【レポーティング】法令、基準、ガイドライン、ガイダンスの違い

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 サステナビリティ関連で頻繁に登場する「基準(Standard)」「ガイドライン(Guideline)」「ガイダンス(Guidance)」などの言葉。実はそれぞれの言葉には、意味の違いがあります。おさらいしていきましょう。 法令(Law)  違いを知るために、まずは「法令」からおさえていきましょう。日本で法令とは、「法律」と「命令」を併せたものを指します。国会で成立したものが「法律」、「法律」に基づき行政機関が制定するものが「命令」です。「命令」には種類があり、力の強いものの順に、内閣が制定する「政令」、各省が制定する「省令」、地方自治体が制定する「条例」などに分けられます。  日本では通常、法律は政令と省令とともにワンセットで定められています。法律では大枠を定め、政令で細部を定め、省令でより細部を定めるという構造になっています。実務では、法律は「本法」、政令は「施行令」、省令は「施行規則」という呼ばれています。労働基準法を例に挙げると、労働基準法が本法、そして、内閣が「労働基準法施行令」を閣議で定め、厚生労働大臣が「労働基準法施行規則」を定めています。そのため、労働基準法の法令を知るためには、労働基準法を読むだけでは足りず、労働基準法施行令と労働基準法施行規則を読む必要があります。  海外各国でもほぼ同様の法体系が整備されていますが、違いもあります。例えば、連邦制を採用している国々では、連邦法と州法があります。連邦法と州法の範囲や権限は各国の憲法で定められていることが多く、一般的には連邦法が州法より強い権限を持ちます。すなわち、連邦法に反する州法は無効となるということです。無効判定は通常は裁判所により判断されます。  法令と似たものに「条約」があります。条約は、国家間や、国家と国際機関の間で締結されるルールですが、法令とは異なります。まず、条約を締結したことがそのまま国内で強制力を持つかどうかという問題があります。これを「直接適用可能性」と言います。この直接適用可能性問題については、日本でも海外でも、国際法学者や裁判所の中でも見解が分かれることが多く、はっきりしていません。そのため、条約で定められた内容が堅実に国内で運用されるために、国会が条約の内容を国内法として制定することが望まれています。  EUの法律である「EU法」は、さらに複雑になります。通常、EU(欧州連合)は国際機関として理解されていますが、一つの疑似国家として運用されている側面もあります。そのため、EU法は、条約なのか国内法なのかという理解の難しさがあります。結論として、EU法は条約と国内法の間の存在と言うことができます。EU法には2種類あり、規則(Regulation)、指令(Directive)という名称が付けられています。EU規則は、EUが制定した後、加盟国が国内法を制定しなくとも直接強制力を伴います。つまり国内法として側面を持ちます。一方、EU指令は、EUが制定した後、加盟国が国内法を制定して初めて強制力を持ちます。つまり条約として側面を持ちます。EU法を制定する際に、EU規則とするかEU指令とするかは、立法府である欧州連合(EU)理事会と欧州議会が、立法手続きの中で決定します。 基準(Standard)  「基準」とは、法令ではないものの、最低限満たすべき義務的ルールのことです。すなわち「基準を満たす」という言葉があるように、基準で定められた事項を遵守しなければ、基準に違反している、または基準を取得できないということになります。  基準は、政府が定めるもの、国際機関が定めるもの、NGOが定めるものなど、非常に多くの種類があります。例えば、環境省が定める「水質汚濁に係る環境基準」には、遵守すべき様々な事項が定められています。日本では政府が定める基準は、法令に基づく形で定められていることが基本であり、そのため、法令という形式ではないものの、法令と同様の強制力を持つのが通常です。  国際的に有名な「基準(Standard)」策定機関には、国際標準化機構(ISO)があります。国際標準化機構の英語名は、International Organization for Standardizationで、「Standard」が用いられていますが、日本語名では「標準」という公式訳になっています。また、ISOは業界の様々な基準を定めていますが、ISOが定める個々の基準は、「規格」や「国際規格」と日本では呼ばれています。ISOの基準を取得するには、ISOが定める基準を満たし、さらに第三者による認証を得る必要があります。しかしながら、ISOが定める規格の中には、ISO26000(社会的責任のガイダンス規格)のように、基準ではなく、あとで述べる「ガイダンス」としているものも混在しており、話をややこしくしています。  同様に、昨年制定されたGRIの「GRIスタンダード」にも、Standardという言葉が用いられています。GRIスタンダードには、必須事項と推奨事項の2つが定められており、GRIスタンダードを参照するためには「必須事項」があることを強調するために、Standardが用いられたと言われています。しかし、GRIスタンダードは現状、一般的なISOとは異なり第三者認証を伴うものではないため、「GRIスタンダードを取得する」という言い方はしません。このあたりも話が複雑になっています。さらに、次に説明する「ガイドライン」という用語が広く使われるようになった結果、基準も含めて広義の「ガイドライン」と呼ばれることも多くあります。 ガイドライン(Guideline)  「ガイドライン」とは、自主的に遵守することが推奨されるルールです。日本ではガイドラインの日本語直訳「指針」や「行動規範」と呼ばれることもあります。基準との違いは、義務か推奨かという違いにあります。但し、「ガイドライン」という言葉が普及するに従い、用語の混乱も発生しており、ガイドラインと言いつつ、基準としての運用を要求するものもあるため注意が必要です。また、海外でもガイドラインではなく、フレームワークや原則(プリンシプル)等、他の呼び方をする場合もあります。例えば、IIRC(国際統合報告委員会)が定める「国際統合報告フレームワーク」は、フレームワーク(Framework)という名称が使われています。ガイドライン、フレームワーク、プリンシプルの違いについては、ほぼニュアンスの問題となってきますが、より少数の基本的な考え方に絞ったものは「原則」、もう少し言葉数を増やしてあるべき形の全体像を示したものは「フレームワーク」、より細かく内容を定めたものは「ガイドライン」という使い方がなされているように感じます。  似た言葉に「イニシアチブ(Initiative)」もあります。イニシアチブとは、特定の理念や目的を共有する自主的な共同体や活動のことを指します。各イニシアチブは、その理念や目的を実現に向けて、参画者に対するルールを定めることが一般的であり、そこで定められるルールが「ガイドライン」となります。より踏み込んで必須事項を定める場合は「基準」にもなります。  また「行動規範(Code of Conduct)」という言葉もあります。行動規範は、もともと倫理、社会的責任等の概念から派生してきたもので、組織が自主的に遵守する規範事項のことを指します。しかし、今では、企業などが社内規程として定めるだけでなく、業界団体等もひとつの組織として「行動規範」を制定することも増えてきました。その点においては、行動規範と原則、行動原則とガイドラインは近いものと言えるでしょう。 ガイダンス(Guidance)  「ガイダンス」は、日本語では「手引き」とも呼ばれます。ガイダンスは、法令や基準、ガイドラインを遵守する上で、より細かい解釈方法や行動すべき内容をまとめたものです。ですので、ガイダンスは通常、法令のためのガイダンス、ガイドラインのガイダンスのように、他の規定を補足、補完するための文書として策定することが多いです。  しかし、ガイダンスとガイドラインの違いがよくわからなくなるケースもあります。例えば、前述のISO26000(社会的責任のガイダンス規格)は、ガイダンスという名称が付いていますが、特定のガイドラインについてのガイダンスという位置づけではないため、ISO26000をガイドラインと呼んだとしても特段おかしくないように思います。

