東芝が、最先端技術分野で、欧州での研究開発を強化している。また、日本ではソフトバンクとの実証で、量子暗号技術を用いたIPsec QKD-VPNの拠点間構築に成功した。
同社は9月21日、ドイツのデュッセルドルフに新技術拠点「リジェネラティブ・イノベーションセンター」を開所。カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーに関する技術開発や社会実装を重視する欧州地域で、規格標準化も含めた重要プレイヤーとの連携を強化する。
同センターは、電池・半導体等のデバイス分野、再生可能エネルギー・水素・エネルギーマネジメント等のエネルギー分野、二酸化炭素除去(CDR)に係る回収・輸送・貯留・利活用等のカーボンネガティブ分野、エネルギー・二酸化炭素排出量データ等を活用した「デジタルプラットフォーム分野の4つの技術分野での活動を計画している。
研究体制では、欧州地域でエネルギー分野の先端技術を牽引するアーヘン工科大学及びヴッパータール研究所をアドバイザーに招聘。欧州全域の有力大学、研究機関と連携するハブ機能も担う。今後、欧州内での実証プロジェクトや連携・事業パートナーに応じ、欧州各国・地域に新技術拠点のサテライトオフィスを設置することも検討している。
また同社は9月22日、英ケンブリッジのサイエンスパークに「量子技術センター」を開所したと発表した。今後5年間で約2,000万ポンド(約35億円)を投資し、量子暗号通信等の量子技術の事業化を加速する。
東芝は1999年に海外発の研究開発拠点を英ケンブリッジに開設。2021年4月には、東芝デジタルソリューションズにて量子技術の実証事業を開始し、2022年4月には英通信大手BTグループと協働し、ロンドンで量子暗号通信の商用メトロネットワークのトライアルサービスも開始している。
今般開所した「量子技術センター」は、東芝デジタルソリューションズが商用化を進める量子セキュアネットワークの技術開発を進める。また、量子暗号通信装置を製造するための製造設備も保有し、技術開発から生産までの一貫体制も整える。さらに、「チップベース量子暗号通信システム」や「ツインフィールドQKD」等、量子を活用した先端技術の開発も支援する。
量子暗号技術では、東芝デジタルソリューションズは9月20日、ソフトバンクと協働し、量子暗号技術であるQKD(量子鍵配送)を用いた拠点間VPN通信の実証実験に成功したことも発表している。
サイバーセキュリティの分野では、暗号技術は10年毎に世代交代が起こり、現在の通信ネットワークで使われている暗号技術も2030年末には寿命を迎えると言われている。そのため、世界各国で通信の安全を守るための研究が進んでおり、ソフトバンクも、量子コンピューターでも解読が困難な新しい暗号技術であるPQC(耐量子計算機暗号)の実用化を進めている。
今回実証したQKDは、量子力学に基づく原理を通信に応用することで、データの送信側とデータの受信側の双方に共通鍵をそれぞれ生成する技術で、共通鍵を生成するための情報を光子に乗せて伝送するというもの。QKDは、QKDシステムで生成した鍵を1回だけ使用するOTP方式で暗号化することで、安全な通信が実現するが、大量のデータ通信を行うと共通鍵が枯渇してしまうという問題もある。また、エンド・ツー・エンドの通信をQKDで暗号化するには、全ての端末がQKDに対応する必要があるが、ソフトバンクでは、全ての端末をQKD対応させるのではなく、拠点間を接続するVPNをQKDで暗号化することで、社会実装が早まると考えている。
そこで、同実証では、東芝独自の技術によって鍵の生成を高速化したQKDシステムと、Fortinetが開発したQKD対応VPNルーターを、ソフトバンクが構築したネットワーク上に導入。ソフトバンク本社と、東京都内にある同社のデータセンターの間で、ファイバー距離約16kmを既存の光ファイバーを使って接続。QKDシステムとQKD対応VPNルーターを設置し、実環境における拠点間での量子暗号技術を用いたIPsec(Security Architecture for Internet Protocol)QKD-VPNを構築した。その結果、QKD非対応の端末であっても、セキュアで高速な暗号通信を行うことに成功した。
【参照ページ】ドイツに新技術拠点「Regenerative Innovation Centre (リジェネラティブ・イノベーションセンター)」を開所
【参照ページ】英国ケンブリッジに量子技術の新たな事業拠点「量子技術センター(Quantum Technology Centre)」を開設
【参照ページ】東芝デジタルソリューションズとソフトバンク、IPsec QKD-VPNの実証実験に成功
Sustainable Japanの特長
Sustainable Japanは、サステナビリティ・ESGに関する
様々な情報収集を効率化できる専門メディアです。
- 時価総額上位100社の96%が登録済
- 業界第一人者が編集長
- 7記事/日程度追加、合計11,000以上の記事を読める
- 重要ニュースをウェビナーで分かりやすく解説※1
さらに詳しく ログインする※1:重要ニュース解説ウェビナー「SJダイジェスト」。詳細はこちら