【TED】マイケル・サンデル対マイケル・ポーター 〜社会正義とCSVとは〜

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 今回ご紹介するのは、ハーバード大学の教授で著書『これからの正義の話をしよう』でおなじみのマイケル・サンデル氏と、ハーバード・ビジネス・スクールの教授で、CSVの提唱や著書『競争の戦略』で有名なマイケル・ポーター氏の討論動画だ。  それぞれの主張は同日に開催されたTED「Why we shouldn’t trust markets with our civic life」(マイケル・サンデル氏) およびTED「Why business can be good at solving social problems」(マイケル・ポーター氏) で明らかになっており、世界を代表するマイケル同士の対談とあって注目を集めた。 両者の基本的な立場はこうである。 マイケル・サンデル氏  市場原理がいたるところに登場した結果、現代社会はもはや「市場社会」と化してしまっており、日常に現れる全てのものに値段が付く現状を憂慮すべきだという。  現在たとえば、それが裁判の公聴の整理券獲得のためであれ、テーマパークの順番待ちであれ、お金を払うことで自ら順番を待つ必要はなくなっている。刑務所ですらお金を払うことで部屋をアップグレードできるのだ。  そのような市場社会に我々が不安を感じる理由は以下の2つだとしている。 1.資産の有無による不平等が発生するから 2.市場原理を導入することで物事の本質が失われるから  まず(1)について、お金で手に入るものが贅沢品に限られれば不平等はさして問題でないものの、市場社会においてそれは保険や教育など豊かな生活に不可欠なものにまで顕在化してきている。すべてが自由市場化することは、文字通りお金がモノを言う社会を指し、市民生活に不安感を与えているという。  そして(2)とは、すべてのものに値段がつくことで、それぞれの事柄が持つ意味合いを変えかねないということである。具体的には、成績を向上させることを意図して、子供に「本を一冊読んだら$2」といったモチベーションを与えた場合、目的は成績向上ではなくお金になってしまい、本を読むという行為を完遂するために薄い本を読み出し、結果的に成績は伸びないという。つまり、このようにお金が介在することにより本来的な意味が失われてしまうということが日常生活に現れることを危惧しているというわけだ。 マイケル・ポーター氏  一方、ポーター氏はNGOや慈善活動が社会に与えることのできる規模の小ささに焦点を当て、資本を基に大規模改善を図ることのできる経済主体としての企業の在り方を提唱している。  現在、我々は温暖化や大気汚染など様々な社会問題を抱えている。それに対してNGOらが取り組んでいるが資本規模的に大きな成果を出せずにいるという。そこで同氏が着目したのが、企業の事業活動を通した社会問題解決である。今まで社会問題への取り組みというのは企業にとってコストであり、利益とトレード・オフの関係になる慈善活動としての位置づけに甘んじてきた。しかし、実はこれはトレード・オフでないだけでなく、社会問題に真剣に向き合うことで利益に繋がることがわかってきているという。たとえば労働環境を整え事故発生率を抑えるためにかけたコストは事故による補償や悪評といったコストより低く、これにより「劣悪な労働環境」という問題を解決するといった例がこれに当てはまる。  同氏はこれをCSVと呼び身を切る社会貢献とは別物として紹介している。 (詳細は『【戦略】CSRからCSVへ? 〜CSV、CSR、サステナビリティ、CR、SRの違い〜』へ) 経済的・社会的価値の創造主体としての“ビジネス”を打ちたて、NGOや政府と協力することこそ、これからの社会問題に対峙に必要だという。 両者の問題認識  市場経済の浸食を危惧するサンデル氏と、市場の可能性を標榜するポーター氏。一見すると両者は対立するように見えるが、実はそうではない。  本動画でサンデル氏が言明しているように、同氏が危惧しているのは市場原理が日常生活にまで入り込み、自由市場の下にすべての事柄に値段がつけられる社会であり、市場経済そのものはむしろ【ツール】として利用するべきだとしている。これはポーターが提唱するビジネスによる経済的・社会的価値創造を否定しているわけではない。  もちろんポーター氏が主張する“ビジネス”による社会問題解決とは、市場経済を利用したものであるため、それが市場社会にまで及んでいる場合はサンデル氏に非難されるべき対象になるといえよう。しかし、今回ポーター氏が提唱したCSVとは「日常のすべてのものに値段が付けられた社会」を条件に行われることではなく、社会問題を解決する【ツール】として企業活動という市場経済を利用しているに過ぎない。例えば、サンデル氏は、文化的・精神的なものにまで市場経済という得体のしれないものが一方的に「価格付け」することを大きく危惧している様子があるが、ポーター氏のCSVのもとでは、価格付けとはむしろステークホルダーとの関係性を通じて形成され、その中には社会的価値や環境的価値が含まれていくだけでなく、市民・地域社会の価値観もその中に包摂されていく。企業活動がモチベーションとするコストメリットとは、そのような多様な価値観の中で形成された「価格」によって行われていくため、サンデル氏の懸念は、ポーター氏のアイデアによってむしろ解消していくとも言える。  今回、両者の対談を経て、行き過ぎた市場経済は市民生活を苦しめ得るが、市場経済は上手く使うことで現代社会が抱える問題の解決に寄与し、市民生活の豊かさにも貢献することが改めて明らかになった。「正義とは何か」で著名なサンデル氏との対話によって、CSVの哲学もより磨き上げられたのはないだろうか。