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2017/02/07 体系的に学ぶ

【アメリカ】シリコンバレー・スタートアップ企業、サステナビリティ取組の課題多い。CSE調査

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 CSR関連研修・コンサルティングサービス提供の米Center for Sustainability and Excellence(CSE)は11月17日、シリコンバレー企業100社のサステナビリティ実施状況を調査したレポート「Sustainability Trends in Silicon Valley」を発表した。これまでもシリコンバレーのスタートアップや有名企業がサステナビリティを推進しているかどうかを論じるレポートは存在していたが、CSEのレポートはシリコンバレーに拠点を置く企業がどのようにサステナビリティに取り組んでいるかを体系的に調査した点が特徴。  CSEは中小企業から、従業員千人から10万人以上の巨大企業まで100社について調査を実施。Adobe、AMD、Apple、Cisco、Dolby、eBay、Facebook、FICO、Google、Intel、Intuit、PayPal、Oracle、SunPower、Tesla、Twitter、Zyngaなどの有名企業も含まれている。対象企業はIT業界だけではなく、自動車、ヘルスケア、金融、通信、再生エネルギー、エンターテイメント業界も含まれ、各企業のサステナビリティへの取組概要や、それらが他企業、業界のロールモデルになり得るかについてまとめられている。  レポートでは企業ごとの調査結果を踏まえた上で、特に重点的な取組がなれている分野や、サステナビリティ分野の専門家を積極的に雇用している企業の特徴などについて分析した。調査によれば、対象企業の61%がサステナビリティの専門家を配置しているが、その割合は大企業に高い。一方で活動報告の面では大幅な改善余地があり、29%の企業しかサステナビリティ報告書を発行していない。多くの企業は取組内容について抽象的で耳当たりのよい表現だけをホームページ上に記載しているという。  CSEはサステナビリティの分野を、コミュニティ、環境、従業員、倫理、サプライチェーンとフィランソロピーの5つに分類。対象企業のうち5分野全てで取組の実施が確認されたのは、Adobe、オラクル、シスコ、グーグル、HP、eBay、セールスフォースなど21社に留まった。レポートで発表されたランキングでは、 Adobe アプライド・マテリアルズ シスコ eBay グーグル HP インテル インテル・セキュリティ Intuit  先進的な取組が多いアップルについては、5分野のうち、環境、倫理、サプライチェーンでは高い評価ではあったが、コミュニティ、従業員の分野での取組が実施されていないと判断され、評価が伸びなかった。その他にも、資金力がない中小企業の大半は、5分野のうち1から2分野での取組しか実施していないという判断となった。  また、95%の企業が倫理的な企業ガバナンスを実践していると認識しているもわかった。シリコンバレー企業の企業倫理については、消費者や市民の間でも懐疑的な見方が多く、企業自身の認識と世間の認識に大きなギャップがあることもレポートの中で指摘された。 【参考ページ】CSE Announces Surprising Findings for Corporate Sustainability In Silicon Valley

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private 【レポーティング】サステナビリティ(CSR)報告ガイドラインを主導するグローバル機関

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(図)サステナビリティ報告ガイドライン カオスマップ。Sustainable Japan作成。 複雑化するサステナビリティ(CSR)ガイドライン  サステナビリティ報告やCSR報告を担当する方々からよく受ける質問があります。「一体、どのガイドラインを参照すれば良いのか」。実はこの種類の問いは非常に回答に窮します。もちろん、有名なガイドラインはあります。例えばGRI、サステナビリティ報告についての包括的なガイドラインと言っても過言ではなく、先進国・新興国問わず世界中で参照されています。しかしながら、当サイトSustainable Japanでは日々GRI以外の多の多くのガイドラインについてもご紹介をしています。ISOが定めたISO26001、温室効果ガス算出方法で有名なガイドラインのCDP、紛争鉱物報告ガイドラインを制定しているcfsi、財務情報と非財務情報の統合を試みる<IR>などなど。これらのガイドラインを全体として公式に統括する機関は今のところ存在していません。それぞれの機関はお互いに連携をしつつも、独立した動きを見せ発展してきています。こうした体系的に整理されずにルールやガイドラインが増殖していく動きは、中央政府の省庁が一元的にルールを管理する傾向の強い日本にはあまり馴染みのない状態です。整理されないルール増殖というのは悲観すべきなのかもしれませんが、それだけ今サステナビリティ報告や非財務情報報告の領域は急速に発展してきていることの証左でもあります。産業革命やIT革命の際に数多の技術が一度に勃興してきたように、サステナビリティや企業情報開示の分野も今まさに革命期にあると言うことができるでしょう。正直、この領域の専門家でない限り、全ての動きに日々目を向けていくのは非現実的です。ですので、今回は、いまこうしてますます複雑化していくサステナビリティ報告ガイドラインの状況を俯瞰的にまとめてお伝えしていきます。 GRI 〜サステナビリティ報告ガイドラインの中心的存在〜  GRIとは (more…)

