EU下院の役割を担う欧州議会は7月12日、欧州委員会が提案した自然再生法の見解を、賛成336、反対300、棄権13の僅差の賛成多数で可決した。一方、欧州委員会の提案を否決する議案では、賛成312、反対324、棄権12の反対多数で否決された。これにより、欧州議会は自然再生法の制定に向け、EU上院の役割を担うEU加盟国閣僚級のEU理事会との交渉に入る準備が整った。
【参考】【EU】欧州委、自然再生法と農薬50%減で政策発表。生物多様性戦略を具体化(2022年6月24日)
【参考】【EU】世界大手50社、EUに自然再生法の早期成立要請。ネイチャーポジティブとカーボンニュートラル(2023年6月19日)
今回の採決は、欧州議会とEU理事会との立法に向けた政治的合意の前に、欧州議会としての見解を決議したもの。可決されたことで、EU理事会及び講習委員会との交渉に入る。EU理事会は6月20日に交渉方針を可決していた。
自然再生法は、EUの2030年生物多様性戦略の実現と、第15回生物多様性条約締約国会議(CBD COP15)で採択される予定の2020年移行の国際的な生物多様性フレームワークでのEUの立場を掲げる役割を担うもの。EUの湿地、河川、森林、草原、海洋生態系、都市環境、関連する生物種の再生は、1ユーロに当たり8ユーロから38ユーロの経済価値を創出するとし、EUの食糧安全保障、気候変動レジリエンス、健康、幸福につながるとしている。
EU理事会での決議では、EU加盟国は、2030年までに、陸域、沿岸域、淡水域、海洋の生態系において、良好な状態でない生息地の30%を良好な状態に再生させるための措置を講じることで合意。欧州委員会の原案は、各生息地グループの面積が分母だったが、EU理事会は、良好な状態ではないとされる生息地の総面積を分母とし、30%以上とすることで一致した。一方、同指標について2040年までに60%以上、2050年までに90%以上と目標を引き上げることでも合意した。但し、軟弱堆積物での生息地については、2030年目標は適用されないことも確認した。
都市生態系と泥炭地に関する目標も緩和。農業利用されている泥炭地では、2030年までに30%、2050年までに50%を再湿潤化することで合意。但し、大きな影響を受ける加盟国に関しては目標引下げを認める道も残した。
EU加盟国に課される「国家再生計画」の策定についても、欧州委員会案では、同法発効から2年後までに、2050年までの完全な計画を提出するという内容だったが、EU理事会では、3段階で提出する案で合意。具体的には、第1段階で発効から2年後までに、2032年6月までの国家再生計画と、2032年6月以降の戦略的概要を提出。第2段階で、2032年6月までに、2042年までの再生計画と、2050年までの戦略的概要とを提出。第3段階で、2042年6月までに、2050年までの再生計画を提出する。
さらにEU理事会は、再生可能エネルギー発電所の計画、建設、運転、系統連系等は、優先的な公共の利益を有するとみなされることを規定する新たな条文も追加した。
欧州議会の議論では、食料安全保障との兼ね合いが大きな論点となり、欧州委員会が長期的な食料安全保障を保証するために必要な条件に関するデータを提供し、EU加盟国が生息地の種類毎に復元目標を達成するために復元が必要な面積を定量化した場合にのみ、同法が適用されるとした。また、例外的な社会経済的影響がある場合には、目標延期を認めるべきとした。決議では、生態系の回復が気候変動と生物多様性の喪失に対抗する鍵であり、食糧安全保障のリスクを軽減するものであることを強調した。
【参照ページ】Nature restoration law: MEPs adopt position for negotiations with Council
【参照ページ】Council reaches agreement on the nature restoration law
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