英エネルギーデータ大手ブルームバーグNEF(BNEF)は2024年8月、世界の再生可能エネルギーの動向に関する報告書を発表。その中で2023年の世界全体の発電量のうち、水力発電、原子力発電、再生可能エネルギー発電の合計が史上初めて40%以上となったと報告した。内訳は、水力発電は14.7%、風力発電と太陽光発電はともに13.9%となり過去最高を記録した。
太陽光発電パネルの製品市場は大きな成長を続けてきたが、今後はどうなるのだろうか。2024年1月から6月までの上半期の太陽光発電パネルの販売結果から、今後の動向をみていこう。
2024年上半期の太陽光発電セルの市場TOP5
(出所)IEA
「PVPS 2023」 太陽光発電パネルのサプライチェーンのプロセスは、金属シリコン、ポリシリコン、ポリシリコンを加工したウエハー、ウエハーを加工した太陽光発電パネルの最小単位であるセル、セルを組み合わせたモジュールの開発を経て、太陽光発電システムが構築される。
2024年上半期の結果では、セル市場のトレンドが大きく変化した。セルの出荷ランキングの上位5位は、首位は中潤光能(Solar Space)、第2位は捷泰科技(Jietai Solar)、第3位は通威集団(Tongwei Group)、同率第4位が愛旭新能源(Aiko Solar Energy)と英発集団(Yinfa Group)だった。
Rank | Company |
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1 | 中潤光能(Solar Space) |
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2 | 捷泰科技(Jietai Solar) |
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3 | 通威集団(Tongwei Group) |
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4 | 愛旭新能源(Aiko Solar Energy)、英発集団(Yinfa Group) |
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(出所)Info Link Consulting「Cell Shipment Ranking 1H24」よりニューラル作成
上位5社の2024年上半期の合計は約78GW。これは前年比8%の減少となり、過去数年間の太陽光発電パネル市場の急速な成長が停滞する兆しがある。
約78GWのうち、p型PERCセル(Passivated Emitter and Rear Cell)が37.3GW、n型TOPCon(Tunnel Oxide Passivated Contacts)セルが40.6GWとなり、TOPConセルがPERCセルの市場シェアを追い抜いた。
TOPConセルの価格は、2024年の年初は0.47人民元(約9.5円)/Wだったが、供給過剰による価格暴落が発生し、6月末までに0.3人民元(約6.1円)/Wに下落、36%も減少した。結果、セル製造メーカーのIPOに影響を与え、Solar Spaceと江蘇潤陽新能源科技(Runergy)は深圳証券取引所での上場が中止となった。
競争の激化に伴い、セル製造メーカーは2つの方針転換を進めている。1つ目は、バリューチェーンの拡大。セル製造だけではなく、モジュール製造に事業を拡大している。
2つ目は、海外市場への進出。中国の大手セル製造メーカーがベトナム、マレーシア、タイ、カンボジア等に生産拠点を構築している。Solar Spaceはラオスに進出、Jietai Solarはオマーン、Yinfa Groupはインドネシアに進出する計画を発表している。
米国では2022年11月、特定の結晶シリコン型の太陽光発電パネルに対するアンチダンピングおよび相殺関税(AD/CVD)の適用を一時的に免除する制度を導入。中国で原材料がダンピング生産され、タイ、ベトナム、カンボジア、マレーシアで安価に生産された太陽光発電パネルに対し、米国は相殺措置を発動しないことを決めている。この制度が企業戦略に与える影響も大きい。
【参考】【アメリカ】バイデン大統領、太陽光発電パネル輸入の反ダンピング停止解除に拒否権。現行制度継続(2023年5月18日)
PERCセルとTOPConセルの違い
今後市場シェアを拡大していくとされるn型TOPConセルは、これまで市場シェアが首位だったp型PERCセルの発展形とも言える。TOPConセルはPERCセルと類似の構造を持つが、セルの裏面側にケイ素(Si)基板、トンネル酸化膜を追加している。