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2015/04/28 体系的に学ぶ

【戦略】CSRからCSVへ? 〜CSV、CSR、サステナビリティ、CR、SRの違い〜

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マイケル・ポーター教授が火を付けた"CSV" 2011年にハーバード大学のマイケル・ポーター教授が、ハーバード・ビジネス・レビュー誌で発表した論文 "Creating Shared Value"。それ以降、日本でもCSVという言葉が多用されるようになりました。CSVを説明するにあたり、ポーター教授は論文の冒頭で、 Shared value is not social responsibility, philanthropy, or even sustainability, but a new way to achieve economic success. It is not on the margin of what companies do but at the center. と言及。「CSVは、社会的責任でもなく、慈善活動でもなく、サステナビリティでさえなく、経済的な成功を達成するための新たな道である」という表現から、CSVと既存のCSRやサステナビリティとを対立概念として置こうという意図が伺えます。 (出所:Michael Porter "Creating Shared Value" HBRをもとにSustainable Japan作成) ポーター教授の定義によると、CSRは、旧来的な慈善活動であり、外部の圧力によって渋々やらなければならない類のもの。一方CSVは、企業が競合優位性を発揮していくための自発的な価値創造の取り組み。ポーター教授は、大きなトレンドとして、今や企業はCSRからCSVへとシフトしてきていると説きます。その結果、日本国内でも「これからはCSRではなく、CSVだ」「本業と一体化したCSR」「守りのCSRから攻めのCSR」というような言い方が多くされるようになりました。今年12月10日に発売されたハーバード・ビジネス・レビュー日本版でも"CSV経営"というタイトルで特集が組まれています。 では、今後、CSRやサステナビリティという言葉の出現頻度は少なくなっていくのでしょうか。海外の様子を見ていると、そんなことはなさそうです。CSRの分野は、日本よりも欧米のほうが進展していると言われますが、日本で昨今CSVという言葉が非常に多用される一方で、欧米ではさほどCSVという言葉は使われてもいません。では、欧米はポーター教授のいう旧来型のCSRが依然として注目されているのかというと、そうでもありません。では、この単語の利用頻度の違いはどこから来るのかというと、それは単純に単語の定義が違うというだけの話なのです。 単語の使われ方の整理 CSRと同類の単語には、他にも、CR(Corporate Responsibility:企業の責任)、SR(Social Responsibility:社会的責任)があります。それぞれ、現在でも欧米では多く使われている言葉ですし、同様に、CSRやサステナビリティという単語も現在でも一般的に使われています。結論から先に言ってしまいますと、欧米では、CSR、サステナビリティ、CR、SRは、日本で現在認識されているCSVとほぼ同じ意味で使われており、明確に違いを言うことは極めて難しい状況です。では、なぜ似た意味の単語がここまで乱立してしまったのか。背景とともに、それぞれの単語を解説していきたいと思います。 Corporate Social Responsibility (CSR) 今回取り上げる、CSR、サステナビリティ、CR、SR、CSVの中で、CSRが最も早くから使われており、世界で最も普及している単語です。CSRという用語が市民権を得てきた1990年代は、欧米でも「CSR=慈善活動」という捉え方が一般的でした。しかし、その後、CSRの単語の意味は欧米で大きく変化していきます。先日、「【レポーティング】統合報告による企業情報開示の変革 〜武田薬品工業社の成功事例〜」でも紹介したとおり、2000年代にはCSR第二世代の考え方「CSR=リスク管理」という概念が芽生え、そして2010年代にはCSR第三世代「CSR=競合優位性の源泉」と考えられるようになりました。結果、第三世代のCSRの概念は、ポーター教授の言うCSVとほぼイコールであり、欧米のビジネス界には、ポーター教授はあまりにも時代遅れなCSRの定義を持ちだしているという見方もあるぐらいです。 ポーター教授の言うCSVを「CSR」という言葉で表現している代表的な機関はEUです。非財務情報の開示を積極的に推進しているEUは、"Corporate Social Responsibility (CSR)"という名称でアジェンダ設定しています。ですので、EU諸国の大半は、CSVのことを、引き続きCSRという言葉で表現しています。 Sustainability (サステナビリティ) ポーター教授は、「サステナビリティ」も旧来型CSRのひとつとして捉えており、CSVに取って代わられるというような表現をしていますが、これも欧米の実態とは大きくかけ離れています。サステナビリティを多用している国は米国です。単純にサステナビリティと言われたり、コーポレート・サステナビリティと言われたりしますが、意味は同じです。米国でも以前はCSRという言葉が最も多く使われていたのですが、CSRという単語が第一世代のCSRのイメージを強く想起してしまうため、それとは違う新たな用語として「サステナビリティ」が2000年代以降使われてきました。結果、アメリカ企業の大半はCSR報告書のことを「サステナビリティ報告書」と呼んでいます。このように、米国では「CSV=サステナビリティ」なのです。 世界の経済大国米国でサステナビリティという言葉が多用されるようになったことに呼応して、GRIもIIRCもSASBもサステナビリティという言葉を好んで使う傾向にあります。その結果、アメリカの影響を受け、世界中の多くの国で「サステナビリティ」という言葉が用いられるようになってきました。このトレンドに倣って、当サイトでもサステナビリティという言葉を常用しています。 Corporate Responsibility (CR) CSRに非常に似た言葉にCR (Corporate Responsibility)があります。CRという用語をよく使う機関はイギリス。イギリスもかつてはCSRという単語が最も普及してました。しかしながら、かつてのアメリカと同様、「CSR=慈善活動」となってしまっているイメージを破壊するため、新たにCRという言葉が考案されました。現在イギリスでは今回整理する5つの単語の中でCRが最も多く使われており、イギリスではCSR報告書は、「CR報告書」と呼ばれています。この背景には、イギリス政府自身がCRという言葉を使っていることにもありそうです。イギリスもCSV的な考え方の最先端を行く国ですが、政府が発表するドキュメントではCRが用いられています。 また、イギリスではCorporate Citizenshipという言葉もよく使われますが、これも同じ意味です。 Social Responsibility (SR) CSRからCorporateがなくなったのがSRです。SRという言葉が大々的に使われているのが、ISO26000(CSR基準)です。ISO26000では、CSRの標準化にあたり、企業だけでなく、いかなる団体にも参照してもらえるようにしようという発想が生まれ、Corporateの文字がなくなりました。Social Responsibilityという単語は、ISO26000の歴史がまだ浅いからか、他ではあまり使われていません。 Creating Shared Value (CSV) そしてCSV。CSVという単語が広く普及してきているのは世界で日本だけです。代わりにアメリカはサステナビリティという言葉を生み出しましたし、イギリスはCRを生み出しました。ですので、海外に行って「これからはCSRではなくCSVだ」と言っても正直あまり通じませんし、ポーター教授の論文も日本ほどは影響力はないようです。それは、ポーター教授が欧米で不人気ということではなく、上記でも書きましたが、ポーター教授があまりにも古いCSRの概念を持ちだしてたからなのではないかと感じています。しかしそれは、ポーター教授の主張が間違っていることは意味せず、繰り返しになるが、ポーター教授の視点は、アメリカではサステナビリティ、イギリスではCR、そしてEUではCSRという言葉を用いて、しっかり世界に根付き始めています。 文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治

