ノルウェー公的年金基金GPFGの運用を担うノルウェー銀行投資マネジメント部門(NBIM)は9月15日、「気候変動に関する期待」を改訂し、投資先企業への要望内容を引上げた。
NBIMのカリーヌ・スミス・イヘナチョ・チーフ・ガバナンス&コンプライアンス・オフィサーは今回、「気候変動の影響がより明白になる中、我々は期待事項をより鮮明にする必要があると考えた。この重要なトピックについて、企業や取締役会とさらに価値あるエンゲージメントができることを楽しみにしている」と語った。
NBIMは、2009年に「気候変動に関する期待」を初発行。その後、科学的根拠の発展や、気候変動に関する企業や機関投資家のアクションレベルの方向性が定まるにつれ、頻繁に同文書を改訂してきた。旧版では、2050年までのパリ協定1.5℃目標と整合性のある削減目標の設定、スコープ3までを含めた二酸化炭素排出量の報告、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)フレームワークに基づく開示を要請していた。
今回の改訂では、目標や方針の設定から、実際のアクションへと焦点を移してきた。まず、スコープ3までを含めた中間削減目標の設定。さらに、中間目標を達成するための具体的で時間軸を設けた移行計画(トランジション・プラン)の策定と、進捗状況の年次報告も明確に位置づけた。
さらに今回の改訂では、「主要な期待」と「さらなる期待」の2部構成とし、「Must Have」ではなく「Nice to Have」の要件も記した。「Nice to have」は、「企業の気候戦略の基盤」「野心と目標設定」「移行計画」「実践と透明性」の4つの柱を掲げた。
「企業の気候戦略の基盤」では、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)のS2に基づく開示や、CDPもしくはネットゼロ・データ・パブリック・ユーティリティ(NZDPU)を通じたスコープ3までの排出量の開示、スコープ2でのREC等の電源証明の活用割合、スコープ1と2の第三者保証の取得、1.5℃シナリオと高排出シナリオの双方を活用したシナリオ分析、気候変動適応での地域毎の影響度の開示を盛り込んだ。セクター別の要件では、金融機関にはPCAFに基づくファイナンスド・エミッション(投融資保険カーボンフットプリント)の開示を、排出量公表とは明確に切り分けた削減貢献量の開示を明記した。
「野心と目標設定」では、スコープ2では電源証明を活用する前に、再生可能エネルギーの電力購入契約(PPA)やオンサイトでの再生可能エネルギー発電所建設を優先することを明記。燃焼エネルギーを活用している企業は、スコープ3の削減でカテゴリー10「販売した製品の加工」、カテゴリー11「販売した製品の使用」の2つを含めることも促した。また、製品ポートフォリオの転換、化石燃料需要の変化、メタン排出量の削減に関連する目標が明確に判別できるようにすべきとした。農林業・土地利用(AFOLU)では、2025年までのサプライチェーン全体での森林破壊ゼロを掲げるべきとし、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)やSBTNの枠組みを活用することを推奨した。
「移行計画」では、時間軸を明記した定量化された削減戦略の開示を要請。また、削減貢献量は削減戦略ではカウントできないことも明確にした。カーボンクレジットの活用は、最終手段として徒に頼るべきではないとし、活用する場合には自社事業またはサプライチェーンに関連するクレジットの活用を求めた。ボランタリーカーボンクレジットについては高品質のものを活用するよう促した。未来の技術の調達等を謳う場合は、未来の技術の商用化を実現させるまでのコミットメントを、また削減努力によるコストカーブの分析結果も開示すべきとした。移行計画には、気候変動適応、及び自然資本や社会観点でのインパクトや依存度に関する計画も盛り込むことを明記した。気候変動の関連のロビー活動のパリ協定整合性や、インターナル・カーボンプライシング(内部炭素価格)の導入も盛り込んだ。
「実践と透明性」では、移行計画の実践状況も取締役会が監督し、移行計画についてもKPIを設定した上で年次報告を行い、KPIに連動した報酬体系にすることを明記。また技術の進展等を踏まえ、3年毎に移行戦略を見直すよう伝えた。M&Aによる排出量の増減は別途開示するよう求めた。株主総会での「Say on Climate」の実施も支持しつつ、毎年ではなく、重要な変更があった際に「Say on Climate」にかけるべきとした。
【参照ページ】Sharpened expectations on climate
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