからこそ、効果が発揮されたのだと言えます。 これらの事例や条件を踏まえると、問題に対してダイバーシティが適切に機能するチーム編成をすることは非常に難度の高いことのように感じられます。また適切に機能したとしても多様性は組織の出来を20%も向上させるようなことは期待できず、2〜5%も向上すれば上々だとも言われています。しかし多様性から受ける恩恵は恒常的なので、例えば年4%成長を20年続ければその効果は2倍となります。そのためダイバーシティとは長期投資として捉えるべき課題であると言え、組織体制レベルでの変革が求められるのも頷けると思います。 現状の再認識 それではダイバーシティに関する理解を深めたところで、改めてダイバーシティ・マネジメントに苦労している日本企業の現状を見てみましょう。同じ価値観を持ち、同一水準の能力を持つ人材を管理職に登用しており、それが往々にして男性となっています。「多様性に欠ける」とは世間でも言われていることかもしれませんが、ここにおいて欠けている多様性とは、【観点】と【経験則】の多様性だということがお分かりいただけると思います。 つまり、ダイバーシティ・マネジメントとは社会正義のために企業が身を削る取り組みではなく、真に優秀な社員を適切な部署に配置し、適切な権限を与えることで社員の個人パフォーマンスを向上させ、さらに組織としてぶつかっている壁を越えるのに適したツールを持つ新たな人材を活用することで組織パフォーマンスを向上させる取り組みなのです。 今回は触れることができませんでしたが、この取り組みを阻む要因として人事制度や社員の偏見などがあり、それらを克服する施策が必要になります。「制度の整備」と「社員の認識の変革」は鶏と卵のような因果性のジレンマに陥ってしまいますが、まずはダイバーシティ・マネジメントの目的が何であるかを正しく理解すること。それが大きな一歩となることは間違いないでしょう。

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2014/12/23 体系的に学ぶ

【人権】ダイバーシティは本当に必要なのか?(下)〜日本のダイバーシティ新展開〜

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日本のダイバーシティの特徴 前回の「ダイバーシティは本当に必要なのか?(上)〜欧米におけるダイバーシティの意味〜」では、欧米と日本との間で大きく異なるダイバーシティ概念の背景として、そもそも日本と欧米では社会の多様性が違っているということを説明しました。欧米には様々な人種、民族が住んでおり、そのもとで能力・パフォーマンスを重視して採用をすると自然と社内が多様化します。そして、自然と集まる多様な人々に働きやすい環境を作るという目的で、ダイバーシティ・マネジメントという概念が生まれてきました。 一方日本は、欧米に比べ多様性が小さく、欧米で生まれたダイバーシティの必要性があまり認識されてきませんでした。過去日本でダイバーシティがホットな話題になったのは、1985年の男女雇用機会均等法の制定時です。1981年に発行した女性差別撤廃条約や、当時相次いで最高裁の違憲判決が出た日産自動車事件、住友セメント事件、伊豆シャボテン公園事件が契機となり、日本でも倫理的な側面から職場で男性と女性を同等に扱う機運が高まり、それ以降ダイバーシティといえば「女性」という風潮が現在まで続いています。 ところが、その日本でも、ダイバーシティの経済的必要性がここ数年で著しく高まっています。変化をもたらしている大きな要因は、?グローバル企業の海外進出の活発化、?ローカル企業の労働力不足です。 グローバル企業の真のグローバル化 グローバル企業が属しているビジネス環境とは、人材獲得力が競争の勝敗を左右する世界です。進出先で事業活動を遂行するには、現地の従業員やマネージャーを採用しなければなりません。そのため採用活動は、現地企業や他のグローバル企業との人材の取り合いが必至となるのです。国籍・民族の多様化は、グローバル企業本社にも及びます。グローバルなビジネス環境で真に勝っていくためには、国籍を問わず世界中の優秀な人材を本社組織の中にも呼び込まなければなりません。