内閣官房の新しい資本主義実現会議は8月31日、賃金や投資を含む成長と分配の好循環の進め方を議論した。労働生産性の向上、従業員エンゲージメント、実質賃金水準の引上げの3つを重点テーマとして取り上げた。
労働生産性の向上では、就業1時間あたりの付加価値が5,006円と、経済協力開発機構(OECD)38か国中27位、米国の6割弱にとどまっていることを挙げ、人への投資促進、特に中小企業の省力化投資を支援していく必要があるとの見方を示した。
従業員エンゲージメントでは、 日本の従業員エンゲージメントは、他の主要国と比較して低い水準にあり、士気・熱意があると回答した従業員の割合は世界平均20%に対して日本は5%しかないことを紹介。年齢等に関係なく、やる気とスキルで活躍の機会が得られるよう、ジョブ型の人材マネジメント等へ改革が必要とした。
実質賃金引上げでは、デジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)等の潮流が労働需要や必要とされるスキルを大きく変化させ、産業の入れ替わりのサイクルも短期化することにも触れ、常に働きながら未来に必要なスキルを学び続けるリスキリングを強調した。さらに、中小企業での賃金引き上げでは、取引先に価格転嫁させるため、公正取引委員会等がは年内に詳細な労務費の転嫁指針を公表する考えも示した。非正規雇用労働者の正規化促進にも言及した。
最低賃金に関しては、7月28日に中央最低賃金審議会が41円(4.3%増)を引上げの目安額として答申。その後、8月18日までの地方最低賃金審議会での議論の結果、全国平均では時給1,004円で43円(4.5%増)の引上げとなった。各都道府県で10月初旬から一斉に適用される。
厚生労働省は、最低賃金の引上げに向けた支援策として「業務改善助成金」の拡充を行ったと説明。設備投資・システム導入や、自動車、パソコン、机・椅子等の増設等が対象となっており、上限額は賃上げ対象の従業員数や引上げ額によって変わるが最大でも600万円。予算額は、2022年度補正予算で100億円、2022年度2次補正予算で12億円、2023年度予算で10億円と非常に少ない。
また岸田文雄首相は8月30日、自由民主党と公明党の政調会長からの提言を受け、9月7日から燃料油価格の激変緩和措置を上乗せ延長することも表明した。経済産業省資源エネルギー庁は5月26日、燃料油価格の激変緩和措置を6月から段階的に縮減し、9月末に終了すると発表していたが、6月から徐々に上がり始め、8月7日にはレギュラーガソリンの全国平均価格が、2008年以来14年ぶりに180円を突破。今回の発表では、激変緩和措置の終了を延期するとともに、現在の10点程度の補助にさらに10円程度を上乗せし、10月中に175円程度に持っていきたいとした。
【参考】【日本】エネ庁、燃料価格緊急補助金を6月からさらに縮減。9月末に終了予定(2023年5月27日)
燃料価格に関しては、一定条件を満たす際に、現在1l当たり53.8円が課税されているガソリン税を引き下げる「トリガー条項」の規定もあるが、今回は適用を見送った。トリガー条項は、2010年度税制改正で、3ヵ月連続で平均小売価格が1l160円を超えた場合に、自動的に税率が1リットル28.7円に引き下げられる制度として導入されたが、翌年の2011年の東日本大震災で復興財源を確保するため、東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律44条により、発動が凍結されている。
岸田首相は8月31日には、東京電力ホールディングスがALPS処理水の海洋放出を開始したと同時に中国政府が日本産水産物を全面禁輸した対策として、すでに用意している800億円の基金からの積み増しを否定した。
経済産業省資源エネルギー庁は、2021年度補正予算で、買い取りや冷凍保管を支援する300億円の基金、2022年度には「ALPS処理水の海洋放出に伴う影響を乗り越えるための漁業者支援事業」として漁場の開拓や事業継続に向けた500億円の基金を追加していた。中国政府が全面禁輸した後の今回、岸田首相は「既に用意した800億円の基金による国内消費のPR、漁業者団体による一時買取り、一時保管の支援、さらには燃油コスト削減などの対策、こうしたものを十分に活用して、我が国水産業の生業、事業を活力ある形で、子や孫の世代まで持続的に引き継いでいけるよう、政府として万全を尽くしてまいります」と伝えた。また、800億円の基金創設では、中国の全面禁輸も想定内だったとの考えも披露した。
それ以外の策では、中国市場依存度の低減するための緊急支援事業や、新規海外市場開拓費用の補助、国内消費拡大支援等を実施していくとした。政策の実効性については「政府としてやるべきことをしっかりやっていく、こういった説明をさせていただいています」と述べ、意気込み以上の内容はなかった。支援策は9月上旬には固まるという。
ALPS処理水の海洋放出に関し、実害が発生した場合は、東京電力ホールディングスが賠償することになっている。8月31日の岸田首相も記者会見の中で、この考えを強調した。
開催準備が遅れている大阪・関西万博では、8月31日に関係者会合が開催され、岸田首相は「大阪府、大阪市の協力が不可欠な課題であり、ぜひよろしくお願いしたいと思います」と述べた。対策としては、これまで経済産業省から職員60人近くが派遣されていた体制を増強し、財務省や経済産業省から局長級の派遣も検討するとした。
【参考】【中国】中国、日本産水産物を全面禁輸。ALPS処理水海洋放出に抗議。香港はまだ様子見(2023年8月25日)
【参考】【マカオ】政府、ALPS処理水海洋放出に反発し10都県からの生鮮食品輸入禁止。香港も続くか(2023年8月23日)
【参照ページ】新しい資本主義実現会議(第21回)
【参照ページ】燃料油価格対策等についての会見
【参照ページ】中国による水産物の輸入停止への対応及び水産業を守る支援策等についての会見
【参照ページ】大阪・関西万博に関する関係者会合
【画像」首相官邸
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