欧州委員会は5月24日、個人投資家の利益をリテール投資の中心に据えた「リテール投資パッケージ」を採択した。今後、第2次金融商品市場指令(MiFID II)、保険販売業務指令(IDD)、譲渡可能証券(UCITS)指令、オルタナティブ投資ファンド運用会社指令(AIFMD)、保険・再保険事業の開始・追求指令(ソルベンシーII)等の改正と、パッケージ型小売・保険型投資商品(PRIIPs)規則の改正の作業を進める。
欧州委員会は今回、EUの個人資産のうち有価証券に投資されている割合が2021年時点でも17%にとどまっており、米国より低いことを指摘。また、機関投資家より、個人投資家は40%も高いフィーを支払っている問題も挙げた。2023年時点で、リテール投資家の45%が、金融仲介会社から受けている投資助言に自信をもっていないという調査結果も紹介した。
また最近の課題として、個人投資家は、十分な投資商品情報にアクセスすることが未だに困難であり、あらに、SNSや新たなチャネルで誤解を招くマーケティングに影響されるリスクが高まっていることを挙げた。運用会社から販社へのインセンティブが、利益相反につながるリスクや、信託報酬が不当に高い商品があることにも対処が必要とした。
今回のパッケージでは、個人投資家が、そのニーズや嗜好に沿った投資判断を下せるようにすることを目的とし、EU市民の資本市場への参加をさらに促すことを狙う。これにより、グリーンおよびデジタル移行の分野にさらなる資金を供給していく。
具体的には、まず、金融商品の情報開示の規制レベルを引き上げる。PRIIPs規則では、重要事項説明書(KID)の発行を義務付けているが、文書上部に「サマリー・ダッシュボード」の項目を設置。さらに、PDFでの「レイヤリング」機能を有効にし、読者が必要な情報に迅速に飛べるようにする。さらに、主要情報文書に新たに「サステナビリティ」のセクションも設ける。
信託報酬面では、「バリュー・フォー・マネー」ルールを導入する。まず、ESMA(欧州証券市場監督局)とEIOPA(欧州保険・企業年金監督局)が、運用会社や保険会社、販社が製品を市場に提供する前に比較するためのコストとパフォーマンスの用語や幼児に関する統一ルールを策定し、運用会社や保険会社、販社は、同ルールの遵守が義務付けられる。
利益相反対策では、販売相手への投資助言が提供されない投資商品については、販売奨励手数料を運用会社から販社に支払うことを禁止。投資助言を行う場合にも、個人投資家の利益のために行動する義務を新設する。販売奨励が認められる場合、販社は、販売奨励の内容、コスト、投資収益への影響について顧客に知らせることを義務付ける。さらに第2弾では、3年後に、販売奨励の影響と新規則の影響を評価し、消費者損害が継続していると判断した場合には、規制を強化する。ここでの投資助言は「個人投資家に対する個人的な推奨の提供」と定義されている。非金銭的な販売奨励については、年間100ユーロ以下の範囲内で認められる。
SNSやその他のデジタルチャネルを通じ、金融界のインフルエンサーである「フィンフルエンサー」を活用して投資商品、サービス、会社を宣伝する場合には、発注企業の経営陣が全責任を負うことや、記録保持義務を課す。さらに、当局は、マーケティング・コミュニケーションや慣行を停止または禁止することができるようになり、深刻な場合には、オンライン・コンテンツへのアクセス制限や削除を要求する権限も認める。
ファイナンシャル・アドバイザーについては、MiFID IIを改正し、アドバイザーの知識と能力に関する特定要件が法的要件に昇格し、サステナブル投資に関する追加要素も導入する。証明書の取得も義務付ける。IDDの現行要件と同様に、継続的な専門的トレーニングの限定的な要件も導入する。IDDでも、サステナブル投資要素が加わり、証明書の取得が義務付けられる。同時に、年齢、社会的・教育的背景にかかわらず、市民の金融リテラシーを支援できる国内措置を実施するよう加盟国に奨励する。
一方、プロ投資家に対する説明事務コストを下げるため、プロ投資家の資格基準を明確にし、レベルに応じて説明義務を免除していく。
【参照ページ】Capital Markets Union: Commission proposes new rules to protect and empower retail investors in the EU
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