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2014/12/16 体系的に学ぶ

【戦略】欧米CSRの最前線 〜Sustainable Brands 2014参加レポート〜

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世界の先進企業のCSR・サステナビリティマネジメント事例が共有されるカンファンレンス、Sustainable Brands。毎年、世界約10都市で開催されており、私も今年10月に開催されたアメリカ・ボストン、11月に開催されたイギリス・ロンドンの会に参加してきました。カンファレンスは通常、2日間にわたる各企業のプレゼンテーションと、別日程1日で催される少人数のワークショップで構成。30社ほどの企業がプレゼンテーションを行い、会場にはコーポレート・サステナビリティ分野の関係者300人ほどが集います。欧米では今、何がホットな話題となっているのか。ボストン、ロンドンの2回分のイベントをダイジェストでご紹介します。 Sustainable Brands New Metrics '14 in Boston Sustainable Brands New Metricsは、サステナビリティ分野の中でも「測定」「データ管理」「定量マネジメント」「レポーティング」というMetrics(尺度・測定)にスポットを当てた特別イベント。今年からマサチューセッツ工科大学(MIT)のスローン経営大学院のサポートを得てパワーアップしました。 環境・社会分野のデータ収集 欧米先進企業の特徴は、環境・社会に対するアウトプットを本業の成果指標の中に組み込んできているということです。データ収集の点でも様々な進化を遂げてきています。従来、データ計測が進んできた環境分野に対し、遅れが指摘されてきたのがソーシャル分野。ここにきて、NPOやIT企業が中心となりソーシャル分野のデータ測定インフラが整備されつつあります。 フェアトレード認証の民間団体Fair Trade USAは、フェアトレードの実施状況に関する情報を、一次産品の製造現場に従事する生産者自身から収集する体制を構築。フェアトレードの履行を確実にするとともに、生産者の生活の改善度合いを測定する手法を実現しました。オーガニック茶ブランドで全米一の売上を誇るHonest Tea社は、Fair Trade USAからの認証を獲得することで、自社製品のブランドを確実にするとともに、社会に対する正のインパクトをKPIとして測る運用を開始しています。 米国のITスタートアップであるSourceMap社は、製品のサプライチェーンを可視化して把握できるウェブツールをリリース、紛争鉱物などサプライチェーン上の課題に対する状況把握が進むことが期待されています。 オランダと米国に本拠地を置くサステナビリティ・コンサルティング企業大手のPRè Sustainability社は、商品開発の分野で社会問題へのインパクトを測定していくためのガイドライン、"Handbook for Product Social Impact Assessment"を最近リリース。すでに欧米を代表する企業であるAkzoNobel, BASF, BMW, L'Oréal, Marks&Spencer, Philips等が同社のコンサルティングのもとでガイドラインを本業の事業管理に取り入れています。 一方、環境分野のデータ測定も高度化しています。IT世界大手のHP社は、生物多様性の分野で存在感を発揮する国際NGOのConservation Internationalと提携し、ビッグデータマネジメントを環境測定分野に応用するプロジェクトをスタート。プロジェクトでは、世界17ヶ所の熱帯雨林で275種の生物を常時モニタリングするデータ測定インフラを構築し、190万枚の画像や400万種類の環境データを含む合計3テラバイトの常時データ測定を実現。実社会の複雑なデータを統合して分析・予測できるツールとしては世界に類をみない規模と精度だと言います。このプロジェクトはHPが掲げる環境への貢献だけでなく、HP社自身のR&Dとしても価値を発揮しているとのことです。 データの報告 データ報告の分野での注目は、やはり統合報告<IR>、そして米国で浸透しつつあるSASBの動きです。<IR>に関する企業報告では、<IR>ガイドライン作成にも加わったNovo NordiskやSAPがプレゼンテーションを担当し、同社においてはすでに<IR>がCXOレベルの経営サイクルの中心に据えられており、これなしでは経営管理の議論が成立し得ない次元まで来ているという共有がありました。一方、多くの企業が抱える課題、<IR>が曖昧なガイドラインでしかなく何を作ればいいのかわからない、については、「曖昧なものになってしまったことには、議論に参加していた我々にも責任があり、申し訳ないと感じてる。他社への範を示すためにも、弊社内で統合報告のあり方を進化させ、産業界をリードしていく責任を果たしたい。」と反省と抱負を吐露していました。また、財務・環境・社会という膨大なデータをグループ各社から収集するという難題をどう克服しているのかについては、「環境・社会に関するデータは、従来各部署から予算データを報告してもらっていたフローをそのまま踏襲している。報告ツールは、ある部門からはエクセルだったり、ある部門からはERPだったりと、柔軟に対応している。社会・環境の社内報告のために特別なツールを導入してはいない。」という回答でした。 SASBについては、企業だけでなく、金融業界からの参加者からも注目が集まっていました(SASBについては「【レポーティング】SASB(米国サステナビリティ会計基準審議会)を徹底解説」で詳しく紹介しています)。 投資家からの発表セッションもありました。UBSやBloombergからのプレゼンテーションでは、投資家内でESG格付の重要性が年々増加していること、ESG考慮が企業の中長期的な成長と密接にリンクしているという内容が強調されていました。また、ESG格付が様々な団体によって設立されている中、業界全体を束ねる団体であるGISRからは、ESG格付自身の認証制度を整備しているという報告がありました。業界のネットワーク組織であるGISRには、金融業界からはUBS、ドイツ証券、モルガン・スタンレー、アセットマネジメント世界大手のBlackrock、情報大手のBloomberg、コンサルティング業界からは大手のCeresやSustainAbility、デロイト・トーマツ、事業会社からはP&G、マクドナルド、ボッシュ、民間団体からはGRI、SASB、CDP、BSR、Oxfamなどが参加しており、業界を牽引する知が結集しています。 事業へのデータ活用 収集してきたデータを、どのように商品開発に活かすのか。この問いに対する事例も紹介されていました。会場から大きな喝采を集めたのは、ホテル予約の世界大手TripAdvisor社。ホテル業界に対するグリーンホテル化(環境に配慮したホテル経営)への啓蒙という事例です。