【インタビュー】小田急電鉄が国内鉄道会社初のグリーンボンド発行 〜事業地域密着型のIRと広報〜

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 関東の大手私鉄の一つ、小田急電鉄が2019年1月、国内鉄道会社初のグリーンボンド発行を決定した。発行額は100億円。年限は3年、利率は0.10%。愛称は「小田急ゆけむりグリーンボンド」で、個人投資家向け。主幹事は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券とみずほ証券。  グリーンボンドは、環境関連プロジェクトを資金使途とする債券なのだが、小田急電鉄は今回の調達資金を、車両の新造・リニューアル、複々線化事業、ホーム延伸・ホームドアの設置などの駅改修に使うという。これらのプロジェクトが、鉄道会社にとってどのような環境との関連性があるのか。CSR・広報部の須永文雄課長、財務部の石渡智也課長、財務部の阿部俊介氏に話を伺った。 (右)須永文雄 CSR・広報部課長 (中)石渡智也 財務部課長 (左)阿部俊介 財務部資金担当 今回のグリーンボンドの概要は? 石渡智也氏  当社グループは、運輸業をはじめとして、流通業・不動産業など、さまざまな分野で事業を展開しています。航空機や自動車に比べ二酸化炭素排出量や大気汚染物質の少ない鉄道は、気候変動対応として脚光を浴びるようになってきており、国際資本市場協会(ICMA)のグリーンボンド原則(GBP)でも、鉄道事業は「クリーン輸送(Clean Transportation)」としてグリーンボンド使途としての適格事業に位置付けられています。海外では鉄道事業に関するグリーンボンドの発行事例は多くあります。  さらに当社では、鉄道事業を運営する上でも、電力消費量を削減するため、消費電力削減効果のある車両の新造及び既存車両のリニューアルを以前から継続的に実施しています。今回のグリーンボンドについても、それらに調達資金の多くを充当する予定です。 車両の新造やリニューアルでどのような環境インパクトが見込めますか? 須永文雄氏  やや細かい話になりますが、今回資金使途とする車両の新造・リニューアルでは、通勤車両用の「1000形」、特急ロマンスカーとして使っている「EXE(30000形)」と「GSE(70000形)」の3タイプを対象とします。一般的に、鉄道車両は40年程度使用しますが、当社では、15年から20年経過を目途にリニューアルを実施し車両を長く使っています。リニューアルを行うのは、その間の技術進化により省エネルギー性能が向上することも理由の一つです。  例えば1000形通勤車両は、もともとは1988年に就役しました。その車両を2014年から順次リニューアルを実施し、従来型に比べ体積・重量ともに約80%小型軽量化された新型の「VVVFインバータ制御装置」に切り替えています。それにより消費電力を約40%も削減でき、二酸化炭素排出量も約40%削減できます。2018年9月時点で、196両ある1000形車両のうち、すでに50両がリニューアル済みで、残りの車両のリニューアルも進めています。  VVVFインバータ制御装置のVVVFとは、可変電圧可変周波数の英語の略でして、交流モーターの電圧と周波数を変化させ、電車の加速度をコントロールする装置です。新型のVVVFインバータでは、熱に強く、スイッチング損失の少ないフルSiC素子を採用したことで、車両のブレーキ時に発電する「回生ブレーキ」の効率が大きく向上し、消費電力を削減することが可能となりました。  同様に、特急ロマンスカーでも、2018年に就役したGSE(70000形)は、2005年就役のVSE(50000形)に比べ消費電力を約30%削減でき、1980年に就役したLSE(7000形)と比較すると、一編成あたり約80%も削減できます。今回、LSEの2編成をGSEに切り替えました。また、1996年就役の特急ロマンスカーのEXE(30000形)も、リニューアル後のEXEα(30000形)では消費電力と二酸化炭素排出量が約20%減ります。2018年9月時点で、リニューアル前のEXE(30000形)が50両、リニューアル後のEXEα(30000形)が20両という構成です。  他にも、全密閉式主電動機や低騒音コンプレッサー等を採用することで、走行時の騒音や振動を抑制することができます。  さらに今回の使途とは直接関係はありませんが、当社では車両の廃車・解体によって発生する廃棄物の金属は、可能な限りリサイクルしています。 残りの使途は? 石渡氏  輸送需要に対する改善策として以前から取り組んできた線路の複々線化工事が終わり、代々木上原~登戸間約11.7kmの複々線化が完成しました。これに伴い、2018年3月から新しいダイヤによる運行を開始し、輸送力の増強や所要時間の短縮、速達性の向上など抜本的な輸送サービスの改善を実現しました。鉄道輸送の効率化による消費電力の削減や、自動車から鉄道へのシフト効果などにより、二酸化炭素の排出量削減に貢献できるものと考えています。  また、さらなる輸送サービスの改善に向けて、代々木八幡駅と開成駅ではホーム延伸工事を、代々木八幡駅から梅ヶ丘駅までの6駅ではホームドア設置工事を実施します。ホーム延伸やホームドア設置は、乗客の安全性を向上できるとともに定常運行にも寄与するため、鉄道輸送の魅力を高めることにもつながります。 環境へのインパクトをどのように測定しますか? 石渡氏  調達資金は、グリーンボンド発行から約2年以内に支出することにしています。また、調達資金の全額が充当されるまで、当社ウェブサイトで毎年、資金充当状況と環境インパクトを報告します。  資金使途の中で、最も二酸化炭素排出量削減効果を可視化しやすい車両の新造及びリニューアルについては、輸送1km当たりの二酸化炭素排出削減量を中心に、騒音・振動の低減度合いを測定します。線路の複々線化やホーム延伸・ホームドア設置については、平均遅延時間や回数の改善効果、平均混雑率の改善効果や所要時間の短縮効果を公表する予定です。  これらの環境インパクトを勘案したセカンドオピニオンでは、Sustainalytics(サステイナリティクス)からは、グリーンボンド原則に対し「適合」との評価を、日本格付研究所(JCR)からもグリーン性評価で最も高い「g1」の評価を得ました。 資金使途の中にはすでに実施済のプロジェクトもありますね 石渡氏  はい。例えば、特急ロマンスカーGSE(70000形)の就役は2018年です。線路の複々線化も2018年3月に完了し、朝のラッシュピーク時における主要駅から新宿までの所要時間が最大10分程度短縮されました。  ICMAのグリーンボンド原則では、既存のプロジェクトのリファイナンスを使途とすることが認められています。またグリーンボンド原則では、リファイナンスについてはルックバック期間を明確にすることを求めていますが、今回のグリーンボンドでは、ルックバック期間を過去2年間と設定しました。今回、当社のグリーンプロジェクトのうち、すでに資金支出が完了している案件については、その一部を手元資金にて支払ってきました。そのため、当該案件によって減少した手元資金への充当についても、資金使途としております。 調達資金の分別管理の方法は? 石渡氏  調達資金の充当と管理は財務部が担当し、エクセル等のシステムによってプロジェクトへの充当状況を管理します。未充当資金については、充当までの間、現金または現金同等物として管理します。もし今後充当予定のプロジェクトが中止となった場合には、適格クライテリアに適合する新たなプロジェクトに充当します。 阿部俊介氏  JCRのグリーンボンド評価は、私が直接担当しましたが、調達資金管理の妥当性や透明性について、厳密なチェックがありました。当社の資金調達や設備投資の状況についてきちんとお伝えしたところ、資金管理面でも最も高い「m1」の評価を、グリーンボンド全体としても最上位である「Green 1」の評価をいただけました。   今回のグリーンボンドを個人投資家向けにした背景は? 石渡氏  今回のグリーンボンドは、当社としては82回目の無担保社債発行となりますが、個人投資家向けの社債発行には以前から力を入れており、今回債で37回目の発行となります。個人向け社債の発行を続けているのは、当社が小田急線沿線の社会や人々との一体感を大切にしているためです。そのため、社債だけでなく株式についても、証券会社にもご協力いただき、沿線を中心とした個人投資家の方々に、幅広くご購入いただきたいと考えております。  当社の個人の株主や社債購入者の方々には、心理面でも当社のファンになっていただきたいと考えております。ですので、より一層、当社の状況や取組内容を深く知っていただけるよう、駅貼りポスターやパンフレット等で積極的な広報を行っています。今回のグリーンボンド発行でも、当社の環境への取組を知っていただくだけでなく、ご自身の資金が当社のグリーンプロジェクトに充当されることで、当社の環境に配慮した事業の推進及び環境改善に寄与しているという点をご理解・ご実感いただければ幸いです。 小田急電鉄として環境面での次の行き先は? 須永氏  小田急電鉄本体の車両の省エネへの取組は、技術革新が進めば進むだけ改善の余地があると思いますし、小田急グループの他の鉄道会社やバス会社などでも、二酸化炭素排出量の抑制を図れる余地があるかもしれません。また、運輸業以外でも、不動産業でのグリーンビルディング推進は、今後の大きなテーマになってくると思います。  電力の電源面でも、2014年から世田谷区の喜多見電車基地内と周辺施設に太陽光発電パネル(発電容量590kW)を設置し、固定価格買取制度(FIT)を活用した売電事業を開始しました。さらに、12ヶ所の駅にも太陽光発電パネルを設置し、鉄道施設での自家消費をしています。 石渡氏  今回のグリーンボンド発行は、当初こそ財務部から話を切り出しましたが、CSR・広報部との深い連携のもとで進めることができました。正直申し上げて、以前の財務部は環境プロジェクトに対する理解が不足していた面は否めません。ですが、今回のプロジェクトを機にCSR・広報部との距離感が一気に近くなりました。 須永氏  CSR・広報部でも、これまでステークホルダーに向けたESG情報の発信には課題を感じていました。今回、グリーンボンドの発行を通じて、当社の考えやアクションを多くのステークホルダーに知っていただく良い機会になったと感じています。

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【インタビュー】MUFGが国内初の外貨建て公募型グリーンボンド発行 〜欧州基準を意識したフレームワーク設計〜

