EU上院の役割を果たすEU加盟国閣僚級のEU理事会は4月25日、欧州委員会が提案した「Fit for 55」政策パッケージに関し、重要なEU法案を5本可決した。5本全て欧州議会を4月18日に通過しており、同EU法が成立した。
【参考】【EU】EU理事会と欧州議会、海運・農業・不動産等でCO2の2030年40%減で合意。大幅引上げ(2022年11月10日)
【参考】【EU】EU理事会と欧州議会、EU-ETSに海運セクター追加や割当量削減加速で政治的合意(2022年12月19日)
今回成立したのは、改正ETS指令、改正MRV海運規制、改正ETS航空指令、社会的気候基金規則、炭素国境調整メカニズム(CBAM)規則の5本。
まず、EUの二酸化炭素排出量取引制度(EU-ETS)対象セクターで、二酸化炭素排出量を2030年までに2005年比62%の排出削減を法定化。新たに海運がEU-ETSの対象セクターとなる。まず大半の大型船のみに導入され、年間の無償割当量は、2024年は検証済み排出量の60%、2025年は30%、2026年からは0%となる。オフショア船に関しては、海運からの二酸化炭素排出量の監視・報告・検証に関するMRV規則の対象になり、EU-ETSに含まれるのはその後。メタンと一酸化二窒素に関しては、2024年からMRV規則の対象となり、2026年からEU-ETSに含まれる。
建設・不動産、輸送、小規模産業部門に対し、独立した排出量取引制度を新設することも最終的に決まった。2027年以降に、不動産、輸送、小規模産業に燃料を供給する販売事業者に適用される予定。但し、新制度の開始までに石油・ガス価格が異常に高騰した場合は、2028年まで導入を延期するセーフガード措置も設けられた。
以前からEU-ETSの対象となっている航空業界については、2026年までに無償割当量が段階的に廃止する。但し、化石燃料から移行するためのインセンティブとして、2,000万tの無償割当量を確保する。適用対象は、英国とスイスへの出発便を含む欧州域内のフライト。国際民間航空機関(ICAO)の排出量取引制度「CORSIA」は、2022年から2027年の期間は、CORSIAに参加している第三国との間の欧州域外のフライトのみに適用される(クリーンカット制度)。また、二酸化炭素以外の温室効果ガスに関しても、MRVの枠組みを検討し、2028年1月1日までに欧州委員会は対象化を提案していく。
炭素国境調整メカニズム(CBAM)は、セメント、アルミニウム、肥料、電気、水素、鉄鋼、一部の前駆物質と下流製品が対象。輸入製品に関し、同等の費用を負担させる。具体的には毎年、CBAM証書の購入が義務付けられる。CBAM証書の価格は、週次のEU-ETS価格と同等に設定される。同制度は2023年1月1日から開始され、2025年までは、輸入品に関する二酸化炭素排出量の報告が義務化され、2026年からCBAMの購入義務が発生する。当初は年間の無償割当量が設定されるが、EU-ETSの動きと並行し、2026年から2034年にかけ段階的に廃止される。また、輸入製品に関し、EU域外で関連炭素税を負担していると認められた場合は、その分のCBAM証書購入分が控除される。
社会的気候基金は、不動産、輸送、小規模産業の燃料に課せられる排出量取引制度の収入を原資とし、同ルールの影響を受ける市民や企業を支援するために予算を投下する。最大650億ユーロが上限。2026年から2032年まで運用され、その後は廃止される見込み。
EU理事会は同日、別途、「RO-RO船」に関する安全規制強化指令も可決。こちらもすでに欧州議会を通過しており成立した。国際海事機関(IMO)が2020年海上人命安全条約(SOLAS条約)に基づき改訂した損傷した旅客船の安定性に関する適用国際基準と極力整合させた。
【参照ページ】'Fit for 55': Council adopts key pieces of legislation delivering on 2030 climate targets
【参照ページ】Maritime safety: Council adopts legislation for safer journeys with ferries in Europe
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