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2015/03/18 事例を見る

【戦略】CSRからCSVへ? 〜CSV、CSR、サステナビリティ、CR、SRの違い〜

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マイケル・ポーター教授が火を付けた"CSV" 2011年にハーバード大学のマイケル・ポーター教授が、ハーバード・ビジネス・レビュー誌で発表した論文 "Creating Shared Value"。それ以降、日本でもCSVという言葉が多用されるようになりました。CSVを説明するにあたり、ポーター教授は論文の冒頭で、 Shared value is not social responsibility, philanthropy, or even sustainability, but a new way to achieve economic success. It is not on the margin of what companies do but at the center. と言及。「CSVは、社会的責任でもなく、慈善活動でもなく、サステナビリティでさえなく、経済的な成功を達成するための新たな道である」という表現から、CSVと既存のCSRやサステナビリティとを対立概念として置こうという意図が伺えます。 (出所:Michael Porter "Creating Shared Value" HBRをもとにSustainable Japan作成) ポーター教授の定義によると、CSRは、旧来的な慈善活動であり、外部の圧力によって渋々やらなければならない類のもの。一方CSVは、企業が競合優位性を発揮していくための自発的な価値創造の取り組み。ポーター教授は、大きなトレンドとして、今や企業はCSRからCSVへとシフトしてきていると説きます。その結果、日本国内でも「これからはCSRではなく、CSVだ」「本業と一体化したCSR」「守りのCSRから攻めのCSR」というような言い方が多くされるようになりました。今年12月10日に発売されたハーバード・ビジネス・レビュー日本版でも"CSV経営"というタイトルで特集が組まれています。 では、今後、CSRやサステナビリティという言葉の出現頻度は少なくなっていくのでしょうか。海外の様子を見ていると、そんなことはなさそうです。CSRの分野は、日本よりも欧米のほうが進展していると言われますが、日本で昨今CSVという言葉が非常に多用される一方で、欧米ではさほどCSVという言葉は使われてもいません。では、欧米はポーター教授のいう旧来型のCSRが依然として注目されているのかというと、そうでもありません。では、この単語の利用頻度の違いはどこから来るのかというと、それは単純に単語の定義が違うというだけの話なのです。 単語の使われ方の整理 CSRと同類の単語には、他にも、CR(Corporate Responsibility:企業の責任)、SR(Social Responsibility:社会的責任)があります。それぞれ、現在でも欧米では多く使われている言葉ですし、同様に、CSRやサステナビリティという単語も現在でも一般的に使われています。結論から先に言ってしまいますと、欧米では、CSR、サステナビリティ、CR、SRは、日本で現在認識されているCSVとほぼ同じ意味で使われており、明確に違いを言うことは極めて難しい状況です。では、なぜ似た意味の単語がここまで乱立してしまったのか。背景とともに、それぞれの単語を解説していきたいと思います。 Corporate Social Responsibility (CSR) 今回取り上げる、CSR、サステナビリティ、CR、SR、CSVの中で、CSRが最も早くから使われており、世界で最も普及している単語です。CSRという用語が市民権を得てきた1990年代は、欧米でも「CSR=慈善活動」という捉え方が一般的でした。しかし、その後、CSRの単語の意味は欧米で大きく変化していきます。先日、「【レポーティング】統合報告による企業情報開示の変革 〜武田薬品工業社の成功事例〜」でも紹介したとおり、2000年代にはCSR第二世代の考え方「CSR=リスク管理」という概念が芽生え、そして2010年代にはCSR第三世代「CSR=競合優位性の源泉」と考えられるようになりました。