欧米のグローバル企業はいち早くこの競争に先手を打っており、本社経営陣の国籍多様化や現地採用人材の本社登用を促進し、国籍を問わない人事制度を構築してきています。 テレビやビジネス雑誌など多くのメディアでも報じられているように、日本のグローバル企業が海外市場でまだまだ苦戦しています。人材採用においても、日本企業は苦しい状況です。アジアの経済発展の中心の一つであるシンガポールでは、働きたい企業の上位に日本企業は1社も入ってこないというリサーチ結果も報告されています。理由としては、日本企業が外国人にとって働きやすい環境ではないということが挙げられてもいます。グローバル企業が真のグローバル化を果たすためには、国籍・民族のダイバーシティ・マネジメント、すなわち日本人以外の人々にとって働きやすい環境を整備して行く必要があります。 大きな影を落とすローカル企業の労働力不足 日本経済が活気を取り戻すためには、これらのグローバル企業が海外市場で成功を収めていくことが必要と言われていますが、グローバルなビジネス環境で事業をしている日本企業のインパクトは実は日本経済の約3割に過ぎません。それ以外の多くの日本企業は、日本国内で小売や運輸、医療福祉や飲食店を営んでいるローカル企業です。では、このローカル企業は、ダイバーシティ・マネジメントとは無縁でいられるかというととんでもありません。実は、グローバル企業以上に日本のローカル企業はダイバーシティ・マネジメントが事業継続の根管を握る時代へと突入しています。 ここ数年で大きくクローズアップされてきた日本のローカル企業の課題は、労働力不足です。日本で労働力不足が課題となってきたというとピンとこない方も多いと思います。例えばこの十数年間「日本企業は国際競争力を高めるために、海外移転を進めている」「日本は人口が減少し、市場が縮小している」「かつて賑わいを見せた商店街は今やシャッター通りと化している」「事業撤退により大量のリストラが行わることになった」と説明が随所でなされてきたためです。その結果、多くの人びとの頭のなかでは、「日本は人余りで、働く場所が少なくなっている」と理解してしまっています。ところが、日本は今、明らかな労働力不足の時代を迎え始めているのです。 突然降って湧いたような「労働力不足」問題について、経営共創基盤CEOの冨山和彦氏は著書『なぜローカル経済から日本は甦るのか』の中で解説をしてくれています。冨山氏はまず、日本には、グローバル経済圏とローカル経済圏を明確にわけて理解する必要があると説きます。日本のグローバル経済圏では依然として人余りの状況が続いており、海外進出や海外市場での苦戦、新興国企業のキャッチアップなどにより、日本企業はスリム化を実行に移し、迅速な意思決定と資本効率の向上のために人件費生産性を向上させなくてはいけなくなっています。一方、日本のローカル経済圏では深刻な人不足が発生するという真逆の事態が生じています。背景にあるのは、?少子化、?若者の都市への移住、?団塊の世代の大量退職。 特に?団塊の世代の大量退職により、5年前ほどから労働力不足がより深刻化しました。結果、人口減少社会や過疎化などでローカル経済圏は市場がどんどん小さくなっていますが、それ以上に労働力が減少するという状況が起こっています。冨山氏は前述の著書の中で、事態を下記のように分析しています。 「1947年から1949年に生まれた団塊の世代が、2012年から65歳以上の高齢者になり始めた2013年10月の人口推計では、高齢者の比率が初めて25%を超えた。彼らが平均寿命を迎えるまでのおよそ20年間は、高齢者の数が圧倒的に多くなる。段階の世代以後の数は急激に少なくなっているとともに、少子化が深刻化しているので、人手不足に関しては最も逼迫が大きい時期を迎える。 ただ、この20年間を過ぎて段階の世代が寿命を迎えると、高齢者の絶対数も減少に転じる。それでも、真に有効な少子化対策が実施されない限り子どもの数は増えないと予測されるので、生産年齢人口が増加に転じることは考えられない。結局、人手不足の構図は解消しないのである。深刻な人手不足の状態がこれから20年は続くという事実は、決して一過性とは言えない。加えてその先も好転が予測できないのであれば、構造的な問題として対処していかないとこの状況はしのげない。」 実際にローカル経済圏に属するサービス業では、人不足から年々時給が高まっています。 