耳目を集めたポイントは「グリーンホテル化の取組は、当初は大きな事業になるとは考えもしなかった」というプロジェクト開始時点での内部事情です。社内からは「本当に宿泊客はグリーンホテルに泊まりたいと思っているのか?」と懐疑的な見方が噴出、さらに肝心のホテル業界自身からは「我々の経験上、グリーンホテル化は宿泊客増加に寄与しない。無駄な試みだ。」と大反対を受けたと言います。そんな逆風の中、TripAdvisorは、自分たちの企業理念の遂行のため、とりあえずスタートさせてみようという姿勢で、画面上のホテル検索をする際にグリーンホテル度合いで絞り込める機能を搭載します。結果として得られたのは、想定以上にこの絞り込み機能を使う人が多かったというデータ。このデータを武器に、TripAdvisorはホテルに対しグリーンホテルに関する情報開示を要求していきます。今やグリーンホテルの情報開示を渋るホテルから「御社のグリーンホテルへの取組のせいで自社の集客力が減ってきている。どうしてくれるのか?」という非難も浴びる程までに。そのような非難について同社は「だからグリーンホテル化が大事だと言っているのです。情報を開示してください。」と強気を貫いています。このグリーンホテル化を呼びかけられる力強さの背景には、TripAdvisor社の事業モデル自体が関係しているようです。TripAdvisor社のホテル予約サービスは、直接ホテルと契約しているのではなく、ExpediaやHotels.com等ホテル予約サイトのメタ価格比較サイトという形式をとっており、ホテルとは直接の利害関係はありません。ホテルはどの予約サイトを選ぼうとも、結果的にTripAdvisorの影響を受けることとなります。TripAdvisorはこのような自社の「立ち位置」を理解した上で、ホテル業界への強気の啓蒙を推進しているのです。 Sustainable Brands 2014 London CSR経営で注目を集めるイギリス。Sustainable Brandsは西欧地域でのカンファレンス実施国として以前からロンドンを会場とし、参加者はフランス、ドイツなどヨーロッパ各地から集まるイベントになっています。 サステナビリティと事業経営の一体化 ロンドン会場で目立ったのは、サステナビリティやCSRを「ついでにやるもの」ではなく、事業経営そのものに統合している企業事例の報告でした。前回のボストン会場でも報告を行った化学業界世界最大手の独BASFは、環境・社会ファクターをもとに事業や製品のポートフォリオの組換えまでを実施している事例を紹介していました。同社では、自社が定める環境・社会目標に対し製品の到達度を測り、Accelerator, Performer, Transitioner, Challengedの4段階に分類、Acceleratorの割合を増やして、Challengedの割合を減らすことに経営資源を集中させています。環境・社会を経営の中心に据えるBASFの考えの背景には、「社会・環境に寄与する商品ほど顧客に支持されていくはずだ」という根本的な思想があります。経済界の需要を先取りし、自社のブランドとポジショニングを際立たせる尺度として、社会・環境要素を大々的に取り入れているのです。 アルコール飲料世界大手のHeinekenは、同社のセンセーショナルなテレビCMを紹介していました。内容は、ダンスクラブを舞台とした実験について。いまいちなDJのもとではダンスクラブの客が盛り上がらず気晴らしにビールの購入数が増えるのに対し、優秀なDJの日には客がダンスに集中しビールの購入数が少なくて済む。この"Dance more, Drink less"というキャンペーンは、Heinekenにとってどんなメリットがあるのでしょうか。 一見、Heinekenの売上を傷つけかねないこのキャンペーン。なぜHeinekenの上級経営ボードは承認したのでしょうか。プレゼンターの説明は、「このキャンペーンにより短期的に売上は落ちるかもしれない。だが、長期的な視点に立つと、人々の幸福を最重要と考える同社の姿勢を顧客に示すことで、強い企業ブランドを構築できる」というものでした。会場からも"Heinekenはそこまでやるのか"という驚きの眼差しが集まっていました。 サーキュラーエコノミー ロンドンではサーキュラーエコノミーに対する取組事例も豊富に紹介されました。サーキュラーエコノミー(Circular Economy)とは、日本語にすると循環型経済。一見すると非営利団体の活動のように見えますが、企業自身の取組です。自社製品の素材の有効活用を進めていこうという経営戦略のことを指し、今年に入り、マッキンゼー・アンド・カンパニー社からも"Moving toward a circular economy"という提唱があり、製造業を中心に注目されている概念です。 サーキュラーエコノミーの推進については、複数の企業から発表がありました。アルミニウム総合メーカー世界大手のNovelisは、同社製品を顧客から回収し再利用していく比率を2015年までに80%に高めることを経営目標として掲げ、顧客からの資源回収及び再利用を活用した製造方式へ転換するための設備投資へと大きく舵を切っているとのこと。また、電子部品大手のPhilipsは、製品の「修理・商品の再利用・素材の再利用」を高めていくだけでなく、さらにサーキュラーエコノミーを徹底するために事業モデルを「製品販売からサービス提供へ」とシフトさせていると言います。具体的な事例としては、ニューヨークの駐車場のケースがあり、電球を売るのではなく、「灯り」というサービスを提供する契約を駐車場と交わすことで、より耐久性が高く廃棄が少ない電球を開発するインセンティブを同社内でも高めているとのことです。 社外からの圧力 サステナビリティ経営が推進される要因には、企業の自助努力だけではなく、社外からの圧力もあります。Greenpeaceは、近年「IT企業のクリーンエネルギー促進」をターゲットとし、FacebookやAmazonなどの電力消費量や再生可能エネルギーによる電力シフトを独自調査し、成績の悪いAmazonに対しネガティブキャンペーンを張っているという報告がありました。同団体は、ネガティブキャンペーンとして動画やパンフレットなどをインターネット上で拡散させ、さらにCEOに対してレターを送って直接改善を迫るということまで手がけています。 気候変動に対する警鐘とガイドライン作成で有名なCDPは、最近は水問題に大きな関心を寄せているようです。CDPは、水汚染によって工場が活動停止に追い込まれた事例などを取り上げ、企業のサプライチェーンにとって水問題が死活問題となっていると断言していました。 今後のSustainable Brands開催 次回以降のSustainable Brandsの開催予定は、来年3月にタイ・バンコク、4月にスペイン・バルセロナ、5月にトルコ・イスタンブール、6月にアメリカ・サンディエゴ、8月にブラジル・リオデジャネイロ、9月にアルゼンチン・ブエノスアイレス、10月にアメリカ・ボストン、12月にマレーシア・イスタンブールが計画されています。 文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治