(出所)DS New Energy「TOPCon 太陽電池ガイド」
TOPConの利点は、PERCセルの製造装置を拡張して製造できるため追加投資が少なくて済む、発電効率の向上、劣化が少なく耐用年数が長い、両面受光率が高い、低照度のパフォーマンスが高いこと等がある。
また、ホウ素やガリウムが混ぜられたウエハーであるp型ではなく、リンが混ぜられたウエハーを用いたn型で発電効率を高めているため、n型TOPConセルが市場シェアを高めている。
3つの技術革新
ドイツ機械工業連盟(VDMA)は、太陽光発電のための国際技術ロードマップ (ITRPV)を毎年発表しており、2023年で15回目。VDMAは、機械・プラントエンジニアリング業界の中堅企業を中心に3,600 社が加盟するヨーロッパ最大の業界団体。
太陽光発電パネル市場では、特徴的な3つの技術革新がある。1つ目は高効率化。これまで市場シェアを拡大してきたp型PERCセルは大量生産時の変換効率とコスト効率のバランスが良い。p型PERCセルの変換効率は2024年には22.8%であり、今後10年間で24%まで上昇する見込み。
(出所)IEA 「PVPS 2023」
しかし、近年の技術革新によりn型TOPConセルと、異なる物性を接合することでの変換効率減少を抑えたシリコンヘテロ接合(SHJ)セルの変換効率が向上。2034年にはn型TOPConセルの変換効率は26.1%、SHJセルは26.6%に達する見通し。
シリコンだけでは吸収しきれない波長の光を吸収できるよう複数の材料を重ねたタンデム型セルも2026年に市場に投入される見込みであり、その変換効率は2034年には30%を超えるとされる。タンデム型セルには、灰チタン石(CaTiO3)と同じペロブスカイト構造を持つ物質を含んだ化合物を用いるペロブスカイト型セルも含まれる。
2つ目にウエハーの大判化。166mm角(M6)以下の小型ウエハーは市場シェアを失い続けていくとされ、182mm角(M10)と今後は210mm角(G12)が市場シェアを拡大していく見込み。
(出所)VDMA「ITRPV 2023」
2024年上半期の結果では、M10規格のウエハーが上位5社の出荷の78%を占めていた。G12規格の17%、G12R(182mm×210mm)規格は4%、M6以下の規格は1%未満に縮小した。
2024年上半期は市場の需要が大幅に減少したことを受けて、大型のG12規格の開発は減速。ウエハーの形では、長方形が好まれる結果となり、n型TOPConセルは長方形が56%、p型PERCセルは正方形が71%を占めた。
3つ目は、低コスト化。ウエハーの薄型化、銀使用量の削減等によりバリューチェーン全体でのコスト削減の傾向が続いている。セルの種類によらず、セル当たりの銀使用量は年々減少している。
ITRPV 2023」
モジュールの累積出荷量とモジュール平均販売価格に関する習熟率は、1976年から2023年までの全データで計算した場合24.9%であり、2022年の24.4%よりも増加。習熟率は累積生産数が2倍になるごとに減少するコスト割合のこと。
(出所)VDMA「ITRPV 2023」
今後の市場動向
(出所)VDMA「ITRPV 2023」
まず、2024年上期の結果からも分かる通り、n型セルの優位性が顕著になり、p型セルの市場シェアが縮小する見通し。
n型TOPConセルの市場シェアは2023年の23%から2034年には53%まで拡大、p型PERCセルの市場シェアは2023年をピークに減少し、2030年頃には市場から姿を消す予測。さらに、n型TOPConセルよりも高い変換効率が期待されるSHJ型セル、タンデム型セルの市場シェアが拡大する想定だ。
また、太陽光発電パネルのサプライチェーンは各工程において中国の寡占状態が続いている。国際エネルギー機関(IEA)は2022年7月、太陽光発電のサプライチェーンを分析した特別報告書を発行。サプライチェーンが中国一国に大きく依存しているとし、サプライチェーンの多様化の必要性を伝えた。
【参考】【国際】IEA、太陽光発電のサプライチェーンに関し特別報告書。中国市場独占からの脱却必要(2022年8月1日)
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、世界は今後も太陽光発電の導入を進めていく必要がある。2024年上期の結果では成長の停滞が危惧されるが、2023年までの出荷量は2050年カーボンニュートラル実現に向けた必要量を上回るペースだった。
(出所)VDMA「ITRPV 2023」