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 グリーンボンド市場で、また新たな日本初が登場した。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は11月27日、日本初の国内外貨建て公募グリーンボンド発行を発表。12月7日には、発行条件を決定し、発行額は1億2,000万米ドル(約136億円)、年限10年、利率4.127% と発表した。今回のグリーンボンドは、邦銀がグリーンボンドを国内発行するという点でも初。また同社としても国内での外貨建て公募社債発行は今回が初となる。事務主幹事は三菱UFJモルガン・スタンレー証券。  MUFGが国内でグリーンボンド発行は初だが、すでに海外では3回発行実績がある。初回発行は、2016年9月の米国での5億米ドル発行。2回目が2018年1月の欧州での5億ユーロ発行。3回目が同10月の欧州での5億ユーロ発行。そして4回目が今回だが、今年だけでも3回発行したことになる。日本の銀行としての史上初は、2014年10月に日本政策投資銀行(DBJ)が2.5億ユーロを欧州市場で発行だが、最近はメガバンクによる発行が増えてきている。三井住友フィナンシャルグループは、三井住友銀行発行のものも含めて過去2回、みずほフィナンシャルグループと三井住友信託銀行は過去1回ずつ発行しており、MUFGは邦銀の中で発行回数及び発行額でも最多。累積発行回数ではDBJの4回に追いついた。  MUFGが今回、国内で、しかも外貨建てでグリーンボンドを発行した背景には何があったのか。MUFG財務企画部CFO室資本政策グループの山田潤世氏と小林亮祐氏に話を伺った。  今回のグリーンボンドの概要は? 小林亮祐氏  当社はこれまでアメリカやヨーロッパでグリーンボンドを過去3回発行してきましたが、今回のグリーンボンドは、当社にとって国内での初めての発行となり、また当社が国内で外貨建て公募債を発行する第1号案件となります。  調達資金の使途は、三菱UFJ銀行を通じてのグリーンビルディング及び再生可能エネルギー案件への融資です。過去3回のグリーンボンド発行のうち、最初の2回は使途を再生可能エネルギーとしていましたが、前回の3回目からグリーンビルディングも対象に加えました。  当社のグリーンボンド発行に際しては、国際資本市場協会(ICMA)のグリーンボンド原則(GBP)及び環境省のグリーンボンド・ガイドラインに準拠した「MUFGグリーンボンド・フレームワーク」を策定しており、これに準ずる形で発行しています。  セカンドオピニオンは、Sustainalytics(サステイナリティクス)から取得し、国際資本市場協会(ICMA)のグリーンボンド原則(GBP)及び環境省のグリーンボンド・ガイドラインに適合しているとの評価を獲得しています。 MUFGグリーンボンド・フレームワークの内容は? 小林氏  資金使途については、グリーンビルディングと再生可能エネルギーのそれぞれで適格要件の基準を設定しています。グリーンビルディングでは、LEED、BREEAM、CASBEE、DBJグリーンビルディング認証のそれぞれで上位2ランクまで取得している物件のみが対象となります。さらに、適格不動産の中でも、当社のグループ企業である三菱UFJリサーチ&コンサティングが、JCR(日本格付研究所)の協力を受け開発した独自のJ-REITのESG評価制度で上位3ランクである「S」から「B+」までの高い評価を得たものに優先的に資金を充当します。  再生可能エネルギーでは、セクター観点では、太陽光、太陽熱、風力のみを適格案件とし、地熱、水力、バイオマス等は対象としません。また、再生可能エネルギープロジェクトには赤道原則(エクエーター原則)に基づくカテゴリー分類を実施し、カテゴリーC(リスクがない)またはカテゴリーB(リスクが小さい)に分類されたもののみを対象とします。カテゴリーA(リスクが大きい)は対象としません。  これらの適格要件のチェックと使途選定は、グリーンビルディングでは融資主体となる三菱UFJ銀行のソリューションプロダクツ部不動産ファイナンスグループのREITチームが、再生可能エネルギーでは同じくソリューションプロダクツ部のプロジェクト環境室が実施し、最終的にMUFGが判断します。  発行後の毎年のレポーティングでは、資金充当状況レポーティングと、グリーンボンドによるインパクトレポーティングの双方を実施します。資金充当状況レポーティングでは、不動産タイプ別及びグリーンビルディング認証プログラム別での資金充当状況を報告します。再生可能エネルギーでは、再生可能エネルギー・セクター別と、アジア・オセアニア、北米・中南米等の地域別での報告を行います。  インパクトレポーティングでは、グリーンビルディングと再生可能エネルギー双方で、二酸化炭素排出量削減効果を測定し開示。加えて、再生可能エネルギーでは発電量も測定し、開示します。 欧州の機関投資家に耐えられるよう工夫した点は? 小林氏  当社が過去に欧州でグリーンボンドを発行した際に、私自身も欧州の投資家に説明に行きました。やはり細かい内容にまで関心を持っているという印象を受けました。例えば、グリーンボンドの使途。日本のグリーンビルディング認証であるCASBEEやDBJグリーンビルディング認証は、欧米の機関投資家にはあまり知られていません。ですので、まず認証そのものの内容や基準等を説明し、グリーンボンドの使途として適切であることを丁寧に伝えました。レポーティングについても、二酸化炭素排出量削減効果の算出方法に関する計算式一つ一つにまで説明が求められることもありました。幸い、当社はフレームワーク策定時にかなり拘りましたので、欧州の投資家からも理解が得られましたが、そうでないと質問に窮する発行体もあると思います。  そうしたこともあり、MUFGグリーンボンド・フレームワークは非常に高い基準を設定しています。例えば、グリーンビルディングでは、他の発行体では各認証基準の上位3ランクまでを対象としているところもありますが、当社では上位2ランクまでと、非常に高い基準を課しています。  またレポーティングでも、資金充当状況レポーティングでは、CFOによるマネジメント・アサーションを表明するとともに、サステイナリティクスによるコンプライアンスレビューも取得します。さらに、インパクトレポーティングも毎年開示しています。 今回、外貨建て国内債のグリーンボンドを発行するに至った背景は? 小林氏  まず当社は、金融庁から、国際的な大手金融機関に課す健全性基準「総損失吸収力(TLAC)」の適応企業に指定されています。同規制基準を満たすべくTLAC適格のシニア債の発行を2016年より行っており、その全てが外貨建てとなっています。その背景は、当社グループの外貨建てバランスシートの強化にあります。2018年9月末時点で、当社グループの外貨貸出金は3,620億米ドル。一方、外貨顧客性預金はその6~7割に止まります。残る不足分を通貨スワップや社債・借入金、有担保調達等で支えております。外貨建てシニア債はTLAC規制を満たすと同時に、外貨のバランスシートを支える安定性の高い外貨調達手段でもあることから、これまで発行の強化を進めてきました。そして更なる調達手段の拡充を目的とし、今回の外貨建て国内債の発行に至ったというわけです。  また、当社初の国内発行を実施した背景は別のところにもあります。現在、米中貿易摩擦の悪化懸念等によりグローバルに金融市場が不安定な動きをする中で、欧米の社債市場でも、社債発行を見送るケースも散見されています。このような難しい局面でも起債を成功させるため、当社のクレジットをより高く評価して頂ける日本国内での発行は安定的に保有頂ける投資化層を増やす重要なオプションとなります。また、更に同社債をグリーンボンドとすることで、そうした安定的な投資家層をより多様化させることを狙いました。 山田潤世氏  海外発行との違いという点では、国内発行のほうが柔軟性が高いという観点もあります。例えば、発行手続きは全て日本語で可能ですし、各業務・事務についても時差を気にする必要もありません。金融市場が不安定で起債に厳しい局面では、国内発行による高い機動性が活きてきます。今回、当社が無事に起債できたことは、その点でとても大きいと思います。 国内外貨建て発行の特徴は? 小林氏  国内での円建て発行と外貨建て発行の大きな違いは、外貨建て決済では、ほふり(証券保管振替機構)でのDVP決済(証券の引渡しと代金の支払いを同時に行うことを条件づけた決済)がシステム化されていないため、購入者となる投資家に通常とは異なる決済フローをお願いしなければならない点です。そのため、国内での外貨建て発行ではこれまで私募債が中心でした。  今回当社としても初の国内外貨建て公募債の発行となりましたが、国内の投資家からも外貨建て債に対する高い需要が確認できました。また、市場全体でも、国内外貨建て公募債の発行は、野村総合研究所が2018年に史上初の発行をして以降、静岡県、そして当社が3番目の発行となります。今後は、当社としても国内での外貨建て公募債や国内での外貨建てグリーンボンド発行をリードしていきたいと思っています。 資金使途の一つである再生可能エネルギー市場をどのように見ていますか? 小林氏  当社では以前から再生可能エネルギー向け融資を積極的に実施しており、プロジェクトファイナンス等のアレンジ額でも世界トップです(図1)。リーマン・ショック後等に海外の大手銀行が再生可能エネルギーへの融資を少し控えた際に、その需要をうまく取り込む形で当社の融資額も伸びてきました。融資残高でも、過去4年間で年率平均9.1%で伸びています。  地域別では、北米・中南米が56%と多く、欧州・中近東が23%、アジア・オセアニアが21%。アジア・オセアニアのうち10%〜13%程度が日本国内のものです。セクター別では、風力が64%と多く、太陽光・太陽熱が31%。尚、バイオマス・水力・地熱の融資実績はありますが、グリーンボンドの資金使途とはしていません。  今後も特に海外では再生可能エネルギー市場は大きく成長していくと見ています。 図1 (出所)MUFG MUFGが石炭火力発電へのファイナンスを続けていることに否定的な見方もあります 小林氏  気候変動に対する関心の高まりの中、石炭火力発電についても厳しい見方が出てきていることは非常に理解しています。そのため、今年7月から適用を開始したMUFG環境・社会ポリシーフレームワークでは、石炭火力発電セクターはファイナンスに際して特に留意する事業と位置づけました。特に高効率ではない石炭火力発電方式については、原則ファイナンスしない方針としています。また高効率の案件でも、事業理由を確認しています。  海外の金融機関では石炭火力発電セクターへのファイナンスを一律禁止する「Flattery No」 の方針を定めているとこもありますが、総合的な判断のもと、当社では「Flattery No」とはしていません。  過去欧州でグリーンボンドを発行した際、石炭火力発電へのファイナンスについて欧米の投資家から指摘を受けたことも確かにありましたし、それを理由に当社のグリーンボンドを購入できないと言われた投資家も僅かにいました。ただ、だいたいの欧州の投資家には購入いただけましたので、ある程度はご理解をいただけたと思っています。 グリーンボンド発行の追加コストをどのように受け止めていますか? 小林氏  グリーンボンド発行では、セカンドオピニオンの取得コストだけでなく、当社のみならず主幹事証券会社のリソースも相応に必要となりますので、確かに追加コストはあります。しかし、それ以上のメリットを感じています。 山田氏  まず、足許の金融市場のように社債発行が厳しい環境下でも、グリーンボンドには旺盛な需要がありますので、社債の発行のそのものに大きなサポート材料となります。また、欧州にはグリーンボンドを専門とする“グリーン投資家”と言われる投資家も多く、彼らの旺盛な需要に対し、発行が追いついていない状況です。この様な環境下、グリーン投資家需要を取り込むことで発行価格を抑制出来るグリーニアム(greenium)の享受が可能と言われています。例えば数百億円規模の起債を行う際、利率を0.01%抑えられただけでも数千万の発行コスト削減効果があります。これだけでもグリーンボンドに関わる追加コストを十分回収できます。今回の発行時にも、実際に利率をタイトに抑えることができたと感じています。日本のグリーンボンドはまだまだ発展途上ですが、今後は欧州と同じような状態になっていくと見ています。 小林氏  さらに、グリーンボンド発行を機に、当社グループでも新たな事業領域が生まれてきています。三菱UFJ銀行では、グリーンビルディングや再生可能エネルギーへの融資という事業が成長してきましたし、さきほど紹介したように、三菱UFJリサーチ&コンサティングでは、J-REITのESG評価サービスも誕生しました。  初回発行時のコストと、2回目以降のコストでは、初回のフレームワーク作りをどこまできっちりやるかで、2回目以降のコストが変わってくると思います。当社では、初回発行時にフレームワーク作りハードル高く行い、IRも非常に丁寧に実施いましたので、2回目以降は非常にスムーズにいきました。

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【対談】ESG投資に注力する仏金融大手BNPパリバ 〜何が原動力となっているのか〜

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 フランスに本社を置く金融機関BNPパリバ。従業員数19万人以上、2017年度売上約432億ユーロ(約5.6兆円)、総資産1.96兆ユーロ(約254兆円)を誇る世界有数の金融機関です。創業は1848年。日本でよく知られている投資銀行としての顔だけでなく、フランス最大の商業銀行としても君臨。グループ全体には、投資運用部門、ウェルスマネジメント部門も抱え、現在世界70カ国以上で事業展開しています。  この世界有数の大手金融機関であるBNPパリバは近年、グループ全体を挙げてESG投資やサステナブルファイナンスに大幅にシフトしています。例えば、炭素回収・貯留(CCS)設備を設置しない石炭火力発電プロジェクトへのファイナンス(融資、株式・債券投資、アドバイザリーサービス等全て含む)を世界中で全面禁止。石炭火力発電を行う企業についても、石炭依存を減らす姿勢を示さない場合はコーポレート・ファイナンスも禁止。シェールガス、シェールオイル、オイルサンド関連プロジェクトへのファイナンスも禁止しています。一方、再生可能エネルギー分野へのファイナンスでは、2020年までに150億ユーロ(約2兆円)という目標を設定。また、年間の全融資額に占める国連持続可能な開発目標(SDGs)に資する融資割合についても15%という目標も定めており、「SDGsに資する」の定義も社会的弱者支援や自然保護の分野と厳密に定めています。  ESG投資やサステナブルファイナンスの潮流が世界的に拡大する中、BNPパリバはその波の先頭集団にいると言えます。一体、何がそこまでBNPパリバを駆り立てるのか。今回、BNPパリバ証券でチーフESGアナリストも務める中空麻奈・投資調査本部長、同社ESGアナリストの木畑大輔氏と、当社CEO夫馬賢治との対談が実現。真相を伺いました。 (中)中空 麻奈 BNPパリバ証券 投資調査本部長 チーフESGアナリスト/チーフクレジットアナリスト (左)木畑 大輔 BNPパリバ証券 投資調査本部ESGアナリスト (右)夫馬 賢治 ニューラル CEO 日本の状況 夫馬  BNPパリバのここ数年のESG投資の動きは、私も非常に注目しており、各地で実施している講演の中でも「BNPパリバは最近すごい」と紹介したりしています。ESG投資が浸透する欧州市場の中でも、BNPパリバは業界をリードしていると言っても過言ではない。ESGアナリストという立場から今、ESG市場をどう見ていますか? 中空氏  日本の金融市場でも、ESG投資の受け止め方は非常に様々です。銀行、生命保険、年金基金等、業態によっても取組内容が異なっています。有価証券への投資を行う部門では、会社全体としてESG投資を推進する方針となり、ESG投資をある意味仕方なくしているところが多いというのが、日本の実情です。また、投資ファンドを見ても、ESGを一部だけ取り入れて「ESG投資ファンド」と呼んでいるものから、100%ESG投資のファンドまでが、玉石混交の状態です。その意味で、日本の金融市場では、ESGの発想はまだまだ始まったばかり。積極的に取り入れているところと、そうでないところの差が非常に大きい。  一方、グローバル、特に欧州では、ESG投資の潮流は非常に強く、この流れは後戻りしないと考える人が多い。ESGの内容を的確に見極めて、アルファ(市場平均を上回るリターン)を得ることに力を入れてきています。ESG評価の高い企業は企業価値も高くなるということは、今の段階ではまだ証明しきれていませんが、長期的には証明されてくると思います。 夫馬  中空さんは長年、クレジット(債券)アナリストして活躍してこられ、2018年7月から新たにESGアナリストという役割も加わったわけですが、ESG投資において、株式と債券での状況の違いは感じますか? 中空氏  株式の分野では、ESGの分析からアップサイド(株価の上昇)をとる動きが先行して出てきました。一方、債券では状況が異なります。例えば、ESG評価の高い企業や機関の債券だけ集めても、信用リスクが低くなるため、利回りが小さくリターンがとれません。また、ESG評価の高い企業の債券に投資することは、リスクが相対的に少ないものに投資することになり、いわば保険を付与しているようなものととらえる考え方もできますが、コンセンサスを得た考え方はまだなく、現在発展途上の段階です。  グリーンボンドにしても、日本では現在、利回りが低く設定されているため、現場の債券運用者の間ではリターンが出しづらいと認識されています。同じ利回りであれば、グリーンでないものより、グリーンボンドを買おうという動機はありますが、グリーンボンドが広がるには、しっかりとしたリターンが得られることが重要となってきます。  このように、株式と債券の間で取り組みに温度差があり、取り組んでいる市場関係者の間でも温度差があるというのが日本の状況です。しかし、海外の情報が日本にも少しずつ入ってきており、また日本にも外資系金融機関が数多くあり海外資金が日本にも入ってきている他、海外の目線で日本企業を選別することも行われだしています。「日本は海外とは事情が違う」という言葉は通用しなくなってきています。 海外の状況 夫馬  ESG投資の話をすると「日本とは違って海外ではESG投資は大きく進んでいる」と話題が必ず出ます。実際私も言っています(笑)。中空さんは、海外でのESG投資状況をどのように捉えていますか? 中空氏  日本の機関投資家と話をしても、必ず「どうして欧州はそれほどESG投資に熱心なのか」という話題になります。それへの説明として、欧州には日本とは違う規制がある、宗教的な考え方の違いがある、と言う人もいますが、私はそれだけでなないと感じています。当社の欧州のアナリストに聞くと「(欧州の企業は)自分の会社がダイベストメント(株式売却)されるかもしれないというシナリオを意識している」と言います。すなわち、今後起こりうる変化の中で、自分たちが投資対象として選ばれなくなるという危機感を、事業会社が抱き始めているのです。  さらに、事業会社の中には、事業環境変化のプレッシャー、NGOからのプレッシャーなど、様々なプレッシャーを浴びています。そして、率先してサステナビリティの観点を強化し、積極的に統合報告書等でディスクロージャー(情報開示)を実施してきています。こうした発行体側の変化がESG投資の機運を盛り上げているとも言えます。 木畑氏  日本では、ESG評価機関側の課題もあると考えています。日本の機関投資家と話をすると「企業のESG評価はどのように行うものなのか?」という疑問の声が出ます。すでに市場には、ESG評価機関が実施したESGスコアが出回っていますが、評価各社によってスコアにばらつきがあります。また機関投資家は、ESG評価機関のスコアを使わずに、自身で評価を行うという道もありますが、そうすると評価のばらつきがさらに増幅し、資金を預けるアセットオーナーにとっては、評価手法がますますわかりづらいものになってしまいます。ESG評価機関の信頼性を高めるためには、公的機関が評価機関に対して許認可を与えるような仕組みがあってもいいかもしれません。 BNPパリバの考え方 夫馬  ESG投資に関する考え方は、日本でも海外でもばらつきが多い中、BNPパリバはグループ全体で全面的にESGにシフトしてきている。ジャン=ローラン・ボナフェCEOも、「銀行および金融業界は、低炭素経済の構築において最前線に立たねばなりません」「時間は差し迫っており、まもなく手遅れになるだろう」「我々は、経済を転換させる手段を一人一人が持てるよう、努力を集中すべきです」というメッセージを対外的にも発信している。その背景には、どのような企業としての思惑があるのでしょうか? 中空氏  欧州の投資銀行は、リーマンショックや欧州債務危機の影響を大きく受け、企業の競争力や収益力を改めて高めていくことが必要となりました。そうした状況において、BNPパリバは、以前からの得意分野であった環境金融と、フランス、ベルギー、イタリア、ルクセンブルクを中心としたリテール分野を競争力の柱として位置づけました。フランスでは、パリ協定が生まれ、金融機関に気候変動関連の情報開示を義務付けた仏エネルギー転換法173条もあり、この地理的アドバンテージを活かすという狙いもあります。  その方向性の中で行き着いたのが、ESG投資やサステナブルファイナンスの分野です。BNPパリバは、大規模なダイベストメントを発表していますが、縮小均衡を望んでいるわけではなく、新たな産業に資金を提供してくためのものです。 木畑氏  ESG投資は、とりわけE(環境)が先行して進んでいる面があります。BNPパリバでも、まずは環境面でのリスクを先んじて排除する戦略を採っており、今後はこれまで以上にS(社会)の領域に広げていく考えです。ですので、環境に関するダイベストメントはすでに始まっていますが、今後は社会に関してもより厳しい目が向けられていくのではないでしょうか。 EUのサステナブルファイナンス法制化の動き 夫馬  先ほど、木畑さんからESGデータやESG評価機関の信用性が課題というお話もありました。いまEUでは、サステナブルファイナンスの法制化の動きの中で、「サステナブル」や「グリーン」のEUとしての公式定義を定めにいこうとしています。日本でも同様の動きを望みますか? 中空氏  「サステナブル」や「グリーン」を政府が定めるということについては、市場関係者からは2つの見方が出ています。まず、どんなものでも規制は嫌だという意見。資本市場には、元々どんな規制でも忌避する傾向がありますし、またグリーンファイナンスについても定義を定めるのはまだ時期尚早との声もあります。もう一つの見方は、黎明期に不適切な金融商品が登場して損をする投資家が出てくると、グリーンファイナンスやESG投資そのものに悪いイメージがついてしまう。それを防ぐために規制は必要だという意見です。  欧州や米国では、様々なタイプの発行体が自ずと次々にグリーンボンドを発行している一方、日本では特定の発行体だけに偏っている状況です。私としては、規制を強化することが必ずしも良いとは思いませんが、日本でグリーンボンド市場を盛り上げるためには、制度的な整備も必要かもしれないと考えるようにもなりました。  グリーンやサステナブルを誰が判断するのか。グリーンだと思われていたものが後でブラウン(グリーンでない)と判断されたときに誰が責任をとるのか。そういうルールが整備されていけば、投資家は今よりも安心してグリーンやサステナブルな金融商品に投資しやすくなるでしょう。私個人としては、グリーンボンドが発行後にグリーンではないと判断されたときには、発行体が買い戻すコベナンツ(契約条項)を付けるべきだとも考えています。   フランスのグリーンボンド国債 夫馬  BNPパリバが本社を置くフランスでは、世界で2番目となるグリーンボンド国債が発行されました。海外の評論家の中には、グリーンボンド国債を発行することで、その国のグリーンボンド市場やESG投資市場を盛り上がると主張している人もいます。フランスも、年金基金や保険の間でESG投資は旺盛になってきていますが、その背景には政府のグリーンボンド国債発行があったと考えますか? 中空氏  あまりそうは思いません(笑)。むしろフランス政府グリーンボンド国債を発行するニュースが出たとき、私たちの間では「ようやく出るのか」という感じでした。それぐらい欧州では様々なタイプの発行体がグリーンボンドを発行しています。「ついに中央政府が」というよりも、「あぁ。やっと中央政府も出すのね」くらいの受け止め方でしたね。 ESGアナリストの役割は? 夫馬  世界中に配置されたESGアナリストはどのような役割を担っていくのですか? 中空氏  私たちはESGをビックデータ・ビジネスだと捉えています。ESGアナリストは、これから起きる事象をデータと結びつけて分析し、シナリオを紡ぎ出すことで、企業に新たな提案ができると考えています。ある事業がサステナブル(持続可能)ではないと判断された場合、ソリューションは2つあり、一つは事業領域を転換すること、もう一つはサステナビリティを損ねる要因を緩和することです。企業を向かうべき方向に導くことが、私たちの役割です。 木畑氏  データとシナリオという点では、サプライチェーンにも注目しています。サプライヤーや地域毎のリスクエクスポージャーを分析することで、事業の機会とリスクを提言できると考えています。 HFT(高頻度取引)とESG投資 夫馬  ESGはデータビジネスだという考え方は私も賛成です。それと同時に、金融ビジネスとデータと言うと、高速に超短期売買を繰り返すHFT(高頻度取引)の存在もあります。長期投資を希求するESG投資と超短期投資のHFTでは思想が真逆ですし、私も講演の際に会場からの質問で「金融機関はHFTを増やしていると聞く。本当に長期投資という考え方が浸透しているのか?」という疑問をぶつけられることがあります。この点、市場関係者の一人として中空さんはどのように見ていますか? 中空氏  現段階ではESG投資とHFTの両方が市場に存在しています。しかし、今後、ESG投資が普及し、短期的な情報に対する市場の反応が少なくなってくると、HFTの機会の源泉である「市場の歪み」が小さくなっていくと考えられます。現段階では長期投資家と超短期投資家の2種類が市場で売買をしているのですが、ESG投資が基底を担うようになっていくと思っています。