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2014/11/13 体系的に学ぶ

【戦略】アジアCSRの最新事情 〜CSRアジアサミット2014参加レポート〜

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2014年9月16日、17日、アジア地域で大きなネットワークを持つCSRコンサルティング会社・CSRアジアが香港で年次イベント「CSRアジアサミット2014」を開催、10周年となる今回のイベントには、アジア各国から事業会社、投資銀行、コンサルティング会社、NGOなど600人を超える参加者がアジアの20以上の国から集まりました。イベントでは、基調講演のほか24のテーマセッションが開催、会場となった香港のシャングリラ・ホテルにはところ狭しと人が往来する姿がありました。Sustainable Japanも今回のイベントに参加してきましたので、そこで議論されていた内容や、参加者の関心事などを踏まえ、アジア地域におけるCSRの「今」をお届けしたいと思います。 イベントの主催者であるCSRアジア、香港にグローバル拠点を置くCSRのリサーチ・コンサルティング会社で、10年前に3人のオーストラリア人によって設立されました。10年前と言えば日本でもCSRという言葉が環境経営という側面から始まった時とほぼ同時期です。その後、CSRアジアは、アジア地域のローカル企業や欧米資本企業のCSR戦略の構築を手がけ、今では中国、マレーシア、シンガポール、タイ、インドネシア、イギリス、日本に拠点を拡大しています。 今回のイベントで、参加者の関心を大きく集めていたように見えたのは、「サプライチェーン対応」「CSVと測定」「統合報告・GRI」「ESG投資」です。 サプライチェーン対応 サプライチェーンや生産現場改善というテーマには、ローカル事業会社、特にグローバルソーシングと英語では呼ばれている製造受託企業の参加者が大きな関心を持っている感じでした。中国、東南アジア、南アジアの地域は、グローバルサプライチェーンの中に組み込まれているところが多く、欧米企業が課す環境・労働規制の現状や対応方法についての関心が高いのかもしれません。サプライチェーンのセッションでは、H&Mやリーバイス、そして日本からも富士ゼロックスがアジア地域における労働環境の改善を共有していました。興味深かったのは、参加者の年齢層です。サプライチェーンの参加者には、欧米やオーストラリアなどからのNGO関係者の参加も多かったのですが、アジアのローカル事業会社からは若手の参加も目立ちました。従業員3,000人を誇る香港のグローバルソーシング企業の20代後半の女性参加者がいたので話を聞いてみると、「最近は社内でのCSRに関する関心が高まってる。ここで学んだものを社内に持ち帰って、すぐに業務に活かしたい。」と話してくれました。「こんなに若いのに自分たちだけで参加してるんですか?返ったら報告書とか書くんですか?」日本人的なこんな質問をしてみると、「別に若いのに会社を代表してるなんて変なことじゃないですよ(笑)。報告書って何ですか?そんなものはありません。自分たちの業務でしっかり活かしていいけばいいんじゃないですか?」との回答。ちなみに、このイベントの参加費用は一人8万円以上と決して安くはないのですが、香港の会社が若手に大きな権限と責任を与えている様子を垣間見ることもできました。 CSVと測定 このテーマも、コミュニティ投資が進むアジア地域ならではの関心事かもしれません。イベントの基調講演の中で、コカコーラ財団の理事長はコカコーラグループが"Me, We, the World"というコンセプトを作成し、水、女性支援、教育機会への投資の3つを事業活動に影響を与える重要テーマとして定め、この分野に特化したコミュニティ投資と測定を行っていることを紹介していました。測定のセッションには、事業会社だけでなく、NGOからの参加者も多く、NGOの活動においても「アウトカム(活動がもたらした効果)」を重視していこうという姿勢を伺うことができました。NGOの参加者側においても、アジア地域で活動をしている欧米・オーストラリア人と、アジア人の間にはまだ状況や関心の違いがあるようで、欧米・オーストラリア人がCSV・測定・SROIという概念をかなりキャッチアップしているのに比べ、ローカルNGOを運営する中国人参加者からは「最貧層や災害援助など最前線で活動をしている私たちからしたら、実際に必要なのは資金だ。企業の事業活動には影響の少ない分野なのかもしれないこの最前線に対し、企業はもっと理解を示し、資金提供をして欲しい」と切羽詰まった意見も出ていました。 NGO絡みの話以外では、スタンダード・チャータード銀行が自社の事業活動そのものをSROIで評価しレポーティングしているというプレゼンテーションもありました。彼はもともとCSRやサステナビリティ畑ではなく、資本市場部門の出身者であり、最初は何を測定していくべきか悩んだといいますが、リーマンショックで銀行が社会から大きな非難を浴びたのを機に、「バンカーとして自分の仕事に誇りが持てなくなっていた。銀行が社会に産みだしているプラスの効果とマイナスの効果を純粋に知りたいという欲求が自然と生まれてきたし、社内からも声が高まってきた。」と、SROI測定に大きな拍車がかかったことを吐露してくれました。同社にとってSROIの測定は、すでに一過性のものから毎年の事業戦略構築の中に組み込まれており、グループ経営においてすでに無くてはならない存在になっていると言います。 統合報告・GRI 日本でも徐々に関心が高まっている統合報告やGRIのG4についても、アジア企業は同様に、もしくは日本企業以上に関心を寄せています。アジア企業のCSR部門にとって、目下一番の悩みどころは「マテリアリティ特定」と言っても過言ではないかもしれません。レポーティングのワークショップでは、コンサルタントからマテリアリティ特定の業務フローが紹介されましたが、会場からは「ステークホルダーのうち、重要なものと、重要でないものを分けることは、考えとしてはわかるが、現実にはそんなことはできない」「株主のうち、少数株主の意見は重要でないと位置づけるということなのか?」と現場の難しさも率直に飛び出していました。講師役を担当したオーストラリアのコンサルティング会社Helikonia社からは、「実際にはマテリアリティ特定はサイエンスというよりアートな世界。機械的にマテリアルな(重要な)ステークホルダーやイシューを特定する方程式は存在しない。エンゲージメントで声を集めても、経営陣の判断で優先順位が変わることもあるし、そのような政治的な要素も大きく働く。様々なコミュニケーションを通じて柔軟に対応していくしかないし、今年はこのテーマ、来年はこのテーマというように、順番に対象のステークホルダーを変えていくことも可能だ」と回答していました。一般的にマテリアリティは年々変わるものではないとも言われていますが、他社との関係を重んじるアジア地域特有の環境では、柔軟なマテリアリティ特定が模索されているようです。 ESG投資 資本市場でのESG考慮をテーマとしたセッションも多くの参加者を集めていました。セッションには、クレディ・スイス、HSBC、BNPパリバ、Robecoといった世界有数の投資銀行や投資顧問企業がプレゼンターを務め、経済的リターンを追求する上でも非財務情報(ESG)の果たす役割の大きさが認識されてきており、投資先選定の上でESGがスクリーニング要素として取り入れられてきたという説明が各社からありました。一方で、会場から「アジアのローカルの金融機関はとてもとてもそんなことを考えている様子はないと感じる。」というアジア人参加者からの意見に対し、主催者であるCSRアジアからも「今回のセッションにも本当はアジアの金融機関に参加してほしくて参加依頼に尽力した。だが結果的にはどこも受けてくれず、欧米の金融機関だけが揃う形となってしまったのは残念だった。欧米とアジアの金融機関の間にはまだまだ考え方の開きが大きい。」と嘆きの声がありました。 ------------------------------------------------ イベントに参加してみた総評として、アジアのローカル企業は、もちろん実行レベルには大きな差がありますが、CSRやサステナビリティに関する欧米の情報を熱心にキャッチアップしようとしていると感じました。実際に参加者は、主に英語メディアで欧米から流れてくる業界の専門用語を次々と口にしていました。Sustainable Japanでは、情報量の豊富な欧米のニュースを多く扱うことが従来どうしても多くなってしまっていたのですが、これからはアジア企業の取組も出来る限り取り上げていこうと考えています。

