英リシ・スナク首相は9月20日、英カーボンニュートラル戦略について演説を実施。前政権中までに発表していた政策の一部を延期または撤回した。一方、ソリューションへのコスト削減は加速させる思いを語った。
スナク首相が今回演説の中で語ったのは、まず、ガソリン・ディーゼル車の新車販売禁止を当初予定の2030年から2035年に後ろ倒し。また、ガス網に接続されていない住宅での化石燃料ボイラーの設置禁止も、2026年以降はボイラーの切り替え時に関しヒートポンプへの切替を義務化し、全ての転換義務は2035年まで延期した。ボイラーをヒートポンプに交換する人々には、ボイラー・アップグレード・スキームの補助金を50%増額し、7,500ポンドにする。住宅への省エネ性能の引上げ義務も撤回した。
加えて、まだ決定されていはいなかったが、一部政策の提案がなされていた牛肉や乳製品への課税、飛行機登場への課税、リサイクル目標達成のための7種類の分別回収、通勤でのカーシェアリングの義務化についてもスナク政権では議論を先に進めることはないと述べた。
スナク首相は今回、気候変動による現象がすでに発生していることに触れ、二酸化炭素排出量を「削減しなければならない」と表明。また、「グリーン産業に大きなチャンスがあると確信している」とも伝えた。2050年カーボンニュートラル目標と、2030年の排出削減目標は維持した。
今回の意思決定の背景については、国民生活の困窮を挙げた。すでに英国は、フランス、米国、中国と比べ、1990年比で大幅な削減を達成しており、さらに今回発表した内容は、「ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、オーストラリア、カナダ、スウェーデン、カリフォルニア、ニューヨーク、マサチューセッツといった米国の各州と歩調を合わせている」と伝え、他国に比べて遅れているわけではないと強調した。
スナク首相は、保守党と労働党の双方の政権での従来の政策の進め方に問題があったと述べた。また「まず、議論を変える必要がある。私たちは両極端の間で行き詰まっている。コストが高すぎる、負担が大きすぎる、場合によっては気候変動の圧倒的な証拠をまったく受け入れないという理由で、ネットゼロを完全に放棄しようとする人々がいる。また、イデオロギー的な熱意をもって主張する人たちもいる。たとえコストがかかろうとも、人々の生活に混乱が生じようとも、またすでに他のどの国よりも早く進んでいるにもかかわらず、私たちはさらに速く、さらに先に進まなければならないと言っている。両極端はどちらも間違っている。どちらも現実を直視していない。」と語った。
スナク首相は、急速なイノベーションにより、緩和ソリューションとなる技術のコスト削減が大幅に下がったことを強調し、コスト削減への努力をさらに加速することを伝えた。特に電気自動車(EV)の可能性を挙げ、2030年までに新車販売の過半数がEVになることを期待していると述べた。
エネルギー政策では、北海での石油・ガス開発を断行するとしつつ、陸上風力発電を解禁。炭素回収・貯留(CCS)プロジェクト4ヶ所に資金を拠出しつつ、原子力発電所を30年ぶりに新設することも表明した。小型モジュール炉(SMR)を建設する企業の最終選考も秋に行う。再生可能エネルギー発電所の系統接続では、先着順方式をやめ、準備が整ったものから先に接続できるようにする。
スナク首相は、今回の発表のため、9月中旬から始まった国連総会での首相演説と、それに合わせてアントニオ・グテーレス国連事務総長が開催する気候野心サミットへの参加を辞退。政府筋は多忙を理由としたが、国連で大きな批判を浴びることをおそれたとのではないかと英メディアは報道している。
今回のスナク首相の演説を前に、機関投資家36機関も8月、公開書簡を発表し、最近の英政府の方針が、カーボンニュートラルに向けた投資を遅らせるリスクがあると批判し、政策の長期的一貫性を要求していた。
【参考】【イギリス】機関投資家36機関、スナク首相に政策一貫性要求。サステナブルファイナンス促進(2023年9月6日)
【参照ページ】PM speech on Net Zero: 20 September 2023
【参照ページ】PM recommits UK to Net Zero by 2050 and pledges a “fairer” path to achieving target to ease the financial burden on British families
【参照ページ】What the PM’s new approach to Net Zero means for you
【参照ページ】New approach to Net Zero: International comparisons
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