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【インタビュー】日本学生支援機構、国内社会的課題に対応の初のソーシャルボンド発行予定〜奨学金制度の状況〜

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 国の奨学金制度の実施機関として知られる独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)。1943年に創立された日本育英会(1953年に大日本育英会から名称変更)を前身とするJASSOは現在、貸与型と給付型の奨学金事業、留学生支援事業、学生生活支援事業の3つの事業を実施しています。  JASSOは2018年7月6日、貸与奨学金のうち利息付の奨学金「第二種奨学金」を使途とする財投機関債をソーシャルボンドとして9月に300億円発行すると発表しました。日本でのソーシャルボンドは、独立行政法人国際協力機構(JICA)による発行が先行していますが、国内の社会的課題に対応するソーシャルボンドは国内公募債としては初となります。  ソーシャルボンドとは、社会的課題の解決に資するプロジェクトの資金使途として発行される債券のことです。とりわけ、国際資本市場協会(ICMA)発行のソーシャルボンド原則(SBP)に準拠しているものが正式なソーシャルボンドとして国際的に認知されており、市場慣行としてSBPへの準拠を第三者が保証するセカンドオピニオンの取得も求められています。SBPは、低所得者層や社会的弱者に対する教育へのアクセス支援をソーシャルボンドに適格性のあるプロジェクトの一つと位置づけており、奨学金や低所得者向け教育ローンの原資をソーシャルボンドで調達するという動きは国際的にも広がっています。  日本では国内における社会的課題に対応するソーシャルボンド第1号、もちろん教育分野を使途とするソーシャルボンドとしても発行第1号となるJASSOの財務部に話を伺いました。 (中)皆川秀徳 財務部長 (左)有馬慶晋 財務部資金管理課長 (右)小松純子 財務部資金管理課課長補佐 はじめに日本学生支援機構の概要を教えてください 小松純子氏  まず、私からJASSOの活動についてご説明いたします。JASSOは日本学生支援機構法に基づき設置されている独立行政法人です。業務には、奨学金事業、留学生支援事業、学生生活支援事業の3つがあります。2018年度の予算は1兆838億円。そのうち奨学金事業は全体の98.1%を占める1兆628億円となっており、予算別では奨学金事業が非常に大きな割合を占めています。  奨学金制度には、無利息の「第一種奨学金」、利息付の「第二種奨学金」、2017年度から開始した給付奨学金の3つがあります。第一種奨学金は1943年度、大日本育英会の発足時にスタートした最も古くからあるものです。第二種奨学金は1984年度から開始し、短大、大学、大学院、高等専門学校の4・5年生、専修学校の専門課程に在学する幅広い学生・生徒を対象とし、第一種奨学金よりも緩やかな採用基準を設定しています。2004年度からは法科大学院生や海外留学希望者も対象となりました。一番新しい給付奨学金は、開始初年度の2017年度は対象者を2,800人としましたが、2018年度は2万人に増やし本格実施をスタートさせました。 日本の奨学金の状況はどのようになっていますか? 皆川秀徳氏  2016年度では、短大、大学、大学院、高等専門学校、専修学校専門課程の学生等のうち、2.7人に1人が、JASSOの貸与奨学金を利用しています。比率にすると37.7%と高く、日本最大の人材育成のインフラになっていると言っても過言ではない状況です。奨学金貸与者の割合は10年前の2006年度では27.1%でしたので、貸与割合は約1.4倍に増えていることになります。  JASSOの奨学金貸与割合が増えていることには2つの背景があると考えています。まず、日本の平均給与の減少です。平均給与は1997年の約470万円をピークに減少し、過去8年の間ではおよそ400万円から420万円の間を推移しています。  もう一つは、各大学の授業料や入学料の上昇で、1975年度には20万円ほどであった私立大学の初年度年間授業料は、今では90万円に近づいています。  実際に学生の収入状況を調査した統計によると、家庭からの支援の割合は大きく減少し、その分を奨学金によって補填しているという結果も出ています。 最近は少子化という話もありますね 皆川氏  確かに学生の総数自体は減ってきていますが、大学、短大等への進学率が高まったことで、JASSOの貸与奨学金が対象とする高等教育機関への進学者数にはそれほど大きな変動はありませんでした。このような状況の中、先ほどお話ししたような平均給与の低下などを背景として奨学金受給率は大きく伸びてきました。    JASSOでは拡大する奨学金需要に応えるため、日本育英会時代の1999年度に第二種奨学金を抜本的に拡充し、基準を満たす希望者全員に貸与できるよう制度の見直しを行いました。その後、第二種奨学金の貸与者数は大きく伸びましたが、最近では政府の方針の下、有利子の第二種奨学金から無利子の第一種奨学金への流れが加速しています。 今回のソーシャルボンドの概要と使途を教えてください。 皆川氏  今回発行予定のソーシャルボンドで調達した資金は全額、第二種奨学金に充当されます。第二種奨学金の財源は現在、国からの借入である財政融資資金、民間金融機関からの借入金、財投機関債という外部資金を主な財源としており、また奨学金貸与者からの返還金も重要な財源となっています。財投機関債の発行は日本育英会時代の2001年度から開始しました。  JASSOの財投機関債は、ここ数年は2年債を毎年1,200億円発行しております。そして今回9月に発行する第52回債(300億円)をソーシャルボンドとして発行することとしました。第53回債以降もセカンドオピニオンを取得する予定であり、今後発行するJASSOの財投機関債は全てソーシャルボンドとなります。第二種奨学金の事業は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)のうち、目標4「すべての人に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」の達成に貢献します。 一方でJASSOの奨学金事業は昨今、返還困難者に関する報道も多くありますが。 皆川氏  各種報道については、事実と異なるものも多く、JASSOのホームページでも解説しています。まず、JASSOの奨学金貸与者が増える中、実際には要返還債権に対する3ヶ月以上延滞となった債権の比率は下がってきています。第二種奨学金では、2012年度には3ヶ月以上の延滞債権の比率が4.8%あったのですが、2016年度には3.5%にまで減ってきています。第一種奨学金でも同様に比率の減少が見られます。 小松氏  延滞に陥らないようにする取組みとして、JASSOではコールセンターでの相談体制を強化し、返還者の状況を把握することに努めています。多くの方は約束どおり返還して頂いております。また、返還が困難な状況にある方に対しては、月々の返還額を減額して返還期間を延長する「減額返還制度」、一定期間返還を猶予する「返還期限猶予制度」をご案内し、状況に応じた返還計画の見直しを実施しています。それでも解決が難しい長期延滞者に対しては法的措置を実施することもありますが、その場合は裁判所において和解での協議を行い、返還計画を設計し直すことでの解決を図っています。 今回のソーシャルボンド発行に至った背景は? 有馬慶晋氏  JASSOの財投機関債は従前から社会性が非常に高いものです。私達もソーシャルボンドのことは以前から知ってはいたのですが、正直申しまして2年ほど前までは、追加のコストをかけてまでソーシャルボンドを発行することの効果は見えにくいなという考えでした。  しかし、最近債券を発行する中で、投資家から、しっかりと第三者から評価を取得し正式なソーシャルボンドとして発行してほしいというご意見をいただくようになりました。私達としても、自分たちだけの視点ではなく、第三者の目で事業を評価してもらう必要があるのではというタイミングでもありましたので、前向きに検討を始めました。  ESG投資の活発化に伴い、ソーシャルボンドというラベルを付けることで、JASSOの奨学金の社会貢献性を投資家に広く理解頂き、今後の安定発行に繋げていきたいという狙いもあります。国連責任投資原則(PRI)が2018年から、PRI署名機関に対し、運用資産の半分以上について責任投資アプローチを適用することをミニマム・リクワイアメント(履行義務)として設定したと聞き、今後ESG性の高い債券は投資需要が高まるだろうと考えました。欧州ではESG投資はスタンダードになってきています。今、債券をソーシャルボンドとして発行する効果は大きいと確信しています。 セカンドオピニオンの取得状況や結果はいかがでしたか? 皆川氏  ESG評価機関の選定では、企画競争入札を実施し、国際的なESG評価機関であるVigeo Eirisに依頼することとしました。選定の大きな理由は、資金使途となるプロジェクトだけでなく、JASSOの事業全般及びガバナンス体制も評価対象に含まれるという点でした。JASSOは、以前から社会的な事業を実施しているという感覚を持っていましたが、外部の目から見た場合にどのように映るのか、やや自信が持ちきれてはいないという面がありました。そこでソーシャルボンド発行を機に、全面的にJASSOを評価してもらおうと決めました。  セカンドオピニオンの詳細については、JASSOのホームページに掲載しておりますのでご参照いただければと思います。 セカンドオピニオンの取得過程で苦労したことはありましたか? 小松氏  Vigeo Eirisとの対応は、私を含めた資金管理課の職員で行いました。通常の財投機関債の発行であればほとんどの業務を財務部内で完結できますが、ソーシャルボンドとしてのセカンドオピニオンの取得では、実際に奨学金業務を担当している部門や機構の運営や人事を取りまとめる部門等に協力を求めなければいけないことがたくさん出てきました。ただ、これは良い効果もありました。日頃JASSO内では財投機関債についてあまり存在が知られていませんでしたが、他部署に直接説明する場を設けることで、ソーシャルボンドとは何か、セカンドオピニオンとは何かということを改めて職員に周知することができました。 皆川氏  私達があらためて自信を持てた点もありました。セカンドオピニオンに関する質問は、JASSOの中で日頃から重要視されているものが多く、非常に違和感のないものでした。外部の方の評価基準と、JASSO内での観点が一致していると確認でき、良い機会となりました。 調達資金管理やレポーティングの体制はいかがでしょうか? 小松氏  調達資金の管理については、債券投資家からの入金日を、第二種奨学金の貸与を受ける奨学生の口座に送金する日の2営業日前に設定しており、送金日に調達資金全額が奨学金として充当されるスキームとなっています。  レポーティングでは、JASSOは独立行政法人として、事業年度毎に業務実績等報告書を作成し、文部科学大臣に提出しています。その報告書の中で、ソーシャルボンドで調達した資金の充当状況でもある奨学金貸与事業の状況を報告することになりますので、追加的なレポーティング業務は特に発生しないと考えています。 ソーシャルボンドやグリーンボンドの国内市場をどのように見ていますか? 有馬氏  国内の社会的課題に対応するソーシャルボンドとしてはJASSOが発行第1号となる見込みです。今後もソーシャルボンドとして継続して発行していく考えです。次回は11月に300億円、その次は2019年2月に300億円を発行する予定です。 皆川氏  国内市場は欧米と比べるとまだ成熟途上にあると見ており、JASSOも今後の市場の拡大に貢献したいと考えています。世界銀行等の報告によると今後ESG投資需要はますます旺盛になっていきます。JASSOがソーシャルボンドを発行していくことが、高まるESG投資需要に対する一つの貢献となると考えています。また、グリーンボンドに比べソーシャルボンドは、まだ国内での発行量もそれほど多くはありません。JASSOがロールモデルとなれるように、しっかりとソーシャルボンドの発行を続けていきたいと思っています。 財務部資金管理課の方々 インタビューを終えて  環境プログラムを使途とするグリーンボンドに対し、社会プログラムを使途とするソーシャルボンドは比較的新しい金融商品です。日本の発行体としては、JASSOがJICA(国際協力機構)に続きソーシャルボンド発行2例目となります。JICAのソーシャルボンドは、発展途上国政府への有償資金協力が資金使途ですので、国内の社会課題を対象としたものではJASSOが初です。一方、海外では、教育、医療、低所得者向けの住宅支援等の分野での発行事例がどんどん登場してきています。  日本の高等教育学生の2.7人に1人がJASSOの奨学金を受給していることからも、JASSOは日本の教育を大きく支えていることがわかります。また、非常に多くの奨学金受給者が返還を実施していることも理解できました。国内には給付型の奨学金の拡充を求める声も大きいですが、その点については法改正やJASSOへの国家予算配分等を含め幅広い関係者で対応していかなければならない課題だと、今回のインタビューを通じて強く感じました。

