ロシア政府は7月17日、トルコ、ウクライナ、ロシアの3ヶ国で合意していた「黒海穀物イニシアチブ」から脱退。同協定が失効した。
黒海穀物イニシアチブは、グテーレス事務総長の呼びかけで、1974年海上人命安全条約と、国際船舶・港湾施設保安コード(ISPSコード)の締約国の合意に基づく措置として制定された。人道の観点から、ウクライナのオデッサ港、チェルノモルスク港、ユジニのピプデンニ港の3港からの穀物および関連食品、アンモニアを含む肥料の輸出において、安全な航行を確保することで合意していた。
同イニシアチブでは、トルコのイスタンブールに共同調整センター(JCC)を設置し、締約国と国連の代表が全体的な監督と調整を実施。またトルコに検査チームを置き、検査後にJCCが承認したスケジュールに従い、ウクライナに入港。ウクライナ領海内での活動は、ウクライナ政府の権限と責任の下で行うとしていた。このプロセスで運営される入港する商船や民間船舶、港湾施設に対する攻撃は禁止され、地雷除去が必要な場合は、全締約国が合意した他国の掃海艇が、必要に応じてウクライナの港への進入路を掃海することにもなっていた。軍艦、航空機、無人航空機(UAV)も、JCCの承認なしに同海上人道回廊に近づくことも禁止されていた。
同イニシアチブは、当初は120日間の有効期間が設定されていが、自動更新条項がついており、締約国が終了以降を通知しなければ自動延長することになっていた。全締約国は2022年11月18日に120日間の延長。3月17日にはロシアが60日間の延長で合意。5月18日にも60日間の再延長で合意。次の期限は7月17日だった。しかし今回ロシアが終了を宣言した。
協定締結からの約1年で、ウクライナの3港から45カ国に食糧3,300万t以上が輸出された。そのうち、ともうろこしが51%、小麦が27%、ひまわりミールが6%、ひまわり油が5%、その他が11%。国連食糧農業機関(FAO)の食料価格指数は、2022年3月のピークから23%以上下がった。また国連は、同イニシアチブの成果として、世界食糧計画(WFP)を通じ、アフガニスタン、エチオピア、ケニア、ソマリア、スーダン、イエメンに小麦72万5,000tトン以上を輸送することができたことも挙げた。ウクライナは2021年と2022年、WFPの小麦の供給量以上の半分以上を担っている。4月以降、輸出量が下がっていたことについて、国連は、検査のペースが遅くなっていたことと、ピブデンニ港が同イニシアチブから除外されたことを理由として挙げている。
(出所)UN
同イニシアチブの発効に伴い、2022年7月21日には、国連とロシアの間でも3年間の覚書が締結されている。同覚書では、国連事務局は、肥料の生産に必要な原材料を含め、ロシアを原産地とする食糧と肥料の世界市場へのアクセスを促進する努力を継続することに合意する。これには、「金融、保険、物流の分野で生じうる障害も含まれる」としていた。但し、同覚書は、「国際条約ではなく、国際法上の権利や義務を定めるものでもない」との文言も盛り込み、あくまで双方の理解の確認とするものだった。
今回の終了決定に際し、ロシア外務省は覚書内容の不履行を理由に挙げた。具体的には、ロシアからオデッサ港につながるパイプラインを通したアンモニア輸出の再開や、国営農業銀行ロッセルコホズバンクのSWIFT国際決済システムへの再接続等をロシア側は要求したが、実現していないと不満を伝えた。ペスコフ報道官は、「協定のロシア側の部分が履行され次第、ロシア側は直ちにこの協定の履行に戻る」と延べ、協定復帰の可能性も示した。しかし、要求事項を、欧米諸国が飲む可能性は極めて低い。
今回の同イニシアチブ終了を受け、グテーレス事務総長は、遺憾を表明。ロシア連邦と国連との間の覚書で表明された「ウクライナの支配下にある黒海港からの食糧、ヒマワリ油、肥料の無制限の輸出を促進する」という国連のコミットメントも終了したことを告げた。
またEU理事会は同日、ロシアに対し、決定を再考し、黒海穀物イニシアチブに基づく措置を直ちに再開するよう求めた。
ロシア軍、同イニシアチブ終了後、オデッサ港の施設を対象としたミサイル攻撃やドローンによる体当たり攻撃を再開。ロシア国防省は7月19日、黒海のウクライナ管理港に向かう船舶は、ウクライナを支援する軍事物資を輸送しているとみなされ軍事攻撃の対象となり、船籍国はウクライナ側についているみなすと警告。それを受け、ウクライナ国防省も7月20日、黒海のロシア管理港に向かう船舶は、ロシアを支援する軍事物資を輸送しているとみなし、軍事攻撃の対象となると声明を発表した。
現在、小麦価格は上昇傾向にあるが、2022年には1ブッシェル1,30米ドルを超える水準にまで上昇していたことと比較すると、そこまでは上昇していない。今後の予測は不明。
【参照ページ】Secretary-General's press encounter on the Black Sea Initiative
【参照ページ】Initiative on the Safe Transportation of Grain and Foodstuffs from Ukrainian Ports
【参照ページ】One year of the Black Sea Initiative: Key facts and figures
【参照ページ】Beacon on the Black Sea
【参照ページ】Memorandum of Understanding between the Russian Federation and the Secretariat of the United Nations on promoting Russian food products and fertilizers to the world markets
【参照ページ】Black Sea Grain Initiative: Statement by the High Representative on behalf of the European Union on Russia’s termination of the Black Sea Grain Initiative
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