米ジョー・バイデン大統領は7月27日、アフォーダブル(手頃な価格の)住宅普及に関する政策第3弾を発表した。企業や自治体向けの支援プログラムを拡充し、土地確保から建設までのバリューチェーン全体で対策を進めている。
バイデン大統領は2022年5月、「住宅供給アクションプラン」を発表。今後3年間でアフォーダブル住宅を数十万戸建設・改修し、今後5年間で米国の住宅供給不足を解消する目標を設定。そのための重要課題として、手頃な価格の土地不足、実効性のある住宅関連融資プログラムの欠如、一部の企業や富裕層による住宅の買占めの3つを掲げていた。
手頃な価格の土地不足への対策
手頃な価格の土地不足では、土地利用やゾーニングに関する過度な法規制を撤廃することをゴールとし、自発的にゾーニング改革を実施した地方政府に補助金を支給する政策を始めている。
総額予算では、2022年5月の第1弾政策では、インフラ・雇用促進法で約60億米ドルと、2023年予算に盛り込まれた「Unlocking Possibilities Program」で17億5,000億米ドルと表明。密集市街地や地方のメインストリートの活性化を促進する土地利用政策や、交通計画と一体的に改革するゾーニング改革を実施した地方政府には、連邦政府機関からの補助金システムで加点されるようになっている。
2022年10月の第2弾政策以降では、総額予算を活用した個別の施策が発表された。運輸インフラ金融革新法(TIFIA)に基づく、運輸省の低金利融資プログラムを改定し、プロジェクトオーナーとなる企業や自治体、交通機関への最大借入可能額が33%から49%に引き上げられた。融資期間は最長35年以上。交通機関から0.5マイル(800m)以内に住宅を建設するインセンチブを付与している。また、地域社会が革新的なインフラプロジェクトを計画・開発することを支援するため、住宅都市開発省(HUD)と運輸省(DOT)の合同プログラム「Thriving Communities Program」を新設し、新たに3,000万米ドルの予算を用意した。
今回の第3弾政策では、過度な法規制撤廃そのものを促すため、最高1,000万米ドルの補助金を交付する「Pathways to Removing Obstacles to Housing(PRO Housing)」を開始。8,500万米ドルの予算を用意した。高密度地域のゾーニングや、集合住宅や複合住宅のための区画整理、手頃な価格の住宅開発の合理化、駐車場等の土地使用制限に関する要件の緩和を可能にする計画や政策に使用することができる。また、住宅の開発や保全に必要なインフラ整備にも資金を充てることができる。加えて、最大31億6,000万ドルの予算事業「地域社会と近隣地域の再接続(Reconnecting Communities and Neighborhoods:RCN)」プログラムも発表し、社会的弱者の多い自治体を優先して、交通アクセスの改善にも乗り出した。
ADU(Accessory Dwelling Units)の普及にも注力する。Accessory Dwelling Unitsとは、戸建て住宅敷地内に、新たに別の住居スペースを設け、賃貸するもの。庭の空きスペースに住宅を建設したり、ガレージを改修したりすることが多い。昨今、複数の州や地方自治体では、ADUの建設や改築を許可する法改正を行っており、連邦政府としてもADUにより、今後5年間で100万戸以上の戸数を増やすことができると見立てている。第3弾政策では、住宅都市開発省の融資プログラムで、ADU型のアフォーダブル住宅も対象とする改正を行うことを盛り込んだ。また、住宅購入や借換え時に、ADUからの賃貸収入予測を適格所得の一部として含めることができる規定も設けることで、低・中所得の住宅所有者の所得向上にもつなげる。
実効性のある住宅関連融資プログラムの欠如
住宅建設融資では、アフォーダブル住宅に絞った新たな連邦政府機関からの支援プログラムや、地方政府への補助金プログラムを打ち出していている。
まず、アフォーダブル住宅建設向けの減税措置「低所得者住宅税額控除(LIHTC)」を改定し、家賃上限を各戸に適用する方式から、一棟の戸数平均に適用する方式に変更。これにより、異なる所得層向けに柔軟に家賃設定をできるようになり、混合所得者向け、超低所得者向け、人口の少ない地方向けのアフォーダブル住宅の建設が促進される見通し。