データでも裏打ちされるサービス分野の人手不足 冨山氏が指摘するサービス分野の人手不足は、様々なデータにも表れています。 (出所:リクルートジョブズ「2014年7月度 アルバイト・パート募集時平均時給調査」) 上記のリクルートジョブズ社の調査では、飲食店や物流、清掃職のアルバイト・パートの時給が急速に上がっています。今日、企業は人手不足を解消するために、賃金をあげて採用をしようとしていますが、それでも人手不足が解消できないほど、ローカル経済圏の人手不足は深刻化しています。 同様に、ローカル経済圏が人手不足の様子は、厚生労働省の有効求人倍率からも確認できます。 (出所:厚生労働省「一般職業紹介状況7月分」) 上記は2014年7月時の有効求人倍率のデータです。倍率が2倍以上の職種を赤くしましたが、東日本大震災からの復興や2020年オリンピックで需要の多い建設分野を除けば、医療・福祉サービス、飲食・小売、運輸、保安などサービス分野で人手不足が発生している様子がわかります。 ローカル経済圏の鍵をにぎる女性のダイバーシティ 繰り返しになりますが、日本経済の約7割はグローバル市場環境とは無縁なローカル経済圏でのビジネスです。そして、このローカル経済圏を支えているのは女性です。 (出所:総務省「平成22年労働力調査」) こちらは2010年の日本の性別別の職種別就業者数の状況を示したものです。男性が建設、製造、運輸、卸売・小売での就業者が多いのに対し、女性は卸売・小売、飲食、医療・福祉の分野に労働力を提供していることがわかります。日本経済の多数を占めるローカル経済圏では、すでに女性によって業界が支えられています。日本では「ダイバーシティ=女性」という考え方がなんとなく定着してきた背景には、このようにすでに日本が女性の経済力を当てにしなければ成立しえないところまできているという事情があるのです。 このように、「女性の活用」「女性の働き方」という日本のダイバーシティ推進は、すでに倫理的必要性という次元から、経済的必要性という次元にまで展開してきています。最近では、労働力を確保できないという理由で、閉店を余儀なくされる飲食チェーンやスーパーも出てきているほどです。もちろん、この「女性」という中にも求める働き方は多様です。育児をしながら短期で仕事をしたいという方もいますし、仕事のやりがいを求めて責任のあるポジションに就きたいという方もいます。労働力が枯渇している、この分野では、様々な働き方を求める女性がいるという事実に向き合い、それぞれのタイプの女性をうまく活用していく制度づくりや環境づくりが求められています。 女性だけのダイバーシティを越えて ローカル経済圏におけるダイバーシティの推進は、女性だけに留まりません。すでに、多くの女性が仕事を求め、労働力を提供していても、まだまだ労働力は不足しています。少子化で若者の数はさらに減っていきます。そこで、期待される労働力の提供者は、外国人と高齢者です。東京都内でも最近、外国人の方がコンビニエンスストアや飲食店で勤務している様子を目にする機会が増えてきました。背景には、外国人にとって働きやすい国になるというお題目以上に、外国人従業員に支えてもらわなければ、事業が継続できなくなっているという現状があります。しかしながら、日本の地方都市や農村部では、外国人に対する理解がまだまだ進みません。すると、今後高齢者をどのように活用していけるかが事業継続に関わってきます。高齢者に対するダイバーシティはますますホットなテーマになっていきます。 今回は、ダイバーシティをいかにして推進していくかという点については触れることができませんでしたが、ダイバーシティの重要性は以前とは比較できないほど大きくなっています。グローバル企業における外国人従業員の位置づけ、そしてローカル企業における女性、外国人、高齢者労働力の確保。どちらもが、以前は日本が直面していなかった新たなテーマです。1985年に男女雇用機会均等法が成立してから、間もなく30年。ダイバーシティの意義は大きな変化のときを迎えています。 文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治

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2014/09/19 体系的に学ぶ

