三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)と住友商事が50%ずつ出資する三井住友ファイナンス&リース株式会社が「サステナビリティxリース」の取り組みを加速させている。また同社は2023年度に21世紀金融行動原則の「最優良取組事例 環境大臣賞」も取得し、注目が集まっている。
その一環で、SDGs達成に貢献できるリースサービスとして、2019年に株式会社日本総合研究所(以下、日本総研)と共同でSDGsリース『みらい2030®』の取り扱いを開始した。『みらい2030®』(寄付型)は、参加企業が支払うリース料の一部を同社がSDGs達成に資する公益財団法人や認定NPO法人などに寄付する仕組みだ。
このサービスによる寄付先団体のひとつが、水・衛生専門の国際NGOウォーターエイドジャパン。三井住友ファイナンス&リース 常務執行役員の大村尚之氏と、株式会社ニューラル代表取締役CEOであり、特定非営利活動法人ウォーターエイドジャパン理事でもある夫馬賢治が、三井住友ファイナンス&リースのサステナビリティ方針やSDGsリース『みらい2030®』誕生の経緯、今後の可能性などについて対談した。
- 三井住友ファイナンス&リース 常務執行役員 大村尚之氏
- ニューラルCEO/ウォーターエイドジャパン理事 夫馬賢治
夫馬
まず、三井住友ファイナンス&リースのESGやサステナビリティ関連のアクションの全体観を教えてください。
大村氏
当社は、経営理念・経営方針を再定義し、2020年に「SMFL Way」を定めました。2007年に当時の三井住友銀リースと住商リースが合併した際に、経営理念を策定していたのですが、それを社員との対話なども通じて発展させる形で「SMFL Way」を策定しました。そのなかの2番目の項目に「SDGs経営で未来に選ばれる企業」があります。「SMLF Way」策定の前から、当社社長の橘は、SDGsは重要だと発信してきたのですが、改めて理念に明記し、言語化しました。
リース会社はお客さまに「モノ」をお貸しするビジネスを行っているわけですが、当社は、古くから省エネ機器のリースを多く扱っており、さらに、FITが始まって以降、再生可能エネルギーに対する資金支援や事業参画も開始しました。そういう意味では、特に産業界を対象に、脱炭素の推進に向けた取り組みを30年以上行ってきた企業と言えると思います。こうした取り組みも背景にあり、さらに「SDGs経営」を打ち出しているなかで立ち上げたのがSDGsリース『みらい2030®』です。
先程も申し上げた「SMFL Way」の「Our vision(私たちの目指す姿)」の1つに「デジタル先進企業」という目標を掲げています。コロナ禍で在宅勤務を余儀なくされるなか、加速度的にインフラ整備・システム構築が進んでいきました。つまり理念として掲げている「SDGs経営」も「デジタル先進企業」も実際の取り組みが活発に進んでいる、と言えます。
夫馬
「SDGs経営」を理念に掲げたことで、各部門の事業に変化はあったのでしょうか。
大村氏
もともと環境関連の事業を担当している部門はもちろんのこと、中古売買、リース期間満了後に戻ってきた機械・設備の適正廃棄やリサイクルなど、当社の事業のあらゆるところがサステナビリティにつながっていることに社員が改めて気づき、そしてそれが営業の軸になっている、という点があげられます。社内の営業関連の会議において、SDGsに関連する話をしない部署はありません。お客さまに提供するサービスもすべてSDGsと関わっており、さらにDXがシンクロして、変わってきていることを実感しています。
夫馬
「モノ」を長く使い続けるリース事業は、もともとサーキュラーエコノミーとの親和性が高いと言えます。SDGs経営を理念に位置付けたことで、会議で必ずSDGsが話題になるなど、リースの持つ意義・可能性への理解が、社員の皆さんの中で一段と進んだというように感じました。
大村氏
最近アミタホールディングス社と「廃棄物マネジメントサービス領域での連携に関する基本合意書」を締結しました。(2024年4月に同社と合弁会社を設立しています。)また、リサイクル事業で先進的な取り組みを展開するアビヅ社とも2019年に「SMART」を設立し、中古設備や金属スクラップの売却、廃棄物処理から、建物を解体し更地に戻すまでを一貫体制で請け負っています。