今後も太陽光発電パネルの生産は増え続ける見込みであり、同時に設置済みの太陽光発電パネルのリサイクルが課題であり機会になっていく。
リサイクルに関する動向
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の1.5℃シナリオでは、世界の太陽光発電に関する廃棄物量は、2021年の20万tから、2030年には400万t、2050年には2億tになる見込み。2050年までに廃棄物から1,770万t以上の原材料がリサイクルされ、約88億米ドル(約1.3兆円)の価値を創出すると試算されている。
(出所)IRENA「WORLD ENERGY TRANSITIONS OUTLOOK 2022」
一方で、世界全体では太陽光発電パネルの10%未満しかリサイクルされておらず、2030年までに最大180万トンの廃棄物が発生すると推定。そのため、世界各国で太陽光発電のリサイクルへの取り組みに関するアクションが進められている。
欧州では、電気・電子機器廃棄物に関するEU法であるWEEE指令(Waste of Electrical and Electronic Equipment)が2012年7月に改正され、モジュールのリサイクルが義務化。EU加盟各国でWEEE指令に対応した国内法が整備され、リサイクルが進められている。2018年のEUの主要国における廃棄物の回収量は約1.4万t。フランスでは2019年に4,905t、ドイツでは2020年に約1.5万tを回収した。
日本の現行法では、廃棄されたモジュールに対してリサイクル義務はなく、廃棄物処理法に則り適正処理される。2021年度の回収量は2,257t、2022年度の回収量は2,304tだった。
2012年7月の再生可能エネルギーのFIT制度(固定価格買取制度)開始により、太陽光発電の導入は大幅に増加。2030年代以降、設置したモジュールが製品寿命を迎えた場合、年間最大約50万tが廃棄されると見込み。そのため、日本政府もリサイクル義務化等の検討を進めている。
(出所)経産省・環境省「太陽光発電設備の廃棄・リサイクルをめぐる状況及び論点について」
環境省は2024年8月、「太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン(第3版)」を発行。2018年に発行した第2版の内容を改訂した。
第3版の主な変更点は、発電設備の使用停止に伴う届出対象の拡大と、太陽光発電パネル製造に用いる規制物質の情報開示の2つ。使用済みの太陽光発電設備の解体・撤去、リユース、収集・運搬、リサイクル、埋立処分、被災した太陽光発電設備の取扱いをまとめている。
【参考】【日本】環境省、太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン(第3版)発行(2024年8月26日)
太陽光発電設備のリサイクルの課題の1つに、リサイクルにかかるコストの高さがある。市場の大半を占めるシリコン系のモジュールは、アルミフレーム、ガラス、半導体封止材、セル、バックシート等に大別される。プロセスの複雑や輸送コスト等によりコストが高くなる。
(出所)経産省・環境省「太陽光発電設備の廃棄・リサイクルをめぐる状況及び論点について」
米エネルギー省(DOE)の調査では、モジュールの埋め立て費用はモジュール当たり1米ドルから5米ドルに対し、リサイクル費用は1モジュール当たり15米ドルから45米ドルだった。
日本では、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を通じ、リサイクルの高度化・低コスト化に向けた研究開発を実施。モジュールの破砕、剥離、熱分解処理により部材毎に効率的に分解する技術開発に取り組んでいる。2018年度のモジュールの分解処理コストは5円/Wであり、産廃処理費用である2円/Wに近づけることが目標となっている。
(出所)経済産業省「再生可能エネルギー発電設備の廃棄・リサイクルについて」
海外でもリサイクル技術の進化が進んでいる。2022年創業の米SOLARCYCLEは、銀、シリコン、銅、アルミニウム、ガラスなど、廃棄されたモジュールの95%を回収できる技術を保有する。デンマーク電力大手オーステッド、米再エネ大手EDF Renewables North America等とパートナーシップを締結し、取り組みを進めている。
【参考】【デンマーク】オーステッド、エネルギー業界初ブルーボンド150億円発行。太陽光パネルリサイクルも(2023年6月17日)
鈴木 靖幸
株式会社ニューラル サステナビリティ研究所