【人権】ダイバーシティは本当に必要なのか?(上)〜欧米におけるダイバーシティの意味〜

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ダイバーシティ・ランキング世界1位のノバルティス 世界の企業ダイバーシティ・ランキング「The DiversityInc Top 50 List」を毎年調査・発表している米国DiversityInc社。2014年には、スイス・バーゼルに本社を置く製薬会社Novartis Pharmaceuticals Corporation社がランキング1位を獲得しました。同社は毎年上位にランクインする常連企業です。彼らはダイバーシティについてこう語っています。 "You don’t need 10 people in the room who think exactly the same. You need 10 people in the room with very unique points of view, and can reach consensus on what a thing to do is for the customer." 「会議室に全く同じ考えを持つ10人は必要ない。会議室に必要なのは独自の考え方を持つ10人。そうすることで、顧客のために何をなすべきかについて合意に至ることができる。」 DiversityIncは今回Novartisを1位に選んだ理由として、人口バランスの向上や評価軸の策定、及び退役軍人、LGBT、障がい者の雇用と定着に本社主導で取り組んだことことを挙げています。上記のNovartis社自身の言葉にあるように、同社が重視しているのは多様な意見と切磋琢磨の上での高次元の合意形成。より深い検討を行うために、従業員の多様性を尊重していると言うわけです。 ダイバーシティ・マネジメントという用語は1960年にアメリカで誕生した言葉で、日本でも1990年代からよく用いられるようになりました。日本経団連も、ダイバーシティを「多様な属性(性別、年齢、国籍など)や価値・発想をとり入れることで、ビジネス環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、企業の成長と個人のしあわせにつなげようとする戦略」と定義しています。ビジネスパーソンであれば、一度は耳にしたことがあるダイバーシティ。ところが、実際に個々人にダイバーシティの定義を尋ねると千差万別の答えが返ってきます。「女性管理職比率の増加」「女性の短期勤務制度の整備」「外国人の積極採用」等々。ダイバーシティという言葉が普及する反面、ダイバーシティの意味付けは人によってバラバラです。 なぜダイバーシティを推進するのか?この問に対しても回答は多様です。「平等に扱うのが人としての責務」「多様な意見が議論を活発化する」「マーケットが多様化した今、商品開発に多様な声を反映させる必要がある」「多様化させた企業は株価が上がる」。一方で、ダイバーシティに懐疑的な意見もあります。「多様な考え方は仕事の効率を下げる」「強固で一体な企業文化こそ大切だ」「女性ばかりを優遇するのは逆差別だ」「能力だけで正当に評価すべきで性別・国籍バランスなどは企業力を下げる」「管理職になりたくない女性もいるので、女性社員に一律昇進を要望するのは良くない」。いずれも一理ありそうな主張です。 ダイバーシティは本当に必要なのか?なぜ欧米企業はダイバーシティを推進しているのか?これだけダイバーシティ推進が自明のテーマとなった世の中で、これらの問いに敢えて向かうことは勇気のいることかもしれません。しかし、これだけバラバラなダイバーシティ観がある今こそ、原点に立ち返ってみる必要があるように感じます。今回(欧米の動向)と次回(日本国内の動向)の2回にわたって、ダイバーシティの根本を考えてみたいと思います。 DiversityInc Top 50の顔ぶれと評価軸 冒頭で触れたThe DiversityInc Top 50 List。上位にランクインしている企業はどんなところでしょうか。 