SMARTを設立した背景は、まさにリースとサーキュラーエコノミーには親和性があり、私たちにできることがもっとあるのではないか、という想いからです。SMARTを設立した当初は、正直うまく行くかわかりませんでした。お客さまとの面談の中で例えば、工場を建てるという情報があれば、その裏には、今ある工場はどうするのか、という話になりますし、新しい設備を入れる、となったら、その裏には、前の設備はどうするのか、という話が出てきます。加えてお客さまから産業廃棄物を適正かつ安全に廃棄したいという声もあり、「SMART」は初年度から順調なスタートを切ることができました。
社員にも、リース会社が果たせる役割が他にもあるという考えが浸透しつつあります。以前はリース契約の担当と満了処理の担当のつながりは薄かったのですが、SMART設立もきっかけとなり、最近では会話が増えてくることでリースに関する考え方も変わってきています。
夫馬
それは大きな変化ですね。リース事業者に期待されていることをまさに実践しているという印象を持ちました。そのなかで『みらい2030®』という商品が出てきたのだと思いますが、これが登場した経緯を教えてください。
大村氏
2019年、SMLF Wayが制定される少し前、その頃すでにSDGsが社内で話題に上るようになっていたのですが、金融機関に出向していた社員が、「金融商品には、NPO/NGOへの寄付をパッケージ化した商品があるのに、なぜリースには寄付する仕組みがないんでしょうね」と言ったんです。
お恥ずかしい話、私もそのことに気づいていなかったのですが、そのことをきっかけに、寄付を組み込んだリースを立ち上げることになりました。その際、お客さまへの情報提供やどの団体に寄付するのかについて、グループ企業である日本総研と共同で検討を進め、パッケージ化しました。
実はこの話が出た際、お客さまが受け入れてくれるかどうか、半信半疑なところがありました。立ち上げてみたら、予想を超えた反響があり、大変驚きました。後々、その理由がわかったのですが、当社のお客さまも社会貢献に取り組みたいという気持ちはあるものの、意思決定プロセス含め、実行に移すのに労力がかかる、という点が課題だったようです。個人が寄付するのは簡単ですが、法人として寄付するとなった瞬間、動きが固まるわけです。ですが、本音の部分では、事業との関連性が高い分野で貢献したい、という想いや、反対に事業では関わりづらい分野で貢献したい、という双方のニーズがありました。さらに、1社が単発的に寄付をするよりも、複数の企業が継続的に寄付することで大きな成果を持続して生みだしていけるという『みらい2030®』の仕組みも魅力的に感じていただけたのだと思います。
実際に『みらい2030®』だから、ということで新規にリース契約をしていただけたケースもありました。当社の社員からも、他社にはない取り組みということで、お客さまに紹介しやすいという声がありました。『みらい2030®』をスタートしたのが、ちょうどSMLF Wayを制定した時期と近いこともあり、当社の社員にとって、SDGs経営のシンボリックなものになっています。2022年にはさらに「サステナビリティ・リンク・リース」という商品も開発しました。SDGs経営にはさまざまな切り口があるということを社員が理解してきているように感じます。
夫馬
御社内で、「SDGsリース」が成功体験になり、それが「サステナビリティ・リンク・リース」の開発などにもつながっているんですね。
大村氏
2019年11月、当社の社員に、ビジネスに直結する事柄だけではなく、より広範囲な社会的な課題に関心を持ち、知見を持ってもらうことを目指して、社員誰もが参加できる勉強会「営推開アカデミー」を始めました。これまでに30回以上開催し、現在も継続しています。SDGsリースを始める直前に開催した第4回では「SDGs」をテーマにし、300人が参加しました。2021年には「サステナビリティと金融業界の動向」という勉強会を開催し、そのなかでプラネタリーバウンダリーについて説明しました。これがちょうど、サステナビリティ・リンク・リースを始めた時期になります。
この過程で、多様な課題に対して貢献していこう、という声が社員からあがり、また、実際にお客さまからも水関連の団体に寄付したいという声もあったことから、お客さまへのヒアリングや日本総研との協議をふまえ、2021年からウォーターエイドジャパンとの話し合いが始まりました。SDGsが掲げる6番目のゴール「安全な水とトイレを世界中に」は、当社が直接的に貢献することが困難であり、その点も踏まえウォーターエイドジャパンを寄付先に選定しました。現在は、ウォーターエイドジャパン含め5団体を『みらい2030®』の寄付先としています。