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2014/09/28 体系的に学ぶ

【アメリカ】拡大するEli Lillyのレポーティング・バウンダリー

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グローバル製薬会社のEli Lilly and Company(本社:アメリカ)は、サスティナビリティレポートを発表した。 本レポートには、同社が2012〜2013年にかけて実行してきたサスティナビリティについて記されている。主な成果として挙げられているのは、まず、2012年から2016年からにかけて、発展途上国での非伝染病対策に3千万ドルの寄付を公約。Eli Lilly and Companyが得意とする結核薬ノウハウを応用し、多剤耐性結核を減らすための医療機関トレーニングに対し3千万ドルの資金提供を公約。勤務時間に医療システムが未整備な国々で従業員がボランティア活動をすることを許可するプログラムを実施し600人が参加。環境に配慮した点としては2007年度に比べ水の使用量を37%減らし、温室ガスの排出量を17%減らした。 Eli Lillyのレポーティングの素晴らしさは他にもある。レポーティングのバウンダリー(Boundary)だ。GRIのガイドラインでは、開示内容の対象が、自社だけなのか、連結子会社まで含むのか、サプライヤーまで含むのかなどを明確にすることを推奨している。Eli Lillyの今回のレポートでは、ひとつひとつの開示データのバウンダリーを明らかにするところまではできていないが、概ね開示データは同社が事業活動をしている125カ国を含めるところまできている。 さらに、サプライヤーのセクションでは、いわゆる「原材料提供者」としてのサプライヤーだけでなく、オフィス、消耗品、サービスなどを提供している企業をすべてサプライヤーとして位置づけ、彼らに関与していく姿勢を見せている。バウンダリーの流れは、本国のみから各国、単体のみから連結グループ、自社のみからサプライヤーへと拡大してきている。このバウンダリーの拡大は、欧米企業が積極的に取り組んでいる。 【企業サイト】Eli Lilly and Company 【サスティナビリティレポート(PDF)】2012-13 Corporate Responsibility Report

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2014/02/10 最新ニュース

【レポーティング】GRI G4ガイドラインのポイントと変更点

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2000年の報告ガイドライン初版発行以来、世界のサステナビリティレポートをリードしてきたGlobal Reporting Initiative(GRI)。GRIは、サステナビリティレポートのガイドラインづくりを目的とする国連環境計画(UNEP)の公認協力機関として、オランダに本部を置くNGOです。GRIガイドラインは各国の代表者が集まって議論をして固められ、世界で最も普及しているものと言えます。日本では従来、環境報告書やCSR報告書を作成する上で、環境省が定めた環境報告ガイドラインを用いてきた企業が多くありました。ですが、2006年に第3版(G3ガイドライン)が、2011年に3月に第3版をアップデートした第3.1版(G3.1ガイドライン)が発行されてから、日本企業の多くもCSR報告書作成にあたりGRIのガイドラインを参照してきています。そして、2013年5月、そのガイドラインの最新版である第4版(G4ガイドライン)が公表され、内容が新しくなりました。GRIはG3またはG3.1ガイドラインに則ったサステナビリティレポートもしばらくは認めるものの、2015年までにG4ガイドラインに切り替えるよう求めています。また、新たにGRIのガイドラインを参照する企業に対しては、最初からG4ガイドラインを参照することを薦めています。G3.1ガイドラインを研究してきた企業にとっては、新たな対応を迫られることになりました。さてG4になって何が変わったのかのでしょうか。GRIガイドラインの概要とG3.1ガイドラインG4の内容に入る前に、そもそもGRIガイドラインの概要を説明しましょう。GRIガイドラインは企業の経済面、社会面及び環境面のトリプルボトムラインの観点で報告するという概念がその骨格にあります。「何を報告するか」と「どのように報告するか」の両方が定めらています。何を報告するかにあたり、G3.1ガイドラインでは、経済面、環境面、社会面(労働慣行、人権、社会、製品責任)の6項目について報告するポイントが細かく規定されていました。また、どのように報告するかでは、6項目を網羅的しつつ具体的な達成目標を定め、比較可能で経年変化がわかるような測定データを用いることが定められていました。そして、報告の最終段階において、報告者は"GRIアプリケーション・レベル"システムを通して、GRI報告枠組みを適用した自らのレベルをA, B, Cの3段階で宣言することとされていました。さらに、レポートを外部認証した場合には+マークを付け、A+, B+, C+と表記することができました。G4ガイドラインの内容G4ガイドラインがG3.1ガイドラインと最も大きく異なる点は、網羅性の部分です。G3.1では各項目について網羅的に開示することが求められていましたが、G4ではそれがなくなり、報告企業にとってより重要(Materiarity)となる分野を特定してその特定項目を深く報告すること、及びなぜその分野を特定項目として定めたのかの理由を開示することが求められています。背景には、レポートの読者にとって、その企業にとって大きな影響を与えるものを、よりわかりやすく、より正確に伝えるように向上させるというG4検討段階での大きな方針がありました。この変更に驚いている日本企業が実は少なくありません。日本企業にとってG3.1ガイドラインは「何を書かなければいけないか」が明確であったことで、作成しなければいけないゴールが決まっており、社内にも協力を求めることができました。しかし、G4ではまず経営に対してイシューを特定するところから始めなくてはいけなくなりました。柔軟性の多いG4は本質的にはより望ましい姿と言えますが、「あるべきフォーマット」がなくなったことが逆に日本企業を悩ませることになっているようです。その他G4での変更点としては、一般標準開示条項(必須項目)の中に、サプライチェーン、ガバナンス、倫理と誠実性の3つの項目が新たに追加され、特定標準開示項目(任意項目。重要項目を特定し開示する項目)の中の、温室効果ガス排出とエネルギー、腐敗防止と公共政策の2つの項目に修正が入りました。また、G3.1まであったアプリケーションレベルと外部認定の+マークが廃止され、新たに「中核 (Core)」と「包括 (Comprehensive)」の2つの準拠方法が設定されました。中核と包括の違いは開示する必要のある情報のレベルの差にあり、一般標準開示条項の項目でも中核より包括のほうが内容が多く、特定標準開示条項の項目では、中核がMateriarityを定めた項目で最低1つの指標を報告すればよいですが、包括では定めた項目のすべての指標を報告しなければいけません。ただ繰り返しですが、柔軟性を重視しているG4では、中核と包括のどちらを選ぶかは報告企業に任せれており、包括のほうが中核より良いということではありません。G4ガイドライン準拠に向けてのアドバイスG4ガイドラインになり、柔軟性が増したことは、基準が緩くなったということを意味しているわけではありません。そうではなく、サステナビリティレポートのレポートとしての性格がよりリアルになったと言えます。すなわち、レポートはあくまでレポートであって読者のために存在しているものです。レポートは決してサステナビリティ部署や企業が世間に誇るための成果発表の書類ではありません。G4ガイドラインの世界観においては、企業は、自らの社会・環境・経済的価値を向上させるサステナビリティ戦略は当然のこととして想定した上で、その中でも重要な要素を抜き出し読者に対してわかりやすく伝えるためにレポートを書くものとして位置づけられていると言えます。G4ガイドラインになり、企業としてのMaterialityを特定しなければならなくなったことで、サステナビリティ担当部門はより経営層との密なコミュニケーションが求められる時代になってきています。 文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治