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【インタビュー】日本プロロジスリートがグリーンボンド発行予定 〜保有物件ほぼ全てグリーンビルディングの衝撃〜

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 世界最大規模の物流不動産会社米プロロジス・グループ。1983年にカリフォルニア州サンフランシスコで創業し、現在は19カ国で約3,260棟の物流施設を開発、所有、運営。ニューヨーク証券取引所に上場し、時価総額は約360億米ドル(約4兆円)。物流業務に携わる世界約5,000以上の企業に物流施設を提供しており、全世界のGDPの1.7%に相当する物資がプロロジス・グループの物流施設を通過しているとも言われています。  プロロジス・グループのこだわりは、徹底した保有物流施設の質への追求。ここでの「質」には、物流施設としての機能面での質だけでなく、入居企業の従業員の健康や働きやすさ、災害発生時でもカスタマー(プロロジスではテナントを「カスタマー」と呼ぶ)が事業継続できる機能整備や耐震構造、地域社会とのつながり、そして環境性能までも含む広範なものです。環境性能を掘り下げると、二酸化炭素排出量の削減、館内照明器具のLED化、施設内の緑化、高い断熱性能を実現しており、さらに施設の屋上には設置可能最大限のスペースに太陽光発電パネルを敷設しています。物流不動産開発会社の中で、ここまで環境性能にこだわる大手企業は世界に類を見ません。  プロロジス・グループの日本法人「プロロジス」は、1999年に設立。2002年から2018年までの間に全国で93物件の物流施設を開発。そのうちの40物件を保有し、運用しているのが日本プロロジスリート投資法人です。同投資法人は6月26日、グリーンボンドを発行する予定と発表しました。日本プロロジスリート投資法人にとってのグリーンボンドとは何か、なぜプロロジスはそこまで環境性能の高い物流不動産にこだわるのか。同法人の資産運用会社であるプロロジス・リート・マネジメント株式会社の戸田淳・取締役CFO財務企画部長、永田高大・財務企画部財務チームシニアマネージャー、田川慶久・財務企画部IR/PRチームマネージャーに話を伺いました。 保有物件の環境性能にこだわっているそうですね? 戸田淳氏  日本プロロジスリート投資法人で保有する不動産金額は、取得価格ベースで5,603億円ですが、そのうち4,877億円分がグリーンビルディング。比率にすると87%です。世界的に見ても、ここまでグリーンビルディングの割合が高い発行体はないと思います。Jリートの中でも、グリーンビルディングの資産保有額はトップクラスです。  プロロジスでは、グリーンビルディングの定義を厳格な基準で定めており、環境認証で高い評価を受けたもののみをグリーンビルディングと位置付けています。CASBEE(※1)認証ではS、A、B+、DBJ Green Building認証(※2)では5と4のみ、BELS認証(※3)でも5と4のみとしています。  この定義は、実はプロロジス・グループ全体で定めているものです。海外では他にも、LEED認証やBREEAM認証、DGNB認証等がありますが、同様に厳しい基準値を定めており、その中で日本の認証であるCASBEE、DBJ Green Building、BELSについても盛り込まれています。   ※1:国土交通省主導のもとで、一般財団法人建築環境・省エネルギー機構(IBEC)が運営するグリーンビルディング認証。物件をS、A、B+、B-、Cの5段階で評価。 ※2:株式会社日本政策投資銀行(DBJ)が運営するグリーンビルディング認証。物件を最高位5から最低位1までの5段階で評価。 ※3:国土交通省策定の評価基準に基づき、一般社団法人住宅性能評価・表示協会が運営する省エネに特化したグリーンビルディング認証。物件を最高位5から最低位1までの5段階で評価。 どうしてそこまでグリーンビルディング保有率を高められるのですか?  本投資法人の保有物件は、基本的にプロロジス・グループの日本法人であるプロロジスが設計、開発した物件です。プロロジス・グループが開発した物件は、もともと環境性能にも多大な配慮がされており、もともとグリーンビルディング認証で高い評価を得やすいものなのです。  環境性能が高いポイントの一つに、屋上に敷設している太陽光発電パネルがあります。プロロジス・グループが開発した物件の屋上には、構造上可能な範囲内で最大限に太陽光発電パネルが敷設されており、発電の出力量(設備容量)合計は水力発電所1基分に相当する34.7MW(2018年5月末時点)あります。プロロジス・グループの世界全体での太陽光発電出力量は175MWあります。 各ESGインデックスへの採用状況はいかがですか? 戸田氏  まずプロロジス・グループ全体のお話からしますと、プロロジスは、ESGインデックスのDow Jones Sustainability Indices(DJSI)に採用されていますし、ESG評価機関のSustainalytics(サステイナリティクス)から業界内でのトップ企業である「Outperformer」の称号を頂いています。  日本プロロジスリート投資法人も、Dow Jones Sustainability Indices(DJSI)に採用されていますし、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も採用しているMSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数にも採用され「A」格付をいただいています。  インデックスではありませんが、不動産企業の環境性能を評価する国際団体GRESBから、プロロジス・グループは「GRESB Green Stars Sector Leader in North America」のタイトルを受けており、北米でトップの評価です。日本プロロジスリート投資法人は、2016年にはそれを上回る「GRESB Green Stars Sector Leader in the world」をいただき、世界トップとなりました。2017年は僅差で世界では2位になってしまいましたが、それでも「GRESB Green Stars Sector Leader in Asia」としてアジアでトップの評価をいただいています。  また、プロロジス・グループは、世界経済フォーラムの年次総会、ダボス会議が発表する「Global 100: Most Sustainable Corporations in the World(世界で最も持続可能な100社)」にも7年連続で選ばれました。 どうしてそこまでグリーンにこだわっているのですか? 戸田氏  プロロジス・グループでは、グリーンだけでなく、ESG全体を非常に重視しており、企業文化になっています。それは、物流不動産業界の世界的なリーダーであり続けるためには不可欠なものだと捉えているためです。  環境性能の高い物件であれば、地球環境とともにカスタマーにとってのコスト削減にもなります。耐震構造や働きやすさを追求すれば、カスタマーの社員にとってもプロロジスの物件で働く魅力を感じてもらえるはずです。各物流施設では、地域社会を招待したイベントも開催していますが、地域社会にとってもプロロジスが近くにいることを喜んでもらいたいと思っているためです。  私達、財務部門にとっても、ESGは切っても切り離せない関係にあります。投資法人では、株主のことを「投資主」、株式のことを「投資口」と呼びますが、当法人の投資口を持っている国内外の上位30社を占めるトップクラスの機関投資家は、いずれもESGを非常に重視してきています。そのため、ESGに真剣に取り組まないでいると、株価(投資口価格)の健全な形成が難しくなりつつあると感じています。そのため、財務、IRとしてもESGは非常に重要だと考えています。 今回発行予定のグリーンボンドの使途はなんですか? 戸田氏  プロロジス・グループでは、日本プロロジスリート投資法人より先に、欧州において2018年2月にグリーンボンドを3億ユーロ(約390億円)発行しました。その際、今後グループ全体でグリーンボンド発行が増えていくことを見越し、グループ全体のグリーンボンド発行フレームワーク「Prologis Green Bond Framework」を制定しました。このフレームワークでは、国際資本市場協会(ICMA)のグリーンボンド原則(GBP)に則り、資金使途、プロジェクト評価・選定プロセス、調達資金管理、報告の4つが定められています。  この中で、グリーンボンドの使途については、グリーンビルディング、再生可能エネルギー(太陽光及び風力発電)、エネルギー備蓄システム等の省エネ設備の3つに定められています。ですので、本投資法人のグリーンボンドもこの3つを対象としています。  資金使途となるグリーンビルディングは、本投資法人が保有しているグリーンビルディングの取得資金のリファイナンスも対象となります。本投資法人では、不動産の取得時から債務と対象不動産が一対一で結びつけていますので、今回のグリーンボンドでも、適格性のあるグリーンビルディングのみに調達資金が充当され、明確に管理することが可能となっています。  調達資金管理では、グループ全体と各グループ法人に、「グリーンボンド・コミッティー」が設置されています。今回のグリーンボンドは、当社の社長が委員長を務める本法人の「グリーンボンド・コミッティー」が、調達資金が適切に充当されているかを管理します。 グリーンボンド発行の狙いはなんですか? 戸田氏  今回3つのことを狙っています。まず、グリーンボンド発行を通じたサステナビリティ意識の醸成。本投資法人がグリーンボンドを発行することで、今大きくなっているサステナビリティやESGという大きなトレンドに貢献したいと考えています。  2つ目は、投資家層の拡大。グリーンボンドという新たな債券を出すことで、今までは興味を持っていただけなかった機関投資家の方に投資家になっていただきたいと思っています。  最後は投資法人債市場の盛り上げです。Jリートの投資法人が発行する債券は、投資法人債と呼ばれているのですが、日本では投資法人債市場はまだまだ小さい状況にあります。グリーンボンドを機に、機関投資家に投資法人債に興味を持ってもらい、Jリート全体の拡大に貢献したいと考えています。  グリーンボンドを発行するには、通常の投資法人債発行よりもセカンドパーティ・オピニオンを取得するコストが余分にかかります。しかし、グリーンボンドを機に、プロロジス・グループの存在や、当グループが非常にESGにこだわっていることを債券投資家以外の方にも幅広く知って頂くことで、本投資法人の投資口にとってもプラスに作用すると考えました。 日本でのESG投資への状況をどう見ていますか? 戸田氏  本投資法人はこれまで投資法人債を複数回発行していますが、ESG投資に対する機関投資家の関心はどんどん高まっていると感じています。そして今後はますます大きくなっていくと思います。 プロロジス・グループ全体として日本の物流不動産市場をどう捉えていますか? 戸田氏  プロロジス・グループは、日本を重要なマーケットと位置付けています。その背景には、日本の物流不動産市場には、まだ環境性能も含めた質の高い施設が少なく、先進国内でも非常に遅れている状況にあります。  そのため、日本法人のプロロジスも、今後も継続して物流不動産を計画し開発に着手していますし、日本プロロジスリート投資法人もプロロジスから継続的な物件取得を行っていきます。2018年においては、合計5物件の新規取得を予定しています。 今後については? 戸田氏  今後、私達が発行する投資法人債は、基本的に全てグリーンボンドになっていくのではないかと思います。 永田高大氏  本投資法人が現在保有する物件のグリーンビルディング比率は87%と極めて高い状況ですが、将来的にはその比率を100%まで上げたいと個人的には思います。今後、取得する物件は、いずれもグリーンビルディングとしてのポテンシャルがある物件だからです。より厳しく見積もっても95%程度までは行けると思っています。 戸田氏  また、物件をカスタマー(テナント)に一括して運営を任せる「ビルト・トゥ・スーツ(BTS)型」の物流施設では、当社ではなくカスタマー自身が施設を運営しているため、一部は認証の取得が難しい点もあると見ているためです。しかし、BTS型施設も物流施設のポテンシャルとしては、やはりグリーンビルディング認証で高い評価を得られるレベルにあります。既存物件でもグリーンビルディング認証未取得のものは取る準備を進めています。今後この87%という数値は、基本的に下がることはありません。 田川慶久氏  私達は、昨今のESG投資の高まりを受けてグリーンビルディングの取得を始めたのではなく、もともと環境性能の高い施設を手がけて来たという経緯があります。そのため、本投資法人の投資口や投資法人債の投資家は、もともとESG投資をしていたと言うこともできます。しかしながら、セカンドパーティ・オピニオン等を通じて本投資法人の中身についてよく知っていただきたいと思い、グリーンボンド発行を計画しています。 戸田氏  私達は非常に長い目で見ています。サステナビリティへの取組は、今日明日に私達の事業へのリターンとして返ってくるものではないのかもしれません。しかし、中長期的には必ずプロロジス・グループの利益につながると考えています。 インタビューを終えて  不動産業界においてグリーンビルディングへの関心が高まっているとはいえ、不動産投資法人の運用物件のうちグリーンビルディング比率が87%という府日本プロロジスリート投資法人の現状は、はっきり言って「衝撃」です。さらに驚くのは、同業他社と比べても、グリーンビルディングの基準を非常に厳しく設定いるにもかかわらずこの水準を達成していること。さらに日本プロロジスリート投資法人の中では、この比率を100%にまで高めたいう意識もすでに生まれており、驚異的としか言いようがありません。  不動産投資法人によるグリーンボンドについて、ぜひ注目していただきたいのは、このように資金使途とするグリーンビルディングの定義です。セカンドオピニオン提供機関は、これまでの事例から考えると、DBJ Green Building認証とBELS認証ではプロロジス・グループ基準より一段階下の「3」でも適格と判断する傾向にあると言えますが、それにもかかわらず「4」で線引するプロロジス・グループの設定基準は高い。また、プロロジス・グループはCASBEE認証ではS、A、B+の3段階を適格としているものの、実際にはほぼ全てでS、Aの上位2評価を得ています。  これらから鮮明に見えてくるのは、プロロジス・グループの環境さらにはESGに対する強いコミットメントです。グリーンビルディング物流不動産に特化しながら世界トップクラスの市場規模を掴んだ同社の経営の迫力。今回は、グリーンボンドをテーマとしたため、環境面に特化したインタビューとなりましたが、お話し頂いた内容に率直に感服しました。

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【インタビュー】地域を救う新たな官民連携の形 〜神奈川県の医療ベンチャーキャピタルファンド〜