結果、第三世代のCSRの概念は、ポーター教授の言うCSVとほぼイコールであり、欧米のビジネス界には、ポーター教授はあまりにも時代遅れなCSRの定義を持ちだしているという見方もあるぐらいです。 ポーター教授の言うCSVを「CSR」という言葉で表現している代表的な機関はEUです。非財務情報の開示を積極的に推進しているEUは、"Corporate Social Responsibility (CSR)"という名称でアジェンダ設定しています。ですので、EU諸国の大半は、CSVのことを、引き続きCSRという言葉で表現しています。 Sustainability (サステナビリティ) ポーター教授は、「サステナビリティ」も旧来型CSRのひとつとして捉えており、CSVに取って代わられるというような表現をしていますが、これも欧米の実態とは大きくかけ離れています。サステナビリティを多用している国は米国です。単純にサステナビリティと言われたり、コーポレート・サステナビリティと言われたりしますが、意味は同じです。米国でも以前はCSRという言葉が最も多く使われていたのですが、CSRという単語が第一世代のCSRのイメージを強く想起してしまうため、それとは違う新たな用語として「サステナビリティ」が2000年代以降使われてきました。結果、アメリカ企業の大半はCSR報告書のことを「サステナビリティ報告書」と呼んでいます。このように、米国では「CSV=サステナビリティ」なのです。 世界の経済大国米国でサステナビリティという言葉が多用されるようになったことに呼応して、GRIもIIRCもSASBもサステナビリティという言葉を好んで使う傾向にあります。その結果、アメリカの影響を受け、世界中の多くの国で「サステナビリティ」という言葉が用いられるようになってきました。このトレンドに倣って、当サイトでもサステナビリティという言葉を常用しています。 Corporate Responsibility (CR) CSRに非常に似た言葉にCR (Corporate Responsibility)があります。CRという用語をよく使う機関はイギリス。イギリスもかつてはCSRという単語が最も普及してました。しかしながら、かつてのアメリカと同様、「CSR=慈善活動」となってしまっているイメージを破壊するため、新たにCRという言葉が考案されました。現在イギリスでは今回整理する5つの単語の中でCRが最も多く使われており、イギリスではCSR報告書は、「CR報告書」と呼ばれています。この背景には、イギリス政府自身がCRという言葉を使っていることにもありそうです。イギリスもCSV的な考え方の最先端を行く国ですが、政府が発表するドキュメントではCRが用いられています。 また、イギリスではCorporate Citizenshipという言葉もよく使われますが、これも同じ意味です。 Social Responsibility (SR) CSRからCorporateがなくなったのがSRです。SRという言葉が大々的に使われているのが、ISO26000(CSR基準)です。ISO26000では、CSRの標準化にあたり、企業だけでなく、いかなる団体にも参照してもらえるようにしようという発想が生まれ、Corporateの文字がなくなりました。Social Responsibilityという単語は、ISO26000の歴史がまだ浅いからか、他ではあまり使われていません。 Creating Shared Value (CSV) そしてCSV。CSVという単語が広く普及してきているのは世界で日本だけです。代わりにアメリカはサステナビリティという言葉を生み出しましたし、イギリスはCRを生み出しました。ですので、海外に行って「これからはCSRではなくCSVだ」と言っても正直あまり通じませんし、ポーター教授の論文も日本ほどは影響力はないようです。それは、ポーター教授が欧米で不人気ということではなく、上記でも書きましたが、ポーター教授があまりにも古いCSRの概念を持ちだしてたからなのではないかと感じています。しかしそれは、ポーター教授の主張が間違っていることは意味せず、繰り返しになるが、ポーター教授の視点は、アメリカではサステナビリティ、イギリスではCR、そしてEUではCSRという言葉を用いて、しっかり世界に根付き始めています。 文:サステナビリティ研究所所長 夫馬賢治

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2014/12/16 体系的に学ぶ
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