国連教育科学文化機関(UNESCO)の世界遺産委員会は8月1日、オーストラリアのグレート・バリア・リーフを「危機遺産」に指定することを見送った。しかし、依然として、気候変動と水質汚染による深刻な脅威にさらされているとし、2024年2月までに進捗状況を報告するよう伝えた。報告内容次第では、再び危機遺産指定の検討が始まる。
今回発表されたのは、9月にサウジアラビアで開催される2023年世界遺産委員会に上程される決議案。この中に、懸念されていたグレート・バリア・リーフの危機遺産指定に関する内容が削除されていた。
グレート・バリア・リーフは、オーストラリアの北東部沖に広がる世界最大のサンゴ礁地帯。オーストラリア政府は、同海域を「グレートバリアリーフ海洋公園」に指定。長さは日本に相当する約2,300km。1981年には世界自然遺産に登録された。世界自然遺産は、一度登録されたら恒久的に続くというものではなく、状況が悪化した場合には、世界遺産委員会が「危機遺産リスト」に指定し、対応を勧告。状態が改善されたリストから外れる運用となっている。
サンゴ礁にとって、気候変動は最大の脅威と考えられており、海水温の上昇によって引き起こされるサンゴ礁の大規模な白化は、1998年に初めて観測。その後、2002年、2016年、2017年、2020年、2022年にも観測されている。
グレート・バリア・リーフを巡っては、世界遺産委員会が2021年、危機遺産指定の検討に着手。さらに、2022年には国連監視団が状況調査で豪クイーンズランド州を訪問。状態が深刻と結論づけ、危機遺産指定を勧告。同時に、オーストラリア連邦政府とクイーンズランド州政府に対し、サンゴ礁保護措置として、水質改善の加速化、州の持続可能な漁業戦略の迅速な展開、公園からの刺し網の撤去等を挙げていた。また、オーストラリア連邦政府に対し、明確な二酸化炭素排出量削減政策も要求していた。
これを受け、オーストラリア政府は、モリソン自由党前政権中から危機遺産指定を阻止するための、猛烈なロビー活動を開始。グレート・バリア・リーフは、経済規模が約60億豪ドル(約40億円)、雇用約6万4,000人を抱えており、危機遺産指定は経済的打撃に直結する。2021年には「リーフ2050年長期サステナビリティ計画」を改訂し、新たな5年計画を発表。対策強化にも乗り出していた。
また、2022年に政権が労働党のアルニージー首相に交代してからは、2030年までに二酸化炭素排出量を43%削減し、2050年までにカーボンニュートラルにするという改善目標を法制化。さらに、同政権は、商業刺網漁を段階的に廃止し、クイーンズランド州の漁業改革を加速させるための1億6,000万豪ドルの計画を6月にも発表していた。加えて、世界遺産委員会は、農業からの水質汚染防止についても、進展があった模様。
サンゴ礁の保全・再生に向けては、グレート・バリア・リーフ財団がプログラム「リーフ・リカバリー2030」を展開。「水質改善」「気候アクション」「サンゴ礁の島と沿岸の再生」「劣化したサンゴ礁の再生」「サンゴ礁の気候変動適応」「サンゴ礁の保全」の6つを活動を進めている。サンゴに適したプロバイオティクスを投与する研究や、サンゴ礁の観測するロボット技術の開発も、同財団により進められている。
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