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 2018年3月、神奈川県の呼びかけで新しいヘルスケアベンチャーキャピタル投資ファンドが組成されました。ファンドの名前は「ヘルスケア・ニューフロンティア投資事業有限責任事業組合」。最先端の医療技術開発や、病気になる手前の「未病」への対処を行う医療サービスに取り組むベンチャー企業に投資するファンドです。このファンドには、すでに約12億円の出資が集まり、複数のベンチャー企業に投資されています。今、このファンドには、「投資分野」「ファンドの座組」「ファンド評価」の3つの観点で大きな注目が集まっています。  まず投資分野。一般的に日本のベンチャーキャピタルは、インターネットサービスやゲーム開発会社に多く投資されています。日本ベンチャーキャピタル協会が今年4月に発表した最新の統計でも、ベンチャーキャピタルの投資分野の約半数がIT関連。その後には「バイオ/医療/ヘルスケア」が約18%と続きますが、バイオ医療と呼ばれる創薬開発が中心で、高齢者医療という深刻な社会課題の解決にはあまり資金が動員されていません。一方、今回発足した「ヘルスケア・ニューフロンティア投資事業有限責任事業組合」は、再生・細胞医療研究等の最先端医療技術開発だけでなく、食や運動習慣等にも焦点を当てた未病の改善分野に大きな主眼を置いています。  次にファンドの座組。「ヘルスケア・ニューフロンティア投資事業有限責任事業組合」は神奈川県の企画として立ち上がったものの、神奈川県が運営しているわけではありません。無限責任組合員(GP)としてファンドを運営しているのは、公募で選定された株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ。老人ホーム経営や病院の経営支援を行うキャピタルメディカ・グループのコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)子会社で、ヘルスケア分野に特化した投資を行っています。一方、神奈川県は、有限責任組合員(LP)という出資者の立場で1億円を出資し、ファンドをサポートするとともにリスクもとっています。同ファンドのLPには他に、横浜銀行、神奈川銀行、鹿児島銀行、スルガ銀行等の地方銀行や、中小企業基盤整備機構、ココカラファイン、戸田建設、社会的投資推進財団(SIIF)等がいます。神奈川県にとって、ベンチャーキャピタルファンドに直接投資するのは今回が初めて。  最後にファンド評価の観点。ファンド設立後の2018年4月、神奈川県、キャピタルメディカ・ベンチャーズ、そしてLPでもある社会的投資推進財団の3者は、同ファンドに「社会的インパクト評価」を導入することで合意しました。社会的インパクト評価とは、ファンド投資が社会に与えたインパクトを定量的・定性的に測定していくという試み。今回3者は、社会的インパクト評価が、投資先ベンチャー企業の企業価値向上だけでなく、ファンドの財務的パフォーマンスも向上させることにもつながると考え導入を決断しました。ヘルスケア分野に特化したファンドで「社会的インパクト評価」を導入するのは今回が国内初です。  この異例づくしの「ヘルスケア・ニューフロンティア投資事業有限責任事業組合」がどのように誕生したのか。何を狙っているのか。神奈川県、キャピタルメディカ・ベンチャーズ、社会的投資推進財団のキーマンたちに話を伺いました。 (左) 大木健一    神奈川県政策局ヘルスケア・ニューフロンティア推進本部室 ライフイノベーション担当課長 (中左)菅野文美    一般財団法人社会的投資推進財団(SIIF) 事業開発推進部 シニア・オフィサー (中右)青木武士    株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ 代表取締役 (右) 新澤駿    神奈川県政策局ヘルスケア・ニューフロンティア推進本部室 最先端医療産業グループ 主事 ベンチャーキャピタルファンドを設立した経緯を教えてください 大木健一氏  神奈川県では、現在の黒岩祐治知事の下で、「ヘルスケア・ニューフロンティア政策」を展開しています。この政策は、来る超高齢社会に対応できる新たな社会システムを構築するため、病気になる前の個々人での健康へのアクションとなる「未病の改善」と、新たな医療技術の追求の2つの視点で、新たな産業の創出と健康寿命日本一を実現していこうというものです。未病の改善の例では、運動習慣、医食農同源などがあります。また新技術開発では、再生・細胞医療研究やロボット医療機器が具体例として挙げられます。  しかしながら、最先端医療や未病に対し、神奈川県の予算だけでやるには限界があります。また、有望なベンチャー企業を目利きという視点でも、我々には十分な知見がありません。そこで、神奈川県も資金を出しつつ、民間の方々にも資金を入れていただくという発想に至りました。そして、そのファンドの運営も、ベンチャー企業の目利きのプロにやっていただくことになり、昨年度、今回の「ヘルスケア・ニューフロンティア・ファンド」の設立に至りました。 青木武士氏  キャピタルメディカ・ベンチャーズは、病院の経営支援や介護施設の運営をしておりキャピタルメディカのグループ企業で、ヘルスケアに特化したベンチャーキャピタルです。神奈川県が、ヘルスケア部門での新たなファンドを立ち上げると聞き、公募に参加し、選定していただきました。  未病やヘルスケア分野でのベンチャー企業は、最近増えてきていると感じています。ですが、ベンチャー企業が成長に向け事業のPDCAをしっかり回していくための実証フィールドが極めて少ないという課題感があります。その背景には、ヘルスケア分野は命を預かる産業ですので、実証フェーズでは医療関係者の協力が必要となるとはいえ、新技術やサービスを簡単には実証できません。そのため、多くのヘルスケア領域ベンチャー企業はPDCAを回す困難さを抱えています。  その中で、キャピタルメディカ・グループは、経営支援先の病院や運営している介護施設において、2,000名以上の医療介護者、5,000名以上の患者をサポートしています。ですので、投資先のベンチャー企業に、製品やサービスの実証フィールドも同時に提供できるという強みがあります。 自治体のヘルスケア支援は助成金が一般的。なぜファンド出資の道を選んだのでしょうか? 大木氏  再生・細胞医療などの新しい分野が産業として確立するためには、新たな担い手となるベンチャー企業が生まれてこなければなりません。未病の分野も同じで、神奈川県では「未病産業」と呼んでいます。ヘルスケア・ニューフロンティア・ファンドには、神奈川県も1億円を出資しましたが、神奈川県がファンドに直接出資をするのは今回が神奈川県政史上初めてです。これは、神奈川県が本気を出してベンチャー企業を育成したいという意志の表れです。  正直、1億円という出資額は決して大きな金額ではありません。これで、ヘルスケア領域の全ての社会課題が解決できるとも思っていません。しかし、神奈川県という自治体が、ヘルスケア領域でベンチャーファンドを立ち上げたというメッセージそのものに、大きな意味があると思っています。「神奈川県に行けばヘルスケアの新ビジネスができるかもしれない」「神奈川県に行けば支援が得られるかもしれない」。人々の間にこのような意識を醸成できれば、ヘルスケア領域で新産業を育てるという我々の目的の半分が達成できていると言えます。 投資先ベンチャー企業の発掘、選定はどのように実施していますか? 青木氏  投資先のソーシングには、3つのアプローチ方法があります。まず、毎日100から200のウェブサイトをクロールし、新たなサービスが出てきた際にすぐにコンタクトをとっています。次に、他のファンドや起業家からの紹介。当社は実証フィールドを提供できる強みがあるため、ヘルスケア案件では、他のベンチャーキャピタルや事業会社から共同出資の相談を受けることが頻繁にあります。最後に起業家創出。最近、医師等の医療関係者で起業を考える方が増えてきており、今回のファンド資金の12億円のうちいくらかは、ゼロからの起業支援の案件に投資したいと考えています。  今回のファンドは、神奈川県に事業所がない企業にも門戸を開いています。神奈川県の事業者と取引がある企業や、神奈川県の県民と関わりがある企業も投資の対象です。そのため、結果的にはほぼ全ての企業が対象となると考えています。 大木氏  神奈川県で起業した企業のみを投資対象に限定したら、パイが限られてしまいます。むしろいろいろな企業に集まってきてほしい。神奈川県で事業を拡大してみよう、神奈川県の事業者と何か取り組んでみよう。そうやって盛り上がっていかなければ意味がありません。例えば、東京で起業しても、神奈川県で事業を拡大してくれれば、神奈川県としては大きなプラスの効果が期待できます。どこで起業したかには、こだわっていません。 インパクト評価の意義についてはどのように考えていますか? 菅野文美氏  今年4月に、神奈川県、キャピタルメディカ・ベンチャーズ、SIIFの3者で、ファンドの社会的インパクトを評価するという覚書を交わしました。社会的インパクト評価とは、ファンドの投資先の事業を通じて提供される技術や商品、サービスにより社会に生まれる変化や効果を定量的・定性的に測定することです。SIIFは、社会的インパクトという概念を普及させていく財団として活動しています。今回も、社会的インパクト評価を支援するという狙いをもって、ファンドに出資しました。最終的には、ファンド全体のインパクトレポートを発表する予定です。 青木氏  SIIFと一緒に社会的インパクト評価を実施することにした理由は、当然ファンドに大きなメリットがあると考えたからです。ヘルスケア領域での事業は、ほぼ全てが社会に良いインパクトを与えられます。投資先企業が、社会的インパクト評価を通じて価値を定量化できるということは、企業が製品やサービスをマーケティング(企画・販売)していく上でプラスでしかありません。たとえ社会的インパクト評価をする工数が多少かかったとしても、企業価値を向上する上で、こんなありがたいことはありません。 大木氏  県政としては、予算対効果を議会や県民に報告する責任を負っているのですが、効果をわかりやすく示すことが課題となっていました。県としても、投資先ベンチャー企業の価値を高めるだけではなく、投資対効果を議会や県民の皆様に示していく上で、社会的インパクト評価は非常に有効だと考えています。社会的インパクト評価の話をSIIFから提案されたときには、助かると思ったのが正直な気持ちです。 地方銀行にLP参画していただく上で工夫をした点は? 青木氏  さきほどの話とは変わりますが、地方銀行を初めLP出資して頂いた投資家には、特に「インパクト投資」という言葉は用いていません。それは、当ファンドは、純粋に利益を追求しているファンドであり、とりわけヘルスケア領域では、利益の最大化が結果的にインパクトの最大化となると考えているからです。ですので、投資家の方々には、投資リターンを期待していただいていると思っています。  ヘルスケア領域のベンチャーファンドが今後発展していくためには、我々が成功する姿を示すしかないと思っています。実績を見せなければ、どれだけ美辞麗句を並べたとしても意味がありません。地方銀行も投資のプロですので、エモーショナルな面ではなく、純粋にファンドのパフォーマンスを評価いただくしかないと思っています。  神奈川県がバックにいるというところも、大きな信用力になっていることは間違いないです。 菅野氏  SIIFも、インパクト投資は必ずしもリターンを犠牲にするものではないと考えています。一方で、日本では主にソーシャルセクター(財団や社会的企業など)からインパクト投資の概念が広がったという経緯があり、インパクト投資はリターンが低いというイメージがあります。今回のファンドを通じて、このイメージを払拭していきたいと考えています。 ヘルスケア領域のファンドとしての魅力は何でしょうか? 青木氏  ヘルスケア領域は、IPOもさることながらバイアウトが実施しやすい領域だと見ています。昨今ヘルスケア領域は非常に大きな成長産業と認識されており、業界を問わず大手企業が参入を試みていたり、少なくとも興味を持っています。一方で、ヘルスケア領域は参入障壁が高い。大手企業にとって、ベンチャー企業のバイアウトは、業界参入のための極めて合理的な選択肢となるだろうと考えています。  さらに、繰り返しになりますが、当社は実証フィールドの場も提供できます。投資先企業は、実証フィールドを通じた製品・サービスの磨き込みが可能となるため、一定程度の成長までは自ずと確保できます。その後、オーガニック(自力)で成長できればそれでいいし、大手企業からのリソース(経営資源)が必要となれば、大手企業の傘下に入り、成長するという道を選ぶこともできます。  ヘルスケア領域のベンチャーキャピタルでは、米国西海岸にメイヨー・クリニック・ベンチャーズやカイザーパーマネンテ・ベンチャーズという成功事例があり、キャピタルメディカ・ベンチャーズも彼らをベンチマークしています。彼らも、スタンフォード大学の医療施設といった実証フィールドを提供できるベンチャーキャピタルとして成長してきています。自治体も彼らのファンドの積極的に出資しています。我々もいろいろ調査してきましたが、ヘルスケア領域では実証フィールドが得られたベンチャー企業が生き残っているという印象があります。 菅野氏  海外のインパクト投資ファンドと意見交換する中でも、日本のヘルスケア領域は大きく注目されています。世界の中でも高齢社会化が進む日本は、課題先進国として新たなソリューションを生み出していけると考えています。 特に注目している投資領域はありますか? 青木氏  在宅医療や在宅介護の領域には注目しています。現在の在宅医療制度である訪問医や訪問看護ステーションの体制はすでに限界がきており、在宅医や在宅看護士が今後急増することは人口構造上ありえません。そうした中、医師や看護師1人当たりの在宅患者数を増やすことが絶対的に不可欠となります。そのためには、何かしらのITデバイスを活用した遠隔診療体制を確立する以外にないのですが、まだ本格的なサービスは誕生していません。  また血圧等のバイタルデータの測定に関する技術にも着目しています。常時バイタルデータが把握できていれば、必要以上に投薬する必要がなくなり、薬漬けになるリスクも避けられるようになります。このような一人ひとりの状況にあったパーソナルヘルスケアも今後10年以内に実現していきたいです。 自治体としてファンドでのベンチャー育成に至るまでの苦労話はありますか? 大木氏  特定の産業に特化したベンチャー投資ファンドを自治体がつくるという話は、過去にほとんど前例がありません。また、複数の産業にまたがるファンドや企業再生ファンドを自治体が作った例はありますが、投資リターンが低く、成功しにくいという評判があるのも事実です。  こうした状況で、神奈川県としてヘルスケア領域に特化したファンドに向けた予算化を検討していったのですが、実は初年度は予算が通りませんでした。しかし、将来を見据え社会課題に挑むためにヘルスケア領域でのファンドが必要だということを粘り強く説明していき、結果1年半をかけて予算を承認して頂くことができました。  行政の役割は、社会システム全体を大きく変革させていくことにあると思っています。例えば、未病という概念を打ち出し、個々人の健康に対する自覚や意識を変えていこうとした場合、お題目だけでは浸透しません。そこには、ツールやサービスを展開する企業の役割が不可欠です。そうした事業者がたくさん生まれてくることで、社会システムの変革が成し遂げられるのだと思います。 インタビューを終えて  インタビューの中でも登場したインパクト投資という概念は、ESG投資とともに日本では比較的新しいものです。ESG投資が環境・社会・ガバナンスを考慮した投資であるのに対し、インパクト投資は、投資が生む社会や環境に対するインパクトを測定をすることに力点が置かれています。海外では両者の垣根はどんどん小さくなっており、またインパクト投資は非上場企業の領域で盛り上がってきているため、私はインパクト投資のことを「ESGベンチャーキャピタル」と呼んだりもしています。インパクト投資は様々なセクターでなされていますが、世界的に注目を集めているセクターの一つがヘルスケア領域です。  世界の中でも先陣を切って高齢社会へ突入する日本。これまで海外からいろいろな概念やサービスを「輸入」してきた日本ですが、この領域では自ら解決策を導き出していくしかありません。またその分、この分野で確固としたソリューションを構築できれば、海外への展開もしやすい領域だと言えます。  こうした観点から、ヘルスケア・ニューフロンティア・ファンドが「未病」に力を入れていることには大きな可能性を感じます。従来の日本の医療システムは、医療施設も保険も「健康」と「病気」の二元論を軸に構築されており、その中間の「未病」領域では既存の担い手がいない領域です。しかしながら、社会保障費を抑えつつ元気な高齢社会を迎えるには、この未病領域での担い手となる新たなプレーヤーが必要となってきます。この新たな担い手に、ファンドとその関係者が資金と実証フィールドを提供してくれることは、非常に大きな支援となります。

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【インタビュー】日本郵船、海運業界世界初のグリーンボンド発行事例 〜苦労と気づき〜