また、ファニーメイ(連邦住宅抵当公庫)とフレディマック(連邦住宅金融抵当公庫)が、アフォーダブル型集合住宅の竣及び入居承認時に、建設ローンを不動産ローンに切り替える「フォワード・コミットメント・プログラム」を拡大。デベロッパーが建設ローンを早期完済できるようにするとともに、住宅建設時からの一体型住宅ローン「Construction to Permanent Loan」を実現することで、住宅建設ファイナンスの敷居を下げる。
さらに、アフォーダブル住宅開発では、LIHTC、連邦住宅局(FHA)マルチファミリー、住宅信託基金、HOME Investment Partnerships Program(HOME)等の住宅都市開発省の補助金を組み合わせて活用することが一般出来だが、要件や手続がそれぞれ異なり、使い勝手に課題があった。加えて、財務省、農務省でも独自のアフォーダブル住宅補助プログラムもある状況。今回、大統領府(ホワイトハウス)主導で、制度調整を図る。
今回の第3弾政策では、アフォーダブル住宅の省エネ性能や気候変動レジリエンスに関する支援策も発表した。環境保護庁(EPA)は7月、「温室効果ガス削減基金(GGRF)」を発表しており、既存の住宅やビルのコスト削減改修、ゼロエミッション・ビルの建設、空き商業施設から住宅への転換等に補助金を提供。予算規模は270億米ドルと巨額で、住宅都市開発省が設けていた既存の「グリーン&レジリエント改修プログラム」の補助金8.3億米ドル、融資補助金最大40億米ドルという規模を大きく上回る。
アフォーダブル住宅の補修と拡張に関しては、住宅都市開発省は「Rental Assistance Demonstration」プログラムに参加する公営住宅や集合住宅の所有者向けのガイダンスを改訂し、省エネ、節水、気候変動レジリエンスに対処する新たな要件を加えた。
住宅の買占め制限
住宅の買占め問題では、戸建て住宅を一部の企業や富裕層が買い占める割合が近年増加しており、2021年には全米の購入件数の25%以上を占める事態が発生。特にアトランタ、サンノゼ、フェニックス等では割合が高く、住宅価格が高騰する原因にもなっている。
そこで、住宅都市開発省は、債務不履行事案の住宅競売の際に、一定期間経過後にしか大口投資家が入札できないようする制度を開始。これにより、他の一般市民や非営利団体が落札しやすいようにした。大統領府によると、最近の売却では、住宅都市開発省が保有する空き物件を担保とする抵当証券の50%が、投資家ではなく、非営利団体に売却されたという。同省は、抵当権付債券の50%以上が、一般市民や非営利団体に売却することを目標として掲げている。
その他
さらに住宅建設のコスト削減では、昨今の建材価格や工賃のインフレ対策も重要になってきている。2022年5月の第1弾政策では、モジュール式やパネル式の住宅建設を奨励するための、規制障壁の調査を開始。さらに3Dプリンターによる建設を支援するためのR&D支援予算として3,200万米ドルの予算も用意した。これらの技術には、プレハブ式の超断熱壁改修パネルブロックや、3Dプリンターによるモジュール式オーバークラッドパネル等が含まれる。
建材サプライチェーンでは、インフラ・雇用促進法で、森林と木材供給のレジリエンスを促進する山火事対策、森林マネジメント、森林再生への資金援助の予算を盛り込み済み。また商務省は最近、カナダからの針葉樹製材輸入に対する関税も引き下げている。
工賃対策では、技能教育のための登録見習い制度や、事前見習いプログラムへの予算を増額。建設労働者のパイプラインを増やすことに力を入れている。登録見習い制度の拡大には3億300万米ドル、建設業等の成長産業に焦点を当てた訓練プログラムを支援する新しい職業訓練プログラム「Sectoral Employment through Career Training for Occupational Readiness」に1億米ドルの予算を組んでいる。同分野への移民労働も促進するための法改正も検討している。
【参照ページ】Biden-Harris Administration Announces Actions to Lower Housing Costs and Boost Supply
【参照ページ】President Biden Announces New Actions to Ease the Burden of Housing Costs
【参照ページ】Biden-Harris Administration Announces Progress in Implementing its Housing Supply Action Plan
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