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【スイス】クレディ・スイス、UBSと合併。AT1債市場に新たな懸念。株主も対応苦慮

 世界金融大手クレディ・スイスとUBSは3月19日、合併契約を締結した。クレディ・スイスの株主は、22.48株に対してUBS1株を受け取る。買収金額は30億スイスフラン(約4,300億円)。英フィナンシャル・タイムズ紙は、同日、10億スイスフランでの買収を協議していると伝えたが、最終的に3倍になった。クレディ・スイスは、1856年からの歴史に幕を閉じることになる。

 今回の合併発表記者会見には、両者の他、スイスのベルセ大統領、ケラーズッター財相、スイス国立銀行(SNB)のジョルダン総裁、スイス連邦金融市場監査局(FINMA)のアムスタッド局長も勢揃いした。政府や中央銀行の介入で今回の合併が成立したことを印象づけた。すでにFINMAは合併を承認している。

 クレディ・スイスが急遽経営難に陥った背景には、過去数年の不祥事が関連していると目されている。2022年2月には、スイス検察当局が、同社を麻薬マネーロンダリングで刑事告訴し、2004年から2008年にブルガリアのコカイン密売組織が数百万ユーロの資金洗浄に関わったと疑いが浮上。同6月には一審で有罪となり、同社は控訴していた。さらに同2月、1000億スイスフラン(800億円)以上の口座保有顧客3万人以上の情報が、ドイツ語圏の日刊紙「ターゲス・アンツァイガー」に漏洩した「スイス・シークレット」事件が起きた。

 ウクライナ戦争に関しても、スイスの対ロシア制裁後、ヘッジファンド等の投資家に対し、ロシアのオリガルヒに関連した文書を破棄する法的要請を行ったことも明るみに出た。いずれも、同社が得意としてきた秘匿度の高いプライベートバンク事業に対する批判となり、同行はガバナンス上の対応に追われていた。その中で、米国でのシリコンバレー銀行やシグナチャー銀行の経営破綻が、同行の経営懸念に拍車をかけ、一気に預金資産が流出。経営破綻が懸念される事態となった。

 クレディ・スイスの株主については、2022年8月に仏運用大手ナティクシスの完全子会社米運用ハリス・アソシエイツが10%以上の株式を保有し、筆頭株主となっていることが発覚。さらに経営の混乱で株価が低迷した2023年1月のタイミングで、サウジアラビア商業銀行最大手サウジ・ナショナル・バンクが株式10%を取得し、カタール投資庁(QIA)も株式保有を6.87%にまで引上げた。一方、ハリス・アソシエイツは持株売却を進め、最終的に3月に持分を全て売却したと伝えた。3月15日には、サウジ・ナショナル・バンクは追加支援の観測を否定。その結果、株価が一気に急落。クレディ・スイス株価は3ヶ月で3分の1まで下がった。

 この間、クレディ・スイスは3月16日、スイス国立銀行から500億スイスフランを上限として借り入れるオプションを行使する意向や、クレディ・スイス・インターナショナルが、特定のOPCOシニア債を最大約30億スイスフランの現金で買い戻す計画も発表。米ドル建てシニア債10銘柄を総額25億米ドルを上限に、ユーロ建てシニア債4銘柄を5億ユーロを上限に、現金で公開買付する施策も発表し、負債の再編に動いていた。しかし、混乱は止まらず、今回の合併にまで発展した。

 今回の合併は、連邦法の緊急事態条例を適用し、両行での株主総会決議を経ないまま、合併が決まった。同合併では、クレディ・スイスとUBSは、「金融政策手段に関するガイドライン」に基づき、スイス国立銀行から無制限での資金融通を得られることも決まった。また、連邦参議院(上院)の緊急事態条例に基づき、両行は、破産債権者特権が発動され、最大総額1,000億スイスフラン(14兆円)の流動性支援融資を受けられることも決定し、スイス国立銀行が最大1,000億スイスフランの流動性ローンを供与し、さらに連邦政府が保証を付けることも決まった。UBSは、クレディ・スイスから引き継ぐ資産価値が一定以上に下がった場合、政府がUBSに最大90億スイスフランの保証が受けられることとなった。

 さらに重要な点は、FINMAが、クレディ・スイスの総額約160億スイスフラン(約23兆円)のAT1債を無価値とすることを決定した点。これを受け、3月20日世界のAT1債が価格が急落。同日、ゴールドマン・サックスのストラテジストは、世界のAT1債の需要が長期的に減少する可能性があるとの見方を示している。世界のAT1債の発行残高は2500億米ドル(約33兆円)。CoCo債とも呼ばれている。クレディ・スイスのAT1債の規定には、通常とは異なり、スイス当局が株式よりも先にAT1債の減損を求めることができる条項が盛り込まれており、今回の事態となった。スイスのAT1債に対する需要は特に下がるとみられている。

 スイスの年金基金で構成するエトス財団は3月20日、今回の合併で株主総会で議決権を行使する術がなかったことを遺憾とする声明を発表。スイスの連邦議会、競争委員会、FINMAに対し、UBSが今後、クレディ・スイスを分離し、IPOを検討することを求めた。また、今回の大失態の責任を追求するため、今後あらゆる選択肢を検討する予定とした。

 スイス政府は3月21日、従業員向けの繰延報酬の支給を一時停止すると発表。今回の決定を受け、通常賞与については予定通り支給できることとなった。

【参照ページ】Credit Suisse and UBS to Merge
【参照ページ】Credit Suisse Group takes decisive action to pre-emptively strengthen liquidity and announces public tender offers for debt securities
【参照ページ】FINMA approves merger of UBS and Credit Suisse
【参照ページ】FINMA sees no sufficient grounds for proceedings following investigations into statements on outflows of client funds at Credit Suisse
【参照ページ】Swiss National Bank provides substantial liquidity assistance to support UBS takeover of Credit Suisse

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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