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 2018年もグリーンボンド市場は大きな成長が予想される中、グリーンボンド発行で世界初となる新たな事例が日本から生まれようとしています。海運国内最大手の日本郵船は4月17日、償還期間5年のグリーンボンドを100億円発行すると発表しました。海運事業者のグリーンボンド発行はまだ世界に例がなく、成立すれば海運業界として世界初となります。主幹事は三菱UFJモルガン・スタンレー証券と野村證券。グリーンボンド・ストラクチャリング・エージェントは三菱UFJモルガン・スタンレー証券。資金使途は、日本郵船が策定した環境対応船の技術ロードマップで予定する4案件の投資。環境省も、同グリーンボンドを一般事業会社として初のグリーンボンド発行モデル創出事業に係るモデル発行事例に選定しており、グリーンボンドの可能性を大きく広げると注目されています。  これまで、海運事業者からグリーンボンドが発行されなかった理由の一つは、海運分野のグリーンボンド調達資金使途の適格要件が確立されていなかったことと言われています。実際、各業界での適格要件のデファクトスタンダードを策定している気候債券イニシアチブ(CBI)も海運業界に関する基準は未策定。このような難しい状況の中で、日本郵船はどのように発行に漕ぎつけつつあるのか。同社の財務グループの白根佑一氏、赤木倫子氏に話を伺いました。 (左)白根佑一 財務グループ統轄チーム課長代理 (右)赤木倫子 財務グループ統轄チーム員 最初に今回のグリーンボンドの概要を教えて下さい 白根佑一氏  当社は、毎年200億円から300億円の社債を起債していますが、そのうち100億円をグリーンボンドとして発行することとしました。グリーンボンドの使途は、当社が策定した環境対応船の技術ロードマップで予定する投資です。技術ロードマップでは、2030年に2008年比で二酸化炭素排出量を69%削減できるコンセプトシップ「NYK SUPER ECO SHIP 2030」を掲げ、燃料転換、環境負荷低減、船型改造、ビックデータ等を活用した運航最適化、自然エネルギー利用、空気潤滑法導入等の様々な面で新たな技術開発を行うとしています。 (出所)日本郵船資料 グリーンボンド発行を検討するに当たって経緯を教えて下さい 白根氏  当社は今年3月、新たな 5カ年の中期経営計画”Staying Ahead 2022 with Digitalization and Green”を策定し、その中で「デジタライゼーション」と「グリーン」の2つを大きな柱として位置づけました。また、環境規制の強化や低炭素社会へのシフトが求められる今、社長の内藤から1月の商事始め式において、グリーンビジネスを実現していくという強いトップメッセージがありました。  そのした中、財務グループとして何ができるか考えた際、グリーンボンド発行というアイデアが出てきました。 グリーンボンド発行の資金使途を詳しくお聞かせ下さい 白根氏  資金使途は、LNG燃料船、LNG燃料供給船、バラスト水処理装置、スクラバー装置の4案件を予定しています。まず、LNG船ですが、燃料を重油からLNGに変えることで、大気汚染物質である硫黄酸化物(SOx)を約100%、PMを100%、窒素化合物(NOx)を最大86%削減できます。また気候変動の原因物質である二酸化炭素も30%削減できます。船舶は概ね15年から20年を耐用年数として建造されますので、環境負荷削減効果は長期間にわたり大きなインパクトがあります。現在、世界の船舶全体に占めるLNG燃料船の割合は0.1%しかありませんが、当社は2015年に国内初のLNG燃料タグボートを竣工。2016年9月には世界初のLNG燃料自動車専用船が竣工し、現在まで2隻が竣工しております。  2017年2月には、世界初のLNG燃料供給船「ENGIE ZEEBRUGGE」が竣工しました。LNG燃料供給船がなければ、岸壁でLNGをLNG燃料船に供給しなくはいけませんが、燃料供給船があれば沿岸部でも供給が可能となります。LNG燃料供給船はLNG燃料船そのものの普及を大きく左右する要素と言えます。  バラスト水処理装置(船舶がバランスを保持する海水であり、通常荷揚港で船底のタンクに注水し、荷積港で排出されるバラスト水とともに運ばれた海洋生物を処理し、排水による生態系破壊を防止するシステム)は、国際的な規制もあり一層注目されています。スクラバーは、SOxを含むエンジンから排出されるガスに海水を噴霧し、硫黄分を除去する装置で、大気汚染を防止できます。  当社は中期経営計画の中で、海上輸送での輸送単位(重量t×運航km)当たりの原単位二酸化炭素排出量の削減について、2030年度までに2015年比で30%減、2050年度までに50%減という目標を掲げ、サプライチェーン全体への波及効果としても原単位排出量を2030年度までに40%減、2050年度までに70%減を掲げています。 環境分野に大きな投資をしていくことを財務グループとしてどのように受け止めましたか? 白根氏  当社には以前から環境保全に対する高い意識があります。海運は多量の燃料を消費する事業ですので、環境問題を避けて通ることができません。技術部門・営業部門はもちろん、全社を挙げて日々環境負荷を低減するための取り組みを積極的に実施しています。 赤木氏  確かに通常の船舶を建造するより環境対応船を建造するほうがコストはかかります。しかし、グリーンボンド発行を通じて、当社の環境への取り組みを顧客をはじめとする幅広い方々に知って頂くことで、社会的に必要なコストをみなで負担していこうという意識を醸成する一助になるのではと、財務グループの中から意見もありました。 白根氏  幅広いステークホルダーの方々の期待に応えていくためには、環境に向き合い続けなければならないと思っています。 資金調達をグリーンボンド発行で行う狙いは何でしょうか? 白根氏  狙いは大きく3点あります。まず、投資家層の拡大。グリーンボンドという形で起債することで、これまで当社に関心がなかった投資家のみなさまにも注目いただけるのではと考えました。次に、当社の環境への取り組みを幅広いステークホルダーの方々に認知して頂くということ。そして、やや大きな目標ではありますが、海運業界での牽引役となるという点。海運業界初のグリーンボンド発行を実現し、業界全体をリードしたいと考えました。 今回の発行に当たり苦労した点は? 赤木氏  海運業界での初めてのグリーンボンド発行でしたので、当社の状況を理解して頂くことに苦労しました。グリーンボンドでは、再生可能エネルギーに焦点が当たることが多い中で、LNGの位置づけを理解頂くことに努めました。 白根氏  グリーンボンドでは、先に述べたように再生可能エネルギーに焦点が当たることが多いですが、再生可能エネルギーだけで巨大な船舶を動かすことはまだ不可能です。そこで、現段階でのベストソリューションであるLNG燃料への転換を、関係者に丁寧に説明していきました。最終的には世界的に知名度の高いVigeoEirisにセカンドオピニオンを引き受けて頂くことができました(現時点はセカンドオピニオン発表待ちの状態)。  VigeoEirisのセカンドオピニオンは、使途のプロジェクトだけでなく、発行体全体の状況をレビューするところに特徴があると思います。その点、当社の様々な情報をインプットさせて頂けたことも良かったと思います。 グリーンボンドとクーポン(利率)の観点ではどうお考えですか? 白根氏  グリーンボンドは投資家の間でも関心が高いと聞いており、価格にも反映される可能性はあるのではと考えています。他社の事例では、一般社債(SB)とグリーンボンドをほぼ同時期に発行した際、グリーンボンドの方の注文が多かったというケースもあったと聞きました。但し、最終的に利回りは今後のマーケティングプロセスにより市場実勢にて決定されると考えます。 発行後の使途報告についてお考えのところはありますか? 白根氏  船舶建造では様々な守秘義務があり制約が多い一方、曖昧な報告では投資家から理解を得られにくいとも考えています。まさに今、どのような報告をしていくかを議論しているところです。一案ですが、第三者の評価機関に対し詳細開示を行い、適切にグリーンボンド調達資金の管理をしていることを確認して頂き、第三者から保証を得ている旨を一般の方々にも開示する手法についても検討を進めているところです。  社内での報告オペレーションをスムーズに進めることも重要だと考えています。負荷の高いオペレーションとなると継続性に問題が出てくるため、その点も重要なポイントになると思います。 CBIの海運業界の基準策定ワーキンググループに参加するという発表もありました 白根氏  今回の起債を機に、海運業界での環境投資の促進や、グリーンボンド発行の牽引役を目指すという大きな目標を掲げています。CBIで海運業界の基準がないままでは、グローバルの海運業界でのグリーンボンド起債が進まないのではないか、そして、当社が第1号となり、基準策定にも加わることで、門戸を開きたいと考えています。 発行準備を通じて何か気づきはありましたか? 赤木氏  グリーンボンドの発行は、社内の本当に多くの部署の方々の協力なしには成し遂げられませんでした。特に技術部門や環境グループからは多くの支援を得ました。心から感謝しています。 白根氏  本当にそうだと思います。主幹事証券の皆様も含め大きなチームとなって目標に向かっていく一体感があったと思います。今回私たちの間では、手間暇惜しまずやれることは全部やろうという意気込みで臨みました。ただ発行するだけでなく、より多くの方から評価していただけるよう環境省のモデル事業に応募する、CBIの基準策定にも参加するという話になりました。  また今回の発行準備を通じて、ESG投資のうねりが大きくなっていることを身をもって体験しました。このような大きな動きをいち早く発行体側が感じ取り、調達にもグリーンという観点を入れていくことが重要となるのではないでしょうか。最初は確かに手間がかかりますが、その分のメリットも大きいと今は確信しています。 インタビューを終えて  金融商品の世界で日本から世界初が出るということは、そんなに多いことではありません。そんな中、今回のグリーンボンドは、難易度も容易ではない海運業界から生まれた世界初。この点だけでも海運業界全体を引っ張っていくのだという日本郵船の意義込みが感じ取れます。さらに驚いたことは、CBIでの基準策定に参加するのだという意気込み。日本企業は国際基準に積極的に参加することは多くはないと感じていますが、英国NGOの会議に日本郵船が船出していく姿が非常に頼もしく見えます。  また海運業界では、国際海事機関(IMO)が4月13日、2050年までに業界全体の二酸化炭素排出量を総量で2008年比50%以上削減するという長期目標を採択。それに向け、海運業務当たりの原単位二酸化炭素排出量を2030年までに2008年比40%以上削減し、2050年までに70%削減できるよう努めるとしました。世界の国際物流の多くは海運が担っています。この海運業界で二酸化炭素排出量の大幅な削減が実現できれば、気候変動の緩和に大きく貢献することになります。日本郵船が先陣を切る技術開発が、企業競争力と環境負荷低減の双方に大きく寄与していってほしいと思います。

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【インタビュー】笹川平和財団、日本初・アジア最大の女性支援インパクト投資ファンド始動

