オーストラリア連邦上院と下院は3月30日、同国の二酸化炭素排出量取引制度を改正する法案を可決した。2023年7月1日から新制度に移行する。2022年5月に自由党から労働党に政権が移り、いよいよ本格的なキャップ&トレード型の排出量取引制度が動き出す。
オーストラリアでは、労働党政権だった2008年に排出量取引制度の概要が発表され、2012年7月に導入が決定。2015年7月から制度が開始する予定だったが、その後に総選挙で自由党に敗北。自由党政権は排出量取引制度の導入を撤回し、企業の排出削減を支援するため「排出量削減基金(ERF)」を創設されていた。また別途、カーボンクレジットの創出については、2011年に炭素クレジット法が制定され、農業でのカーボンクレジット創出制度「低炭素農業イニシアチブ(CFI)」が開始。2015年から政府が、ERFに25億5,000万米ドルを拠出し、CFIで創出されたカーボンクレジット(ACCU)を購入する仕組みが始まっていた。
今回国会を通過したのは、主に2011年の炭素クレジット法の改正。同法では、企業の排出量を削減するためのERF運用において、企業が他の分野で排出量を増加させることを防ぐため「セーフガード・メカニズム」というものが盛り込まれており、2016年から運用が開始されている。セーフガード・メカニズムでは、年間の二酸化炭素排出量が10万t以上の事業所に対し、オフセット前の排出量で基準値(ベースライン)を設定。ベースラインを達成できない企業には、ERFを通じてACCUの購入を義務化している。2020年度にはACCUが1,660万分発行され、前年℃から20%増加していた。
労働党政権移行後に決まった今回の制度改正では、まず、2023年7月1日から20230年末までに、ベースラインを毎年平均4.9%削減し、2030年以降は業界平均がベンチマークとなる。ベースラインは原単位排出量で算定され、新規施設に関しては国際的なベストプラクティスの原単位が用いられる。ベースラインを下回った場合は、自動的にセーフガード・メカニズム・クレジット(SMC)を取得し、売却可能。一方、ベースラインを上回った場合は、SMCもしくはACCUを購入して相殺しなければならない。罰則は、ベースライン超過1t当たり275米ドル。
またSMC借入という制度も盛り込まれた。企業はSMCを政府から借入し、10%の金利相当分を支払うことが可能となる。借入で目標達成できる量はベースラインの10%が上限。同制度は2030年以降は使用することができない。また新興技術に対する特例措置も拡充し、長期的な設備投資を後押しする。また政府は、保有するACCUを2023年度に1t当たり75米ドルで売却し、初年度のSMC市場価格を引き下げる。
さらに、輸出志向型産業の国際競争力を維持するための特別ルールも設定した。輸出シェアが10%を超える製品の事業所に対しては、まず総額6億オーストラリアドルの政府基金からの補助金が受けられる。また当局との折衝により、毎年のベースライン削減率を通常の4.9%から引き下げる(下限は2%)ことができるようにもした。
今回の法改正では、与党労働党と緑の党の間でも交渉があり、合意に至った。まず、2020年7月1日から2030年6月30日までの全会計年度において、ベースラインとして設定する排出量の上限を12億3,300万tに設定。これにより国内全体排出量の着実な削減に結びつける。また、独立政府機関の気候変動局(CCA)がオーストラリア気候変動・エネルギー・環境・水資源相に制度改正を助言した場合、大臣はパブリックコメントを募集し、制度レビューを行う義務を追う。さらに、制度対象となる大規模事業者が新たに出現し、政府が認可する場合には、オーストラリア気候変動・エネルギー・環境・水資源省(DCCEEW)と気候変動局に事前通知するルールも課す。
加えて、新規ガス田に関しては、全ての国際的なベストプラクティスの原単位が課せられることも決まった。これによりスコープ1排出量を最初からゼロにしなければならなず、排出分は全てCMSまたはACCUを購入し相殺しなければならない。あわせてメタンと一酸化二窒素に関しても、大規模事業者は報告義務を課す考え。
今回の法改正は、複数の法改正を当時に伴って完成するため、まだ全貌は見えていない。今回、緑の党と合意した修正点についても、別の法改正で反映されるものもある。但し、7月1日にセーフガード・メカニズムの改革が開始されることは決まっている。
【参照ページ】Safeguard Mechanism (Crediting) Amendment Bill 2023
Sustainable Japanの特長
Sustainable Japanは、サステナビリティ・ESGに関する
様々な情報収集を効率化できる専門メディアです。
- 時価総額上位100社の96%が登録済
- 業界第一人者が編集長
- 7記事/日程度追加、合計11,000以上の記事を読める
- 重要ニュースをウェビナーで分かりやすく解説※1
さらに詳しく ログインする※1:重要ニュース解説ウェビナー「SJダイジェスト」。詳細はこちら