今年度には、『みらい2030®』を提供するだけでなく、社員に世の中の課題を自分事として考えてもらうために、寄付先団体による講演会も始めました。社員の理解が深まることで、もっといろいろな発想が生まれてくることを期待しています。
夫馬
最近になって「プラネタリーバウンダリー」の概念は目に触れる機会が増えましたが、2021年の時点で、社内でこの言葉を使っている企業は珍しいと思います。当時は、日本では気候変動一色でしたので、先進的ですね。今日お話しをうかがって、サステナビリティの動きは大企業・上場企業が中心になりがちであるなか、中堅企業・中小企業にこの動きを広げていく仕組みづくりを、御社はいち早くやっていると実感しました。実際に、『みらい2030®』スタート当初、予想以上に企業からの関心が高かったということでしたが、日本では、中堅中小企業もサステナビリティに関心があるということがまだまだ伝わっていないようにも思います。
大村氏
たしかにそれはまだまだかもしれません。実感値では、サステナビリティへのアクションが始まっている企業は、多くの場合、大企業と大企業のサプライチェーンに限定されています。本当はサステナビリティ関連の課題は、大企業だけではなく、個々人が気付かなければならないものですが、日々の暮らしがあるなかで、課題に目が向かないのもまた事実です。とはいえ、サステナビリティに関心の高い中堅中小企業、志のある経営者は多くいます。当社として、そういった方々に門戸を広げる触媒のような役割を果たせたらよいと考えています。
『みらい2030®』は提供開始した当初に想定した以上に関心を持っていただけたという事実を見ても、サステナビリティに対する課題への関心は確実に高まっているということを、私たちは逆に教えられました。『みらい2030®』のおかげで、ウォーターエイドジャパンさまのような団体を知ることもできましたね。
夫馬
ウォーターエイドのことは以前からご存知でしたか。
大村氏
『みらい2030®』をきっかけに知りました。SDGsのなかでも、当社が直接的に貢献できない分野について、『みらい2030®』でフォーカスしたいという意図で、ゴール6に取り組んでいる団体を社員が探していたところ、ウォーターエイドを見つけました。SDGsリースを通じて、さまざまな団体があることを知り、多様な課題があることに「これはただごとではない」と感じました。
また、SDGsリースの寄付先団体の1つである認定NPO法人キッズドアの活動を聞いたときに、自分がいかにさまざまな国内外の課題について理解していなかったか、そして当社の社員たちの多くもわかっていないだろう、と感じました。水の問題もそうですが、課題について知るには、その課題に取り組んでいる人に話を聞くことが一番です。SDGsリースの寄付先団体からも、「私たちの活動を皆さんに伝えてほしい」という期待をいただいており、それもあって、今年度、寄付先の団体の方々に当社社員向けの講演をお願いしているところです。SDGsを根幹に掲げている企業の社員としては、さまざまな課題について理解を深めることは責務だと考えています。
私自身もそうだったのですが、残念ながらNGOの活動やNGOが取り組んでいる課題に対して関心が低いのが実情です。寄付の文化がないと言われますが、その前に関心がないので寄付の文化も生まれないのではと感じています。現中期経営計画で、社会価値と経済価値の双方の拡大を掲げていますが、ただ標語として掲げるのではなく、地に足のついた活動にしていくというのが我々の責任だと思います。
夫馬
ウォーターエイドの活動の柱である「水」について、すでに水関連の機器のリースもされているとのことですが、今後世界の多くの場所で水不足が起き、節水ニーズも高まってきますし、日本では毎年のように災害が起き、被災地でも水・衛生危機が起きる、というなか、水関連機器のリースのニーズはさらに高まっていると思います。こうした水・衛生の問題をどう感じていますか。
大村氏
2020年、当社は、人類の淡水利用に関する問題を解決することを目的に、2014年に設立された企業であるWOTA株式会社さまと業務提携しました。当社は、地方公共団体など、WOTAさまのプロダクトを提供できる先を探して紹介するという役割を担っています。
当社は、こうしたお客さま同士の「マッチング」を得意としており、それは営業推進部のミッションにもなっています。2015年頃から「マッチング」と言う言葉を使い始め、2017年から体系立てて取り組み始めました。