1. Novartis Pharmaceuticals Corporation(米国の製薬会社) 2. Sodexo(フランスの食品メーカー) 3. EY(世界的な会計事務所) 4. Kaiser Permanente(米国の医療法人) 5. PricewaterhouseCoopers(世界的な会計事務所) 6. MasterCard Worldwide(世界的なカード決済企業) 7. Procter & Gamble(世界的な消費財メーカー) 8. Prudential Financial(米国の生命保険会社) 9. Johnson & Johnson(世界的な消費財・医薬品メーカー) 10. AT&T(米国の通信会社) 11. Deloitte(世界的な会計事務所) 12. Accenture(米国のITコンサルティング会社) 13. Abbott(米国の製薬会社) 14. Merck & Co(米国の製薬会社) 15. Cummins(米国のディーゼルエンジンメーカー) 16. Marriott International(世界的なホテルチェーン) 17. Wells Fargo(米国の商業銀行) 18. Cox Communications(米国の通信会社) 19. Aetna(米国の医療保険会社) 20. General Mills(米国の食品メーカー) 上位には欧米のグローバル企業が多く登場しています。このDiversityIncのランキング、自主的に参加を表明した企業だけが対象となるため、不参加企業はそもそもランキングには出てきません。日本企業は50位までには1社もありませんが、これはまだ参加していない企業が多いからかもしれません。一方、欧米の主要企業の多くはこのランキングに自主的に参加している様子が窺え、彼らがこのランキングを重視していることがわかります。 では、ランキングはどのように付けられているのでしょうか。評価軸は全部4つあります。 1. 人材登用:人種、民族、性別、年齢を公平に扱った採用等 2. 人材開発:人種、民族、性別、年齢を平等に扱ったトレーニング、働きやすさ整備、昇進等 3. トップの関与:経営陣の制度整備意欲、説明責任、経営陣自身の多様化等 4. サプライヤーの多様化:サプライヤー選定での多様化考慮、サプライヤートレーニング等 興味深いのは、日本ではダイバーシティというテーマで取り上げられる対象が「女性」に限定されることが多いのに対し、このランキングではLGBTを含む「性別」を始め、人種、民族、年齢なども取り上げられている点。そして、サプライヤーにまで影響力を及ぼすことが期待されている点です。欧米でのダイバーシティは、日本でのダイバーシティに比べて幅広い人たちに対する社会的包摂を要求しています。そして、欧米企業は、この「要求の多い」ダイバーシティに対して熱心に向き合おうとしている印象を受けます。なぜここまでダイバーシティを推進したり、多様な属性の人たちに対して真剣に配慮したり、社会的包摂を強く求めたりするのでしょうか。 ダイバーシティは社会的正義のため? ダイバーシティは人権のために推進しなければならないという考え方があります。CSRレポーティングの標準ガイドラインとなっているGRI第4版(G4)にも、「ガバナンス組織の構成と従業員区分別の内訳(性別、年齢、マイノリティーグループその他の多様性指標別)」を報告するよう要求しています。また、ISO26000も「組織は、自らが関係する人々の多様性について肯定的かつ建設的な観点に立つことができる。組織は、人権に関連した側面だけでなく、多様な人的資源及び関係を全面的に構築することで価値が付加されるという意味で自らの業務にもたらされる利益をも考慮することができる。」と組織における多様性を推進しています。さらに、G4とISO26000に多様性に関する表記が盛り込まれた元である国際労働機関(ILO)の「雇用及び職業についての差別待遇に関する条約(111号条約)」は、前文で「フィラデルフィア宣言が、すべての人間は、人種、信条又は性にかかわりなく、自由及び尊厳並びに経済的保障及び機会均等の条件において、物質的福祉及び精神的発展を追求する権利をもつことを確認していることを考慮し」と、ダイバーシティ尊重は人権であると定義しています。(ちなみに、日本は同条約をまだ批准してはいません。)ダイバーシティ推進の活動家は、このようにダイバーシティ擁護はそもそも社会的正義であり、義務であるという見方をする傾向があります。 