G7気候・エネルギー・環境相は4月15日と16日、札幌市で会合を開催。最終日に共同声明を発表した。全36ページ。現時点での合意事項や方向性をまとめた。
同声明では、まず、パリ協定に基づく気候変動1.5℃目標と、昆明・モントリオール生物多様性枠組みに基づく目標の達成にコミット。「国家管轄圏外区域の海洋生物多様性(BBNJ)」条約案での合意を歓迎した。また、気候変動、生物多様性の喪失、汚染、土地劣化 、エネルギー危機に対処し、クリーンエネルギーへの移行、省資源、サーキュラーエコノミーを加速させ、国連2030アジェンダと国連持続可能な開発目標(SDGs)を達成するためにシナジーを追求することも約束した。あらゆるレベルでカーボンニュートラルかつネイチャーポジティブへの転換を達成するため、緊急的な行動を起こしていくことも謳った。
エネルギー転換では、削減努力のない(Unabated)化石燃料を2050年までに段階的に廃止するという表現で合意した。化石燃料という表現となり、石炭だけでなく、石油やガスも対象となった。石炭火力発電については、こちらも削減努力のない(Unabated)国内の石炭火力発電所を段階的に廃止するという表現となった。昨今、「Unabated」は日本と欧米で定義が異なり、日本は水素やアンモニアをわずかでも混焼させるものは廃止の対象とならないという考え方を貫いている一方、欧米では二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)が導入されている必要があると捉えている。このようにお互いの見解の不一致を玉虫色に解決する単語として「Unabated」が使われており、今回もそこに落ち着いた形。但し、別の箇所で、「新しい石炭火力発電の建設を停止する必要性を認識する」という表現も入り、石炭火力発電の増加には釘を刺された。
また、エネルギーについては、削減努力のない(Unabated)化石燃料や削減努力のない(Unabated)国内の石炭火力発電所を段階的に廃止する時期を明記するよう求める意見が米国や欧州諸国からあったが、日本政府が強硬に反対。時期は明記されなかった。天然ガスについては、日本政府は、当初、天然ガスの上流への投資を促す文言を入れたかったが、こちらは他のG7諸国から反対され叶わなかった。最終的に、「ロシアのガス輸出の予測不可能性に伴うリスクを軽減するための計画を調整する必要性を認識する」という文言と、「我々の気候目標に合致した方法で、例えば、プロジェクトが低炭素・再生可能水素開発のための国家戦略に組み込まれるようにするなど、ロックイン効果を生じさせない形で実施されれば、危機によって引き起こされた市場の不足を解消するのにふさわしいものとなりうる」という回りくどい表現で決着。日本政府が必死に文言調整に動いた様子が見て取れる。
日本政府が進めるゼロエミッション火力発電については、「一部の国は、低炭素で再生可能な水素とその誘導体の電力部門における利用を検討しており、これが1.5℃パスウェイと2035年までに電力部門を完全に、あるいは大部分脱炭素化するという我々の集団的目標に沿うことができる場合には、GHGとしての一酸化二窒素と地域大気汚染物質であり対流圏オゾン前駆物質である窒素化合物の全般の回避とともに、ゼロエミッション火力を目指そうとしていることに注目する」という表現が入った。最後が「注目する」になった点が、日本政府以外の国では支持が少なかったことが伺える。
化石燃料への補助金では、「非効率な化石燃料補助金を段階的に廃止する」という表現となり、「非効率な」を曖昧にしておくことで、実質的には各国が自由に解釈できる道を残した。
原子力発電については、安心・安全を前提とすれば、「安価で低炭素なエネルギーを提供する可能性を認識する」と表現。G7内でも原子力発電に関する見方はわかれていることから、例年同様、踏み込んだ方向性は掲げていない。
再生可能エネルギーでは、G7全体で2030年に太陽国発電を1TW以上追加、洋上風力発電を150GW増加する目標を設定。浮体式洋上風力発電では、イノベーションとサステナビリティに関する分析をIRENAに依頼することでも一致した。系統の「柔軟性」を着実に向上させていくこと約束した。系統の「柔軟性」は日本のエネルギー政策で欠落しがちな概念であり、他のG7諸国の関心が高いことがわかる。
自動車では、モビリティでの2050年カーボンニュートラルを再確認しつつ、2035年までにG7の車両保有台数からの二酸化炭素排出量を2000年比で50%以上削減するという中間目安目標を導入した。従来、自動車については、新車販売台数での目標のみが設定されがちだが、今回は既存車両も含めた表現が入った。新車販売台数では、小型車では2035年以降にゼロエミッション車比率をG7で100%、世界全体で50%の目標を設定した。ゼロエミッション車には、電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)の他に、持続可能なバイオ燃料や合成燃料も含められる。しかし、保有台数での削減目標が今回入ったため、今後の焦点は、バイオ燃料や合成燃料の燃焼時やライフサイクルでの排出量の算定ルールを巡る交渉となる。
重要鉱物については、サプライチェーン全体での人権の完全な尊重、ネイチャーポジティブ・アプローチ、可能な限り高いESG基準を前提とした上で、国内での回収・リサイクルを進めていくことも目指すことで合意した。また、あらゆる資源について、G7 Alliance on Resource Efficiencyを通じ、サーキュラーエコノミー性の測定、バリューチェーン全体にわたるサーキュラーエコノミー性情報の共有・活用、比較可能な指標に関する議論と協調を促進するとした。
プラスチック汚染では、2040年までに追加のプラスチック汚染をゼロにするというG7の目標を再確認。現在交渉が続いている国際条約を2024年末までに完成させる考えで一致した。
有害化学物質では、PFAS(パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)に言及。関連リスクの最小化を約束した。
不動産では、新規建設物では、2030年までに「ゼロカーボン・レディ」以上を到達することが理想とした。化石燃料を使った新たな暖房システムの設置の段階的廃止と、ヒートポンプを含むよりクリーンな技術への移行を加速させることを目指す。
自然を軸としたソリューション(NbS)、国連水会議で指摘された水・衛生、栄養、食料安全保障、汚染防止での対策強化にもコミット。持続可能な海洋に向けた緊急アクションを進めることも確認した。農業では、森林と土地の劣化を防ぐとともに、持続可能な農業生産性の向上の促進、有機農業、アグロエコロジー等のイノベーション・アプローチの活用を約束した。
ファイナンスとしては、ブレンデッド・ファイナンスを活用しつつ、民間ファイナンスを重視した。多国間開発銀行(MDB)を含む国際金融機関(IFI)の重要な役割も強調した。民間資金を動員する上で、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)のスタンダード策定を歓迎した。グリーン公共調達を進めることも約束した。
インクルージョンでは、包括的な公正な移行(ジャスト・トランジション)を確保することへのコミットメントを確認。企業、産業、労働者・労働組合、若者・子供、障害者、女性・少女、先住民族、人種的・民族的マイノリティ、周縁化された人々を含む社会のすべての人々が、トランスフォーメーションを促進する上で果たす役割の重要性を強調した。
G7やG20の共同声明は、現時点で確認できることを列挙したものにすぎない。明確に合意した目標については政治的拘束力が生まれるが、合意されていないものや玉虫色になったものは、これで決着したわけではなく、今後の国際交渉の中でアジェンダになり続けていく。
【参照ページ】G7 Climate, Energy and Environment Ministers’ Communiqué
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