国際エネルギー機関(IEA)は9月26日、2021年に発表した「ネットゼロ・ロードマップ」を改訂し、2023年半版を発行した。新型コロナウイルス・パンデミック後の景気回復や、一部のクリーンエネルギー技術の驚異的な成長等、過去2年間のエネルギー情勢の大きな変化を織り込んだ。
【参考】【国際】IEA、2050年カーボンニュートラルのロードマップ提示。ハイブリッド車2035年廃止、石炭火力2040年廃止(2021年5月19日)
2021年以降の大きな進展では、太陽光発電の設備容量と電気自動車(EV)の販売台数が急速に伸びた。この2つの技術だけで、現在から2030年にかけてのエネルギー分野の排出削減量の3分の1を達成できる見込み。他のクリーンエネルギーのイノベーションでもコスト削減が進み、選択肢が増えてきている。
また、IEAが2021年に発表したロードマップでは、2050年のカーボンニュートラル実現に必要となるソリューションのうち、約50%を未実現技術が占めていたが、2023年版では約35%にまで下がった。
(出所)IEA
未実現技術の比率が低減した要因は、ナトリウムバッテリー、固体酸化物燃料電池(SOFC)、セメント製造工程での炭素回収・貯留(CCS)技術、水素還元製鉄、小型モジュール炉(SMR)のイノベーションが進展し、未実現ではなく実現がみえてきたことによるもの。
(出所)IEA
一方、今後10年間で実施すべき対策の基準は引上げた。削減努力のない(Unabated)な化石燃料火力発電の割合を前回の58%から2023年改訂版では62%に悪化することも踏まえ、再生可能エネルギーの割合を2030年までに3倍、年間の省エネ改善率を2倍にする必要があるとした。そのうち太陽光発電の新規設備容量を前回の630GWから今回は820GWへと引上げた。またバッテリー導入量も前回の590GWから今回は1,020GWへと約2倍に上げた。電化の速度も前回の26%から今回は28%へ、EV販売比率も前回の60%から今回は65%へと引上げた。
また改訂後のロードマップでは、政策主導によるクリーンエネルギー能力の大幅な増強により、化石燃料需要は2030年までに25%減少、排出量は2022年に記録した史上最高値から35%減となる。2050年には化石燃料需要は80%減少する。その結果、長期の新規石油・ガス上流プロジェクトは必要なくなり、炭鉱の新規開発・拡張、休止中の石炭火力発電所の再稼働も必要がなくなるとした。
(出所)IEA
今回のロードマップでは、先進国は早くカーボンニュートラルを達成し、新興国及び発展途上国に多くの時間を残すよう、達成すべき速度に差をつけた。2030年までにすべての人が近代的なエネルギーに完全にアクセスできるようにするためには、エネルギー分野への投資の1%強となる年間450億米ドル(約6.7兆円)の投資が必要とした。
(出所)IEA
今回のロードマップが示した1.5℃パスウェイを実現するためには、ほぼすべての国がカーボンニュートラルの達成時期を前倒しする必要がある。さらに新興国及び発展途上国への投資拡大も不可欠。そして、クリーンエネルギー技術に必要な重要鉱物の多様でレジリエントなサプライチェーンを実現するには、国際的な通商関係がオープンで良好であることが必要とした。
【参照ページ】The path to limiting global warming to 1.5 °C has narrowed, but clean energy growth is keeping it open
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