一方、経営の舵を握る経営陣は、社会的正義というだけではものごとを進めづらく、何か実利があって欲しいと考えているのが実情です。不快に思われる方もいるかもしれませんが、人がなぜルールを守ろうとするのかについては「法と経済学」という分野で研究されており、行為主体はルールを順守する実利がなければ、ルールを守ろうとしないという実証結果も出ています。そこで、企業はダイバーシティを推進するにあたり、「実利」を検討することになります。冒頭のNavartis社は、ダイバーシティを推進することで、会議での議論のレベルを上げること説明しています。では、企業にとってダイバーシティを推進することの実利とは一体何なのでしょうか? ダイバーシティの推進で株価は上がる? (出所:経済産業省経済産業政策局経済社会政策室資料) 検討されているダイバーシティの実利に、ダイバーシティを推進すると株価や投資リターンが上がるというものがあります。上記は、今年6月に経済産業省の会議で使われた資料です。この資料では、女性の役員比率が高いほどROEやEBITが高い(図の左上)、女性の活躍促進している企業ほど株式市場全体よりリターンが大きい(図の左下)、ワークライフバランスに取り組むと生産性が高い(図の右側)と示されています。論点は女性に関するダイバーシティに限られていますが、この資料は女性登用と株価との相関関係を示してくれています。しかし反論もあります。女性登用と株価との相関関係は、必ずしも女性を登用すると株価が上がるという因果関係を示しているわけではなく、株価や生産性が高くゆとりのある企業だからこそ女性登用アクションを取れるのだ、という見解です。因果関係を立証することは相関関係を立証するより遥かに困難ため、どちらの因果関係が正しいのかは未だはっきりとはしていません。性別、国籍、民族などのダイバーシティについても同様に、欧米の企業も因果関係の立証に現在取り組んでいる最中です。株価だけでなく、多様な従業員が多様な商品ニーズを吸い上げることによる売上高の増加やマーケットシェアの拡大という効果についても、確固たるデータはまだ存在していないと言われています。 ご注意頂きたいのは、ここでお伝えしようとしていることは、ダイバーシティの推進は株価や生産性、マーケットシェアを上げるかどうかはまだ確かではないということです。ダイバーシティを推進しても株価は上がらないと言っているわけではありません。株価は上がるかもしれないし、株価は下がるかもしれないし、株価には何も影響を与えないかもしれない。まだ関係が客観的にはよくわかっていないということです。未知の分野ですので、ダイバーシティの推進は株価を押し上げると信じ推進する企業は、それはそれでひとつの戦略であり、素晴らしいと思います。冒頭のNorartis社の事例では、会議の多様な意見は顧客により近い存在になると信じ、ランキングトップに君臨しています。何を信じ、何を立証しようとするかは、まさに経営者のビジョン、手腕であり、未知なものだからという理由で否定する類のものではありません。 ダイバーシティの推進は労働力の確保 では、ダイバーシティの推進が株価や生産性、マーケットシェアに与える影響が不確かな中、どうして多くの欧米企業はダイバーシティの推進に取り組んでいるのでしょうか。その背景には、「事業価値が上がるからダイバーシティを推進する」という日本人が考えるような概念だけでなく、もっと根本的に「ダイバーシティを尊重しないと事業が成立しない」という彼ら特有の事情があります。それは、事業活動を営む上で必要となる労働力を確保するためには、自ずと多様な人種、民族、性別の人を採用・登用しなければいけないという事情です。 例えば、エネルギー米大手パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック・カンパニー(Pacific Gas and Electric Company)の多様性担当副社長(Vice President, Chief Diversity Officer)William H. Harper氏は以前講演の中で、「アメリカでは、『多様性』というと、すぐに人種や民族のことを意味します。どうすれば、人種や民族の違う従業員同士が、オープンで互いを尊重する風土を作っていけるのか、これは企業の利益向上のために非常に重要です。」と語っています。