米ダートマス大学の研究者らは8月14日、米国で旱魃に対応するため灌漑農業が広がる中、灌漑農業が将来の水不足リスクに大きなエクスポジャーを抱えてきていることを示した論文を発表した。水と食料安全保障に関する懸念が、世界の食料庫の米国でも広がっている。
米国の農地は、日本の約36倍で、様々な気候や自然条件に適応した農業が各地で展開されている。その一つが、乾燥地帯の米国西部で展開されている灌漑農業で、地下水を組み上げ、スプリンクラーで散水する円形の形をした「センターピボット」と呼ばれる農法で、「ハイプレーンズ」と呼ばれるともうろこしや大豆の生産を支えている。
米国の農地では、灌漑設備の導入率は20%未満と高くはないが、それでも灌漑作物総売上の半分以上を占めている。さらに灌漑面積は過去数十年で大幅に増加。効率改善により原単位の水消費量は低減しているが、依然として灌漑農業が米国の水使用量の約80%を占めている。
同研究では、米国全土のとうもろこしと大豆の灌漑の現状と、拡大による経済コストと便益を調査した。2050年頃には、旱魃対策として、灌漑設備の経済便益は、地下水汲み上げと設備所有の総コストを上回る地域が拡大。特に、とうもろこしでは、米国北中部と中西部上部の全域で、大豆では米国中部の大部分で、灌漑設備を導入することで限界収量が大幅に増加した。これにより、ダコタ州、ミシガン州北部、ウィスコンシン州、テキサス州東部全域で、便益がコストを上回り、多くの農家が灌漑設備を導入するインセンティブが発生すると見立てた。
一方、長期的な予測では、水不足に陥ることで、灌漑設備導入による限界収量の押し上げ効果が減退。最終的には、所有・運営コストを削減する外部インセンティブがない限り、長期的には灌漑コストが利益を上回ることが示唆された。
今回の調査では、気候変動適応のために灌漑農業の導入が必要となるが、水利用可能性を考慮しなければ、機能しなくなることがみえてきた。同研究では、灌漑の設置と利用に関する政策策定の際に、地域の水需要と利用可能性を理解し考慮することは、全米の意思決定者にとって重要になると締めくくっている。
【参照ページ】Irrigation benefits outweigh costs in more US croplands by mid-century
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