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 2017年9月、笹川平和財団がアジアで最大規模の投資総額となる女性支援型インパクト投資ファンドを設定した。インパクト投資は経済的利益を損なうことなく、教育、貧困、環境、医療等の社会的課題を解決する組織やプロジェクトに投資を行う金融手法の一つだ。欧米では、その高い効果性から、過去10年で大幅に拡大を遂げてきた。しかし、日本では大規模な取り組みはほとんど見られなかった。そのような中、笹川平和財団が、アジア向けの大型インパクト投資ファンドを組成したということで、今、世界中から大きな注目を浴びている。その全体設計に携わっている小木曽麻里氏に、世界的なインパクト投資の潮流、ファンド組成にあたっての苦労やローンチのアドバイスを伺った。 小木曽麻里氏の経歴 2016年1月より笹川平和財団国際事業企画部長を経て、現在ジェンダーイノベーション事業グループ長。2017年に運用総額100億円規模の「アジア女性インパクトファンド」を設定し、アジアにおける女性の機会創出とジェンダー格差是正の取り組みを行う。日本長期信用銀行、世界銀行グループ多国間投資保証機関(MIGA)東京事務所長、Kopernikアドバイザリーボード、ダルバーグ東京事務所長を歴任。東京大学経済学部卒業。タフツ大学フレッチャー校修士。国際開発機構海外投融資委員会有識者委員。2017年「Forbes世界で闘う日本の女性55名」に選ばれる。 笹川平和財団でのお仕事を教えて下さい。  2年ほど前に笹川財団で現在の仕事を始めました。昨年から「アジア女性インパクトファンド」という新しいファンドの組成を手がけています。この他に、アジアの財団や、富裕層の資産運用や慈善活動を行うファミリー・オフィス向けに、アジアで年1回のインパクト投資会議を開催、また、ジェンダー投資についてもフォーラムを行っています。そして、日本国内で、STEMセクター(Science, Technology, Engineering and Mathematicsの頭文字をとった名称で、科学・技術・工学・数学・分野を利用した産業全体を指す。最後にMedicineを加え、医療分野を含むこともある。)の女性比率を向上すべく、日本の大学6校とジェンダーアセスメントの導入を進めています。STEMセクターは、国の基幹産業であるがゆえに、ダイバーシティの重要性が言われていますが、日本ではほぼ進んでいません。イギリスにAthena Swanという評価機関があり、STEMセクターの高等教育を受ける女性のキャリア支援に取り組む大学に、ゴールドメダル、シルバーメダル等を出しており、大学は取得したメダルの色により、申請できる国の補助金枠が異なるという措置を受けます。大学の補助金枠に制限がかかるため、どの大学でもかなり真剣に取り組まれており、こういった評価システムを日本の大学も取り組んで行くべきだという政策の推進も行っています。 「アジア女性インパクトファンド」 背景と概要  最初に100億円規模のインパクト投資ファンドをやろうと話が出たときは、トピックを環境にするのかジェンダーにするのかまだ決まっていませんでした。ジェンダーに決まったタイミングで、ちょうどカナダ政府やオーストラリア政府が、アジアのジェンダープロジェクトを大々的に始めたタイミングにありました。女性、ジェンダー投資は世界で盛り上がっているテーマです。カナダは特に、世界的にジェンダー関連のプロジェクトを支援しており、アジアでの取り組みもその一環です。オーストラリア政府では、ジェンダー投資のみならず、ジェンダー平等推進に関するあらゆる分野の取り組みを行なっています。こうした動きの中で、今年はアジアのジェンダー投資元年になっています。Aspen Instituteの途上国支援組織、Aspen Network of Development Entrepreneurs(ANDE)がアジアに拠点を置きました。ロックフェラー財団の支援を受けて設立され、インパクト投資のエコシステム構築に大きく貢献してきたGIINもアジアでの活動拡大を模索しているようです。  「アジア女性インパクトファンド」は、ファイナンス・アクセスと男女間の所得格差をなくすことを目的としており、原資の100億円をインパクト投資で運用、得られたリターンを東南アジアの女性起業家支援に充てるというコンセプトで、本体の運用は現在マイクロファイナンス機関等へ投資しています。得られたリターンによる女性支援では、ICT(情報・通信技術)トレーニングをマイクロソフトとともに実施しています。また、ジェンダーの定義が明確でないことが多いため、国連機関などの地域のパートナーと一緒に「ジェンダー50」というプログラムを作り、活躍する女性起業家50名を発表出来ないか立案しているところです。  ファンド本体の運用は、上場の投資ファンドで運用を予定しています。ジェンダーにプラスのインパクトがあると笹川平和財団の基準で判断できる投資先を選定するという意味で、現在、その基準を作っているところです。また、現在アジアの女性に特化した上場金融商品がないため、これを自社で作れないかも検討しています。例えば、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が昨年選定したMSCI日本株女性活躍指数(WIN)がありますが、この指数は日本だけでアジア全体が含まれていません。よって、アジアでも作れないかとデータ収集をしています。マイクロファイナンスのみで100億円を運用するのではなく、年間10億から20億円ほどを数年かけて投資先を決めていく予定です。実際のリターンが出てくるのはまだ先ですので、本来運用リターンで行うグラント(寄付型助成金)事業は、現在のところ別会計から拠出しています。  本体運用のマイクロファイナス投資は、スイスのBlue Orchardのフラッグシップ・ファンド「ブルーオーチャード・マイクロファイナンス・ファンド(DEXORCH:LX)」で一部を運用しています。目標リターンはドル建てで4%。現在、マイクロファイナンスの平均リターンが3%から4%のため、少し高めですが、4%としました。上場株式を入れればもっと上がるのでしょうが、マイクロファイナンスの良いところは、景気循環の影響を受けにくく、安定的に利回りが取れるところにあります。Blue Orchardは途上国開発に近い活動を展開する機関で、国連が作りました。JICAとともにアジア地域の女性のエンパワメントを支援するマイクロファイナンス・ファンド「JAPAN ASEAN Women Empowerment Fund」を組成した機関でもあります。アジアの女性支援ファンドに出資を当初は模索しましたが、アジア限定のものは残念ながら現在Blue Orchardの上場ファンドとしては存在せず、個別で設定するには投資資金規模が小さく不可能でした。今はグローバル規模のファンドに投資を始め、今後、アジアにフォーカスしたファンドができた時点で資金を移すつもりです。インパクト評価部分については、アジアに特化したインパクト評価を作成してもらう予定です。流動性にも問題はなく、運用資産総額が1,000億円ほどの上場ファンドのため売買の制限はそれほどありません。欧米ではマイクロファイナンス・ファンドでも規模の大きなものが出ていますが、これをテイラーメイドのファンドにするとその辺りの制限はもっと厳しくなるかもしれません。 協力を得られた外部機関  グラント事業ではシンガポールのマイクロソフトが協力を申し出てくれました。東南アジアの女性は、良いビジネスアイデアを持っていてもテクノロジーに苦手意識のある人が多く、うまく事業化できないことがあります。この分野に女性が進出できていない現状を改善したいという思いもあり、ICTインキュベーションの機能をマイクロソフトに打診したところ、ぜひ一緒にやろうと言っていただけました。途上国の農村でも携帯アクセスは非常に進んでいます。パソコンや高度なシステムがない状況でも、簡単なアプリなどを開発してソーシャル分野の問題解決を進める組織を支援したいと思っています。  また、KL Felicitas 財団や、エンジェル・インベスターのファミリー・オフィスが集まってインパクト投資を実践するToniic(トニック)などの欧米の財団の方からも親切に多くのアドバイスを頂きました。我々が直接実施したヒアリング以外でも、欧米のコンサルタントに依頼して30くらいの財団を対象にインタビュー調査を行いました。結果、多くの情報を惜しみなく共有頂けました。米国には財団のインパクト投資の研修をするMission Investors Exchangeという団体があり、当財団のスタッフもそこで研修を受けました。アジアでは、香港のRSグループはとてもお世話になりました。こちらは従業員5名で資産規模は20億円ほどのファミリー・オフィスです。比較的資産額の大きい笹川平和財団が参入することを歓迎してくれました。このように、海外では大きな反響があり、多大な協力が得られました。 立ち上げにあたってクリアすべきだった課題  まず、マイクロファイナンスに運用資産をアロケーション(配分)することに、当財団の内部の承諾を得るのは容易ではありませんでした。マイクロファイナンスと言った瞬間に、「リスクが大きく怪しい」「リターンを犠牲にしているのではないか」という根強い意見がありました。こうした意見を覆すために、インパクト投資に理解のある運用投資委員会を別途創設し、専門家を集め、その意見を伝えていくことにしました。委員には、インパクト投資やベンチャーフィランソロピーを実践している方、元JICA職員、弁護士、著名なベンチャーキャピタルの方に入ってもらいました。しかし最大の成功要因は、インパクト投資分野に理解のある上司が当財団内にいてくれたことだったと考えています。そのおかげで、今回のファンド組成が実現しました。  また、デューデリジェンスは金融機関に依頼しました。今後、アドバイザーとして、企業もしくは個人の方にも入ってもらうことも考えています。しかし、インパクト投資のアドバイザーができる人や組織が日本に多くありません。アジアという視点では、オーストラリアに候補となる面白い会社が数社あり、現在話を進めています。大手外資系コンサルティング会社にもサステナビリティ関連の事業がありますが、インパクト投資の知識が、まだそこまでないという印象も持っています。欧米ではファミリー・オフィスが多く、インパクト投資が進んでいるため、個人を含め多くのアドバイザーがいるのですが、日本ではまだそうしたエコシステムができていないのが現状です。したがって、アジアでこのような人材を育てたいという意識もあったのですが、残念ながら合致する人、組織が見つかっていません。アジアはインドを除き、投資ファンドも少なければ、専門プレイヤーも少なく、むしろアフリカの方が進んでいるほどです。  さらに、国内の規制や法整備の遅れもあります。本体の運用で得られたリターンを、より小さなビジネスや起業家などに再投資、貸付ができないか考えているのですが、日本ではまだ事例がほとんどなく、現在、内閣府(財団の監督官庁)への申請方法について、法律関係の専門家と検討しています。というのも、これまで財団の資産運用を、寄付型の助成や補助金ではなく、リスクを伴い投資リターンの上がる再投資や貸付で実施した事例が国内にほとんどないためです。過去には、三菱復興支援財団が実施されたそうですが、東日本大震災の特例的な位置づけで許可が下りたようでした。欧米ではすでに、この分野の法整備が進んでおり、元々寄付や助成に充てていた資産を、積極的にインパクト投資等に充てる動きがあります。多くの財団がフィランソロピー投資を行っていますが、日本ではまだ整備が進んでいません。  インパクト投資の潮流 欧米と日本、アジア  マイクロファイナンスをはじめ、欧米では、インパクト投資が上場、非上場含めて大きな変化と流れができているのに対し、日本を含めアジア全体はだいぶ遠いところにあると感じます。アジア全体を調査しましたが、必ず名前が上がるのは、前述のRSという香港のファミリー・オフィスです。しかし、それ以外は名前が出てきません。最近、DBS(シンガポール銀行最大手)が財団を作り、インパクト投資のエコシステム支援をはじめたそうです。シンガポールは国家戦略として、特にテクノロジー分野の社会起業家支援を行なっているようです。  欧米の関係者は、アジアではどこから火がつくのかに、非常に大きな関心を寄せていると感じます。中国のファミリー・オフィスも、香港で創設されファンドを設定してきており、運用はインパクト投資を検討しているようです。 日本のインパクト投資の現状と課題  日本国内ではESG投資が盛んに言われ始めましたが、インパクト投資への関心は非常に低いと感じます。日本では、SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)や休眠預金の活用といった分野で、国内向けのインパクト投資に徐々に関心が高まってきていますが、海外投資となるとさらに関心の度合いが下がってしまいます。今年2月に笹川平和財団も共催する「社会インパクト投資フォーラム2018」では、英国のロナルド・コーエン卿をお招きしています。彼は英国にて「G8社会的インパクト投資タスクフォース」を立ち上げ、ソーシャル・インパクト・ボンドを開始。インパクト投資の父と呼ばれています。彼は援助ではなく社会を変えるツールとしてインパクト投資を位置づけましたが、ビジネス系ではなく援助関係者が積極的に手法を採り入れました。同じく来日する、トニック(Toniic)共同創設者のチャーリー・クライスナー氏は、「インパクト投資はインテンション(意図)があり、評価が明確にできる」という定義の下、様々なデータを収集され、現在、チューリッヒ大学と協働研究を行っています。  そうした経緯からか、インパクト投資には援助やフィランソロピーのイメージが強いことも認識しています。ESG投資は金融系、インパクト投資は財団やフィランソロフィーなど非金融系、関係者も異なるといったイメージがあるも事実です。しかし、インドをはじめ、様々な市場でインパクト投資のパフォーマンスがデータとして積み上がってくるにつれ、インパクト投資と既存の投資では、リターンに差が無いことが証明されつつあり、アジアのインパクト投資を実践してきた投資運用会社アビシュカール(Aavishkaar)は、リターンを犠牲にすることはないと言います。このあたりの理解が日本でももう少し進むとよいのかな、と思います。 インパクト投資ファンド組成の経験から 設定のプロセスを経て、発想が変わられたことはありますか?  インパクト投資自体についての発想は変わっていませんが、フィランソロピーの役割が世界で大きく変わってきていると感じました。ハイリスクや寄付の部分は財団や政府開発援助(ODA)が担い、比較的ローリスクのトランシェに機関投資家を呼び込む「ブレンデッド・ファイナンス」というアプローチも生まれてきています。とりわけ、ODAは、リスクを許容できなかったり、ファースト・ロスや保証が取れなかったりしますので、その部分をフィランソロピーピーが埋めるという機能が求められています。伝統的な財団はそこまで動けていないですが、今後期待される役割として感じています。  また、インパクト投資やESG投資は、最近では投資家よりの内容が多く語られるようになっていますが、フィランソロピーを志向するグループからは、長期に投資にする、貸付レートを低めにするなど、配慮が必要ではないかと言われています。投資家目線からするとギャップが生まれるわけですが、そこを財団が何とかできないか、というお話も聞きます。 インパクト投資成功のためのヒント、アドバイス  まず、社内、組織内の反対をどう説得するか、という観点では、ビッグネームの相手と組むことで安心材料とすることができます。今回では、マイクロソフトであったり、JICAと連携した経験のあるBlue Orchardです。Blue Orchardについては、国連が設立した機関という安心感の上、USAID(米国際開発庁)も投資し、ドイツ政府も検討している等の政府の動きを伝えたところ、理解を得られました。国内投資だとGPIFの実績が大きな影響を与えるでしょう。GPIFが決めたことをきっかけに、他機関でも動きやすくなるのではないでしょうか。  一方、アジアでも多くのインパクト投資の会議があるのですが、ほとんど日本人にはお目に掛かりません。こうした場で積極的に情報を集められると、肌で感じられるものはあると思います。インドでは、Sankalp(サンカルプ)という、社会的投資の推進団体が開催するソーシャル・ビジネスの国際会議が開催されています。韓国からは、香港、台湾、中国等と一緒に東アジアのプラットフォームを作れないか、と相談を受けたりもしています。 投資対象が日本国内となるといかがでしょうか?  課題は評価だけだと思います。結局、インパクト投資と言われる所以は、「投資のインテンション(意図)があるか」と、「評価ができるか」の2点です。前者は分かりやすいですが、後者の評価ができるか、すなわち、データが取れるかどうか。それさえできれば問題なくできるはずだと個人的には思います。国内の社会課題を反映し、幅広いステークホルダーに受け入れられるインパクト評価システムがなければ前に進みにくいというのもあると思いますが、社会的インパクトの評価はやらなくてはならないという動きは、国内でも盛り上がっています。こうした動きと並行して、投資自体が促進されればと思います。そして、評価やそれぞれの役割を担うプレイヤーが日本国内で育つ環境設定は必要です。評価システムができ、ネットワークができ、プロダクトができ、エコシステムが構築されれば、前に進むのではないか、と期待しています。  もう一つ気づいた点は、海外投資をする私たちと、国内投資を見ている機関では、なぜだか分断されています。諸外国の財団は海外も国内もカバーしていますが、日本では海外向けと国内向けで財団が分離しています。NGOも同じです。活動の場所は違えど、社会課題の解決を目指す組織同士、将来的に交流ができればと思います。 インタビューを終えて  途上国開発やコミュニティ開発は、対象となる地域や分野にもよるが、従来の寄付型援助からビジネスモデルの形成を利用した持続可能な援助形態に移行しつつある。一方、これまでの伝統的な投資運用の世界では、政府が運用する公的な資金がESG投資で運用され、欧米富裕層の間で社会的リターンと投資リターンの両方を追うインパクト投資へのアセットアロケーション(資産配分)が進んだことから、社会的意義を問う投資手法の開発が進んだ。  これまで全く別のものと考えられてきた、寄付型のチャリティ活動と従来の投資運用業の性質を分ける境目が薄まりつつある中で、それぞれの立場の団体が得意とする手法がどう具現化するか、日本でどのような展開が広がるのか、非常に興味深い。  国内大手銀行から世界銀行へ、途上国開発の現場を政府レベルから草の根レベルまで歩んでこられた小木曽氏が、日本で例を見ない取り組みに正面から挑んでいらっしゃる力強さが印象的だった。ジェンダーの取り組みは女性が残す成果に正当な評価を行う外部環境の整備も必要であるが、彼女自身の働き方からは、女性が実績や結果を残す力を身につける重要性が伝わって来た。

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【インタビュー】米TruValue Labs、人工知能活用の画期的な企業分析ツール「Insight360」