多様な人種や民族が住むアメリカでは、必要なスキルやマインドを持つ人材を採用しようとすると、自ずと様々な人種、民族の人々を組織の中に包摂することになります。そして、ダイバーシティとは多様な構成となっているチーム・組織に、いかに働きやすい環境を与えていけるかということを意味しています。 欧米企業は2つの意味で多様な世界に直面しています。ひとつは国内の視点。すでに社会全体に大きな多様性が存在しており、その中から能力・パフォーマンスを基に獲得したい人材を確保していく結果、組織内部も同様に多様になります。もうひとつは国外の視点。欧米企業はすでにグローバル企業として自国だけでなく世界各国で事業活動を営んでいるところが多く、それが企業グループ全体の中に多様な人種、民族を包摂することにつながります。欧米のグローバル企業は、世界中でより優秀な人材を確保しようとする結果、本部組織ですら多様性を認めなければならないという必要性に直面しており、優秀な人材が確保し続けられるかどうかが世界市場での勝敗を喫するファクターとなっています。また、欧米の小売、運輸、医療サービスなどローカル企業は、サービス提供をするための多くの労働力を必要としており、ダイバーシティを推進しなければ、退職者が続出し、サービス提供が継続できないという状況下にあります。結果的に、ダイバーシティの推進は「やったほうがいい」という性格のものというより、「やらなければならない」ものと位置づける土壌が存在しているのです。 ダイバーシティと能力主義の関係 このように整理してくると、ダイバーシティに対する日本と欧米の大きな環境の違いが理解できてきます。例えば、日本ではダイバーシティ推進に対する否定的な意見として「女性ばかりを優遇するのは公平ではない」「がむしゃらに働くのは企業文化の一つであり多様性の許容は企業文化の毀損だ」「ダイバーシティを考慮してポストを考えるより、純粋に能力・パフォーマンスだけを見て考えるのが企業力向上の道筋だ」というものがあります。すなわち、能力主義とダイバーシティが対立概念として捉えられており、能力・パフォーマンス重視で採用・登用する結果、多様性のバランスは偏り、そのバランスを是正しようとすると公平さがなくなるという主張が生まれています。 一方、欧米では、ダイバーシティの推進と能力主義が同一のものとして捉えられています。すなわち、能力・パフォーマンスを重視した採用・登用を行うには、人種・民族・性別などの偏見をなくし、純粋に能力・パフォーマンスだけでジャッジすべきだという考え方です。今や様々な国籍・民族の人が同じ職場で仕事をするようになってきたアジア地域の都市圏でも、同様の考え方が普及してきています。 日本のダイバーシティはどうなるのか? 欧米ほどは社会全体が多様化しておらず、企業のグローバル化も進んでいない日本。その日本において、これまで欧米とはダイバーシティの受け止め方が大きく異なってきたことは、仕方のないことかもしれません。但し、少し先の日本の未来に視野を転ずると、ダイバーシティを軽視していられない時代が迫ってきています。次回、「ダイバーシティは本当に必要なのか?(下)〜日本のダイバーシティ新展開〜」では、今まさに日本のビジネス環境に起きている大きな変化を取り上げ、日本における今後のダイバーシティの姿を見ていきたいと思います。 文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治

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2014/09/14 体系的に学ぶ

【中国】国務院下部組織、「CSR格付」のためのルールを発表