もともとリース会社の営業担当は、リース契約をとってくることがミッションですが、一方、その出番があるのは、設備投資の段階になってからです。その前に、お客さまが抱えているニーズ・課題は何かということをとらえる営業スタイルを打ち出し、当社で対応できることは対応する。対応できないことは当社のネットワークを使って、その課題に対応可能な企業をご紹介する。つまり解決できるソリューションを持っている企業と課題を抱えている企業をマッチングするということを積極的に推奨するようになりました。そのために社内にマッチングシステムも構築しました。
このような取り組みも含め、当社の水関連の事業はB to Bになるわけですが、今後、例えばプラネタリーバウンダリーなど新しい課題に対してソリューションを持っているB to C企業や海外の企業と連携するということも、検討する必要があると考えています。
夫馬
社員の方々が、さまざまな課題に対してアンテナを張っていて、それを起点にビジネスを広げていくイメージですね。今日御社のお話をうかがい、「SDGsリース」のように社員の方からの声を大切にして、事業化につなげていくという社風も素晴らしいと思いました。それができない企業はまだまだ多いです。マッチングの話にあったように、お客さまの課題・声をじっくり聞くという姿勢が根付いているから、社内でも従業員の声に耳を傾けようとされているようにも感じます。
大村氏
まだまだ十分できているとは言えませんが、「そうありたい」と思っています。お客さまの声を聞くことを軸に、部門横断的に解決していきたいと考えています。
夫馬
ウォーターエイドへの期待があればお聞かせください。
大村氏
日本は、水があるのは当たり前ですよね。あることが当たり前すぎて、水がないことが遠い世界の話になってしまい、ウォーターエイドの活動が今一歩伝えづらいのではないか、と感じることがあります。
安定的に水を供給できる環境をつくることは、安全保障につながる問題と認識していますが、その点があまり気づかれていないのではないでしょうか。水は安全保障の極めて大事な部分だと思うので、ウォーターエイドジャパンには、日本の人々の水・衛生問題への理解を高めてほしい、それに尽きると思います。
国内での伝え方について、例えば、他の企業とセッションをするなど何か協働できるとよいですね。寄付先団体との協働事例としては、2023年11月に子供を対象としたキャンプイベントを寄付先であるキッズドアが主催した際、日本国土開発株式会社さまと当社が寄付者として協力しました。一つのアイデアですが、ウォーターエイドが活動している国・地域でビジネスを展開している企業と連携して学び合いのセッションなどができると面白いのではないでしょうか。
また当社のなかには、MTF推進部という部門があり、ファシリテーターを企業に派遣してワークショップを行うなど、組織開発関係のコンテンツを提供する付加サービスを展開しています。そのコンテンツの1つが「SDGsセッション」です。こうしたセッションで世界の水・衛生問題を扱うことで、ウォーターエイドの活動を知ってもらう、ということもできるかもしれませんね。
夫馬
ウォーターエイドは支援活動の現場が海外であり、たしかに日本の企業にとって縁遠いところもあるかもしれません。一方、現在、企業が取り組むべき課題としてサプライチェーンの水が注目されており、日本の企業も、海外の子会社や海外のサプライチェーン、海外の取引先の水環境を理解しておくことは大切です。それによって、海外の取引先は水に困っているかもしれない、では私たちに何ができるだろう、という議論につながります。
もう1点、ウォーターエイドの活動は海外であるものの、日本の法人として日本のステークホルダーと向き合った活動もしており、水・衛生について国内外でナレッジを持つメンバーが役員を務めています。日本国内でも、地震や豪雨での災害時に、水の問題が浮き彫りになる事態が増えてきています。防災などの点も含めて、ウォーターエイドジャパン関係者が持つナレッジをしっかり発信していくことにも今後注力したいですね。
大村氏
ESGやレスポンシビリティという点でも、今や「海外の出来事」では済まなくなっていますから、しっかり取り組んでいく必要があります。また、国内の水道についても、それを持続可能にするために、私たちが理解しなければならないことがいろいろあると思います。SDGsリースでこうしたご縁もできましたので、今後、ディスカッションしながら協働事業を検討していけたらいいですね。