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 ESG投資にフィンテックの波が押し寄せている。フィンテックはこれまで決済を中心に新たなサービスが誕生してきたが、徐々に投資運用にもフィンテックが使われるようになってきた。そして今、ESG投資の世界でもAIを用いたサービスが誕生してきている。  投資運用におけるAIの活用は、一般的にクオンツ運用モデルの開発用に検討されていることが多い。AIは、人間が感知しきれない市場の異常値(アノマリー)を見出し、そこからリターンを得ることができると考えられているためだ。近年は、AIを用いて自動的にトレーディングの執行までをミリ秒単位などの高頻度で行う「高頻度取引(HFT)」までもが行われるようになってきている。  一方、長期思考を重要視し、投資先の内容をじっくり吟味するESG投資においては、AI活用は縁遠いという見方がこれまで強かった。実際、ESG投資で用いられる企業のESG評価では、企業が毎年報告するアニュアルレポートを基に各項目をデータ化しているため、1年単位という比較的少ない頻度で銘柄選定に反映されることが多い。しかし、この手法では、企業の不祥事や悪い材料が出てきた際に、タイムリーに銘柄評価に反映させることができないというデメリットがある。それへの対応策として、主要なESGインデックスでは、日々のニュースの中で「Controversy(物議)」なものをウォッチし、できる限り素早く評価に反映する工夫がなされている。そして、この日々のニュースをモニタリングするためのツールとして、AIを活用するサービスも生まれてきている。  しかし今回紹介するTruValue Labsのツール「Insight360」は、これまでの手法とは一線を画する方法でESG評価にAIを活用している。TruValue Labsは、AIエンジニアが中心となり2013年7月に米サンフランシスコで創業した企業。TruValue Labsが開発したInsight360が画期的なのは、企業のESG評価に、企業が情報開示するアニュアルレポートやESG評価機関のスコアデータを一切使わない点にある。代わりに、世の中に出回っている膨大な活字データをもとに、企業のESG関連の各項目をスコアリングするという非常に新しいアプローチを採っている。この独創的なツールは、米国を軸に世界中の機関投資家の支持を獲得しつつある。    アニュアルレポートのデータを活用しないESG評価はどのようにして可能なのか。Insight360を基に運用した場合に超過リターンは得られるのか。2017年12月、来日したTruValue Labsのデービッド・シルバーChief Revenue Officerに直接話を伺った。 デービッド・シルバー Chief Revenue Officer まずInsight360の概要を教えてください  当社では、ESG、AI、ビッグデータという世界的に大きなトレンドとなっている3領域を包摂する形で銘柄評価や投資ポートフォリオ評価を行うツールを提供しています。  昨今ESG投資は世界的に非常に大きなうなりとなっています。この背景には、企業価値に占める無形資産(Intangibles)価値の割合が近年大きく上昇していることがあると考えています。無形資産には、知的財産の価値やブランド価値等が含まれます。企業価値に占める無形資産の割合は、1975年にはわずか17%でしたが、1995年には68%、2015年には87%にまで高まってきています。そのため、企業価値を評価する側にも、財務情報だけでなく、非財務情報を的確に分析する力が必要となってきています。 TruValue LabsがESG評価でAIを活用している背景は?  私たちがESG評価にAIやビッグデータを活用していることには大きな理由があります。これまで企業のESGを評価する主流の手法は、企業自身が開示するデータや報告をもとに評価を行うというものでした。しかし、私たちは、それは優れたESG評価の方法として十分だとは考えていません。企業の評価を行うのであれば、企業の言い分でなく、企業以外の第三者が行う企業の評価をもとにESG評価をするべきだと考えているからです。  私たちは、AIを活用して、75,000もの英語のオンライン情報ソースを常にウォッチし、情報を収集しています。情報ソースには、オンラインニュースサイト、政府当局の発表、政府の調査レポート、業界団体や調査機関の発表、NGOが発信するニュースやレポートやインフルエンサーの発信する情報等が含まれます。この中に、企業自身が発表するプレスリリースは含まれていません。 その情報からどのようにESG評価を行うのですか?  こうして収集する情報の量は毎月100万を超えます。それをさらにAIを用いてESG関連テーマの情報だけを抽出していきます。抽出は単純なキーワード検索ではなく、自然言語処理技術(NLP)を用いて文脈を判断し、ESGとの関連性を自動的に判別していきます。抽出後の情報量は約30%となり、毎月30万件程度となります。  当社のツールの大きな特徴の一つは、良い情報も悪い情報も双方収集することにあります。他社のツールでは、「Controversy」という悪い情報だけを集めたりしていますが、ここが大きな違いです。そのため、収集されたESG関連情報はさらに自動現処理技術によりリアルタイムで「ポジティブ」なものか「ネガティブ」なものかが文脈から自動判定されます。判定は0から100までの尺度で行い、50より上がポジティブ、50より下がネガティブなものとしています。  収集されたESG関連情報は、同様にAIにより、当社が設定しているESG評価14項目に分類されていきます。次に、各項目のポジティブ・ネガティブ度合いの判定を行います。そして、全項目の単純平均を総合スコアとして算出します。この一連のプロセスを、新たな情報が出る度にAIがリアルタイムで次々と処理をしていきます。  これに加え、最近の開発で、SASBが設定しているESGの30項目でも分析できるSASB版が追加されました。こちらは、SASB30項目の総合スコアに加えて、当該企業の業種のSASBマテリアリティ項目のESGパフォーマンスを確認することが出来ます。 リアルタイムで評価するということは、企業評価が刻々と変わるということですよね?  そうです。私たちのツールでは、ほぼリアルタイム単位のスコアを「Pulse」と呼んでいます。ですが、Pulseは、その時点で発信された情報に大きく左右され、ボラティリティが高くなりやすい。実際に企業評価をする際には、Pulseの細かい動きではなく、Pulseのトレンドの変化こそが重要だと思っています。  そのため、私たちのツールでは、より長期での移動平均を「Insight」、より短期(ツール上では12か月)での移動平均を「Momentum」と呼び、企業ごとにその2つを表示できるようになっています。これにより、各企業のESGの動向の変化を捉え、投資判断に活用できるようになっています。  また同時に、各企業について、過去12ヶ月間の情報量の多さを示す、すなわち情報の信頼度を示す「Volume」スコアも表示しています。  Pulseを形成する日々の情報の中身も、シームレスに閲覧することができます。各情報の閲覧ページ上部には、AIが自動的に文章の要約を作成、表示するという便利機能も備わっています。 現在何社のESGデータがありますか?  Insight360は現在、世界8,500社をモニターしています。そのうち約4,000社は米国の上場企業。残り4,500社はMSCIワールドやMSCI新興国インデックスの採用企業ですので日本企業も含まれています。  この8,500社については、過去3年分のPulse、Insight、Momentum、Volumeのデータが閲覧できます。来年1月からは、そのうちS&P500とラッセル1000採用企業については過去5年分のデータが、来年2月からは、S&P500については過去10年分のデータが見られるようになる予定です。 機関投資家はInsight360をどのように活用していますか? (出所)TruValue Labsホームページ  Insight360では、各企業について総合スコアとマテリアリティ毎のスコアを閲覧できますし。そのすぐ上には業界平均データも表示していますので、業界平均との比較も迅速にできます。これにより、当該企業の評価が高いのか低いのかがすぐにわかります。その右側には、InsightとMomentumのトレンド動向が表示されています。  さらに、Insight360は、各企業の個別の分析だけでなく、同じ方法でポートフォリオ全体の分析も行えるようになっています。ポートフォリオの中で、好調な銘柄と不調な銘柄をすぐに見分けることができます。  Insight360の具体的な活用方法にはいくつかありますが、とりわけポートフォリオ構築・管理、リスク管理、エンゲージメントツールとして使われています。例えば、運用会社は、Insight360での各企業のESG動向を把握し、ポートフォリオ管理やリスク管理、またアセットオーナー向けの報告や、投資先企業へのエンゲージメントを行っています。また、アセットオーナー側は、各社のESG動向をタイムリーに把握することで、運用会社とコミュニケーションをする材料として活用しています。 Insight360を活用することで投資パフォーマンスは高くなりますか? (出所)TruValue Labs  上のグラフは、2013年1月から2017年6月までのリターンを比較したものです。一番下がS&P500(ベンチマーク)。真ん中がS&P500のうち、Volumeが小さい企業を除外し、さらに総合スコアのInsightが低い企業を除外した167社のリターン。一番上が、その167社のうちMomentumが高い上位50社のみのリターンです。  ご覧のように、Insight360をフル活用した一番上の線は、ベンチマークと比べ年間リターンが5%高く、真ん中の線でも3.5%高いという結果が出ています。 (出所)TruValue Labs  こちらのグラフは、伝統的なスマートベータとの比較です。こちらもS&P500がベンチマークです。ファクターモデルを用いたスマートベータのリターンが薄い青。Insight360 を活用したモデルのリターンが緑。両方を合わせたものが濃い青です。こちらでも、Insight360を用いた緑のリターンが高いことがわかりますし、既存のスマートベートと組み合わせてもリターンが高く出ることも確認できます。 インタビューを終えて  今回のインタビューの中で、TruValue Labsより、企業自身が開示する情報を一切用いず、外部評価のみを用いているという話を聞いたとき、正直驚きました。これまで企業の情報開示や報告書は、投資家と投資先企業のコミュニケーションと言われ、企業が適切な情報を正しく開示することに重点が置かれてきました。しかし、TruValue Labsのアプローチは、この前提を根本から否定しているように聞こえます。  このように全てを外部評価のみに頼るという分析手法は、投資運用の世界で主流になったとはまだ言えません。TruValue Labsのツールを活用するアセットオーナーや運用会社も、これまでの分析手法やツールを補完する形でTruValue Labsのツールを利用しているようです。しかしながら、今後も「補完」という位置づけのみに留まると断じることはできません。  2017年には、企業の情報開示の信頼性を揺るがすような事件が日本企業の間でも相次ぎました。産業界全体で企業の情報開示への信頼を高める状態を創り上げていかなければ、TruValue Labsのアプローチが徐々に主流になっていくのかもしれません。

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【インタビュー】JICAの「地球ひろば」〜市民参加による国際協力の拠点〜(JICA特集第3回)

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 国際協力機構(JICA)インタビュー第3弾は、JICAの「地球ひろば」。JICA地球ひろばは、「市民参加による国際協力の拠点」を掲げ、体験型展示を通じて発展途上国の現状や国際協力の実情を伝える場として、2006年4月に設立されました。現在、東京都新宿市ヶ谷にある「JICA地球ひろば」、そして名古屋市ささしまライブ24地区の「なごや地球ひろば」、北海道札幌市の「ほっかいどう地球ひろば」の全国3ヶ所に設置されています。  JICA地球ひろばの主要来館者は、中学校や高校の修学旅行生ですが、企業の海外進出や持続可能な開発目標(SDGs)への関心の高まりを受け、最近では企業研修や社会人の自主的な学習の場として活用されるようなっています。また、「学ぶ側」だけでなく、「伝える側」としての企業との接点も増えています。地球ひろばの展示では、発展途上国で事業展開している企業の活動を紹介することが増加。企業が広報の場としても活用するようになりました。このように、JICA地球ひろばと企業の関係は年々深まってきています。  一方、JICA地球ひろばの認知度はさほど高くないのも事実。今回は、JICA地球ひろばを担当している広報室地球ひろば推進課に、JICA地球ひろばの紹介と企業との関わりについて紹介して頂きました。 小林英里子 広報室地球ひろば推進課 主任調査役 JICA地球ひろばとはどのような施設ですか? 小林英里子氏:  市ヶ谷のJICA地球ひろばだけで、毎年3万人以上の方が展示見学に来て下さっています。来館者の多くは中学校、高校の修学旅行生ですが、最近は企業の方も増えてきました。今年の3月から9月までSDGsをテーマとした企画展を実施したのですが、そのときには企業の方の利用が非常に増えました。国連グローバル・コンパクト(UNGC)のグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)の会員企業30名程の方をご案内したこともあります。私たちも、企業のSDGsへの関心が高まっているなと感じます。  JICA地球ひろばは、人間の安全保障をテーマとした「基本展示」と、特別テーマを設定した「企画展示」を4ヶ月毎に交互に行っています。現在は企画展示を開催中で、今回のテーマは「『衣』を通じて見る世界」。日本のアパレルメーカーさんにも多数ご協力を頂き、アパレルの原材料となる綿花のことや、農薬等による健康被害、現地農家の所得の状況、衣料の廃棄が多い日本の現状などを幅広く紹介しています。 JICA地球ひろばは「体験型」にこだわっているようですね? 小林氏:  そうなんです。展示では、パネルを通じた文字情報だけでなく、五感を通じて感じてもらうことで、開発途上国の状況を理解してもらう工夫をこらしています。例えば、開発途上国では、子供たちが生活用水を何kmも離れた井戸まで汲みに行き、水の入ったバケツを毎日のように運んでいますが、展示では実際に相当重量のバケツを用意し、重さを体感してもらっています。  また、JICA地球ひろばでは常時、展示ガイド「地球案内人」が待機しており、来館者の方に体験談を通じて、現地の状況をリアルに理解してもらおうともしています。展示ガイドは、JICAの青年海外協力隊に参加し、開発途上国で数年間現地活動をしていたOBやOGです。私たちとしては、「途上国の人たちは可哀想」というものではなく、「途上国の人たちは、私たちとさほど変わらない同じ人間だ」「日本にはないこんな魅力がある」というような、ポジティブな面を積極的に知って頂き、身近に感じてもらいたいと思っています。青年海外協力隊のOBやOGから、具体的な話を聞くことで、現地の生活や人々の気持ちや、関わる人々の想いなどをぜひ知って頂きたいです。ガイドは20代が多く、親しみやすい解説は、修学旅行生だけでなく、企業の方にも好評を頂いております。 JICA地球ひろばに企業が来館するときには事前連絡したほうがよいですか? 小林氏:  一人で来られる方も多くいますし、自由に誰でも来られる場所ですので通常事前予約はいりません。ですが、修学旅行生などの団体の方が来られる場合には、事前予約頂くことが多いです。そのほうが、こちらもしっかりした体制で見学して頂けますので。企業の方も10名以上で来られる場合には、丁寧なご案内をさせて頂くため、事前に予約頂けると大変助かります。 展示に協力頂く企業はどのように選んでいますか? 小林氏:  協力頂く企業は、テーマに合わせて取り上げたい企業に対し、こちらからお願いをしています。そのため、私たちも常日頃から、企業の取組に関する情報収集を進めています。当然、新聞やテレビ、オンラインニュースサイトには目を通していますし、12月に開催されていた「エコプロ2017」にも行き、最新の動向をキャッチアップしてきました。  協力企業の打診では、大手企業だけでなく、よい取組をされている中小企業にもお声がけをしています。日本と開発途上国の関わりは、援助機関やNGOだけでなく、企業が現地事業やサプライチェーンを通じて大きな役割を果たしていると認識していますので、企業との連携は大切にしていきたいです。  また、名古屋と札幌の地球ひろばでは、地域経済との関係性も重視していますので、積極的に地域の企業に展示協力をお願いしています。 他にも企業と地球ひろばとの関わりはありますか? 小林氏:  通常の展示とは別に、「月間特別展示」というものがあります。こちらは、JICA地球ひろばのロビーの目立つ場所を使って、1ヶ月間、企業1社のSDGsへの取組を紹介するというもので、2016年1月から開始しました。現在は、企画展示「『衣』を通じて見る世界」にもご協力いただいている株式会社良品計画の展示を行っています。  月間特別展示は、奇数月に開発途上国の国別展示を、偶数月に企業の展示を行っています。これまでに、パナソニック、大日本印刷、リコー、ヤマハ発動機、森永製菓等の大手企業や、音力発電、トロムソなどのベンチャー企業に参加して頂いています。  月間特別展示の参加は無料ですが展示にご協力いただく企業には、出展料のご負担は無く、商品や写真、パネルなどを貸して頂くとともに、展示期間の月に1回、社会人向けセミナーの講師としてお話して頂いています。 月間特別展示はどのような方が見ていますか? 小林氏:  JICA地球ひろばがあるJICA市ヶ谷ビルには、大きな会議室やJICAの研究機関である「JICA研究所」も入っています。そのためJICA関連の研修やセミナーをこちらの施設で実施することは多く、国際協力関連の企業や、開発コンサルタント会社の方がよくいらっしゃいます。また、JICA研究所の研究員やJICAの職員も出入りしていますし、会議室をNGOや学生団体が利用できる制度もあるため、そうした団体の方々もいらっしゃいます。SDGsをテーマとしたシリーズセミナー「SDGsサロン」も開催しており、企業も来ていただきますし、二階の食堂を利用する近隣の企業の方も多く来られているようです。 インタビューを終えて  日本という社会は、企業のサプライチェーンを通じて発展途上国と大きな関わりをもっています。しかし日頃それを意識する機会はあまり多くはありません。JICAが国際協力という観点から企業の取組を展示していることを知り、正直驚きました。また、この施設に毎年多くの学生が訪れ、大人も知らないような話を見聞きしているのだと思うと希望が湧いてきます。今回のインタビューでも、地球ひろばを訪れた子供たちは、企業を見る目が変化しているという話も伺えました。  他方、現状のJICAの展示には、取組の経済性や事業性に関する説明はあまりないとも感じました。それはJICAが国際協力という文脈から展示を行っているからなのかもしれません。しかしながら企業には、取組を継続的に実施していくためにも、経済性が求められています。国際協力と同時に事業として成立しているという説明が、このような展示の中でもされるような世の中にしていきたいと思います。

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