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中国政府は、企業の「CSR格付」を開始する。中国国務院の下部組織である中国企業評価協会の劉伝倫・CSR評価委員会執行主任は6月17日、「中国企業CSR評価準則」を発表した。 劉伝倫は、発表会の中で、「中国企業CSR評価準則」策定に関わった専門家、企業及び今回の発表会に参加した企業代表や、メディアの方々に感謝を述べた後、中国企業CSR行動の格付取得手続きに関する規定を発表した。 第一ステップ CSR格付取得条件に達した企業から中国企業評価協会に申請書を提出。 第二ステップ 中国企業評価協会の指導に基づき関係書類を提出。 第三ステップ 申請書が受理された企業から詳細格付書類を提出。 第四ステップ 実地調査。35名の審査員の中から2名を審査対象の企業に派遣し、書類、音声資料を収集し、アンケートも実施。 第五ステップ 審査委員会より審査、実地調査した2名の審査員を含め、最低5名の審査員より、審査対象の企業を投票評価。 第六ステップ 技術委員より再審査。技術委員は審査過程が科学的、規範的、且つ「中国企業CSR評価準則」に則っていることを確認。 第七ステップ 最少3つの主要メディアより格付を各方面に開示。開示期間中に企業に問題が発覚した場合、場合により格付取消。 第八ステップ 企業に格付証書を授与。一年間有効で翌年に延長申請可、格付アップ申請可能。 第九ステップ 正式発表。最少3つの主要メディアで評価結果を発表。 第十ステップ 追跡調査。問題発覚企業及び格付未取得企業のデータベースを作成。 格付は、債権格付のグローバル・スタンダードと同様、AAA, AA, A, BBB, BB, B, Cの7段階評価。AAからBまでは+、−を付すこともできる。BBB以上がCSR適格企業となる。A以上を取得すると、A企業サークルに属することができ、中国企業評価協会の援助もとで相互交流が図られる。 その他、CSR評価委員会は、今後、フォーチュン500に模した「グローバル500企業の中国CSRランキング」「中国企業CSR500」「中国上場企業CSR500」を発表していく予定。「中国企業CSR500」では、中国企業だけでなく中国国内の外資系企業も対象となる。「中国上場企業CSR500」は、中国の一部上場企業だけでなく、シンガポール、ロンドン、アメリカなど海外で上場している中国企業も対象となる。 【機関サイト】中国企業評価協会

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【アメリカ】気候宣言 企業が政治家に対して気候変動への対応を要求

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Appleなど、アメリカ・カリフォルニア州を拠点にしている120社以上の企業は、気候変動がもたらすビジネスチャンスを掴むため、連邦議会議員と州議会議員に対して行動を要求する宣言「気候宣言」に署名した。他に署名した企業は、太陽光発電設備を提供するSolarCityやSungevity、バイオ燃料を手がけるSapphire Energy、エコハウスメーカーのKB Homeの他、温室効果ガス排出量削減に取り組むサンディエゴ国際空港なども名を連ねた。気候宣言は、サステナビリティーに関する総研であるCeresが仕掛け人。すでに、全米で800社が署名しており、その中には、GM、ユニリーバ―、GAP、eBayなど錚々たる企業が参加している。今回、カリフォルニア州の企業が多数参加したことで、署名宣言の政治力は大きく増す形となった。カリフォルニア州は、2013年に大規模の干ばつ被害に直面し、またAB32という気候変動に関する州法をいち早く整備するなど、環境に対する意識が非常に高い。同州は再生エネルギーの開発において、2012年も太陽光発電産業で43,700人以上の雇用(アメリカにおける同産業の雇3分の1に当たる)を、風力発電において7,000人以上の雇用を生むなど、再生可能エネルギーの分野でアメリカ合衆国を牽引している。2013年には、屋上太陽光パネルの設置量が1000MWから2000MWへと倍増。州政府が強力に推し進めるエネルギー効率プログラムの影響もあり、経済活動が活発な州でありながら、人口一人当りのエネルギー消費量は全米48位と極めて少ない。今回、署名に及んだカリフォルニア州の企業は、カリフォルニア州のエコ推進姿勢を評価し、再生可能エネルギー関連事業が大きく発展する土壌ができたことを誇りに感じてる。いずれの企業も、再生可能エネルギーが大きな収益事業になると信じ、連邦政府に対しても大きな変革と後押しを求めている。環境に対する意識が薄い思われているアメリカだが、営利企業からエコ推進の狼煙が上がっている。

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