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2014/02/03 体系的に学ぶ

【戦略】サステナビリティ(CSR)部門責任者の責任と役割

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日本のCSR部門の位置づけと役割 日本企業において、CSR部門は部格として存在しているところは少なく、一般的に部門の中の1グループとして設置されています。また、企業ごとにどの部門に属しているかは様々ですが、一定の傾向があります。 社長直下のCSR推進室または環境推進室として設置(臨時委員会的な位置づけ) 監査または内部統制担当部門の1チームとして設置(コンプライアンス重視) IRまたは広報担当部門の1チームとして設置(レポート作成重視) 経営企画室の1チームとして設置(社内での位置づけを確定するまでの措置) 人事部の1チームとして設置(従業員教育重視) 上記の5つのタイプを共通する日本企業のCSR組織体制の特徴として、CSR部門には専任の役員がおらず、大きな権限を与えられていないということが挙げられます。担当役員および担当部長は、主管部署のマネジメントが主な役割で、CSR部門は副次的に位置づけれていると言えます。また、社長直下のCSR推進室がCSR推進委員会をまとめる場合も、社長は会社全体の責任者として多忙であり、CSR部門を日常的にマネジメントすることはできず、年1回または半年1回の委員会でのアジェンダをとりまとめ、委員会開催後の伝達だけを時限的に担うケースが多いです。そのため、CSR担当の役員や部長はCSRに関する明確なミッションや具体的な数値目標にコミットしているケースは多くはありません。 海外でのサステナビリティ部門責任者の責任と役割 アメリカを中心とした海外でのサステナビリティ部門責任者の実態は、サステナビリティ情報サービス企業のGreenBizや、大手監査法人PwCがレポートとしてまとめています。(GreenBizレポート、PwCレポート) 組織構成 昨今、欧米企業ではサステナビリティ担当の責任者として、Chief Sustainable Officer(CSO), Vice President of Sustainability, Director of Sustainabilityという専任の上級職を置くケースが増えています。ご覧のように、役職の名称として、CSRを使うことは今日少なく、Sustainabilityが一般的に用いられています。CSOの社内のマネジメント階層の中の位置づけとしては、CEOポジションから2つ下、すなわち最高経営会議に参加するエグゼクティグに対してCSOがレポートするのが今日では大半です。中にはCSOがCEOに対して直接レポートをするCEO-1のクラスの場合もあります。 ミッション サステナビリティ部門の役割もここ数年で大きく変化してきています。以前は、環境部門もしくはコミュニティ部門のいずれかの事案のみを担当しているケースが多かったですが、現在は環境・コミュニティの双方を管掌することが一般的です。そして、CSOは、今日の責任として、 サステナビリティ戦略の立案 課題の分析と特定 各部門と従業員への働きかけ といった、全社規模のプランニングと導入・装着を挙げています。彼らは全社規模での改善ポイントと数値目標を定め、それを各部門と連携しながら(動かしながら)、その目標を達成することに責任を負っているようです。 また将来重要となる責任として、  社外パートナーとの関係構築 社内業務の継続的な改善 が挙げられています。ライフサイクルアセスメントやGHGモニタリング、CSR調達が進んでいる欧米では、今後、調達元や販売チャネルといった外部パートナー、さらには戦略とモニタリングをともに実行するための外部NPOパートナーとの協力という段階に入っていっているようです。 予算 サステナビリティ部門が独自予算を持つことも増えてきています。予算の使途として最も一般的なのは、エネルギー・水の消費量、GHG排出量、水使用量、廃棄物排出量のモニタリング・データ計測をするためのシステム導入です。それ以外でも外部のNPOパートナーに対して業務委託費を支払うケースも増えてきています。 サステナビリティ責任者の過去の経歴 サステナビリティ部門責任者の大学・大学院での専攻は、上位職になればなるほど、MBAなどマネジメント関連の割合が増えていきます。担当者のレベルでは、マネジメント専攻、エンジニア専攻、環境学専攻がほぼ同数となり、様々な専門分野の担当者が協力している様子が想像できます。また、サステナビリティ部門責任者・担当者の過去の職務経歴としては、過去に環境マネジメントを行っていた人が多少比較的多いですが、マーケティング、オフィス管理、製造管理、コンプライアンスなどバックグランドは様々です。サステナビリティのみのキャリアの人は2013年でも全体の10%にすぎません。また、転職が一般的な欧米であったとしてお、サステナビリティ部門責任者のうち社外からの採用者は約30%にとどまり、残りの70%は社内からの昇格または異動によって任じられています。サステナビリティは社内の各部署との連携、細かい業務理解が必要となることから、社内をよく知っていて社内からの信頼が厚い人がサステナビリティでの重責を担っているようです。 サステナビリティ業務の難しい所 サステナビリティ部門が抱える課題感としては、社内の他の優先案件に対して以下に最高経営会議の関心を勝ち取っていくかを上げる人が多くいます。全社規模のプロジェクトを動かす必要のあるサステナビリティのミッションでは、社内の上級ポジションの人からの支援が成否を左右しています。また、仕事をする上での心理的な辛さとしては、仕事の性質が社内の既存のやり方に踏み込んで改革を促さなければいけないものが多いため、「嫌われやすい」「忍耐力が必要」「強いパッションが必要」という人も多くいます。情熱を持ち、数値にも強く、社内からの信頼を得ていて、トップクラスの役員を動かす力を持たなければ仕事が務まらないサステナビリティ部門には、社内で多くの実績を積んできた優秀なベテランが配置されているようです。 文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治

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2014/02/02 体系的に学ぶ
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